ボーダーのメイン盾担当S級隊員   作:榎本玄也

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ワートリ杯に間に合わせようとして遅刻した馬鹿は俺です。


第一幕

界境防衛機関(ボーダー)本部所属S級隊員(つるぎ) 刃斬(じんざ)の朝は遅い。

 

いや、いつもであれば早いのだが今日だけは特別である。

何しろやることがないのだ。

昨日までなら『いつでも出動できる便利な防衛隊員』として警戒区域を北へ南へ東奔西走したりしなかったりしていた。

していたのだったが、半ば自分専属となっているオペレーターの「そういえば、ここ最近ずっと(つるぎ)さん防衛任務に参加しまくってますけどシフトどうなってます?」という質問に素直に答えてしまったのが運の尽きだった。

最近の防衛任務参加率を知ったオペレーターは絶句、後に激怒。そしてその30分後、どこから見つけてきたのか最近だけでなく今までの防衛任務参加頻度記録を遡ったオペレーターは大激怒。「いや、知ってると思うけど欠員がある時の方が珍しいから暇な時の方が多いからね?」という弁明と「ほら、ボーダー隊員の殆どが学生だったり家族がいたりするじゃないか。シフトで前もって決まっているとはいえ直前になって何かしらの用事で参加できなくなる事態が起きるかもしれないだろう?そんなときのために『いつでも出動できる便利な防衛隊員』として本部に常駐しているだけだよ」という自分の主張は、オペレーターの「だまらっしゃい!!!」の一言でねじ伏せられた。

 

それから二時間後、心から尊敬する本部長から呼び出され、「珍しいこともあるもんだ」と本部長の元へ向かうと、ノーマルトリガー最強の男である忍田本部長は俺に明日から一週間の休暇を命令してきたのである。

「いいオペレーターと出会ったな」と爽やかな笑みを浮かべるノーマルトリガー最強の男。

脳裏に浮かんだのは微笑みながらも、その背後に般若の顔を幻視してしまう程の怒気を放つオペレーターの姿だった。

もちろん「俺が本部に詰めてる間割とのんびりしてるのは忍田さんも知ってますよね?過労とは無縁ですよ」と断ったのだが、どうやら休暇命令の大本は城戸指令らしく、もし休暇命令を無視した場合はS級隊員特権で勝手に私室に改造した空き作戦室を没収するときた。

その時点で俺は一週間を無為に過ごすことが確定してしまったのである。

 

そんなこんなで今日である。

本当に久しぶりに我が家である最低限の家具しかないアパートで目を覚ました俺は、何をどうしたもんかベッドの上で思案していた。

現在午前10時半、いつもなら本部の訓練室で軽く準備運動をしている頃なのだが、もし今日本部に行こうものなら元シューターのオペレーターに文字通り風穴を開けられかねない。昨日の彼女の剣幕はそのぐらい凄かったのである。

部屋を掃除しようにも忍田本部長が気を利かせて家事代行サービスでも頼んでくれたのか埃一つない。

 

「さて、本当にどうしたもんか」

 

そう呟いても具体的な案は出てこない。

本部に詰めていたなら訓練室であれこれしたり、開発室で鬼怒田さんや寺島の仕事っぷりを眺めながら何かあるまで時間を潰したりできるのだが、ここではそうもいかない。

友人とどこかに遊びに行こうにも俺はボーダー内外を含め友人が少ない。多分両手の指で事足りるくらいのものだと思う。

まぁ、そもそもの話その5人もいない友人達の連絡先を知らないので、もし遊びに行くとしてもお独り様確定である。

 

とここで

 

ぐぅぅぅぅぅぅ~~

 

盛大に腹が減った。

それもそうだ、本来ならもうとっくに食堂で朝食を食べ終わってる時間帯だ。

 

「……なんか作ろうか」

 

ベッドから起き上がりキッチンへと向かう。

しかし

 

「……なんにも入ってないな……」

 

冷蔵庫は外見だけでなく中身までもが新品同然だった。

いや、そもそも俺は料理なんてできなかった。

最近ずっと食堂で済ませていたからすっかり忘れていた。

 

「外で食べるか」

 

寝巻から、1着しか所有してない余所行き用の冬服に着替える。

なんてことはない長袖シャツを着て、その上に紺色のセーター、そしてグレーのダウン、下はジーンズというスタイル。しかしながら寒がりな俺にはまだ少々心許無い。

が、どうせ目的地は近くの個人営業の食堂なんだからこの程度でもいいだろうと俺は片手でサングラスを掛けながらもう片方で玄関を開けた。

 

ひゅるりと寒風に顔を撫でられ、その冷たさに思わずブルリと震えた。

この寒さなら外に出ないほうがよかっただろうか。

そんなことを思いながらアパートの通路を歩く。

ちなみに俺が住むアパートは警戒区域に近い場所にある。

つまりは人がこの辺には少ないのだ。

ボーダーS級隊員としてある程度顔が割れている俺としてはありがたいことではある。

嫌なわけではないが外に出るたびに人に囲まれるのは勘弁願いたい。嵐山を見ると特にそう思う。あれほどよくできた人間など世界に何人いるのだろうか。もし俺が同じ状況なら愛想笑いしかうかべることができないだろう。年上の人間として恥ずかしい限りであるが、こればっかりは生まれ持った才能と育った環境によるものだろう。俺は後者に恵まれた自信はあるが前者を持ち合わせているとは思えない。

昔、『もう少し剣君が明るめの性格ならば彼も広報隊員としての仕事もできたのでしょうが……』と根付さんが忍田本部長にぼやいていた、というのを迅から聞いても納得しかしなかったぐらいには自身の性格は理解してはいる。

 

さて、そうこう色々考えている間に目的地の飲食店についたわけである。

一軒家を丸々改造した『俺個人営業今後ともよろしく』を体現したかのような店。

昔、毎度のように訪れた時と変わっていなければとんかつ定食がこの店の一押しであるはずだ。

専門店にも負けないそれは値段も相まって当時の俺のお気に入りだった。

『まだメニューにあればいいけど……』なんてことを考えながら店に入ろうとした

 

とそこで

 

「お、(つるぎ)じゃねェか」

 

「あ、ほんとだ。こんにちは、剣さん」

 

「こんにちは、剣さん!」

 

「おいーっす」

 

横から名前を呼ばれたためそちらを見ると、なんとも見覚えのあるメンツ達だった。

 

「お、諏訪か。それに堤に笹森に小佐野と、諏訪隊勢揃いじゃないか」

 

そこにいたのは、諏訪洸太郎を隊長とする諏訪隊だった。

 

「なんだ?お前が本部から外出()てるたぁ、珍しいこともあるもんだな」

 

「本部長から一週間の休暇出されただけさ。そっちは?」

 

「あぁ、三門市の隠れた名店ってのがあってな。おサノが行きてぇって言うからよ」

 

そう諏訪が言うと小佐野がバッグから雑誌を取り出し、「ここ、ここ」とページを指さす。

どうやらこの店は少し見ない間にそこそこ有名になっていたようである

 

「……ここ、少し見ないうちにそんな風に呼ばれてたのか」

 

「なんだ、お前もこれ見て来たんじゃねぇのか?」

 

「いや、昔はよく来てたから久々に食いに行こうと思ってな」

 

「馴染みの店ってやつか」

 

「そう呼ぶには行ってない期間が長過ぎたよ」

 

ガララ、と引き戸を引く。

あぁ、ずっと変わらない。木製のメニュー札、十数個のカウンター席に八つのテーブル席。揚げ物の匂いとうどんを茹でた匂い。

ずっと、あの時から変わらない。

 

「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」

 

厨房から出てきたのは年配の女性だった。割烹着を着て、一昔前の主婦を思い起こさせる優し気な顔をした人だ。

あぁ、年を取った以外何も変わらないなと思いつつ、『一名です』と言おうとしたが、

 

「五人で」

 

……先手を打たれた。

 

「諏訪、部外者を無理に入れる必要は無いぞ?」

 

「一人増えた程度どうってことねぇよ」

 

ヘヘッと笑いながらそういう諏訪に、つくづくいい友人を持ったなと感じる。

 

「五名様ですね、こちらの席にどうぞ」

 

と、テーブル席に案内される。

出入り口に遠くも近くもない距離のそれは、昔、皆と来た時のお決まりの席で、俺の特等席はちょうど奥の席で、隣には父さんが、その向かいには……。

ふと、その時の光景が思い浮かんで、

やっぱり来るんじゃなかったかなぁ

なんて思ってしまったが、せっかく気を利かせてくれた諏訪を無下にするわけにもいかないのでその考えは振り払う。

さて、ここのテーブル席は、ぎゅうぎゅうに詰めれば十人は入れる程度に広い。

ので、奥から笹森、堤、俺と並んだ向かいに、小佐野、諏訪と座らせたのであった。

 

「んで?おすすめはなんだよ剣」

 

「いや雑誌見てきたんならそれを頼みな?」

 

「何言ってんだよ、こういうのは雑誌の意見より馴染みの客の意見だろ」

 

「つっても俺はここに来たら豚カツ定食しか頼まないぞ?」

 

「じゃあそれにすっか」

 

「せめてメニュー表を見てから決めろよ……」

 

そう会話する俺たちそっちのけで後輩組はメニュー表を見てワイワイしている。

 

「堤さん!雑誌には豚カツ定食と唐揚げ定食、あとハヤシライスがおすすめってありましたけど、どうします?」

 

「そうだなぁ、ハヤシライスにするつもりだったけど、メニューを見ると美味しそうなものが並んでて悩むなぁ」

 

「あ、焼うどんがある。これにしよ~」

 

「え、焼うどんまであるんですか?!」

 

「へぇ、よく見たら和洋中全部揃ってるな」

 

「迷ったなら好きなものがおすすめだぞ。ここに無い料理は専門店にしかないモノばかりだし、味はどれも良いもんだ。昔来た時も味に不満を言ってる人は誰もいなかったよ」

 

「そうなんですか!」

 

「うーん、でもやっぱり雑誌におすすめされてるぐらいだし、ハヤシライスにしようかな」

 

「じゃあ、俺は焼き飯と餃子で!」

 

「焼うど~ん」

 

「じゃあ決まったな。すいませーん」

 

と、諏訪が店員を呼ぶ。

来たのは席に案内してくれた人だった。

 

注文を終え、料理が運ばれるまでの雑談に選ばれたのはランク戦についてだった

 

「ところで諏訪たちは今何位だっけ?」

 

「今は十位です!」

 

「今度こそ上位に入れるよう頑張らないとな、日佐人」

 

「ですね!」

 

「つっても上位にゃあいつらがいるのがなぁ……」

 

「そういえば、影浦隊と二宮隊が降格でB級に居るんだったか。あれとんでもないランク詐欺だろ」

 

「同意ー。勝てる気しなーい」

 

「ったく、降格ったってせめてA級最下位だろ」

 

「まぁ、諏訪達だってハマれば上位も食えるとは思うよ。生駒隊……は厳しいかもしれんが、村上のところには状況次第で完封できるんじゃないか?」

 

「まぁ、鈴鳴第一には一応作戦はあるが、割と日佐人次第なところがなぁ」

 

「え、お、俺ですか?!」

 

「お、責任重大だな笹森」

 

「が、頑張ります!」

 

そうこう雑談をすること六分ほど

 

「お待たせいたしました~」

 

注文した料理が運ばれてきた。

五つ以上の料理をほとんど同じタイミングで完成させるのはここの料理人の昔からのスゴ業である。

 

「んじゃ、食うか」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

そうして、久々に食べた豚カツ定食は昔と変わらず美味しいものだった。

 

 

ー--------------------------

 

「ふぅ、旨かったな豚カツ定食」

 

「焼き飯と餃子も美味しかったです!」

 

「ハヤシライスも、すごくおいしかったなぁ」

 

「満足~」

 

満足そうな四人に、少し、昔を重ねてしまう。

 

「会計は俺が払うよ」

 

そういって伝票を持っていこうとすると

 

「あ、いいんだよ、んな気ィ使わなくてもよ」

 

案の定諏訪が引き留めてきた。

そうは言っても割と払う気満々なので適当な言い訳を探す。

 

「金が余り気味でさ。こうゆうところで使ってかないと、なんか変な税がかかりそうで怖いんだよ」

 

「ンなわけが……」

 

何か言おうとした諏訪を黙らせたのは意外にも諏訪隊の面々だった。

 

「え!良いんですか?!剣さん!」

 

「じゃあお言葉に甘えて……」

 

「ゴチになりま~す」

 

「お前ら……」

 

呆れたように呟く諏訪。

席を立ち、伝票をレジへと持っていく。

 

「先出とくぜ」

 

「あぁ」

 

そう四人が店を出て、レジで会計を済ませている最中に、レジを操作していた、あの年配の女性定員が

 

「ねぇ、もしかして剣君?」

 

「え」

 

「あぁ!やっぱり剣君だったのね!久しぶりね~!」

 

そう、俺に嬉しそうに声を掛けてきた。

 

「久しぶりね~。いつぶりかしら、あの大規模侵攻があってからめっきり来なくなっちゃって」

 

「え、えぇ、いろいろと忙しくて……」

 

「あぁ!そうだったわね!確か、ボーダーだったかしら。城戸さんをテレビで見たときは本当に驚いたわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よっぽど今の仕事が大変なのかしら。あ、そうそう、お父さん元気かしら。『刃斬(じんざ)に食べさせてやるんだ』って主人に教わったハヤシライス、今でも作ってる?」

 

「……最近は、忙しくて……」

 

「あらそう……。それにしても、大きくなったわね剣君。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あの頃が懐かしいわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あ、そういえば木崎君とゆりちゃんの仲は進展したのかしら?まだ木崎君がソワソワしてるだけで終わってないかしら。あ、そうだ。また、ここを貸し切って宴会をやっても良いのよ。貴方たちが来ると店が賑やかになってとても楽しかったもの!」

 

「……そう、ですね。城戸さん達は忙しくて難しいかもしれませんけど、ボーダーの友人たちとなら、多分……」

 

捻りだせた言葉は、それくらいだった。

 

「じゃあその時を楽しみにしてるわね!」

 

「はい……ごちそうさまでした」

 

なんとか、顔には、出さなかったと思う。

少し、重い足取りを、ばれないようにするのに必死だった。

諏訪達のことだから待っていてくれてるのだろうか。

その気遣いが、今だけは煩わしく感じてしまった。

 

ー---------------------------

 

「ごちそうさん剣……ってなんかあったか?」

 

相変わらず諏訪は隊長なだけあって、誰かの変化に目ざとい。

 

「いや、少し食べすぎた」

 

「そうか?まぁそうならいいんだけどよ。そういや剣、今日これから予定あるか?」

 

「いや、一日暇してるよ」

 

正直、断るつもりではあったが、気づけばこの口はその言葉を選択していた。

 

「なら丁度いい。少し付き合えよ」

 

そう、諏訪が言ったとき。

いったん頭を切り替えようと、視線を少し横に向けた。

 

 

そこで、

 

「─────っ!!」

 

()()()()()()()()

 

『それ』を目で追った瞬間

 

鳴り響くサイレン

 

そして

 

『緊急警報!緊急警報!(ゲート)が市街地に発生します!市民の皆さんは直ちに避難してください!』

 

俺の頭上に黒い光とともに異世界の門が出現し、

 

ズズズ──…と無機質な白い侵略者が這い出した。

 

 




???「ワートリ杯、ヤバいな。ヤバいやろ。え、やばない?」

???「ヤバいっす」

???「せやんな!」

???「全作クオリティーヤバすぎやしその上期間内に連載出来てるとかヤバすぎやろ。俺普通に感動してんけど」

???「2万回見ました!」

???「ウソつけ」




主人公プロフィール

剣 刃斬 つるぎ じんざ



21歳

誕生日:7月7日 

身長:176センチ

星座:つるぎ座

職業:不明

好きなもの: 父親が作ったハヤシライス

家族:父


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