「なぁぁぁぁんでぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
朝食を食べ終わった後に朝活配信の話をすると、レイちゃんが大声で喚き始めた。
あまりの声量にグラスがビリビリと震え、中のオレンジジュースが小さく波を立てる。
流石にこの距離ではグラスは割れないだろうが、レイちゃんから少し距離を離しておこう。
「何でもかんでも寝てたんだから仕方ないでしょ」
「起こしてよ!
うちも一緒に朝活やりたかったのに!
ずっこいずっこい!」
分かっていたことだが、レイちゃんも一緒に朝活配信したかったらしい。
「ずっこくない
今回は寝るのが遅くなったから仕方ないけど、私が起こさんと起きれないのはそもそもあかんと思うよ?
朝活配信に関してはこれからも私は起こさんからね」
「むむむ」
「なにがむむむだ!」
「うちを起こせる者があるか!」
「ここにいるぞ!」
などと某三国志漫画をネタに会話を楽しむ。
ネタの流れのせいで結局は起こすことになってしまったが、それはいわゆるコラテラルダメージというものに過ぎない。
配信目的のための致し方ない犠牲だ。
「しょうがないから一応は起こすけど、自分で起きる努力はしなさいよ」
「分かってるって
万が一の時の為の保険だと思ってよ」
しょうがないな、と諦めて微笑むと、レイちゃんは笑顔で右手親指をグッと立てた。
あまり甘やかすのもレイちゃんの為にならないが、努力はしてくれるそうなので良しとしよう。
それに、可愛い妹の頼みを聞いてあげるのも良い兄の仕事の内とも言えるしね。
その後はレイちゃんと一緒に朝食の片づけや掃除洗濯を済ませ、流石に眠気が限界に来たので仮眠を取ることにした。
スマホのアラームを14時にセットし、自室のベッドに横になる。
体は闘争を求めてはいないが、睡眠は求めていたようで、一瞬にして夢の世界へと旅立ってしまった。
数時間の眠りからアラーム音で目を覚まし、ベッドから身体を起こす。
因みに夢は見なかった。
寝ている間にライバー用スマホに通知が着ていたようで、確認してみるとマネージャーの鶴ケ谷さんからの連絡のようで、ツイッテルのアカウントを作成しましたという通知だった。
とりあえず、何かつぶやいておかないといけないか…。
ディスコールを開いてツイッテルアカウントとパスワードを確認して、フィーネリア・リュツィフェールのツイッテルアカウントにログインする。
プロフィール欄には既にフィーネリアの情報が記入されており、ここは変更する必要はなさそうだ。
最初は無難に自己紹介を書いて投稿ボタンを押し、その後に今日の15時配信の待機所のURLをコピペしてつぶやく。
ちゃんとつぶやかれているのを確認し、私はパソコンを起動して配信準備を整える。
配信までまだまだ時間はあるが、既に3千人以上の視聴者が待機している状態だった。
暇人かな?
配信中に口を潤す為の飲み物を準備していなかったので、キッチンへと向かう。
すると、リビングで勉強しているレイちゃんと遭遇した。
「あ、アンちゃん
おはよー」
「おはよう、レイちゃん
勉強はかどってる?」
レイちゃんは高校には通っていないが、上京したのをきっかけに通信制高校に通っている。
通信制で通っているといっていいのかは分からないが、年に数日はテストを受けに学校に通わないといけないので合ってると言えば合ってるのだ。
「とりあえず、各授業の今月分のレポートは書き終えたから予習してるところやよ」
まだ7月最初の週だというのに既に今月分が終わっているのか。
「流石はレイちゃんね
兄として鼻高々だよ」
「ピノキ〇かな?」
「嘘はついてないんだよなぁ」
レイちゃんといつも通りのやり取りをしつつ冷蔵庫の横に置かれた段ボールからスポーツドリンクの500mmペットボトルを取り出す。
冷たいスポーツドリンクもいいのだが、配信など時間がかかる時に飲むのは冷やしてない方がいい。
今の時期だと結露でびちゃびちゃになるからね。
「私はもうすぐ配信だから、レイちゃんも最終チェックしときなさいよ」
「あー、もうそんな時間なんか…
りょうかーい」
レイちゃんはそう言って勉強道具を纏めてリビングから出ていった。
私も自室に戻るか。
いや、その前に軽くちょっと摘まんでいくか。
冷蔵庫を開けて何かあるか確認する。
軽く食べれるのはプリン、ヨーグルト、苺大福。
「うーん…
個数はあるけど、どれ食べてもレイちゃんに何か言われそうな感じがするなぁ」
さて、ここで私はどうするべきなのか。
1、プリンを食べる。
2、ヨーグルトを食べる。
3、苺大福を食べる。
4,食べない。
5、レイちゃんを誘う。
「…5だな」
私はレイちゃんを誘いにレイちゃんの部屋へと向かう。
念のためにレイちゃんの部屋の前の配信中ランプがついてないことを確認し、ドアベルを押す。
普通は扉をノックしたりするのだろうが、扉にも吸音タイルが設置されているのでノックされてもほぼ気付かない。
その為リフォームの時にドアベルを設置してもらったのだ。
ガチャリと扉が開き、レイちゃんが顔を出した。
「どしたの、アンちゃん?」
「プリンかヨーグルトか大福を食べようと思うんだけど、レイちゃんはどうする?」
「うちプリン!」
しゅばっと部屋から飛び出してきたレイちゃんは、さささっとリビングへと移動していった。
リビングに戻るとレイちゃんはすでにプリンを用意してテーブルに備え付けられた椅子に腰を下ろしており、レイちゃんの正面の席には同じくプリンが用意されている。
私はレイちゃんの正面に座り、プリンの蓋を開いた。
「いただきまーす」
「いただきます」
スプーンですくって一口食べる。
うん、美味しい。
少し良いところのプリンらしく、市販のプリンより濃厚でなめらかな味わいである。
レイちゃんもお気に召したのか、幸せそうな笑顔でプリンを味わって食べていた。
美味しいのであっという間に完食である。
「ごちそうさまー」
「ごちそうさま
私が片付けておくよ」
「アンちゃんありがとー
配信頑張ってねー」
そう言ってレイちゃんはリビングを出ていった。
私は食べ終わったプリンの容器とスプーンを片付けて自室へと戻ったのだった。