冥獄界へは逝きたくない   作:TAKACHANKUN

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今年もよろしくねェ


闇の中へ

『い、一体誰がこのような光景を予想できたで

ありましょうか!?今大会で優勝候補No.1と

言われた潰煉選手…戸愚呂選手にまったく手も足も出ておりません!』

 

怯えながらもきちんと実況はする…司会実況の

鑑だねェ。

 

「…こんなものかね?」

 

「グ…ヌ…!」

 

最初こそ余裕綽々といった潰煉であったが、みるみるうちに顔が青ざめていく。元が醜い怪物なのだから顔色も何もあったもんじゃあないが…

 

武術会決勝。

敗北も激戦もなく、誰も欠けることなくここまで来た。

決勝というだけあり、相手チームの強さも中々のもので、二勝二敗までもつれ込んだが…

 

「まだ力を隠してるんじゃあないのかね?

あるなら早く出したほうがいい…でなければ死ぬんだぞ?」

 

「キサマ…一体何をした!?三ヶ月前とは…まるで別人ではないか!」

 

別人なんだよ。

 

「生まれ変わって、その別人とやらになった…と言ったら信じるかね?」

 

「…何?」

 

「俺は…一度死んで生まれ変わったんだよ。」

 

「何をバカな…くだらぬ戯れ言をほざきおって…!」

 

「お前ももっと喋っておいたほうがいいんじゃあないのかね?地獄じゃ口が効けるとは限らないんだ…くだらぬ命乞いでもしてみたらどうかね?」

 

「何をしてる!早くとどめをさせ!」

 

仲間が急かすが…あいつ…負けたくせにどの口が

言いやがるんだよ。

 

「潰煉、お前は…蓋を開けてしまったんだ…

俺の中の潜在能力を解放する手助けをしちまったんだ…」

 

「ググ…」

 

「まったく、皮肉なモンだねェ…」

 

「キサマァァァァァ!!!」

 

 

咆哮虚しく、無情にも潰煉の首が

闘技場のリングの上に落ちる。

 

「ユ…ユルサン…」

 

どうやらまだ息があるようだ。

しぶといヤツだねェ…

 

ゆっくりと潰煉のもとへ歩み寄る。

 

感慨深さも何もない。

当然だ。

俺には何の関係もないのだから。

 

あるのは…ただの虚しさだけ。

 

「オ」

 

グシャリ…とイヤな音がした。

潰煉の首が潰れる音。

 

やはり貴様は何も喋らなくていい。

醜く死んでくれ。

 

静寂。

あれほど喧しかった殺せコールも

今は聞こえない。

 

「…実況、俺の勝利を宣言してくれないか?」

 

『…あ、失礼いたしました!勝者!戸愚呂選手!』

 

歓声も何もない勝者宣言ほど、虚しいものは

ないねェ…。

 

何はともあれ…仇は討ったぜ。

これで弟子達も…本物の戸愚呂も浮かばれるだろう…あいつは、まだ死んだかどうか定かではないが。

 

「よくやったな…弟よ。」

 

「あぁ…よくやった…よくやってくれた!」

 

皆一様に歓喜の表情を浮かべていた…幻海を除いて。

 

…何故そんな顔をするんだ?

 

「勝ったってのに…浮かない顔してるじゃないか。」

 

なるほど…それでか。

俺のせいでお前にそんな顔をさせちまったのか。

 

「帰ったらあいつらの墓に花でも添えてやりな。」

 

悪いが、それはできないんだよ…幻海。

 

 

 

 

「…お前達に言わなければならないことがある。」

 

「何だい?改まって…」

 

何か良くない予感を感じているのだろうか…幻海の表情は晴れぬままだ。

 

「お前達とはここまでだ。」

 

誰もが言葉を失っていた。

何を言っているのかわからないと言った表情だ。

 

「どういう…意味だ?」

 

「オレ達兄弟は、妖怪へと生まれ変わるのさ。

より強大な力を求めるためにな。」

 

俺のセリフ取んなやクソ兄者。

兄弟と強大をかけてるのか?

何もうまくねーんだよ。

それに、お前は完全に私欲のためだろうが。

 

「…ふざけるんじゃないよ!!」

 

案の定、幻海が激昂する。

 

「妖怪になって…何と戦うっていうんだい!?

潰煉は倒した…もうそれでいいじゃないか!」

 

「幻海…俺は強くなりたいんだ。死んでいった弟子達のためなんかじゃあない…ただ、単純に強さが欲しいんだ…そのためにはより長く生きられる妖怪の体が必要なんだ。」

 

「そんなのあたしがゆるさなっ…!!」

 

無言の腹パン。

すまない幻海…こうするしかなかったんだ。

 

「もう…俺なんかに構うな。」

 

「あたしは…」

 

先の言葉はなかった。

倒れた幻海を抱き抱え仲間のもとへ行く。

 

「…幻海を頼む。」

 

「本気なんだな…俺達の知るお前は…闇に墜ちてまで力を欲することなどしなかったはずだ…!」

 

「アンタ達の知る戸愚呂はもういないんだよ…申し訳ないがね。」

 

「…………」

 

「もう会うこともないだろう…お前達も達者でな。」

 

止まってなどいられない。

…進む先がたとえ闇であろうとも。

 

さらばだ、幻海。

次に会うその時まで。


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