…さて、問題です。
私は今どこにいるでしょう。
え?文字だけじゃわからないって?
…仕方ないなぁ、なら彼の言葉を聞けば、きっと答えがわかるよ。
「…ねえリオンさん?俺はなんで便器に座らされてるの?なんで化粧されてるの?そしてなんで女子トイレなの?」
正解は、かおるんをカラオケボックスの女子トイレに連れ込んでお化粧中。
でした。
そう、私が決めた彼の身長弄りに対する罰は化粧、というかコスプレだ。
面白いことにこのカラオケボックス、コスプレ衣装の貸出をしている。
…こんなところあったんだな。
と思いながら、私は無言でかおるんに化粧を施す。
「ねえ、なんで無言なの?せめて俺の問に答えて?それからこの化粧道具どっから出した?もしかして自分の使ってるの?」
やかましいなこの子、シバキ回そうかな。」
「出てる出てる、途中から声に出てる。」
おっとイケナイ、ついうっかり本音が口から漏れてしまった。
「んー、かおるんはさ、関節キスとか気にするタイプ?」
「回し飲みとかの話?」
「そう、回し飲みだったり、人が使った食器を使ったり」
「…相手によるけど基本気にしない」
「だよね、私もそのタイプ」
そこまで言って私はまた無言になる。
「だから何!?この状況とどういう関係!?」
「うるさいなぶっ飛ばすぞお前」
「いくらなんでも理不尽すぎるわ!!」
「あんまり大声出すと警察呼ばれるよ、ここ女子トイレなんだから…まぁなにが言いたいかと言うとだね、自分の化粧道具を人に使うくらい私は気にしないってこと、もちろん相手は選ぶけど、少なくとも君はいいかなって」
「…かなって、化粧と食器とじゃ削られるメンタルが違うと思うんだけど……」
その辺はまぁ、私が世間知らずなだけだ。
高校時代は工業高校で周りは野郎ばかり。
逆に就職したらしたで女ばかり。
両極端な環境で生活してきた結果、私は世間一般とは、少なからず離れていると自負している。
「…よし、できた、といってもナチュラルに顔の形を整えただけだけどね、後は…はい、これ着て」
「これ…まじで?」
「うん、学生服着てるんだし、あんま変わらないでしょ」
そう言って私は彼に、レンタルした服を渡す。
蝶ネクタイに白のワイシャツ、ベストとスラックス。
あらまぁ、可愛らしい執事が、そこに出来上がってしまった。
ーーーーーーーー。
「レディース&ジェントルメン、今宵、この場にお集まりし老若男女の皆々様、ようこそお越しくださいました。」
アニメや漫画なんかでよく見る執事がやるお辞儀をしながら、かおるんが言った。
ちょっと上手いのが地味に腹立つ。
ていうか、今宵じゃねぇ昼間だわ。
そして若男女はいるが老はいねぇよ。
しかもノリノリだし、罰になってないじゃん。
「んまぁ、硬っ苦しい挨拶は抜きにして、新メンバーもいることだし、それぞれ挨拶しようか、マッスル担当よーたん、常識担当もりー、おっぱい担当リオンの順番で、俺がトリを務めるよ」
おい、誰がおっぱい担当だ、もうちょいまともに紹介しろ。
…この子と会話してるとツッコミどころが多すぎて疲れる。
なんてことを思っていた、よーたんと呼ばれる少しガタイのいい男性が、前に出る。
「どうも皆さん初めまして、よーたんこと大森洋介です、一応最年長ではあるけど、歳関係なく遠慮なく接してくださいな」
二カッと。
そう笑うマッスル。
そして予想外にもまともな挨拶だったのが私の中では衝撃だ。
「洋介くん、初めましては皆さんじゃないと思う…、私は森田葉月と言います、一応アパレルで働いてて…バカ達のお目付け役です」
「「いやぁ」」
「…褒めてないから」
もりーちゃんが呆れ気味に、そういった。
うん、今までこの2人の世話、焼いてきたんだろうな…。
…私はどちらかと言えば2人の側だけど。
でもそれは言わない。
言わなくてもその内わかるだろうし。
「…吉田利音、知っての通り、そこのバカに喧嘩売られて、売り言葉に買い言葉でこのクズの集いに参加しました、色々迷惑かけるかもしれないけど、よろしくお願いします」
こんなもんだろう。
最初は、最初から、はっちゃける必要なんてない。
私は新参なのだから、1歩引いておこうと、取り留めのない、少し堅い挨拶をしてから、席に戻る。
「さて、さてさて、それでは私、クズの集いのリーダーであり、バカ担当が挨拶を努めさせて頂きます。藤川芳ですよろしく」
…え、それだけ?
「うんそれだけ」
「だから地の文を読むな!」
何者なんだコイツは…。
「ってもね、特に喋ることってないのよ、ゲーム内ではあんな感じ、リアルではこんな感じの現役高校生、ただそれだけ」
クズの集いの中でも最年少の彼がリーダーを務めている理由。
恐らくはこの性格だ。
なるほどどうして、とっつきやすい。
「ところで…」
と言いながらかおるんは私の所に来て。
もにゅ。
と、私の胸を鷲掴みにした。
「…おぉ」
おぉ、じゃねぇよ。
感心してんな馬鹿かコイツは。
と思い顔を見ると…赤くなっている。
あー、なるほど、ノリで後先考えずに行動するタイプのバカだこの子。
それならばと思い、私はある行動をした後にかおるんをからかい始めた。
「あれ?あれあれ?かおるん、おっぱい揉んだ程度で赤くしてるの?え、もしかして童貞?ぷーくすくす、いきなり鷲掴みにするもんだから次はなにされるかと思えば、えー、なさけなー」
と、いたずらっぽく笑いながらかおるんの顔を見据えて言ってみる。
かおるんぷるぷる震えて、手を話したかと思えば近くにあったコップの中身を一気飲みする。
あーあ、飲んじゃうんだそれ。
まさかここまで私の思うように事が運ぶなんて思わなかったなぁ。
ちなみに、コップの中身はウイスキー、それもロック。
かおるんの麦茶と、私がこっそり入れ替えたのだ。
案の定、かおるんは直ぐに酔いつぶれた。
高校生には少し強いお酒だからな。
けど潰れるとは流石に思わなかったな、ちょっと酔う程度くらいに思ってた。
お酒飲むの初めてかこれは。
それから、かおるんは気分悪そうにしていたのでソファに寝かせ、私たちは各々カラオケを楽しんだ後、解散の運びとなった。
「かおるくん、どうしようか?」
そういったのはもりー。
「んー、私の家が近いし、連れて帰るよ、こうなったのは私の責任だしね」
ということで事は解決して、私はかおるんを自宅に運び、ベットに寝かせてからその寝顔を見る。
…今日は楽しかったな…。
思えば、この子が私を誘ってくれなかったら、私は今まで通り、死んだように生きてたんだろうな。
喧嘩を売られて、仲間に誘われて、ナンパから助けてくれて、私を楽しませようと頑張ってくれた。
とても優しい男の子。
私は彼に感謝しながら、布団の中に潜り込む。
この後、何があったかなど今更語る必要もないだろう。
そんなのは野暮ということだ。
だけど私は、この日、たしかに彼に惚れた。
ただそれだけで、この後の事も許せるというものだ。