レイちゃんと合流して少しした後、採用担当の春夏冬さんが待合スペースに現れた。
いや、正確には違った。
春夏冬さんは待合スペースに戻るレイちゃんのすぐ後に続いていたらしい。
レイちゃんとのあのやり取りをばっちりと見られていたらしく、「見せてもらいましょう、天原レイラの往く道を」、などと言われてしまう始末。
レイちゃんが恥ずか死してソファーに突っ伏している間に春夏冬さんの要件を聞いた。
要約すると、私たち二人のデビューに際して今後の相談と契約書の作成を行うというものだった。
私はレイちゃんを米俵のように肩に担ぎ、春夏冬さん追って会議室の内の一室へと向かった。
会議室の中には私達の他に四人の男女が円卓に配置された高級感漂うオフィスチェアに座っていた。
私たちの入室に気づいた四人がこちらに視線を向けた。
「お待たせしました
こちらの二名が先程お話した天原レイラさんと天原アナスタシアさんです」
春夏冬さんの紹介に慌ててレイちゃんを肩から降ろす。
米俵です、と紹介されなくてよかったとほっと胸をなでおろした。
「ご紹介に預かりました、天原レイラです!
この度リビングライブ二期生としてデビューさせていただきます!
よろしくお願いします!」
レイラちゃんは元気一杯に、勢いよくお辞儀をする。
あまりの勢いに一回転してしまうのではないかと思ったほどだ。
「レイラの兄の天原アナスタシアです
先程服部代表取締役社長にスカウトされて二期生としてデビューすることとなりました
妹共々よろしくお願い致します」
私もお辞儀をするが、レイちゃんほど勢いのあるものではない。
淑女たるもの優雅さを心がけるのだ。
まぁ、男なんですけどね。
「ようこそ円卓会議へ
僕達も自己紹介したいのですが、立ち話も何でしょう
ささ、好きな場所にお座りください」
四人の内の一人である恰幅のいい中年の男性が手で席を案内する。
私達は失礼しますと言って空いている席についた。
それを見届けた後に春夏冬さんも席につく。
「では、自己紹介させていただこうかな
僕は株式会社リビングライブ、クリエイティブ部兼ライバービジュアルデザイン部総括部長の
『リビングライブのイチロー』とは私のことさ!」
先程席を案内してくれた恰幅のいい中年の男性―リビングライフのイチローこと望月一郎さんが右手の親指で自分を差しながら白い歯を見せてウィンクする。
自分の声でキラリン、と効果音をつけており、年齢なんて関係ねぇといった具合のお茶目さを発揮していた。
「次は私ね
初めまして、私は株式会社リビングライブ、営業部総括部長の
主にあなた達の売り出し方についての方向性やグッズ販売などでお世話になるかしらね」
赤ぶち眼鏡をかけ、長髪をアップで纏めたThe・秘書風の女性―長尾綾乃さんが軽く手を振りながら微笑んだ。
一見クールっぽい感じがするが、彼女の目の前に置かれている手帳やペンなどにはファンシーなキャラクターが描かれており、可愛いもの好きなのが垣間見える。
レイちゃんがそのキャラクターに興味を示すと、後で教えてあげるわね、と照れながらそう答えた。
「続きましてでごめんなさいね
私は株式会社リビングライブ、広報部兼企画部総括部長の
よろしくお願い致しますね」
ミディアムな長さの金髪に切れ長の瞳をした見た目ヤンキーな女性―信濃川加奈枝さんが物腰柔らかに微笑んだ。
見た目と喋り方のギャップがすごいですね、とレイちゃんが驚いていると、貴女のお兄さんほどのギャップはないわよ、と笑顔で言われてしまった。
間違いなく怒らせたら怖い人だ。
「最後はオレだぁッ!
オレは株式会社リビングライブ、法務部ライバー担当法務部長の
ライバー間のトラブルや炎上した時はオレの部署が対応するからよろしくなッ!」
見た目普通のサラリーマンなのに、テンションがバカ高い男性―榊原十兵衛さんが両手サムズアップで満面の笑みを見せた。
法律関係以外の相談にも乗ってくれるらしく、何かと頼りになりそうな人だ。
後で電話番号を聞いておこう。
「榊原部長が最後と仰いましたが、改めて私も自己紹介するわね
私は株式会社リビングライブ、マネージメント部総括部長の春夏冬美空よ
あなた達ライバーの担当マネージャーのまとめ役と、この四人とのパイプ役になるわね」
改めて自己紹介する春夏冬さんだが、役職を聞くのは初耳だった。
私達の担当マネージャーがどんな人なのか尋ねてみたが、まだ決まってないとのことだった。
皆の自己紹介を終えて、ようやく本題へと入っていく。
この場で決めたのは、私達のアバターの外見、名前、設定。
そして、リビングライブに所属するための契約書の作成。
レイちゃんの契約書は両親の同意がいるので持ち帰ってからの郵送となる。
一通り話し合いを終えて、最後に今後の情報を皆で共有する。
私達のデビューとなるお披露目配信は7月最初の日曜日、ここリビングライブ本社の配信スタジオで行われるらしい。
時間はあと一ヶ月ちょっとあるが、逆に言うとそれだけしかない。
それまでに引っ越しの準備などいろいろと済ませないといけないことが多くて大変だが、リビングライブに所属する方々、特にお披露目配信に関わる方々の方が大変だろう。
レイちゃん用のアバターは大まかに作成されていたが、私は今日スカウトされたため何も用意できていない。
今から一ヶ月ちょっとで何とかなるのかと心配になったが、ここに集まった部長クラスの方々からはやる気がみなぎっていた。
特にライバービジュアルデザイン部総括部長の立場にある望月部長の目は激しく燃えていたように見える。
早速作業に取り掛かるぞ、と春夏冬さん以外の部長達が疾きこと風の如しと会議室を出て行った。
春夏冬さんは外にタクシーを呼んであるけれど、ライバーだとばれてはいけないので外までは見送りできなくてごめんなさい、と申し訳なさそうに私たちを見送ってくれた。
エレベータを降りてビルの外に出ると、青空はいつの間にか赤く染まっていた。
腕時計を見ると午後5時半を過ぎた辺りであり、仕事を終えたであろう企業戦士たちが各々に歩みを進めている。
レイちゃんはオーディションを合格し、私はスカウトされたが、まだデビューした訳ではない。
実感が薄いとでもいうのか、いまいちテンションが上がらない。
レイちゃんも会議の前まではテンションが高かったが今は静かなものだ。
よく見ると眠そうに目を細めている。
二人ともかなり疲れているのだろう。
オーディションの後に少し観光しようと計画していたが、今日はもうホテルに戻ってゆっくり休もう。
お祝いはまた明日でいいや。
そう心に決め、ビルの前に停車していたタクシーに乗ってリビングライブ本社を後にした。