冥獄界へは逝きたくない   作:TAKACHANKUN

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敗戦を糧に

 

筋肉が脈動する。

今までにない大きな力が沸き上がってくるのが

わかる。何人たりとも自分を脅かすことなど

できぬであろうという全能感が俺を支配する。

 

このような妖気を放てば霊界が黙っちゃいないだろうが、知ったことではない。今ならば誰にも

負ける気がしない。

 

…霊界特防隊とかに出て来られたらさすがに

困るけどな!

 

「バカな…さっきまでの妖気とはまるでケタが

違う…」

 

鴉も武威も驚愕こそすれ、戦意を喪失している

様子はなかった。

 

いいねェ…そうこなくては。

 

「お前達は強い。その強さに敬意を表して

今の俺が持てる最大限の力を以てお前達を

叩き潰そう。」

 

 

 

「ぐっ!」

 

武威が吹き飛んだ。

 

軽く拳を振るっただけなのだが、それが意図せず攻撃となったようだ。

 

なるほど…突き出す拳の風圧さえ武器になる…か。こいつはいい。能力の性質上、どうしても遠距離主体の相手には遅れを取りがちだと危惧していたが…その問題も霧散した。

 

…こうなると、兄者がジャマだが。

 

しかし、こんな簡単なことも忘れていたとは。

自らの記憶力には、ほとほと呆れる。

 

「さて、次はお前だ。」

 

さっきよりも強く拳を振るう。

 

「くっ!」

 

かろうじて避けられたが、本命は次だ。

 

「一瞬で間合いに…!」

 

「歯を食いしばったほうがいいぞ…!」

 

渾身の一撃が鴉にクリーンヒットした。

しまった…少し、力を入れすぎたか。

…死んで…ないよな?

 

心配は無用だったようで、鴉はゆらりと

立ちあがった。

あれを喰らって起き上がれるとは…

中々にタフだな。

 

そして、武威もまた立ちあがり…

 

「む…」

 

武威の妖気が上昇していく。

そして、上昇していく妖気は次第に目に見えるほど巨大なものとなり、武威の体を覆った。

 

あれは…武装闘気(バトルオーラ)というヤツか。

いよいよ本気というわけだ。

 

 

 

「効いたよ…いや、むしろ心地良い痛み

というべきか…」

 

なんだ…(コイツ)

ドがつくマゾなのか?

完全にヤバいヤツやん。

 

「!」

 

マスクがはずれている。

…これってヤバいんじゃなかったか。

 

「久しぶりに全力で()れそうだ。」

 

その言葉を引き金に鴉の妖気が爆発的に増大していく。

次いで髪の色も変色した。

コイツも…いよいよ全開か!

 

「感謝するぞ…戸愚呂…とても有意義で甘美な時間だった。終わらせるのが惜しいぐらいにな!」

 

 

 

「あれは…ヤバいな。」

 

「あぁ…兄者は一応盾に変形しておいたほうがいいかもしれんな。」

 

この妖気…辺り一帯ぶっ飛ばすつもりかよ。

あいつめ…武威がいるってこと忘れてないか?

 

「いくぞっ!」

 

来る…最大火力の爆撃が。

 

 

 

今までよりも何倍、何十倍もの規模の大爆発。

木々は消し飛び、辺りには煙が立ち込めていた。

爆発の規模は言わずもがなだ。

 

「バカな…」

 

鴉が絶句する。

 

「少しばかりヒヤリとしたよ。大したもんだ。」

 

見た目こそ俺の体は殆ど損傷はないが、そこそこのダメージは負っていた。

 

「もう殆ど妖気も残っていないだろう。お前の言った通り、終わらせるには惜しいが…残念ながら終わりだ。」

 

羽根をもがれた鴉は宙を舞った後、地に倒れ伏した。

 

「…アンタ(武威)はまだやるかね?」

 

「当然だ…オレはまだ負けていない。」

 

俺との力の差はもうわかったはずだ。

それなのに、まだ諦めないとは…

 

「見上げた闘志だ。心から尊敬するよ。

いいだろう…来い!」

 

「ぬおぉぉぉぉぉっ!」

 

良い攻撃だ。体の芯に響く。

このまま殴られ続けるとさすがにまずいな。

 

「うおぉっ!」

 

「悪いね…今度はこっちの番だ。」

 

「がはっ…!」

 

 

 

 

 

「…オレ達の負けだ。」

 

「…とどめをさせ。」

 

両者とも虫の息だが、まだ生きている。

 

「いや、殺しはせんよ…」

 

「なんだと…!?ふざけるな…!」

 

武威が怒鳴る。

お前まだそんな元気あったのかい。

 

「ここでオレ達を殺さないと…いずれまた

お前達を殺しにいくぞ。」

 

今度は鴉が静かに言い放つ。

 

「構わんさ。その時はその時だ。」

 

まぁ、命乞いをしようものなら迷わず殺していたが。

 

「お前達はまだ強くなる。死ぬのはその時でも遅くはないんじゃないのかね?」

 

「ふ…完敗だ…清々しいほどのな。」

 

そう言う鴉の表情はどこか満足げであった。

 

「また()ろう。いつでも相手になるよ。敗戦を糧に…せいぜい強くなることだ。」

 

「…待っていろ、戸愚呂。」

 

武威も納得したようだ。

 

「あぁ、待っている。お前達がまた俺の目の前に現れる日まで…俺は強く在り続けるよ。」




この二人兄者よりずっと強い気がするけど…気のせいかな?

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