酒はダメなんで オレンジジュースくださいって
一度は言ってみたい
目の前に鬼がいる。
正確には鬼のような形相をした女性。
…彼女の名は
他の仲間達が戸惑いを見せる中、彼女だけが
激しい怒りを露にしていた。
「久しぶりだな…幻海。」
何か言葉を発さないと今にも殴られそうだった。
久しぶりとは言ったが俺としては初対面なわけで、本物の幻海ばーさんと対面できて感激…
いや、今はばーさんではないか…
めちゃくちゃ美人だもん…とにかく、本来ならば喜ばしいイベントのはずなのだが…
それどころではないくらいに怖い。
憤怒という感情に全振りしてるのかってくらい
怒りに満ち満ち溢れている。
三ヶ月の修行を経て、今なら潰煉もワンパンできるんじゃね?という根拠なき謎の自信があったのだが、見事に打ち砕かれた。潰煉どころか今
この瞬間も生きて切り抜けられるのかどうかも
怪しい。
修行パート?そんなものはないねェ。
「心配かけちまったな。」
「…まったくだね。あたしがどれほど心配したと思ってんだい?」
一つ、大きなため息をついた彼女は先ほどの怒りが嘘だったかのようにひどく弱々しく…そう呟いた。
「…すまない。」
いっそのこと殴ってくれたほうが気が楽だった。
…できるならそんな姿は見たくはなかった。
原因である俺にそんなことを思う資格はないが。
「…あんたが悪いわけじゃないだろう?
悪いのは──」
「いや、俺が殺したようなものだ…俺の弱さが…
あいつらを殺したんだ。」
「違う!」
「事実さ…それが全てだ。たとえ潰煉を殺したとして…手向けにはなっても贖罪にはなりえんよ。」
「全部…一人で背負ってんじゃないよ…あたしだっているじゃないか!」
胸のあたりが痛む。締め付けられるような、何かに蝕まれるようにじわじわと…痛む。
それに耐えきれず、彼女に背を向けた。
「俺が年を取ればお前も年を取る。それでいいじゃないかと…お前はそう言ったな。」
「…あぁ。」
「幻海…すまないが、俺はお前と共に歩めそうにはない。」
彼女の表情は窺い知れない。
怒りか…はたまた悲しみか…ただ、息を呑む音だけははっきりと聞こえた。
「待ちな!話はまだ──」
「…すまない、少し眠らせてくれ。」
そう言い、彼女の言葉を待たずに歩き出す。
幻海自身もそれ以上は何も言ってはこなかった。
「まったく、あいつを抑えるのに俺達がどれほど苦労したと思ってるんだ?」
「兄者、すまない。」
俺、なんだか謝ってばかりだな。
「それで、どうなんだ?潰煉は倒せそうなのか?」
「…あぁ、それは問題ない…と思う。」
「お前にしてはずいぶんと弱気な返答だな。」
何せ、実践経験がないものでね。
何とも言えないというのが現状。
ヤツとやるのが決勝ということは必然的に何回かは戦う機会があるわけで…それらで実践経験を
積むしかない。
この身体に宿った知識や経験はあるにはあるが、それをポンと渡されていきなり使いこなせるほど俺は器用ではない。
「まぁいい、お前も疲れてるだろう。さっさと休め。」
「あぁ。」
確かに、ひどく疲れている。
身体が休息を欲している。
ごくごく平凡な家庭だった。
父は平凡なリーマン。母親は専業主婦。
そして、俺に幽☆遊☆白書という作品を教えてくれたリアル兄者。不自由は何もなかった。
読み込んだ。それこそ、ページの紙が茶色くなるまで読み込んだ。子供だったからわからないことも色々あったが、難しいことは兄貴が教えてくれた。
『お前も頑張れば、霊丸が撃てるようになるかもしれんぞ』
兄貴が言うのを否定した。
俺はこっちのほうがいいと。
『お前、なかなか良いトコつくなぁ。』
それが戸愚呂(弟)だった。
『これ、お兄ちゃんが買ってきてくれたから、帰ってきたらお礼言っときなさいよ。』
幽☆遊☆白書のゲームソフトだった。
それはもう嬉しかった。
対戦型の格ゲーだったので、プレイはせずに兄貴の帰りを待った。やるなら一緒にだ。
兄貴は帰ってこなかった。
悲しくはなかった。
涙は出なかった。
だって、兄貴が死んだのは何かの手違いで、だから今まさに生き返るための試練をうけているんだと…当時はそう思っていたから。
…戸愚呂。
アンタの魂は今どこに在る?
災難だよな…こんな訳のわからないヤツに身体を乗っ取られて。
だが、安心してくれ。
仇は討つ。
状況は変わるかもしれないが、できる限りアンタの歩んだ道に沿って行動するようにする。
だから安心してくれ。
強さが全てという俺の信条を…真っ向から否定して打ち倒してくれるヤツが現れるまでは…
俺は絶対に死なないよ。