とある山奥の豪邸とも呼べる大きな建物。
その一室の中に一人の少女がいた。
見た目は人間の少女と何ら遜色はない…のだが
目の前の彼女はれっきとした妖怪である。
本来は氷河の国と呼ばれる場所で静かに暮らしているはずであり、人間界にいることはないのだが…
「やぁ…初めまして。」
「……………」
応答はない。
それどころかこちらと目を合わせようともしない。
最初の挨拶はどうやら失敗してしまったようだ。
何も映してはいない瞳。
文字通り、氷のような冷徹な瞳が印象的だった。
軽く頬を叩いてみるがまったくといっていいほど
表情は変わらない。
「無駄じゃ…痛みに関することはここ数年やりつくしておる。」
サラッととんでもないことを言ったのは
彼女をここへ閉じ込めた張本人である。
簡単に紹介すると悪どい商売をいっぱいしてきた
ものすごーく悪い人。一言で言うとドがつくほどの外道。
「酷いことをするもんですなァ…。」
「ふん、化け物などに同情するだけ無駄なことじゃよ。」
俺から言わせれば、お前さんのほうがよっぽどの
化け物なんだがね。
「あなた達に従う気はありません…出ていってください…」
氷女の少女、雪菜がここに来て初めて言葉を発した。威圧的な口調。やっぱり嫌われてるな。
「どうやらお遊び相手が来たみたいだねェ…」
「…あっ!」
間の悪いことにこの場には似つかわしくない数羽のかわいらしい小鳥がパタパタと羽音をたててやって来た。
「きちゃダメ!!」
氷女の必死の制止もむなしく、何も知らぬ小鳥達はあっという間に兄者の手中へとおさまった。
「ひひひひ…」
「兄者、殺すなよ。」
「お願い!やめて!」
「…さて、お嬢ちゃん。ここで一つ問題だ…この小鳥達を無傷で解放してやる方法が一つだけある。何だかわかるかね…?」
「…言う通りにします…だから…お願い…その子達を放して…」
彼女の大粒の涙が形となり、床へと転がった。
氷女という種族はその身から美しい宝石を生み出すことができる。
宝石とは氷女の涙のこと。
その宝石は
取引されるほどの価値がある。
そして、それこそが彼女が囚われている最大の理由でもある。
俺はそんな彼女に涙を流させるために、垂金権造の所有するこの別荘へとやって来ていた。
「兄者、放してやれ。」
「ちっ…」
ちなみに小鳥は解放してやった。
動物は大切にしないとね。
それにしても、あれが氷泪石。
魔性の石とでも呼ぶべきか…輝くそれは吸い込まれそうな光を放っていた。
「ひひ!ひひひひ!出た!出たぞい!またこれで大金が転がり込むわ!」
それが汚い
「さぁ競売の電話じゃ!」
人間の皮を被った悪魔だな…あれは。
と、そんなヤツに加担している俺も人のことは言えないか…悪く思わんでくれよ、雪菜さん。
「…泣ける映画でも流せればいいんだが…あの男にそんな配慮はないだろうし…ま、かわいい小鳥さん達のためにもいつでも泣けるように練習はしておくんだね。」
泣き続ける彼女を尻目に部屋を立ち去る。
…氷泪石はまだ落ちていたが、無視した。
「何…?侵入者じゃと?」
上機嫌だった垂金の顔が歪む。
侵入者…まさかここまで自分の思い通りに事が運ぶとは…もはや笑えてくる。
頭の中で何度も思い描いていたことが現実になりつつある。
賊は間違いなく
だとすると、外に警備についてる部下では荷が重すぎるか…まいったな…彼らにも相応の愛着はあったんだが…全員やられちまうだろうな…
悲しいが、それよりも今の俺は身の内から溢れ出る歓喜を抑えるのに必死だった。
「やはり来たか…!」
ここまで来たからには、きっちり俺の元までたどり着いてくれよ?
誤字があったらすみません。
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