冥獄界へは逝きたくない   作:TAKACHANKUN

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オレはオレ

 

暗黒武術会

 

血や暴力、金…etc.

人間妖怪問わず、闇に生きる者達のドス黒い欲望が渦巻く最低最悪の大会である。

妖怪達の犯す犯罪件数の減少に一役買っているという見方もできなくはないが…

何せ、犯罪を犯すと大会が行われる島に入ることすらできなくなるという決まりがあるからだ。

 

そして、その武術会にはゲストと称して闇世界の住人達が邪魔者と認定した人間達が()()()()

エントリーされる。ちなみに断れば死という鬼畜設定付き。

 

現在、俺達は船でその武術会が行われる島を目指し、航行中である。

 

この大会で優勝した者には望めばどんなことも

叶うという褒美が与えられる。正史での戸愚呂は

その褒美で人間から妖怪へと転生し、自らの強さを維持し、高めてきた。

…仲間達は皆、猛反対したらしいが…。

 

 

 

 

「見ろよ…」

 

「あぁ…人間の臭いがするなと思ったら…」

 

「潰煉が招待したゲストらしいぜ…」

 

「ケケケ…ずいぶんと貧弱そうだな…」

 

 

 

 

「あいつら…!」

 

「幻海…相手にするな。」

 

仲間の一人(名前なんだっけ)が幻海を諌める。

 

何やら妖怪どもが好き勝手言っているが…言わせておけばいい。相手にするだけ時間のムダだ。

どうせ口先だけのモブ妖怪。

 

「と、思ったらイイ女もいるじゃねぇか。

ねーちゃん、会場着くまでヒマだからよ…相手してくれや。」

 

よし、あいつ殺すか。

今すぐに殺ろう。

 

「おい。」

 

「あ?なんだおめぇ…」

 

「頭潰されるか…心臓引っ張り出されるか…どっちがいい?」

 

「ひっ…!しっ…し、失礼しました~!!」

 

ちっ、逃げられたか。

…それにしても緊張した…

 

()()()()()()慣れていないからな。

なんなら初めてかもしれん。

 

「あんなのは放っとけ。相手にしなくていい。」

 

いや、ごめん。

俺もアンタと同意見だったんだけどさ…幻海に

手を出そうとするもんだからつい。

 

まぁ、彼女なら返り討ちにできたんだろうけど。

 

 

 

「ただいま、この船は武術会が行われる島へと

航行中でございます!」

 

人間か妖怪かはわからないが武術会の関係者だろうか…口調は丁寧だが人相は悪い男がそうアナウンスする。

 

「…一つ、言い忘れていましたが、実は武術会に参加できる枠はあと一チーム分しかございません。」

 

「なにぃ!?じゃあどうするんだよ?」

 

「この船上で予選を行うのでございます。皆様にとっても良い準備運動になることでしょうし…

どちらにせよこの場でふるい落とされるようでは

その程度だったということでしょうな。」

 

なるほど。

原作でもそうだったが、習わしみたいなもんなのかね。

 

「一チーム一人…誰が出ても構いません。あちらのリングにて予選を行います。」

 

乗る時に気づいてはいたが…やはり、ただの飾りではなかったわけだ。

 

「ルールはたった一つ…リングの上に立っていた一人だけが勝者です。」

 

それ以外はルール無用ということか。

何をしてもいいと。

 

「どうする?」

 

もう一人の仲間(こっちも名前忘れた)が

誰にともなく聞く。

 

 

「…俺が行こう。」

 

ちょうどいい機会だ。

初の実戦。

できるだけ多く経験も積んでおきたい。

 

 

腕がなるねェ…とか言ってみたり。

 

 

 

「おい。」

 

「…あぁ、貧弱そうな人間がいるなぁ…」

 

「こいつからご退場願おうか。」

 

このムキムキな肉体のどこが貧弱そうなんだよ

アホどもが…街で見かけたら秒で道譲るわ。

 

…しかし、いきなり多対一とは聞いて

いないんだがねェ。さっき調子こいちまったけど

ちょっとばかし不安。

 

「始め!」

 

「おらあぁ!まずはてめーからだ!人間!」

 

やれやれ…待ってはくれないか。

 

「ふぅ…やるしかないねェ。」

 

 

 

えぇいままよ!ってか!

 

「ぶほぁっ!!」

 

「えっ…!?」

 

奇跡的に向かってくる妖怪に拳がクリーンヒットしたのはいいんだが…ざっと数十メートルは飛んだ。

 

「やろぉ!」

 

息つく間もなく第二、第三と妖怪どもが向かってくる。

 

…遅い。

 

こいつら本気でやってるのか?

遅すぎる。

 

…やっぱり、俺は強いのか。

まだまだこの身体のポテンシャルを引き出せてはいないが、この程度の雑魚妖怪ならば問題にはならないと…そういうことか。

 

次々に妖怪が吹き飛んでいく様は爽快だった。

得も知れぬ快感。

現実世界に生きていては味わうことができなかったであろう…所詮は紙の中の…画面の中の…別世界の中の出来事だと割りきっていた出来事が

今、俺の目の前で起きている。

 

「し、勝者…戸愚呂!」

 

だが、それも束の間。

 

拍子抜けだ。

最初の緊張はどこへやら蓋を開けてみればこんなものか。相手が弱すぎた。

 

「文句のあるやつは上がってこい。俺が相手をしてやる…誰かいないかね?」

 

「…………」

 

どうやら、気概のあるヤツはいないようだ。

 

「つまらないねェ。」

 

敵も味方も呆然としていた。

 

 

 

「…あんた、どうしちまったんだい?」

 

何を思ったのかはわからないが、幻海がそんなことを聞いてきた。

 

「妖怪をぶっ飛ばして笑っているような…そんなヤツじゃなかっただろ?」

 

笑っている?

 

「そうか…笑っているのか…」

 

「人が変わっちまったかのようだよ…今のあんたは…まるで別人みたいだ。」

 

「そう思うか?」

 

「…本当に、戸愚呂なのかい?」

 

 

「…幻海。」

 

「…?」

 

「…()()()()()だ。」

 

「…わからないよ…今のあんたは…」

 

お前の知る戸愚呂はもういない…お前の目の前にいるのは…ただ、強者との戦いを渇望するだけのただの他人だ…とでも言ってやればいいのか?

 

…そんなこと…言えるはずはない。




評価、感想ともにありがとうございます。

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