私が配信を終えた後、リビングからベランダに出て洗濯物を取り込む。
夏直前であるものの、既に暑さは夏真っ盛りと言っていいほどに日差しがきつい日々が続いているので、洗濯物は2、3時間外に干していれば直ぐに乾いてしまうだろう。
その為、朝から干していた洗濯物は完璧に乾いている訳だ。
この時期長時間洗濯物を干していると洗濯物が乾きすぎてカッチカチになっていることがよくありますよね?
柔らかい洗濯物がお好き?
結構、ではますます好きになりますよ。
さあさどうぞ、洗濯洗剤のニューモデルです。
ふわふわでしょ?
ああ仰らないで、タイプがジェルボール。
でも粉末や液体なんて見かけだけで容器が重いしよく零れるわ、すぐ詰め替えるわ、ろくな事はない。
容量もたっぷりありますよ、どんな洗濯物でも大丈夫。
どうぞ触ってみてください、いい柔らかさでしょう
余裕の柔らかさだ、技術が違いますよ。
どこかのセールスマンがおススメしそうな仕上がりの洗濯物に満足し、日本の技術力の高さに改めて感謝をする。
取り込んだ洗濯物を畳み終え、自分の洗濯物を自室のタンスに仕舞い、レイちゃんの洗濯物はリビングのソファーの上に置いておく。
その後は夕飯の下ごしらえだ。
本日の夕食は炊き込みご飯と焼き鮭、筑前煮、味噌汁、冷や奴、ほうれん草のおひたしである。
まぁ、下ごしらえと言ってもすることは少ない。
鮭は夕食前に焼くとして、筑前煮は既に出来上がってるものを冷蔵庫から出すだけだし、冷や奴は切るだけだ。
なので今やるべきは三つ。
炊き込みご飯の具材を切って米と調味料を一緒に入れて炊飯器のスイッチを入れる。
味噌汁の具材切って鍋に水と一緒に入れて味噌を溶いて火にかける。
ほうれん草は切って湯に通して氷水に浸けるだけ。
以上!
と言う訳で夕飯の下ごしらえが完了した。
スマホでレイちゃんの配信を確認してみると、まだ配信中である。
約束通り配信にお邪魔するべきか。
お邪魔するとしてどのように登場するべきか。
前提としてコラボは現段階ではNGなので、フィーネリア・リュツィフェールとしては配信に出ることはできない。
とすると、レイちゃんみたいに応援団みたいに仮装しないといけない訳で。
いや、厳密には仮装はする必要ないんだけどね。
そうと決まれば話は早い。
必要な小道具を持ってレイちゃんの部屋へと向かう。
用意を済ませてレイちゃんの部屋の前にやってきた。
メロディアの配信が表示されている個人用スマホを確認し、配信時間内に用意が終わったことにひとまず一息つく。
ライバー用スマホでディスコールを起動し、レイちゃんに今から行きますとメッセージを送る。
因みに個人用スマホはピップボーイ型スマホケースに装着しているので両手はフリーに使えるのだ。
「それでは往こうか」
私はレイちゃんの部屋の扉を開くのと同時にワイヤレス掃除機のスイッチをオンにした。
ブォォォォォォォォォォ!!
「ヒュィッ?!」
掃除機の吸引音に驚いたのか、レイちゃんの身体がビクッと跳ねた。
慌ててこちらを見るレイちゃんに親指をグッと立てて私は役に入り込んだ。
「もぉ、あんたぁ!
休日の真昼間から出かけんとワープロばっかりしてぇ!
出かけんのやったらお母ちゃんの事手伝ったらどないやのぉ!」
コンセプトは大阪のおかんである。
声色もおばちゃんっぽく変えているので、もしかしたら堕天者―メロディアch.視聴者のファンネーム―からは本当にお母さんが入ってきたと思っている人もいるかもしれない。
私は部屋の入り口辺りで掃除機を動かしながらレイちゃんの出方を待つ。
「んふっ…!!
ワープロやのーてパソコンや!
勝手に入ってくんなや!」
出だしで少し笑ってしまったレイちゃんであったが、ちゃんと子供役でネタに乗ってくれた。
掃除機をかけながらおかんに成りきっているので、スマホの画面を確認する余裕はない。
コメント欄が賑わっているといいのだが。
「そんなこと言って、あんた全然掃除せんやないのぉ!
塵も積もれば大和撫子やで、ほんまぁ!」
「大和撫子関係ないやろ!
ほんまうっさいから出てけって!
今配信しとんねん!」
「背信ってあんたぁ、堕天使なんやからとっくに背信しとるでしょうにぃ」
「その背信やないねん!
動画配信とかの配信じゃ!
うっさいから掃除機切れって!」
確かに掃除機の音がうるさすぎて堕天者の皆には私達のやり取りが聞こえていないかもしれない。
それは困るので掃除機のスイッチをオフにした。
「ま、配信ってお母ちゃん映ってんの?
あらぁー大変やわ!
配信してるならちゃんと言うといてよ、もぉー!
お母ちゃんお化粧してないやないのぉ!
もぉ、嫌やわぁ」
「声だけやから化粧せんでええねん!
ええから出てけって!」
「声だけ入ってんの?
あらぁ、皆さんお元気ぃ?
うちのメロちゃんがお世話になってますぅ
あ、飴ちゃん食べるぅ?
みかんもあるでぇ」
「やめろって!
エプロンのポケットから飴とみかん出すなや!
なんでそんなもんポケットに入ってんねん!」
実際には飴もみかんも持っていないし、エプロンもしていない。
飴とみかんをどこから出したのか、というレイちゃんのフォローなのだろう。
ありがたくその設定を活かさせてもらおう。
「なんでってあんたぁ、そりゃあお母ちゃんがさっき買い物行った時に斎藤さんとこの奥さんに貰ったからやないのぁ」
「誰やねん斎藤さんって!」
「そりゃあ斎藤さん言うたら三丁目のとこのタバコ屋さんの隣の家の斎藤さんの事やないのぉ
ほら、朝家の前通ったら歯磨きでえずくお父さんの声聞こえる家のとこの斎藤さんやん」
「んふっ…!
んっん!
人に貰った物渡そうとすんなや!
もぉ、出てけってー!」
少し笑ってしまったレイちゃんはパソコンの前から立ち上がって私の身体を押してを部屋から追い出そうとする。
その際に小声で『ありがとね』と感謝の言葉を言ってくれたので、私は「斎藤さんとこの奥さんにお礼言っときやー!」と捨て台詞を残してレイちゃんの部屋を出ていった。
レイちゃんの部屋の前で気になっていた視聴者の反応を確認する為にスマホに視線を移し、配信コメント欄を確認する。
コメント欄
【コメント】:親フラ草
【コメント】:コッテコテの大阪のおかんww
【コメント】:掃除機のインパクトよww
【コメント】:放送事故やでww
【コメント】:大阪のおばちゃんって飴とみかん常備してるよな
【コメント】:斎藤さん家の嫌な覚え方よww
【コメント】:メロちゃんの新たな一面を見た
【コメント】:メロちゃん家事手伝ったげて
【コメント】:メロちゃん部屋の掃除ぐらい自分でしてもろて
なかなかの好感触だ。
だが、今のが私達の本当のお母さんだと勘違いされたら、むしろこの配信をお母さんに見られたら怒られそう。
バレなければ犯罪じゃないんですよ、と古の邪神も言っていたし気にしないでおこう。
どうせ見てないって、平気へっちゃら。
などとフラグを立ててしまったが、とりあえず掃除機を直しに行こうと思った瞬間に個人用スマホの着信音が鳴りだした。
あぁ、これは即オチ二コマですね…。
恐る恐る画面を確認すると、そこには『お母さん』と表示されているではないか。
いやぁ、子供の配信をリアルタイムで見てくれているなんて親の鏡だなぁ。
なんて現実逃避している間も着信音は鳴り続けているため、私は覚悟を決めて電話に出るのだった。