冥獄界へは逝きたくない   作:TAKACHANKUN

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バカは死んでも

 

冥獄界(みょうごくかい)

 

あらゆる苦痛を一万年もの月日をかけて

与え続け、それを一万回繰り返す。

その後に待っているのは転生すら許されぬ

完全なる”無”。

 

…即ち、魂の消滅を意味する。

 

そもそも、冥獄界に堕ちたものが存在するのか

怪しいところではあるが…人間にしろ妖怪にしろ…

もし、存在したとしたならば一体どれほどの罪を犯したというのだろうか…。

 

作中で戸愚呂(弟)()は自ら進んでこの

地獄という表現では生温い場所へと堕ちることになる。

もう決めたことだ…と。

果てしない責め苦の果てに待っているものは救いではなく無。

 

…うん。

考えたやつトチ狂ってるわ。

 

 

 

「…皆に黙ってどこへ行くつもりだ?」

 

「…兄者。」

 

「潰煉の使い魔が来たぞ。」

 

「…なに?」

 

「闇の武術大会…優勝者は望めばどんなものでも手に入るそうだな…くくっ…くっくっくっ…!」

 

兄者がとてつもなく悪い顔をしている…

やはりコイツの極悪非道さは生来のモノなのか…サイコ野郎め。

 

「出場するメンバーなら心配するな…皆、同意してくれたよ…幻海も含めてな。」

 

「…そうか。」

 

やはり、こうなってしまうのか…。

 

「ヤツを倒せると思うのか?手も足も出なかったんだろ?」

 

「倒すさ。」

 

「大した自信だな。」

 

「兄者…俺は、大会に優勝した暁には…妖怪へと

生まれ変わろうと思う。」

 

「…なに?正気か?」

 

「あぁ…いや、もう正気ではないのかもしれんな。」

 

「フッ…だろうな…だが、面白そうだ…俺にものらせろよ。」

 

いや面白そうて。

 

「兄者…いいのか?」

 

「何度同じことを言わせるつもりだ?我ら兄弟は二つで一つ…だろう?今までも、そしてこれからもそれは変わらぬはずだ。」

 

極悪非道とかサイコ野郎とか言ってごめん兄者。

マジで良き兄者。

アンタをボコるとか俺にはできない。

 

…いかん、涙が出そう。

 

 

 

「後はよろしく頼む。」

 

「まったく…だからといって損な役回りばかりを押し付けられても困るんだがな…。」

 

それはホントにごめん。

なるべく皆とは顔を合わせたくないというのが

実情なんだ…特に、幻海とは。

 

もう…彼女の知る(戸愚呂)はいない…一体どのツラ下げて会えばいいというのか。

 

「また会おう、兄者。」

 

「あぁ、達者でな…弟よ。」

 

いざ、さらば。

結局兄者以外とは顔も合わせずに旅立つことになったが。

 

後が怖いが…まぁ、それは今は置いておくことにするとしよう。

 

正直言ってあてはない。

潰煉を倒せるという根拠も何もない。

何よりも器は同じだが魂が違う。

闘争というものから程遠い人生を歩んできた俺にヤツを打倒する可能性など皆無ではなかろうか。

 

だが…

 

「ふっ…」

 

不意に笑いが漏れた。

 

「闘い…か。」

 

いや、そんな生温いものじゃあないな。

殺し合い…といったほうが正確か。

 

「面白い…」

 

俺の心を支配していたのは不安でも恐怖でもなかった。

それどころか俺はかつてない状況に喜び、打ち

震えてすらいた。今、俺の心を支配しているのは…おそらく闘争本能というもの。

 

そうだ…俺は…俺はこんな出来事を待ち望んでいたのかもしれない。平和な世の中に慣れ、無意味にその平和を享受して思考停止のまま生きてきた。

 

だが、何の因果か…何の悪戯か。

俺の魂は行き着いた。

かつて憧れた存在へと。

 

試してみたい。

闘ってみたい。

殺るか…殺られるか。

そんなギリギリの勝負を味わってみたい。

 

最初こそ、突然の非日常に混乱しきっていたが

もはや慣れたものだ。

今はただ、闘いが待ち遠しい。

 

まったく…色々美化してみたはいいものの…結局

俺は自分のことだけだな…。

 

「…どうやら俺もバカらしい…それも、死んでも

治らんほどのな…」

 

バカは死んでも治らないを自身で体現しちまうとはな…まったく皮肉なもんだ。


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