冥獄界へは逝きたくない   作:TAKACHANKUN

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起きたらマッチョになっていた

 

戸愚呂(弟)というキャラクターについて、どんなイメージを持っているだろうか?

 

この戸愚呂(弟)というのは幽☆遊☆白書という

作品内に出てくるキャラクターの一人である。

 

一言で言うならぱ角刈りのグラサンマッチョ。

 

俺はこの戸愚呂(弟)というキャラクターが作品内で一番好きであった。

 

秀逸な台詞回し。

筋肉操作という能力で己の身一つで戦うという

わかりやすい戦闘スタイル。

他にも色々あるが、そのどれもが魅力的であった。

 

この男に俺は子供ながらに憧れたものだ。

 

意味もなくグラサンをかけたり、彼が作中で

発した台詞をよく真似て言ったりもした。

 

今で言うとすんごい黒歴史だが…

とにかく憧れた。

 

憧れたのだが…

 

 

 

「…これは、少し違うんじゃあないのかねェ…」

 

あ、今のはちょっと戸愚呂っぽかった。

 

って、そうじゃなくて…

 

起きたら、その憧れの男になっているだなんて

誰が思うよ?

 

そう…

 

 

 

起きたら俺は戸愚呂(弟)になっていたのだ。

 

 

 

いや、確かによ?

憧れたよ?

でも、まさか本人になっちゃうだなんてさぁ…

なんか複雑っていうか…

 

これってよくある異世界転生とかいうやつ?

いや、転生というよりかは憑依したといったほうが正しいのか…

 

目覚める前、所謂前世のことはよく覚えている。

車に轢かれてしまったんだ。

主人公(浦飯 幽助)みたいに子供を助けたとかじゃなく単なる不注意だったけど。痛みはなく、ゆっくりと意識が沈み込んでいくような感覚。それが覚えている最期の瞬間。

 

そのまま俺は死んだのだろう。

そして、どういうわけかこの筋骨隆々のグラサンマッチョに転生してしまったと。

 

そもそも何故自分を戸愚呂と認識することができたのかというと…本人の記憶が頭の中に流れ込んできたからだ。

 

今までの記憶という記憶が…そう…戸愚呂は…

俺は…

 

 

 

全てを失ってしまった。

 

 

 

誰よりも強いという自負も…弟子も…仲間も…

 

潰煉という妖怪に喰い尽くされた。

 

 

…時系列では潰煉に完膚なきまでにやられた直後。つまりは本編が始まる50年前ってわけだ。

 

いやぁ…エグいことするねェ…このシナリオを用意した神サマとやらも。何もこんなタイミングに放り込まなくとも…

 

 

「目が覚めたか。」

 

「あ…!?」

 

あ、兄者…兄者!?

…兄者じゃないか!!

 

現れたのは小柄な男。

戸愚呂の…俺の兄者である。

マジか…リアル兄者だ。

ちょっと感動した。

 

 

『オレは品性まで売った覚えはない』

 

と、原作では自らの弟に愛想を尽かされ砕かれた挙げ句、紆余曲折生還したはいいが、最終的には蔵馬という植物使いの登場人物が張った罠にかかり、死ぬことすらできずに幻影と戦い続けるという末路を辿ったほんの少しだけ可哀想な男。

 

「大変な目に逢ったな…生きていたのはお前だけだ。」

 

「…そうか。」

 

イヤでも現実を突き付けられた。

夢でも何でもない…これは…現実だと。

 

「弟子達はオレ達で埋葬したよ。」

 

「…そうか。」

 

「気にするな…お前が悪いわけじゃない。」

 

え…兄者ってこんなイケメンだったっけ?

めちゃくちゃ優しいんだけど。

一体どうしたんだ?

 

この頃はまだキレイな兄者だったのか?

やはり、妖怪になって品性までも売ってしまったのか?

だとしたら何と不憫なことか…

 

「皆心配していたぞ。特に…幻海はな…」

 

「…幻海。」

 

…幻海か。

幻海というのは戸愚呂の格闘仲間の女性である。

本人とは恋人同士だったのかは定かではないが…互いを想いあっていたというのは事実だ。

 

作中での二人の最期の会話のやり取りは是非とも見てほしい。

 

「兄者…」

 

「何だ?」

 

「…すまないが、少し一人にしてくれないか?」

 

「…わかった。皆にはお前が目覚めたと俺から伝えておこう。」

 

「…すまない。」

 

「…何度も言うが、あまり気に病むな。」

 

「兄者…すまない。」

 

「ふ…我ら兄弟は二人で一つ…だろう?」

 

いや、誰このイケメン。

どうしてああなったんだよ。

 

 

 

 

 

 

しかし、戸愚呂本人の意識は…彼自身の魂はどこに行ってしまったのだろうか?俺の魂が上書きされたことで心の奥底に沈んだとか?

 

それとも…もう…

 

…俺は一体どうすればいいのだろう?

 

このまま潰煉を殺し、弟子達の仇を討てばいいのだろうか?

 

だが、俺にはその動機も何もない。

前世じゃ戦いというものにはおよそ縁のない凡庸な男だった。そんな俺に何ができようというのか?

 

…それとも全てを忘れて隠遁生活でもするか?

そっちのほうが性には合っているのかもしれない。

 

「まったく、なんて仕打ちだ。」

 

ただ、強さを求めていたのに。

ただそれだけだったのに。

 

ある日、全てを奪われ…最終的には『冥獄界(みょうごくかい)』という地獄の中でも最も過酷な場所へと自ら進んで堕ちるという最期を遂げる。

 

つくづく報われないヤツだよ…アンタは。

 

 

 

「…そうだよな。このまま隠遁生活なんてできるわけないよな。俺の憧れた男は…そんなこと望んじゃあいないよな。」

 

決めた。

 

仇を討とう。

 

潰煉を殺し、強さのみを求め続けよう。

 

たとえ、悪魔に魂を売ろうとも。

 

たとえ、拷問のような人生を歩もうとも。

 

アンタ(戸愚呂(弟))が生きたように俺も生きよう。

 

…それが、俺の使命。

 

それが、戸愚呂という『存在』を奪ってしまったアンタに対する俺の『贖罪』だ。

 

 

 

でも…冥獄界はイヤだなぁ…。


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