バーチャル世界で斯くありたい   作:じょんらーふ

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こんな私でも、ライバーになれますか?

レイちゃんの咆哮から何とか立ち直った春夏冬さんはふらふらとした足取りでレイちゃんを追っていく。

私は会議室からこちらを窺っていた人たちに頭を下げてソファーへと腰を落とした。

面接にどれだけ時間がかかるのかわからないので、ただただ待つことになる。

スマホで動画を見るのもいいが、付き添いの人間がそんなことをしているのは見栄えが悪いだろうか、などと考えていると、スーツ姿の中年の男性が待合スペース横の自販機で飲み物を購入し、こちらに向かってくる。

 

「失礼、ここに座ってもいいかな?」

 

男性は私の目の前の席を指差す。

 

「どうぞ」

 

返答を聞き、男性はソファーに腰を下ろした。

 

「いいソファーだろう?

 これはうちの親会社である『LivingLife』社製のソファーでね

 ストレス軽減とリラックス効果を追求した逸品なんだ」

 

男性はソファーをポンポンと叩きながら微笑んだ。

 

「おっと、自己紹介を忘れていたね

 初めまして、私は株式会社リビングライブ代表取締役社長の服部君宏(はっとりきみひろ)

 気軽に服部くんと呼んでくれたまえ」

 

ハッハッハッと笑う服部くんこと服部君宏さん。

リビングライブの大ボスが何でこんなところに?!

と思ったが、本社だしそういうこともあるだろう、と納得することにした。

逸品のソファーもあることだしね。

 

「天原アナスタシアと申します

 本日はリビングライブ二期生オーディション最終審査を受けに来た妹の付き添いで参りました」

私は立ち上がってぺこりと一礼する。

さすがに大ボス相手に無礼な態度はできないので、いろいろと気を付けて応対することにしよう。

下手したら合格の決まったレイちゃんが不合格にされてしまう、なんてことがあるかもしれない。

これだから権力者ってやつは!

 

「今日のオーディションということは天原レイラちゃんだね!

 いやぁ、彼女が送ってくれた歌動画は社内でもすこぶる評価がよかったよ!」

 

「ありがとうございます

 妹が聞いたら喜ぶでしょう」

 

「うちのライバー達は歌が壊滅的でね

 音程が取れない、ロングトーンが続かない、活舌が悪い、リズムが取れない、強弱が激しすぎる

 だから、あの歌声を聞いた時は思わず涙してしまったよ」

 

リビングライブに所属するライバーは曲者揃いの精鋭集団だ。

皆何某かの尖った個性に得意とする分野がある。

しかしながら、歌唱の分野に関しては全員が何某かの欠点を抱えている。

 

「…だから、二次審査が免除になったのですか?」

 

「はっきりと言うならばそうだね

 彼女の歌には光るモノを感じたし、現在のリビングライブに足りないピースを持っている

 採用担当の立場からしても、経営者の立場からしても、現ライバーと似たり寄ったりの人材は必要とはしていない

 仲間内のキャラ被りはマク〇ナルドの両隣にロッ〇リアとモ〇バーガーが建っているようなものさ」

 

大変分かりやすい説明に私はなるほどなと頷いた。

だが、ちょっと待ってほしい。

チョコ菓子の両隣に同じチョコ菓子のキノコとタケノコを置いたらキャラ被りだろうか?

否!

断じて否である!

キャラ被りだと言おうものなら過激派によって粛清されてしまうだろう。

 

「それはそうと、先程の咆哮はすごかったね

 私は近くの会議室から見ていたんだがすごい高揚感を感じたよ」

 

服部さんの言葉に私は妄想世界から現実世界へと引き戻された。

 

「あれはヴァイキングのドラマを観た影響ですね

 ただ、あれだけ大声を出すとは思っていませんでしたので、御迷惑になっていないとよろしいのですが…」

 

そうは言ってみたが、普通に考えて迷惑だろう。

百人いたら百人が迷惑だと訴えるレベルの騒音。

犬が遠吠えするだけで迷惑だ何だと訴える現代人が、それの何倍もの声量で咆哮されて迷惑だと感じないはずがない。

むしろ、迷惑の段階で済むのかの問題だ。

ビックリしてそのまま心臓が止まってしまうことだってあるかもしれない。

そう考えると被害がなくてほっとしてしまう。

 

「いやいや、いいものを見せて貰ったんだ

 逆にお礼を言いたいぐらいさ」

 

ハッハッハッと高らかに笑う服部さんは101人目の人間だった。

物事に絶対はないと証明してくれる人生の先達に尊敬の念を抱く。

しかしながら、彼はリビングライブの大ボスなのだ、

ただの騒音モリモリ難聴系主人公の変態という可能性も捨てきれない。

人の入った電話ボックスを軽々と持ち上げて見せても私は驚かないね。

 

「君達はいつもあのような遊び─いや、遊びというのは失礼かもしれないね

 即興劇とでも言うのかな?

 うまい言い方が見つからないが、いつもあのようなことをしているのかい?」

 

「大阪人なら誰でもしているんじゃないですかね?

 兄弟や、友人が二人以上集まれば流れで始まりますし」

 

私の返答に大阪人のポテンシャルは化け物か、と苦笑いをされてしまった。

 

「実を言うと、オーディンの件の前から君達を観察させて貰っていてね

 お汁粉の件は思わず噴き出してしまったよ」

 

クククッと思い出し笑いをしつつ、肩を震わせる服部さん。

それにしてもいつの間に観察されていたのか。

どこかに隠しカメラでもあるんじゃないだろうか?

と、思ったが普通に監視カメラがあったわ。

 

「妹さんがオーディション中に言うのは何なんだが、彼女の合格はほぼ決まっている

 ほぼ、と言うのも人格が破綻してないか、性格に難はないか、等の可能性を考慮してのことだ

 君とのやり取りを見ていれば問題ないことは一目瞭然だったし、不合格の心配をする必要はないだろうね」

 

服部さんは小声でそう言ってサムズアップした。

 

「は、はぁ、そうですか…」

お、おぅ…。

いや、嬉しいけどさすがに喜び辛いわ。

 

「まぁ、そんな反応になるよね

 何故私がこの情報を教えたのか、理由を聞いてくれれば納得できると思う」

 

「…聞きましょう」

 

何か嫌な雰囲気を感じたが、聞かない訳にはいかないので話を聞く態勢に入った。

 

「君の妹、天原レイラちゃんはかなりの逸材だと我々は感じている

 今はまだダイヤの原石かもしれない

 だが、彼女の歌を聴いて、実際に姿を見て、楽しそうに喋る声を聞いて、彼女から光る何かを感じたんだ

 そしてそれは、君とのやりとりで更に輝きを増した!」

 

段々とテンションが上がって来たらしく、服部さんはまるでミュージカル俳優のように大げさに腕を広げた。

 

「これは非常に素晴らしいことだ!

 アナスタシアさん、君が一緒だとレイラちゃんはもっと輝ける

 そして、君もレイラちゃんと共に輝きを増す

 レイラちゃんだけじゃない

 今いるライバーにも、今回募集した二期生にも、これから増えるであろう後輩達にも、君がいることで輝きを増す者がいるはずだ

 私は、君の中にも光る何かを感じている」

 

彼が何を言いたいのか察しがついた。

ついてしまった。

 

「だから、私は君をリビングライブ二期生のスカウト枠で採用したいんだ」

 

服部さんの真剣な眼差しに射すくめられ、思わず下を向いて視線を外した。

こんな展開は予想していなかった。

だって、私はオーディションの募集にすら参加していない一般人だ。

ライバーとして活動する覚悟も何もない。

そんな人間が共に高みを目指す人たちの中に入っていいはずがない。

断らなければ―

 

「天原アナスタシアさん

 リビングライブは、君が欲しい!」

 

まるで告白のようなセリフ。

そんなセリフに私の心が反応してしまった。

その真剣で嘘偽りのない言葉に心が動いてしまった。

レイちゃんとなら、仲間になる者達となら、共に歩いてもいいのかもしれない

夢を見てもいいのかもしれない。

そう、思ってしまうほどに―

 

「私は…私は、ライバーとしての…覚悟がありません」

 

声が震えて喋りづらい―

 

「何をしたらいいかわからないし、進むべき道もわからない」

 

だが、言わなけれなならない―

 

「そんな人間がリビングライブに入っていい訳がないと思ったんです」

 

応えなくてはならない―

 

「でも…服部さんの言葉は、私の心に届きました

 断らなきゃいけないって、そう思ったのに、心が動かされた」

 

頑張りを見せなければいけない―

 

「こんな私でも、一緒に歩みたい

 こんな私でも、一緒に夢を見たい

 そう、思ってしまいました」

 

共に立つために、下手なプライドは捨てて顔を上げなければいけない―

 

「こんな私でも、ライバーになれますか?」

 

「なれるさ」

 

服部さんは私の言葉に間を置くことなく言ってのけた。

 

「ライバーってのは皆我が儘なんだ

 だって自分のやりたいことをやって楽しんでる連中なんだぜ?

 やりたいことは全力でやって、やりたくないことはやらない

 だから、結局は自分がどうしたいのかが重要なんだ」

 

服部さんは親指で自分の胸を指す。

 

「自分の心に正直に生きればいい

 ライバーになりたいならなるべきだ

 言っておくが、こんなチャンスはもう二度とないと思うぞ」

 

そう言って服部さんはニカッと笑った。

そうだ、こんなチャンスは二度とないかもしれない。

だったら掴むしかない。

やってやれ、天原アナスタシア!

弱気になるな!

気合を入れろ!

漢を見せてやれ!

 

「服部さん、スカウトの話、受けさせてください!」

 

私はそう言って深く頭を下げた。

 

「フッ、よかろう!

 天原アナスタシアさん、君をリビングライブ二期生スカウト枠で採用とする!

 これから姉妹共々頑張ってくれたまえ!」

 

「はい!

 ありがとうございます、服部さん!

 しかし、服部さん!

 あいや、服部さん!」

 

喜びを噛み殺し、感謝を伝えようと再び頭を下げようとした私は聞き捨てならない言葉を耳にして服部さんに詰め寄った。

 

「ちょちょちょ、どうしたんだい、アナスタシアさん」

 

服部さんは私の身体に触れないように両手で離れてくれとジェスチャーをしつつ距離をとる。

この対応で確信した。

 

「何か勘違いされているようですが、私は女ではなく男です

 姉妹共々ではなく、兄妹共々ですね」

 

「お、男ォォォォォッ?!?!?!?!?!」

 

今日二番目の大きさの絶叫がビル内を駆け抜けた。

 

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