冥獄界へは逝きたくない   作:TAKACHANKUN

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暗黒武術会

 

「ひひひひひひひひ!」

 

先ほどまでの激闘がまるでウソのような静寂の中

一人の男が狂ったかのような笑い声をあげている。

 

「破滅じゃ!破滅じゃあ!」

 

いや、狂ったかのようなではなく実際に狂って

しまったのだろう。

 

何故ならば全てを失ってしまったから。

 

 

これまで築き上げてきた財産も氷泪石も…

何もかも。

 

 

「雪菜はどこに行ったのじゃ!?お前の氷泪石さえ

あれば金はいくらでも湧いてくるのじゃあ!!」

 

もうダメですねこれ…カンペキにイカれてますわ。

雪菜もとっくの昔に救い出されたっていうのに…

 

「破産じゃあ!破滅じゃあ!うひひひひひ!」

 

彼の名は垂金権造。

一世一代の大博打に負けたばかりの愚か者である。

負け額はなんと…日本の国家予算よりも上!

ギャンブルでスッたとかいうレベルじゃないねェ…

 

 

「ふぅ…よっこらしょっと…」

 

 

どうも、大戦犯こと戸愚呂(弟)です。

 

人間だった頃は、え?こっちが弟?とよく言われたことがあったとかなかったとか…。

 

 

 

『──御苦労、戸愚呂兄弟』

 

 

 

「あぁ、左京さん…良いタイミングだ。」

 

モニター越しに左京の姿が映し出された。

相変わらず常時ドヤ顔だなアンタは。

 

『随分と楽しそうだったじゃないか…君の新たな

一面が発見できた気がするよ。』

 

 

()()()だったでしょう?」

 

 

『あぁ…賞を与えたいぐらいだ。』

 

 

「ひひひひひひひ!もう終わりじゃあ!」

 

こちらのやり取りも最早目に入っていないのか

垂金は変わらず笑い続けていた。

 

 

不憫だねェ…()()()()()()()()()()だったっていうのに…全ては左京(悪魔)台本(シナリオ)通りだということにも

気づかずに…哀れな男だ。

 

確かに俺は垂金権造の依頼を受け、垂金邸へと向かった。だが、それよりも前に別の依頼主からこんな依頼も受けている。

 

垂金権造を潰すことに協力してくれ──と

依頼主は他でもない左京本人である。

 

そもそも、雪菜という少女は垂金が左京の売買ルートから勝手に横流しした商品(もの)

 

その制裁に一役買うのが今回の俺の本当の目的だったわけで…彼らと俺のバトル(賭け)もいわば出来レースだったというわけだ。

 

「しかし、こうもうまく事が運ぶとはねェ…」

 

垂金が俺を雇うこともそうだが、彼ら二人組が今日このタイミングでこの屋敷へ来ることも彼の読み通りだったのか…一体どこまでが左京の台本(シナリオ)なのか…

 

「神に愛されているってヤツですか…」

 

『ふ、戸愚呂…私は神などという存在は信じては

いないさ…』

 

だろうね。

祈ったこととかもなさそうだし。

信ずるものは自分自身だとか言いそうだもの

コイツ。

 

「それはそうと、あの二人…浦飯、桑原と言ったかな…アンタの言う()()()()に招待するつもりですか?」

 

『くっくっく…その通りだ…彼らにはゲストとしてあの大会に参加してもらう。』

 

「…楽しみだねェ。やはり、アンタといると退屈しない…俺一人じゃあ大会なんて大規模なものは開けないしね…」

 

『大会は2ヶ月後…()()()()にも声をかけておいてくれ…それと、上にいる垂金(ゴミ)の始末も頼んだぞ…

くれぐれも足元を掬われんようにな…戸愚呂』

 

その言葉を最後に映像は途切れた。

 

「ひひ、ひひひひひ…!」

 

さて、皆さんお待ちかね…

ゴミの後始末といきましょうか…

 

「良いザマだねェ…垂金さん。」

 

「ひひひひひ!戸愚呂ォ!お前のせいじゃぞォ!

お前が負けたせいでワシは破滅じゃあ!ひひひひひひひ…」

 

渾身の右ストレートでぶっとばしてやるよ

 

「せーの…」

 

「ひ」

 

頭の潰れる感触は今までで最もイヤなものだった。

 

 

 

 

「さて、もう出てきてもいいぞ…お前たち。」

 

「…申し訳ありません…戸愚呂様。」

 

出てきたのは三鬼衆。

ボロボロではあるが全員無事だったようだ。

魅由鬼が膝を着き、謝罪の意を示す。

 

「お前たちには今回のことを黙っていてすまなかったね…おかげで多大な犠牲を払っちまった…」

 

「いえ…我々が不覚をとったのは事実…まことに

恥じ入るばかり…」

 

「我等、どのような罰も受ける覚悟でございます!」

 

続けて隠魔鬼がそう切り出す。

 

お前ら気負いすぎ。

そこまでやらなくてもいいよ。

 

「お前たちは良く戦ってくれた…罰など受ける必要はない…」

 

「と、戸愚呂さまぁ…」

 

獄門鬼は泣いていた。

 

「代わりと言っちゃあ何だが一つ頼まれては

くれないかね?」

 

「はっ!何なりと…」

 

「とある人物のもとへ向かってもらいたいんだが…」

 

「…と言いますと?」

 

 

「霊光波動の幻海…と言えばわかるかね?」

 

 

「幻海…あの高名な…」

 

「…戸愚呂が暗黒武術会へ招待すると言っていた…と言えば、話は通じるだろう。」

 

「…わかりました。では、すぐに…」

 

 

 

 

「幻海か…懐かしいな…」

 

そう呟いたのは兄者…お前いたのかよ。

全然気づかなかった。

 

「あぁ…」

 

「断るに決まっているだろう?」

 

「断れんさ…あいつは…」

 

「まだ、あいつに未練があるのか?」

 

「余計な話はするな…それよりも兄者はヤツらに

声をかけておいてくれ。」

 

「鴉と武威か…わかった、任せろ。」

 

 

いよいよ近づいてきた…

闇の大会…暗黒武術会が。

 

さて、俺も主役(ゲスト)を招待しに行くとしようか。


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