妹はバーチャルライバーになりたい
ガチャッ、バーンッ!!!
と、勢いよく開かれた自室の扉。
その轟音と衝撃に驚いた私の身体はビクリと飛び跳ねた。
開かれた扉の方に目をやると、私の可愛い妹の姿が目に入った。
「アンちゃん!」
妹―レイラはそう私を呼ぶと、ばたばたと私の方に近づいてくる。
私の目の前に立ったレイちゃんは何やら興奮しているようで、その純白な頬を紅潮させている。
瞳も爛々と輝いており、少々鼻息も荒い。
しかしながら、目の下にできた隈がその不健康さの度合いを大きく表していた。
よく見ると…いや、よく見なくてもレイちゃんがパジャマ姿なのはわかる。
だが、その脇にはノートパソコンが抱えられていた。
レイちゃんはよくヨーチューブという動画投稿サイトでオススメの動画や生配信を見せに来てくれる。
今日もなにか見つけたのかなと思い、私は再生中のドラマを停止してヘッドホンを外す。
「レイちゃん、今日は何を見せてくれるん?」
レイちゃんは私の言葉に待ってましたと言わんばかりにノートパソコンを開いて画面を見せた。
再生されたその動画では、その日あった出来事や気になった事を話したり、コメントされたことに対して反応を返したり、活き活きとして楽しそうな女の子が映し出されていた。
女の子と言ったが、正しくは人間の女の子ではない。
三次元ではなく二次元。
アニメや漫画のキャラクターのような女の子だ。
「これは…あれかな?
今話題のVチューバーというやつ?」
「そう!
…って言いたいけど正確にはちょっと違くて、正しくはVライバーに分類されるんよ!」
Vライバー。
動画投稿ではなく生放送をメインとしたVチューバーのことだったかな?
「この人は
Vライバー運営会社『LivingLive』のライバーさんやよ!」
Vライバーの記憶を辿っていた私に興奮気味に教えてくれるレイちゃん。
「リビングライブには生子ちゃんの他にもあと4人所属しててな!
晩酌雑談配信がメインの
ゲーム系配信をメインにした
それとな―」
それからというもの、レイちゃんはリビングライブライバーの個性や素晴らしさを語り続けた。
オタク特有の好きなものはノンストップ早口で語ってしまうアレな状態である。
私はレイちゃんのマシンガントークに相槌を打ちながら、語られる知識のみで構成されていくリビングライブというバーチャルライバー集団。
はっきり言ってやべぇ奴らの集まりである。
リビングライブは『お茶の間で体験できるバーチャルライブ』をモットーとしているらしいが、老若男女、家族が集まるお茶の間にこんなやべぇ奴ら出しちゃダメだろ、と私は思った。
が、レイちゃんが楽しそうなので口にはしなかった。
「それで、レイちゃんは私に布教しに来たの?
その、リビングライブを…」
レイちゃんのマシンガントークが途切れたところで私は用件を尋ねた。
ここで流れを止めておかないといつまで続くか分からなかったからだ。
オタクって怖い。
「―あ、ごめんねアンちゃん!
ついつい話しすぎちゃった…」
ごめんごめんと少し冷静になるレイちゃんは画面をスクロールし、ある部分にカーソルを合わせてクリックした。
表示された画面には『リビングライブ二期生募集オーディション』と書かれていた。
ああ…なるほどね、とレイちゃんが何をしに来たのかを察してしまった私は改めてレイちゃんに向き直った。
「アンちゃん!
うち、バーチャルライバーになりたい!」
このレイちゃんの一大決心が私のこれからを大きく変える事になるとは、今の私には知る由もなかったのであった。