題名からもわかる通り、知っている人は知っているあの男の話です。
あれはいつのことだったか──
俺に戦いを挑んできた、とある一人の男がいた。
今まで数多くの敵と戦ってきたが、記憶に残っている戦いというのは少ない。その中でもソイツは
その男は強い妖戦士田中と名乗った。
名前に関してはツッコんだら負けだと思った。
…詳しい説明は省くが、原作を読んだ者ならば
きっと聞いたことのある名前だろう…たぶん。
これは無謀にも俺に勝負を挑んだ…強い妖戦士
田中の話である。
いや、勝負を挑んだというのも甚だ疑問ではあるが…
「戸愚呂だな?」
「あぁ、そうだが。」
見た目は若い男だった。
何をしに来たのか、何の用があってきたのかは
一目瞭然だった。
「おっと、自己紹介が遅れたな…オレの名は…」
ちょっと待て?コイツまさか…
「強い妖戦士田中だ!」
…あぁ、まだ
今目の前にいる男、後に暗黒武術会に出場するで
あろう
ここでの説明は割愛するが、とりあえずコイツは
全国の田中さんと鈴木さんに謝ったほうがいい。
「早い話が勝負を挑みにきたってことでいいかね?」
「察しがいいな。その通りだ!」
そりゃあ、それだけ妖気を放っていればね。
妖気といっても微弱なものだが。
「しかし、どれほどのものかと思ったが拍子抜けだな。今のキサマからはまったくといっていいほど妖気を感じん。」
「…………」
「ふっ…声も出ないか。まぁ、無理もない…今お前は自らの不運を呪っているのだろう。このオレが
お前の目の前に現れてしまった不運をな!」
…何を言ってんだコイツは。
「といっても、このオレに敗北することは恥ではない!」
いや、恥だよ。
一生の恥。
人生最大の汚点だよ。
墓の中まで持っていくレベルの。
「お前を倒すことでオレの名はさらに轟く!この強い妖戦士田中の伝説の一部となってもらおうか!」
いい加減吹き出しそうになるからやめろ。
「哀れだねェ…」
「…何だと?」
「その伝説とやらも今日で終わりかと思うと、不憫でならないよ…」
「なるほど…負けるつもりは毛頭ないということか。」
「ないね。実力の違いもわからない愚か者に負けるなんてのは、たとえ天地がひっくり返ってもありえないことだ。」
「ほざけ!減らず口を叩くのはこれを見てからにしろ!」
減らず口とかお前が言うなって話なんだが…
とにもかくにも何が怒りに触れたのか強い妖戦士田中は…もう普通に田中でいいや…田中は妖気を解放し始めた。
「はははは!どうだ!?あまりの恐怖に声も出まい!」
確かに声も出ない。
…あまりの弱さに。
弱すぎる。
よくこれで勝負を挑んできたものだと感心する。
「悪いことは言わない、早く帰れと言いたいところだが…素直に聞くようなタマじゃないよねェ…アンタも。」
「心配するな、命までは取らん。お前はただオレの伝説を広めてくれればそれでいい。」
「はぁ…仕方ないねェ。」
コイツと話をしていると頭が痛くなる。
いい加減黙らせようか。
渋々ながらも上着を脱ぎ捨てる。
「ようやく戦闘態勢か。」
「
「この期に及んでま…だ…!?」
「はあぁぁ!!」
「は…!?」
コイツ相手じゃ30%でも勿体ないぐらいだな。
獅子は兎を狩るにも全力を尽くすとよく言われているが、俺には真似できそうにもない。
「なんだ!?なんなんだこれは!?こ、このとてつもない妖気は…」
とてつもない妖気?
「やれやれ、これでもまだ30%といったところなんだが…」
「さ…さんじゅっぱーせんと…!?」
だが、この男の戦意をへし折るには十分だったようだ。
「…あ、あ…」
「さて…」
「あ…あひっ…!ま、待ってくれ!助けてくれ!い、命だけは…頼む!」
うわぁ…土下座しやがったよコイツ…
その速度たるや、俺が目で追えないレベルだった。
やっぱり命乞いはするんだな。
しかし、運がいい。
兄者がこの場にいたら確実に死んでいただろう。
「見苦しいことこの上ないねェ…戦士としてのプライドはどこかに置いてきちまったのかね?」
「………!」
「ヘタレマッドピエロに改名したほうがいいんじゃないかね?」
お似合いだ。
いや、マッドピエロはダメだ。
あれは名曲だからな。
…でもこの男はまだ本当の意味では折れては
いないんだよな。
後にチームを率いて武術会に参加していることからもわかるとおり…まぁ、幻海にボコボコにされるわけだけど…
「お前の中にもまだ可能性は残っている。」
「…なに?」
「もしかしたら、俺を越える日が来るかもしれん。」
「ふっ…何をバカな…」
「せいぜい頑張ることだね。その伝説とやらが本物になる日を楽しみにしているよ。」
「…完敗だ。だが、待っていろ戸愚呂。いつの日か必ずお前の足元を掬ってやる!」
やはり、命を奪わないで正解だった。
腐らず頑張れば大抵のことは何とかなる。
遠い昔に誰かに言われた言葉がふと頭をよぎった。
ちなみに彼は後に武道家として大成します。
…するはずです。