私が配信する為に用意された会議室へと戻り、十分間の休憩の間に配信準備を進める。
刻一刻とその時は迫っているが、最早この時点で私にできることはない。
後は本番をやってのけるだけ。
配信画面のカウントダウン表示が残り一分を告げる。
ゆっくりと息を吐き、ゆっくりと吸い、また吐く。
呼吸を整えて緊張をほぐす。
「休憩終了30秒前でーす!」
スタッフさんの報告にこの部屋の空気が重くなったのを感じる。
こういうことに慣れたスタッフさん達でも緊張してしまうのか、それとも私の緊張が伝染したのか。
私は息を吐いて周りを見渡した。
「皆さん、配信するのは私ですよ?」
アハハと私が苦笑いすると、スタッフさん達も少し緊張がほぐれたのか笑い返してくれた。
部屋の空気が少し軽くなる。
「休憩終了10秒前!」
「ふぅ…レイちゃんよ、護り給え」
頭の中のレイちゃんにお祈りをし、両頬をパチンと叩いて気合を入れる。
「5秒前!」
4、3、2、1、配信画面が公式チャンネルから私のチャンネルに移動し、配信待機画面へと切り替わる。
チャンネルの名前は『フィーネリアch.』。
自称堕天使のフィーネリア・リュツィフェール。
セミロングのプラチナブロンドの髪に碧色の切れ長の瞳、雪のように白い肌に怪しく微笑まれた小さなお口が特徴の見た目美少女の姿。
顔立ちはメロディア・リュツィフェールに似て作られている。
メロディアとは逆に背中の左側に翼がなく、その翼は純白である。
服装は白のウィングカラーシャツに黒のスーツパンツ、深紅のフォーマルネクタイを着用し、深紅のフォーマルベスト、その上に黒のモーニングコートを羽織っている。
所謂執事服である。
モーニングコートの隙間から見える懐中時計の金色のチェーンと胸ポケットの深紅のポケットチーフがワンポイントと言える。
そのキービジュアルがアカウント画像とヘッダーに使用されている。
コメント欄
【コメント】:女執事か!
【コメント】:美人さんやん!
【コメント】:メロちゃんに似てるね
【コメント】:双子とか?
【コメント】:反対側の羽ないしそうじゃね?
コメント欄ではフィーネリアの考察が始まっており、メロディアとの関係なども話題になっている。
親戚だったり、双子だったり、親子だったり、いろいろな憶測が飛び交っている。
流石に親子はないだろと思いつつ、コメント欄から配信画面へと視線を移す。
配信待機画像はいろいろなことをしているメロディアを物陰からチラチラと顔を覗かせるフィーネリアのデフォルメアニメーションが表示されている。
勿論ニホンイエティ激カワ美少女イラストレーターゆきを先生の作品である。
あの子仕事が早すぎなんよね。
フィーネリアのキービジュアルが二期生内で公開されたその日の内にはこのアニメーション画像を送ってきた。
ゆきをちゃん曰く、ビビッときてやったので是非使ってほしい、らしい。
なので、ゆきをちゃんに感謝しつつこのアニメーション画像を使用させてもらっている。
コメント欄
【コメント】:ストーカーかよww
【コメント】:チラッ
【コメント】:ニホンイエティ激カワ美少女イラストレーター先生の作品多ない?
【コメント】:なんか残念美人感がするな
好き放題言いやがってからに…。
そう呟きながらコメント欄を見てにやりと笑う。
コメントに一喜一憂するのは配信者あるあるだろうか?
そんなことを考えていると、スタッフさんの準備完了のサインが目に入った。
一度深呼吸をする。
「いきます!」
カーソルを動かし、配信開始ボタンをクリックする。
同時に待機画面のアニメーションを差し替え、配信画面へと移行させる。
因みに差し替わったアニメーションはチラチラしていたフィーネリアがメロディアに見つかって姿を現すというものだ。
配信画面に現れたフィーネリアが私とリンクしているのを確認してマイクのミュートを解除する。
「皆さん、こんばんわ
リビングライブ二期生お披露目配信の大トリを務めます、フィーネリア・リュツィフェールです
よろしくお願いします」
コメント欄
【コメント】:声綺麗!
【コメント】:苗字同じだしやっぱり姉妹か?
【コメント】:兄二人の三人兄弟やから姉妹はない
【コメント】:従姉妹ちゃうか?
【コメント】:親子説まだあるで
コメント欄を見る限り、フィーネリアとメロディアの関係性についてのコメントが多い。
流石に親子説は勘弁願いたいものだ。
「どうやらメロちゃんとの関係性を知りたい方が多いようなので明言しておきましょうか
私はメロちゃんの兄です、二番目のね
メロちゃんの配信で言ってたでしょう?」
コメント欄
【コメント】:兄?!
【コメント】:男なんか?!
【コメント】:マジの兄妹なん?
【コメント】:兄ちゃん?!
「はい、アンちゃんですよー」
コメント欄は私が男であることに驚いているようで、コメントの数と速さが増していく。
私自身は女と間違われることに関しては何も思わないが、フィーネリアはどう思うのだろうか、などとキャラクターの心理を考えてしまう。
まぁ、フィーネリアも私なのだから変わらんか。
「もっと私の事を知ってもらうためにプロフィール画像を出しましょうか
えーっと…これを…こうじゃ!」
配信画面にフィーネリア・リュツィフェールのプロフィール画像が表示される。
「改めまして、私の名はフィーネリア・リュツィフェール
バーチャル天界の主天使の一人であり、バーチャル天界関西地区出身の自称堕天使です
この服装は服屋さんでメロちゃんのお世話をするのに相応しい衣装が何か尋ねたときに薦められたので購入して着ています
それと、羽が片方なのは自分で羽をもぎ取ったからですね
堕天してもがれた訳ではないので翼が白いままなんですよ
メロちゃんとお揃いの色にならなかったのが少し残念でなりませんが…
あ、あと、天使の輪は蛍光灯として自宅で使っています」
コメント欄
【コメント】:主天使って結構なお偉いさんやん
【コメント】:自分でもぎ取ったww
【コメント】:なんか雰囲気が病んでないか?
【コメント】:お揃いにしたかったんかな?
【コメント】:それにしては羽の有無が左右違うやん
【コメント】:蛍w光w灯ww
「メロちゃんと違う方の翼をもいだのは、メロちゃんと二人で合わされば一対の翼になるからですね
二人一緒ならどこへだって行けますし、どこまでだって飛べる
両翼揃ったリュツィフェール兄妹は無敵ってな訳です」
ウフフと笑って口角を吊り上げてみるが、フィーネリアの口は小さいため細かな表情の変化は反応がしづらいようだ。
今後の参考にしなければならない。
コメント欄ではヤンデレだ!などとコメントされているが、それは違う。
ただの過保護だ。
特殊訓練を受けたただの過保護だ。
いき過ぎた過保護という人もいるが、それでもただの過保護なのだ。
「えー、リビングライブに所属することになったきっかけは、メロちゃんのオーディションに付き添いとして行ったのがきっかけですね
その時に偶然社長さんに声をかけられてスカウトされたんです
他の四人とは違ってスカウト枠ってことですね
今回のお披露目に際して私の情報がなかったのが、諸々の準備が日数的にお披露目配信に間に合うかが微妙だったから、というのが大きな原因です
何せ私のアバターから何までほぼ一月で用意しなければならなかったんですから
関係各位の皆様の努力と献身に心より感謝申し上げます」
コメント欄
【コメント】:スカウト枠ってあったんか
【コメント】:偶然は必然
【コメント】:持ってる奴は違うんだよなぁ
【コメント】:一月でアバターとか用意したん?!
【コメント】:仕事が早いぜリビングライブ
本当に仕事が早い。
スケジュールを見せてもらったが、なかなかの強行軍であった。
この配信を見届けたらゆっくりと休んでほしい。
「趣味は海外ドラマ鑑賞かな?
最近はシ〇ゴシリーズとか見てますね
メッドは他の二作と吹き替えの声優さんが代わったせいで違和感があって一話しか見れてないですが…
確かNC〇Sも途中から〇ッキーの声優さん代わりましたよね
まぁ、シーズンが多いので仕方ないものなのかもしれませんが…
話が逸れちゃったね
ジャンルは関係なく気が惹かれたものを見るって感じでしょうか
アクション、恋愛モノ、歴史モノ、中でも中世辺りの作品が多いかも
ヴァイ〇ングとかラストキ〇グダムとか」
コメント欄
【コメント】:確かに声優さん代わると違和感ありまくりよな
【コメント】:ドラ〇もんみたいにすぐに慣れるで
【コメント】:日本のドラマは見ないの?
「日本のドラマは場合によりけりですね
テレビ離れが進んでいる弊害かもしれませんが、昔と違って絶対に見ようと思わせてくれる作品が少ないように感じます
最近は漫画原作のドラマとか多いですけど、漫画を読んでる人からしたらアニメにしてくれた方が嬉しいってのもあるんじゃないですかね?
ドラマだと結構改変あったりしますし
性格違ったり、タイトル変えられてたり、そういうの求められてへんやろ、ってことやってくるから見る気なくなるんですよね」
コメント欄を見てみると、分かる派のコメントが多く見られた。
「まぁ、あくまで原作を読んでいる人からしたらって話なので、変に誤解はしないでいただきたいところ…
さて、次は特技の話をしましょう
特技は料理全般と変声ですね
うちの料理担当は実家でもこちらでも私なので三食全部私が作っています
メロちゃんが口にするものなのでちゃんと栄養バランスは考えて作っていますよ
変声っていうのは、まぁ、声真似ですよね
先程の公式チャンネルでの配信で出てきた連邦捜査官、実はあれ私なんです」
コメント欄ではその声でできる訳ないだろ、嘘乙、などの信じられないと言ったコメントが多数を占めている。
まぁ、そう思われても仕方ないと思う。
でも、できるんだからそんなこと言ったってしょうがないじょないか。
「何ぃッ?!
俺のいう事が信じられないだと!?
くそーッ!!」
コメント欄
【コメント】:マジかよww
【コメント】:ファーww
【コメント】:え、他の人がやってる訳ではなく?
【コメント】:信じられないな…
某連邦捜査官の声真似で大半の人が私が声の本人という事を理解してくれたようだが、Vライバー、いや、Vチューバ―全般に言える『本当に本人が喋っているのかどうかが分からない』ということで信じられないという人もいるようだ。
そこは信用の問題だから気長にやっていこう。
「まぁ、声真似は配信内でも随所随所にぶっこんでいくと思うんで、その内信じられるようになりますよ
OK?」
お決まりの声真似にコメント欄がOK!やOK!ズドンで埋まっていく。
こういうテンプレの反応は揃うと見てて気持ちがいい。
「とりあえず、プロフィール紹介としてはこんなものかな?
あー、あと、一応言っておかなければいけないことなんだけど、メロちゃんは未成年で私が保護者代理として一緒にバーチャル人間界に出てきたわけね
つまり、兄妹だから一緒の家に住んでいる訳です
今後配信中にお互いの音声が入ってしまうことがあるかもしれませんが、その時は兄妹仲がええんやな、ぐらいの感覚で見てくれるとありがたいと思います」
了解、むしろやれ、などの好意的なコメントの流れを確認し、とりあえず一息つく。
兄と妹であるが、結局は男と女なのだ。
女性Vの配信に男性の声が入るのを嫌う人もいる訳だから、その辺の予防線はやりすぎかと言われるぐらいに張っておかなければならない。
レイちゃんが叩かれるようなことは絶対にあってはならないのだ。
レイちゃんには楽しく配信してもらいたいからな。
その後は時間の許す限りメロちゃんの魅力を語り続けた。
若干引き気味のスタッフさんから締めの指示が入り、いい感じに話を纏める。
「まだまだ話し足りませんが、残念ながらお時間のようです
延長はできます?
…ダメ?
仕方ないのでメロちゃんの布教は次の機会に持ち越しましょう」
コメント欄
【コメント】:いいお兄ちゃんダナァ
【コメント】:シスコン拗らせすぎぃww
【コメント】:酷いシスコンを見たww
【コメント】:千葉の兄妹なら普通
【コメント】:マジで好きなんだろうな
メロちゃんの魅力を知ってもらえて何よりである。
これからもメロちゃんのいいところを布教していこう。
「この後の予定ですが、再び配信画面が公式チャンネルに戻ります
そこで二期生全員が集合していろいろ話す予定です
私は部屋の移動があるので少し遅れるかもしれませんが、皆さんはそのまま配信を見ておくように
では、スタジオの生子先輩にお返ししまーす
ほなまたー」
乙ー、お疲れー、888、などのコメントを横目に笑顔で配信を終えた私をスタッフさん達の拍手が包み込んだ。
私は席から立ち上がってスタッフさん達に頭を下げる。
「何とか無事に初配信を終えることができました
これもスタッフの皆さんの尽力のおかげです
ありがとうございました」
私の謝意にこちらこそありがとう、などの返答がなされ、私は頭を上げた。
何とか初配信をやり遂げた。
少し目頭が熱くなるが、まだ終わっていない。
スタッフさん達がここは任せてスタジオに行けと促している。
「すみません、それじゃあスタジオに向かいます!」
私はスタッフさん達に一礼してこの部屋を出た。
その間も機材の撤収などをしているスタッフさん達。
今回の配信は彼らスタッフさん達裏方の働きがあってこその成功である事を忘れてはならない。
そのことを胸に刻み、私はスタジオへと急いだ。