ウマ娘に転生したのでちょっくら本気で生きてみます。 作:匿名トレーナー
転生してから数年が経過した。
本気で生きると決めたのはいいが、何からするべきなのか悩み、まずは状況を把握することに努めた。
テレビや新聞、ネットを駆使して世界について調べたところ、やはりこの世界は前世と大差ない。剣と魔法の世界でもなく、文明が著しく遅れているわけでもない。相違点といえば、やはりウマ耳の生えた女性、ウマ娘がいることだけだ。それだけが、俺が異世界に転生した証だった。
この世界ではウマ娘の存在は当たり前のもので、人間と同じ学校に通い、ごく自然に生活している。
次に我が家についてだが、どうにもうちには父親がいないらしい。待てど暮らせど、父親は現れない。歩けるようになって家中探し回ったが、父親の痕跡さえない。母に聞いても「いや〜あはは〜」と苦笑いをして煙に巻かれる。
家にいるのは母と家政婦と、そして俺の3人。どうやら母は足が悪いらしく、家政婦が家事と母の介護をしていた。母と家政婦は非常に親しく、給料は渡しているようだが、ほとんど家族のような扱いだった。俺からしてみれば母親が2人いるような感覚だ。加えてすこぶる美人ときた。
そしておそらく、俺も美人だ。母から受け継いだ純白の髪に、コバルトブルーの瞳。そしてお人形さんもかくやという整った顔立ち。立ち鏡の前でポーズを何回か試し、そしてむにむにと自分の頬をこねる。これは将来モテモテなのでは?と淡い期待が膨らむ。今から黄色い声援が楽しみだぜ。アイドルとか慣れちゃうんじゃないの?
ふひ、と上機嫌になった俺はその場でくるりとターン。それと一緒に身につけていたスカートの裾も軽やかにひらめく。
そういえばスカートにも慣れてしまった、と鏡に映る自分を眺めながらにへらと頬を緩めていると、後ろからカタカタと車輪の音が聞こえる。振り向くと、どこか呆れたような笑みを浮かべる母がそこにいた。
「母様」
「あら、何してるのレグ」
レグ、とは俺のことだ。
この世界での俺の名前はルクスレグルスというらしい。どこかの星の名前から取ったとだけ教えてもらった。
「びゅーちほーなわたしを眺めていました」
「……変わった子ね。そんなこと誰に教わったんだか」
車椅子の上で、母が頭を抱える。事実今の俺は美しいのだから仕方がないだろう。
「レグは賢いけど、変なことばかり覚えるわね」
「アンが『貴女は美しいのだからその自覚を持ちなさい』と」
「またあいつかぁ……ちょっとアン! レグにまた変なこと教えたでしょ!!」
母は元気な人だ。体も弱く、寝込んでしまう日も少なくないが、そんなものを微塵も感じさせないほど明るく振る舞う。子供の前だからだろうか、それとも元来そんな人なのかもしれない。
そんなことを考えていると、部屋の扉から話題の人物が顔を覗かせた。
「なに?」
感情が感じられない平坦な口調。表情も飄々としている。彼女が我が家の家政婦、野山
俺たちは街で評判の美人家族なのだ。
「ちょっとアン! レグに変なことを教えないでよね!」
「変なこと?」
ぴくりと、ほんの少しだけ眉を動かし俺を見つめるアン。最初は表情がほとんど変わらないものだから少し怖かったが、今では彼女の少しの変化を感じ取れる。
要するに、彼女は『変なこと』とは何か探っているのだ。アンにその何かを伝えるために、俺はスカートの裾をつかみお辞儀をして見せる。淑女の嗜みでしてよ。
「びゅーちほー」
「ああ、なるほど」
合点がいったのか、アンが手を叩く。
「レグが貴女に似て可愛らしいのは事実。早いうちからそういう自覚は持たせたほうがいい。貴女が学生の頃は大変だった。誰かれ構わず愛想を振りまいて、はた迷惑な一級フラグ建築士。私の気も知らずに」
「な、そ、それは今関係ないじゃない!」
母が真っ赤になってアンに反論する。母は確かに、そういうことには疎そうだった。
「関係ある。レグに貴女のようになってもらっては困る」
「あれは、アンがちゃんと言ってくれなかったからでしょう!?」
「私はずっと言っていた。貴女を愛していると」
「っ〜!!」
今日も始まった。母とアンの痴話喧嘩が。
そう、この2人……そういう関係だ。夜な夜な2人が寝室から抜け出しナニをしているのを俺は知っている。まあ、俺が寝ている部屋でおっ始めないその配慮だけは評価したい。
「そ、そんなこと言ってもだめよ! レグはもっとーーんぐっ!?」
「わからせないと、んっ、ダメみたいね」
母が反論しようとした矢先、アンがその口を封じる。どうやってだって?そんな野暮なこと聞くもんじゃない。
子供の目の前で繰り広げられる濃厚な粘膜接触。母とアンの艶めかしい声が溢れる。
そういう知識がないだろうからって、良くないだろ。いやまあ、俺にとっては美人の2人が仲睦まじいようで本当に有難い。今日もご馳走様です!と手を合わせ、感謝の気持ちを込めて2人を拝む。
そんな俺を差し置いて、2人の行為は続く。
「レグが、見てる……」
「じゃあやめる?」
「アンのいじわる……」
「続きはまた、今夜」
「……ん」
最後に啄むようなキスをして、行為が終わる。流石に俺の前でナニまではしないらしい。
身体がほてってしまったのか、もじもじと母が身体をよじる。尻尾も耳もぴこぴこと動いて忙しない。今夜は耳栓でもしようかしらん、と思案していると、アンが「レグもおいで」としゃがんで両手を広げる。
俺は躊躇することなく、その両手に飛び込む。最初は恥ずかしかったが、もう慣れっこだ。アンは俺を受け止め、優しくおでこに口づけをした。
「レグも愛してる」
そういうと、次は母の番だと言わんばかりにアンは俺の身体を持ち上げて、車椅子に座る母の膝の上に乗せる。
「ふふ、ママもレグが大好きよ」
そして母は俺の頬にキスをする。俺はというと、2人に愛されていることを改めて感じて、幸福感に満たされていた。この2人のためにも、俺はこの世界を精一杯生きようと思える。
そういえば不思議なことに、2人に対してやましい気持ちは一切わかなかった。これが家族の絆というものだろうか。
そんなこんなで、俺は2人の母に溺愛されながら健やかに成長し、小学校に入学することになった。
家から程近い、公立の小学校。人間とウマ娘が共に通う学び舎。
そしてそこで、事件が起きたのだ。
「あなた小さいくせにナマイキなのよ!」
少女が叫ぶ。
そう、俺を指差しながら。
ルクスレグルス
光り輝く小さな王