バーチャル世界で斯くありたい   作:じょんらーふ

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全ては運命だ

私、天原アナスタシアは男である。

何故男なのに女の名前なのか、と言う言葉はこれまでに何百回と聞いてきた。

 

「アナスタシアが男の名前で何が悪い!」

 

と、某ニュータイプの様に質問者を修正したりはしない。

私がアナスタシアと名付けられたのには複雑な事情がある。

 

まず第一に、私は日本人の父とロシア人の母との間に生まれたハーフである。

私が母のお腹の中にいた時に撮ったエコー写真では、私の男である事を象徴するモノが見られなかった。

実際に私も見たが、ついていなかった。

私が女の子であると喜んだ両親達は生まれてくる私の名前を考え始めた。

いくつかの候補の中から、母方の祖父が考えた『アナスタシア』の名が授けられることとなった。

しかしながら、生まれてきたのが男であったから両親達は大層驚いたそうだ。

そして、名前をどうするかの話になる。

それを両断したのが私の名付け親の祖父であった。

 

祖父曰く、『全ては運命だ』、とのことだ。

 

私は男に生まれ、アナスタシアと名付けられる運命だったのだ、と祖父が話してくれたことがある。

 

アナスタシアと名付けられた私はすくすくと育った。

この名前をからかわれたらすることはあったが、私が気にすることはなかった。

私がアナスタシアという名前を気に入っていたこともあるが、私の兄弟皆が母親似の美形であったことも起因するだろう。

私も兄も母の遺伝子が強すぎたのか、どう見ても女の子にしか見えなかった。

成長と共に訪れる声変わりや、身体がゴツくなるということも一切なかった。

 

心は男だろうが、見た目は美少女なのだ。

ファッションも自然と女性物(スカート以外)を着るようになったし、髪も伸ばした。

それは大人になった今もそうだし、現在はミディアムロングを意識して髪の長さを保っている。

鏡で自分を見ても美しい女性だと思うし、他人から見ても美しい女性だと思われているはずだ。

出歩けば周りから視線を感じるし、通り過ぎる時に振り返る人もいる。

決して勘違いや傲慢ではない…はずだ。

だから、女に間違えられるのも当然だと思っている。

お前が悪いのではない、見た目美少女である私が悪いのだ。

 

 

「と、言うことですので、そろそろ頭を上げていただけますか?」

 

私の前に跪く様に、それはそれは綺麗に土下座を決める服部さん。

いい歳した大人が見た目美少女に土下座しているのだ。

傍から見ればどう映るだろうこの状況。

 

「いや、本当に済まなかった!

 まさか、君が女の子ではなく男の子だったとは…!」

 

ゴンッ!ゴンッ!と、廊下に頭を打ちつける音が響く。

 

「間違えられるのはいつものことなんで

 ほら、誰かに見られる前に立ってくださいよ」

 

私は服部さんの手を取って無理やり立ち上がらせた。

誰かに見られる前にとは言ったが、ここには監視カメラがあるので既に誰かに見られている可能性もある。

この映像をネタに強請られて、服部さんが薄い本みたいな展開になってしまうかもしれない。

 

「…いや、それもアリでは?」

 

「それはナシの方向でお願いしてほしいところだね」

 

妄想が口に出ていたらしく、服部さんは苦笑いしながら私にツッコミを入れる。

おっと、就職先の偉い人相手に早速やらかしてしまったぞ。

これは解雇最速RTAあるかもしれんね。

 

「心配しなくとも、我がリビングライブにそのような邪な考えを持つ者はいないさ」

 

信頼しているからね、と服部さんは私の肩を叩きながらそう答えた。

どうやら解雇最速RTAは更新されなかったみたいだ。

 

「そういう訳で、今回のことで君が気にすることはなにもない訳だ」

 

「まぁ、実際私は何もしてな―あ、いえ、気にしないことにします」

 

私の返答に苦笑いしながらも納得した様子の服部さんの視線がふと、壁にかけられていた時計に動いた。

私も釣られて時計に視線を動かす。

レイちゃんがヴァイキング化してから20分ほど時間が経っていたようだ。

 

「おっと、すまない

 もっと楽しくお喋りしていたいんだが、生憎予定が詰まっていてね

 名残惜しいが失礼させてもらうよ」

 

そう言って待合スペースを後にしようとする服部さん。

ふと、私は服部さんに聞かなければいけないことを思い出した。

 

「あ、服部さん!

 いえ、服部社長?

 服部代表取締役社長?」

 

「好きに呼んでくれたまえ」

 

「では、服部社長

 最後に聞いておかなきゃいけないことがあるんです」

 

「ふむ、何だろうか?」

 

服部社長は歩みを止めて私に向き直った。

もしもの展開が頭に浮かび、身体が強張る。

ゆっくりと、深呼吸して呼吸を整える。

 

「…男の私でもいいんですか?」

 

私の問いに服部社長は困惑の表情を浮かべている。

何のことを言っているのかが分かっていなかったらしく、少し逡巡した後にああ成程、と呟いた。

 

「アナスタシアさん、私が、リビングライブが欲したのは君自身だ

 男だとか女だとかは関係ない」

 

服部さんはそう言いながらこちらに近寄って真剣な眼で私の瞳を見つめた。

 

「君のお祖父さんの言葉を借りよう

 全ては運命だ」

 

バンバンッと私の両肩を叩き、服部さんは去っていった。

 

少し広い待合スペースに一人になった私は、力なくソファーへと腰を落とし、そのまま横に倒れ込む。

 

 

柔らかな感触が身体を包み込み、私の意識を刈り取っていく―

 

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