工藤幹也と吉田利音が付き合い始めた時のことを、俺は今でもハッキリと思い出せる。
『工藤幹也』。
利音達とは別のゲームで知り合ったゲーマー。
茶髪の長髪と両耳にピアスを付けた目つきの悪い、見た目だけなら三下の不良。
中身は気性の荒いオタク。
そんな奴を利音に紹介してしまったことを、俺は数年後に酷く後悔することになるのだが、その話は今はどうでもいい。
利音に幹也を紹介して役2週間ほど経ったころ。
「芳、私幹也と付き合うことになった」
と、呼び出された喫茶店でそう宣言された。
「…は?」
「んー、なんか、なんだろうね、こう、自分でもよくわかんない」
なんだそれ。
いやまぁ、利音自身、彼氏が欲しいとはずっと言っていたし、むしろこれは喜ばしいことで、祝福するべきではないか。
「…なんで怒ってんだよ芳」
「…別に」
だけど、俺にとってその話は面白くはなかった。
それがなぜなのか、この時の俺はまだ知らなかったけれど。
「んで、その為だけに呼び出したの?」
「あー、いや、多分これからあまりこうして会って遊ぶこと、できなくなるかもと思ってさ」
だから最後に遊ぼうってか。
尚更面白くない。
「ふーん」
いや、でも、実は俺も利音に言わなければいけない事がある。
のだけど、
「なんだよ、言いたいことあるなら言えばいいだろ?」
「いや、別に?幸せそうで何よりだなと思っただけだよ」
「は?なんだよその言い方」
俺の中でイライラが募る。
喜ぶべきなのに、なぜイライラしてるのかがわからない自分に尚更。
「もういいわ、白けた、私帰るから、じゃあな」
そう言って利音は店を出ていった。
その背中を見ながら、俺はコーヒーをすする。
自分が嫉妬深いこと、友達が他の友達と仲良くしてたらイライラすることは今までにもあったけれど、ここまで態度に出るほどムカついたのは初めてだ。
その理由がわからない。
「…結局言えなかったな、俺も彼女が出来たって話」
自分も似た状況にいながら勝手にイライラしてるのだから、自分勝手にも程があると呆れながら、俺は会計を済まして帰路についた。
ーーーーー。
「は?芳に彼女?」
幹也と付き合い始めて数日、何となく芳と連絡を取りずらくなっててストレスが溜まっていた私は葉月に電話をかけた。
何気ない会話の中で、そんな話になった。
「え、あれ?聞いてない?私この話は利音ちゃんが1番最初に聞いてると思ってたんだけど」
いや、なんでだよ、私新参者だぞ。
どう考えても付き合い長い葉月達が優先だろう。
「んー、付き合いの長さで言えばそうなんだけど、でもほら、芳君の利音ちゃんに対する対応って、ちょっと特別というか、私達とは違うからさ」
はて?
そうだろうか。
私にはみんな等しく対応しているように見えるのだが。
でもその言葉を少しだけ、私は嬉しく思う。
本当にそうだったらいいなと。
「ただね、芳君が彼女出来たって話から、あんまり連絡取れなくなったんだよね、ゲームもしてないし」
「んー、仕事忙しいとか?芳、学校辞めてバイトしてるんでしょ?」
「それはそうなんだけど、なんていうか、既読はつくんだけど返信がなくて」
既読無視?
あいつが?
あ、いや、急に返信無くなったりとかは確かにあるけど、でも基本即レスのアイツが既読無視は少し意外だ。
「…なんかこのままみんなバラバラになっちゃうのかなって、不安なんだよね私」
「まぁ、そうだよね、葉月の言いたいことはわかるよ」
それでも、私達は大人だ。
色々な事情が積み重なれば、お別れせざるをえない事なんて、茶飯事なのだ。
けど嫌だなぁ、芳とお別れなんて。
「というかですよ?私としては利音ちゃんが幹也君と付き合うこと自体が意外なんだけど?」
「ん?ああ、いや、まぁ、しつこかったから」
そう、しつこかった。
アプローチが、めんどくさくなって根負けした。
つまり、私は別に幹也が好きとか、そういうことじゃないんだ。
「私さ、芳と喧嘩したんだよね」
「喧嘩?」
「ん、私が幹也と付き合うって話をしたらさ、芳機嫌悪くなっちゃって、理由聞いても煮え切らないから私もイライラしちゃってさ」
多分、止めて欲しかったんだろうな、私は。
だけど、芳のあの反応は、妙に引っ掛かる。
「あー、なるほどなるほど…」
「なんだよ葉月、1人で納得すんなよ」
「んー、だってこれ私が言っていい事じゃないから、ただ一言だけ言わせてもらうならさ、2人とも、バカだよね」
バカ、ね。
葉月が何を言いたいのか、私にはわからない。
そのモヤモヤが、私の中につもり募っていくのを感じながら、私と葉月は何気ない会話を1時間程した後、電話を切った。