つい書きたくなってやりました。
後悔はしてません。
時が止まればいいと思っていた。
強さの最盛期である今のこの瞬間が永遠に続けばいいと…そう思っていた。
怖かった。
強大な存在が現れた時、自らの肉体が衰えていたらと…そう思うと怖くてたまらなかった。
その思いは日に日に強くなっていく一方だった。
『あんたが年を取ればあたしも年をとる…それでいいじゃないか。』
…そう思っていた俺の心は、お前のその言葉に
救われた。
俺には多くの恵まれた弟子達がいる。
その弟子達に囲まれ余生を過ごす。
そのような未来も悪くはないのかもしれない。
それに、切磋琢磨する格闘仲間もいる。
…何より幻海…お前がいる。
『そう…だな…そうかもしれないな。』
『まったく…バカなこと言ってんじゃないよ。』
『…すまない。』
本当に…世話ばかりかけちまうな。
そんなことを言えば、今に始まったことじゃないだろうとお前は言うのだろうが…
これからも俺の隣にいてくれ。
…そんな言葉が頭をよぎったが言える
はずもない。
そうだ。これでいい。
今のこのままで。
そんな日々は…脆くも崩れ去ることになる…
ある一匹の
これは…夢なのか?
だとしたらなんて悪夢だろうか。
どんな人間にも━━どんな妖怪にも負けないという自負があった。
だからこそ、人一倍『老い』というものを恐れた。『衰え』というものを恐れた。
それなのに何故、俺は今床に這いつくばっている?
「何故…?」
今が強さの最盛期のはずだ。
どんな人間も、どんな妖怪も打ち倒してきたはずだ。
俺よりも強い存在などいるはずはないのだ。
では何故━━?
目の前の怪物の前に俺は倒れ伏している?
駆けつけた時には弟子達はすべて殺されていた。
たった一匹の怪物に。
そして、その怪物は親友とも呼ぶべき格闘仲間を
俺の目の前で喰らった。
…人間も妖怪も殺したことはなかった。
が、この時初めて心の底から殺意を抱いた。
こいつを殺し、友の無念を晴らす。
━━はずだった。
それなのに━━何故?
「グフフ…教えてやろうか?」
目の前の怪物が囁く。
醜悪な外見をしたその怪物…噂には聞いたことがあった。『
残虐で凶暴で━━何よりも強大な存在であること。
恐らくはこいつがその潰煉という妖怪。
「それはお前が無力だからだ。」
潰煉は告げる。
弟子を喰いながら、まるで幼子にものを
諭すかのように。
「俺が…無力…」
「そうだ。」
「あぁ…」
出てきたのは自分のものとは思えないほどの
情けなく、弱々しい声。
やめてくれ。
頼む。
これ以上何も奪わないでくれ。
「だから、目の前で弟子達が喰われていても何もできんのだ。」
追い討ちをかけるかのように。
「 オマエハ無力ダ。 」
…無力…
オレハ…無力…
オレハ…無力ダ…
喰われていく弟子達を前にただ見ていることしかできない無力な存在。
もはや、立つことすらかなわない。
「…殺せ。」
もうどうでも良かった。
弟子も矜持も…何もかも奪われた今の俺に何の
価値があるというのか。
「そうするのはカンタンだが…それではつまらんだろう?オマエに良いことを教えてやろう。」
潰煉は語りだす。
三ヶ月後にある場所で武術会なるものが開かれること。
優勝した者はどんな望みも叶うということ。
俺をその武術会にゲストとして招待しにここへ来たということ。
「どうだ?悪い話ではなかろう?死んだお前の弟子達も生き返るかもしれんぞ?グハハハハ!!」
そう言い、心底愉快げに下卑た嗤い声をあげる。
そして、自らも出場すること。
そのためには仲間が必要であることを告げた。
「せいぜい強くなることだ…俺を殺せるぐらいにな。」
そう言い残して悪魔は去っていった。
残ったものは弟子達の肉片と血の臭い。
…意識が薄れていく。
悪夢ならば…悪夢ならば早く覚めてくれ。
願わくば━━目覚めた時にはいつもと変わらぬ
日常があってくれ。
…しかし、それももはや叶わぬ夢。
すまない、弟子達よ。
すまない…幻海。
無力な俺を…許してくれ。