ジュージューと肉の焼ける音とパチパチと油が跳ねる音が響くホットプレートを囲む私達。
食欲を誘う肉の焼ける匂いを前にして私達はまだ誰も手を付けていない。
その原因は私達の傍らでカタカタとパソコンを操作している雅ちゃんにある。
雅ちゃんが中の人を務めるゆきをちゃんのお家芸と成り果てた配信開幕暴食タイムの為である。
ただ、今回はいつもと違う事が一点ある。
それはテルテル先輩―つまり、屍生子先輩が配信開幕暴食タイムで焼き肉を食べるということだ。
時刻は19時50分。
テレビの右半分に表示されているゆきをちゃんの配信中待機画面には既に3万人以上が待機しており、チャット欄では今日は何を食べるのか等とコメントされている。
「画面切り替わりまーす」
雅ちゃんはそう言って配信中待機画面のアニメーションから『ゲーマーズ公式配信同時視聴配信枠』と画面中央にでかでかと書かれた画面へと切り替える。
勿論のことながらコラボ解禁前なので私達の立ち絵はない。
ゆきをちゃんのアバターだけが画面右側に表示されている。
画面の左側に表示されたコメント欄は案の定凄い速さで流れていっている。
「音声入りまーす」
そう言って雅ちゃんはキーボードを押した後にテルテル先輩にゴーサインを出した。
コメント欄
【コメント】:お、始まったか?
【コメント】:今日は何をいただくんです?
【コメント】:ジュージュー言ってるから鉄板系かな?
【コメント】:肉だな多分
【コメント】:先輩の公式配信を肉を食いながら同時視聴する後輩がいるってマ?
コメント欄が温まってきている最中、テルテル先輩が箸を右手に持ち、ホットプレート上の肉に手を付けた。
もぐもぐと焼き肉を食べるテルテル先輩の口元にマイクを近づける雅ちゃん。
「うん、美味い美味い
やっぱ良い肉は違うなぁ」
咀嚼音とテルテル先輩のコメントが配信に乗った瞬間にコメント欄が一気にざわつき始めた。
コメント欄
【コメント】:え?誰?
【コメント】:ゆきをちゃんじゃない?!
【コメント】:この声って生子ちゃんじゃね?
【コメント】:いや、コラボ解禁してないしないやろ…ないよな?
【コメント】:流石に生子ちゃんはないやろうから、あってフィニキの声真似やろ
コメント欄が高速で流れる中、一定量の焼き肉を食したテルテル先輩はごくごくと黒烏龍茶を飲み干した後にパンッと両手を合わせた。
「ひとまずご馳走様でした」
「はい、リビングライブ二期生、ニホンイエティ激カワ美少女イラストレーターライバーのゆきをでーす」
あからさまにテルテル先輩とは声質が違う雅ちゃんがいつもの挨拶をしたところで、本日の焼肉奉行職である私はホットプレート上に肉と野菜を投入していく。
すると、ジュージューと肉の焼ける音とパチパチと油の跳ねる音が再び鳴り始める。
「今日のこの配信枠は、本日20時より生配信されるリビングライブ公式配信の同時視聴枠でーす
なので、是非このチャンネルとリビングライブ公式チャンネルの二窓視聴とチャンネル登録をよろしくお願いしまーす」
コメント欄
【コメント】:やっぱり生子ちゃんかフィニキいるやろこれ
【コメント】:フィニキがわざわざ生子ちゃんの声真似するか?
【コメント】:ゆきを先生の声真似の可能性も無きにしも非ずやろ
【コメント】:ゆきを先生の事やからコラボ前でも召喚ワンチャンあるで
【コメント】:二窓安定、チャンネル登録もばっちしVよ
コメント欄はやはり開幕の件でざわついているようだ。
そろそろ収拾つけないと公式配信が始まってしまうぞ。
そう、雅ちゃんにアイコンタクトを送ると雅ちゃんはこくんと頷いた。
「皆もこの音が聞こえていると思うけど、さっき食べていたのは焼肉でしたー
焼肉美味いよなー
まぁ、ボクはまだ食べてないんだけどねー」
その言葉で更にコメント欄がざわつく。
やっぱり他に誰かいるんだ、等のコメントが流れていく。
「実は今日二期生全員で初コラボの話し合いがあってねー
あ、近日中に二期生内コラボが解禁されるから皆待っててねー
その流れで皆で夕食を囲むことになったんだー
因みに今日はリュツィフェール家からの配信となっているよー
まぁ、まだコラボは解禁されてないからこの枠は基本ボクだけが喋ることになるけどねー
じゃあ、ちょっと皆の方にマイク向けてみよっかー」
さらっと重要告知を口にした雅ちゃんが私達にマイクを向ける。
「はいはーい、噺家でございまーす」
「やっほー、お姉さんだぞー」
「妹でーす」
「焼肉奉行職でーす」
私達は事前の打ち合わせ通り自分たちの名前は出さずに自己紹介をした。
勿論コラボ解禁前の配慮という事もあるが、今回の配信のメインはあくまで公式配信に出るゲーマーズのお二方なので、そちら側の配慮も含まれている訳だ。
自分達が公式配信をするのに後輩がコラボ配信をぶつけてきた挙句、更には自分達の先輩もそのコラボ配信に出てるとか公式配信を潰しにかかってると言われても仕方がないからね。
まぁ、一応会社の方には話を通して許可をもらっているので特に心配することはないだろう。
それに、ゲーマーズのお二方もリビングライブライバーだけあってぶっ飛んでいる方々なので、簡単に私達に喰われるようなこともないだろう、多分だけども。
コメント欄
【コメント】:二期生勢ぞろいやん!
【コメント】:コラボ解禁前だから名前言わないのかな?
【コメント】:実質コラボ配信
【コメント】:コラボ解禁前コラボ配信とかもう訳わかんねぇな…
【コメント】:さっきのはやっぱりフィニキやったんやな
【コメント】:焼肉奉行職フィニキ、ご期待ください
「あれー?
雪ん子の皆はさっきのがフィーフィーの声真似だったと思っていたのかな?
残念だったなぁ、トリックだよ」
雅ちゃんが自身のチャンネルのリスナーである『雪ん子』達のコメントを読みながらにやりと笑う。
くっそ悪そうな顔をしているが本人の名誉のためにここは黙っておこう。
「実は今日のコラボ会議にはオブザーバーも来てもらっていたんだよねー
ここまで言えば皆ももう分かるよね?
そう、このお方だよー」
「はーい、オブザーバーのアンデッドでーす」
雅ちゃんの紹介でテルテル先輩が挨拶をする。
勿論私達と同じようにテルテル先輩も名乗りはしない。
コメント欄
【コメント】:やっぱ生子ちゃんやんけ!
【コメント】:ライバー同士仲良しなんやなぁ
【コメント】:公式配信の方にスクナ様と呑兵衛殿が出るからかな?
【コメント】:え、生子ちゃんハブなんですか?
【コメント】:二人組作れなかったか…
【コメント】:やめろ、二人組は俺に効く
コメント欄は一期生である生子先輩の登場に狂喜乱舞のお祭り状態だ。
一部狂気乱舞のお祭り状態であるがその件には触れないでおこう。
それはそうと、ホットプレートの上の肉の焼け具合がいい感じだ。
「肉と野菜が焼けてるよー」
焼肉奉行職である私の言葉に皆はそれぞれの取皿に肉と野菜を確保していく。
「ってな訳で、今日はこの6名で焼き肉を食べながらボクがメインで同時視聴配信をしていくから、雪ん子の皆もそのつもりでねー
それでは皆さん、いただきまーす」
「「「「「いただきまーす」」」」」
雅ちゃんの音頭で私達は感謝の言葉を唱えてから焼肉を食べ始める。
「う゛、う゛ま゛い゛ぃぃぃぃぃ!!!!」
「あまりの美味さに涙が出るぜ…」
「むぐむぐむぐ…」
「美味すぎて美味杉謙信になっちゃうかもしれんなぁ」
「毘沙門天もむしゃむしゃ門天状態やろね」
「くふ…ッ!!!!
おい、食事中に笑わせにかかるなよ…!!!」
コメント欄
【コメント】:師匠の口と目から光出てそう
【コメント】:姐御、口調が姉御になってます!
【コメント】:ゆきを先生メインやのに食べるのに集中しすぎでは?
【コメント】:メロちとフィニキのアホみたいな会話すこ
【コメント】:生子ちゃん笑ってもうてるやんww
それぞれが思い思いのリアクションをしながら焼肉を堪能している間に、とうとう公式配信の時間がやってきたのだった。