メロディア・リュツィフェールのチャンネルから公式チャンネルへと戻ってきた我々を出迎えたのは、見事笑いの呪縛から復活した生子先輩と、無色さんにアイちゃん、ゆきをちゃんの四人だった。
「はーい、メロディア・リュツィフェールちゃんの配信が終わって、公式チャンネルに配信画面が戻ってきたぞーッ!
どうもどうも、笑い死ぬかと思ったけど地獄の淵から蘇った屍生子でーす!
師匠にアイお姉さん、司会代行してくれて本当にありがとうね」
「いえいえ、生子先輩に頼られて悪い気はしませんでしたから
おかげさまと言っていいかは分かりませんが、いい経験になりましたしね」
「師匠の言う通りです
生子先輩に頼られてお姉さん本当に嬉しかったんですから」
「うぅ、泣かせてくれやがるぜぇ」
二期生二人の大人な対応にうおぉん、とわざとらしく泣き声を出す生子先輩。
コメント欄
【コメント】:蘇ったのなら笑い死んでいたのでは?
【コメント】:元々死人なんやで
【コメント】:師匠もアイお姉さんも大人やなぁ
【コメント】:いい後輩持ったな
【コメント】:これぞリビングライブの絆!
「よっし、それじゃあさっきまで休んでた分、巻き返していくぜーッ!
配信画面にも出ているけど、ゆきをが合流してくれているぞ
ゆきを、お披露目配信お疲れーっす!」
「生子先輩、ありがとうございます
どうも、リビングライブ二期生ニホンイエティ激カワ美少女イラストレーターVライバーのゆきをでーす
これからも生子先輩を笑い殺す為に本番中はカップ麺をすすり続けます!
ズゾゾゾゾッ!」
「すするなww」
生子先輩は笑いながらツッコミを入れる。
ちなみに、今はカップ麺を食べてはおらず、無色さんから教えてもらったそばをすする音を真似たものだ。
短時間で習得した辺りに才能の片鱗を感じる。
しかし、生子先輩がまた笑いの呪縛に飲み込まれようとしてないか?
進行大丈夫?
「ゆきをちゃん、配信中に結構緊張してたって言ってたでしょ?
あたしと神経衰弱して、アイちゃんにぶん殴られて、メロちゃんとは何かしたのかい?」
再びゲラに突入した生子先輩の代わりに無色さんが進行を引き継いでゆきをちゃんに質問する。
とっさの判断だろうが、生子先輩も笑いを押し殺しながらもサムズアップしているのでナイスフォローと言えるだろう。
「メロちゃん?
メロちゃんとは手を握り合ってたよ
お姉ちゃんとしてボクが緊張をほぐしてあげないとと思ってね」
エヘン、と胸を張るように体を反らすゆきをちゃん。
「あら、偉いじゃない
本番中にカップ麺すすってた奴とは思えないわね」
「誰だよ、本番中にカップ麺すすってた奴!」
「お前だよバカタレ!!」
アイちゃんとゆきをちゃんのやりとりにスタジオ内で笑いが起こる。
コメント欄にも草が生い茂っている。
「まったく、あんたって子は…
あ、そう言えば、メロの配信待機画像とアニメーションもゆきをが描いてあげたんでしょ?」
「そうだよー
お姉ちゃんとしてメロちゃんに何かしてあげたくってね
余計なお世話かなーって思ったんだけど、思ったより喜んでもらえて感無量だったよ」
「いやぁ、いいお姉ちゃんですねぇ」
「普通にしてればだけどね」
「アイちゃんちょっとボクにきつくない?」
再びスタジオ内で笑いが起き、わいのわいのとスタジオ内が騒がしくなる。
楽しそうなその輪に私も混ざりたかったが、まだ私は混ざることができない。
少し複雑な気分だった。
そんな心境を感じ取ったのか、いつの間にかスタジオへと入ってきていたレイちゃんが私の隣に座った。
「アンちゃん、うちが一緒にいてあげるね」
そう小声で呟くレイちゃんの頭を軽く撫で、私はすぐ訪れる出番に意識を集中し、その時を待つ。
「あー、何回もごめんね
完全復活したからこの後の予定を説明していくよ!
準備はいいかー!」
いつの間にか復活していた生子先輩はこちらを見て準備できているかどうかを確認する。
そして、レイちゃんの存在に気付いたらしく、こちらに向かって小さく手を振っていた。
手を振り返すレイちゃんを微笑ましく思いつつ、私はスタッフさん達の頷きを確認し、生子先輩にサムズアップで応えた。
「さっきと同じようにこれから十分間の休憩に入ります
休憩後はこのチャンネルで二期生が全員集合して―」
「ちょっと待ったーッ!!」
あらかじめ打ち合わせしたタイミングで待ったの声をかける。
「だ、誰だ?!」
「え、誰?!」
など、スタジオ内のメンバーがアバターの顔を左右に動かしながらそう声をあげれば、黒い影のかかったシルエットの立ち絵が画面の左端に表示される。
コメント欄
【コメント】:?!
【コメント】:演出かこれ
【コメント】:なんか聞いたことある声
【コメント】:え、本人?!
コメント欄が騒がしい。
まぁ、誰かもわからない奴にいきなり進行遮られたら戸惑うか。
それに、物まねをしてある人物を真似ているのもあるだろう。
「連邦捜査官だ!」
私がそう言うと、立ち絵の黒い影が消えてその姿が露わとなる。
日本人なら大抵は知っているのではないかという海外ドラマの主人公であるが、流石に写真は使えないので黒目線されたイラストの立ち絵である。
「あ、あなたは…?!」
「CTUロサンゼルス、捜査官のジャッ〇・バ〇アーだ!」
コメント欄
【コメント】:ファッ?!
【コメント】:なんでやねんww
【コメント】:キレやすい男さん!
【コメント】:何が起こっているんだww
独特な吹き替えの物まねをしながら名前を名乗ると、コメント欄では更なる戸惑いと笑いでコメントの数が増加する。
「バ〇アー捜査官、今生放送中なんですが、いったい何しに日本へ?!」
「実は大統領命令で重大な情報を届けるためにアメリカから急いで飛んで来たんだ」
「重大情報?」
「ああ、これだ
受け取ってくれ」
配信画面のバ〇アー捜査官の隣からUSBメモリが出現し、それが生子先輩のアバターの隣に移動する。
「これは…画像ファイルですね」
そう言って配信画面に表示されたのは一体のシルエットと一枚のメモ。
『二期生はもう一人いる』
メモにはそう記されていた。
「え?!
二期生ってもう一人いるの?!」
打ち合わせ通りに驚いて見せる生子先輩に、二期生のメンバー達も知らないと答えた。
「ああ、本当なら一日早くデータが公開されるはずだったんだが、敵対組織の妨害を受けて遅れてしまった
5人目の情報を届けるのが遅れたことを…、スンッ…、本当にすまないと思っている…!」
バ〇アー捜査官の名台詞をパロディーしつつ、情報が遅れた理由を説明する。
勿論だが敵対組織の妨害は一切受けていないし、むしろ敵対組織もいない…はず。
だよな、リビングライブ?
「フフッ、い、いやぁ、これは困ったなぁ
予定を組み替えないと」
生子先輩は笑いをこらえて進行を進める。
もう一押しすれば再び笑いの呪縛にかかることになるだろう。
大阪人としては畳みかけたいところだが、流石にこれ以上は自重しなければならない。
そう判断した私は近くにいたSE担当のスタッフさんに手で合図を出す。
そうすると、劇中でお馴染みのあの着信音が鳴り響く。
「バ〇アー
…何?!
…わかった、俺の端末に情報を送ってくれ!
すまないが、俺は仕事に戻らなくてはならない」
「あ、はい
わざわざ情報を伝えに来ていただいてありがとうございました、バ〇アー捜査官」
「これも任務だ
それでは失礼する」
そう言ってマイクの音量をオフにすると、配信画面上のバ〇アー捜査官の立ち絵が消えた。
流石にあの声色をずっと維持するのはちょっと厳しかったが、最後までぶれることなく続けられて一安心だ。
ほっと一息つく。
とりあえずの出番はこれで終了だ。
今から元の場所に戻って配信準備をしなければならない。
「アンちゃん、ひとまずお疲れ」
「ありがとう
レイちゃんが隣にいてくれて助かったよ」
私はそう言ってレイちゃんの頭を撫でると席を立った。
今後の予定の変更などを伝える生子先輩達に『戻ります』とハンドサインで伝えると、全員が
サムズアップして『頑張れ』と伝えてくれた。
その行動に私もサムズアップで応える。
まだ配信が続く中スタジオを後にして、私は用意された部屋へと急いで戻り、配信の準備を開始したのだった。