ウマ娘に転生したのでちょっくら本気で生きてみます。   作:匿名トレーナー

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第02レース ルクスレグルス

 転生してから数年が経過した。

 本気で生きると決めたのはいいが、何からするべきなのか悩み、まずは状況を把握することに努めた。

 テレビや新聞、ネットを駆使して世界について調べたところ、やはりこの世界は前世と大差ない。剣と魔法の世界でもなく、文明が著しく遅れているわけでもない。相違点といえば、やはりウマ耳の生えた女性、ウマ娘がいることだけだ。それだけが、俺が異世界に転生した証だった。

 この世界ではウマ娘の存在は当たり前のもので、人間と同じ学校に通い、ごく自然に生活している。

 次に我が家についてだが、どうにもうちには父親がいないらしい。待てど暮らせど、父親は現れない。歩けるようになって家中探し回ったが、父親の痕跡さえない。母に聞いても「いや〜あはは〜」と苦笑いをして煙に巻かれる。

 家にいるのは母と家政婦と、そして俺の3人。どうやら母は足が悪いらしく、家政婦が家事と母の介護をしていた。母と家政婦は非常に親しく、給料は渡しているようだが、ほとんど家族のような扱いだった。俺からしてみれば母親が2人いるような感覚だ。加えてすこぶる美人ときた。

 そしておそらく、俺も美人だ。母から受け継いだ純白の髪に、コバルトブルーの瞳。そしてお人形さんもかくやという整った顔立ち。立ち鏡の前でポーズを何回か試し、そしてむにむにと自分の頬をこねる。これは将来モテモテなのでは?と淡い期待が膨らむ。今から黄色い声援が楽しみだぜ。アイドルとか慣れちゃうんじゃないの?

 ふひ、と上機嫌になった俺はその場でくるりとターン。それと一緒に身につけていたスカートの裾も軽やかにひらめく。

 そういえばスカートにも慣れてしまった、と鏡に映る自分を眺めながらにへらと頬を緩めていると、後ろからカタカタと車輪の音が聞こえる。振り向くと、どこか呆れたような笑みを浮かべる母がそこにいた。

 

「母様」

「あら、何してるのレグ」

 

 レグ、とは俺のことだ。

 この世界での俺の名前はルクスレグルスというらしい。どこかの星の名前から取ったとだけ教えてもらった。

 

「びゅーちほーなわたしを眺めていました」

「……変わった子ね。そんなこと誰に教わったんだか」

 

 車椅子の上で、母が頭を抱える。事実今の俺は美しいのだから仕方がないだろう。

 

「レグは賢いけど、変なことばかり覚えるわね」

「アンが『貴女は美しいのだからその自覚を持ちなさい』と」

「またあいつかぁ……ちょっとアン! レグにまた変なこと教えたでしょ!!」

 

 母は元気な人だ。体も弱く、寝込んでしまう日も少なくないが、そんなものを微塵も感じさせないほど明るく振る舞う。子供の前だからだろうか、それとも元来そんな人なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、部屋の扉から話題の人物が顔を覗かせた。

 

「なに?」

 

 感情が感じられない平坦な口調。表情も飄々としている。彼女が我が家の家政婦、野山杏子(あんず)。母や俺からはアンと呼ばれている。こちらも母と同じく非常に美しい顔立ちをしている。

 俺たちは街で評判の美人家族なのだ。

 

「ちょっとアン! レグに変なことを教えないでよね!」

「変なこと?」

 

 ぴくりと、ほんの少しだけ眉を動かし俺を見つめるアン。最初は表情がほとんど変わらないものだから少し怖かったが、今では彼女の少しの変化を感じ取れる。

 要するに、彼女は『変なこと』とは何か探っているのだ。アンにその何かを伝えるために、俺はスカートの裾をつかみお辞儀をして見せる。淑女の嗜みでしてよ。

 

「びゅーちほー」

「ああ、なるほど」

 

 合点がいったのか、アンが手を叩く。

 

「レグが貴女に似て可愛らしいのは事実。早いうちからそういう自覚は持たせたほうがいい。貴女が学生の頃は大変だった。誰かれ構わず愛想を振りまいて、はた迷惑な一級フラグ建築士。私の気も知らずに」

「な、そ、それは今関係ないじゃない!」

 

 母が真っ赤になってアンに反論する。母は確かに、そういうことには疎そうだった。

 

「関係ある。レグに貴女のようになってもらっては困る」

「あれは、アンがちゃんと言ってくれなかったからでしょう!?」

「私はずっと言っていた。貴女を愛していると」

「っ〜!!」

 

 今日も始まった。母とアンの痴話喧嘩が。

 そう、この2人……そういう関係だ。夜な夜な2人が寝室から抜け出しナニをしているのを俺は知っている。まあ、俺が寝ている部屋でおっ始めないその配慮だけは評価したい。

 

「そ、そんなこと言ってもだめよ! レグはもっとーーんぐっ!?」

「わからせないと、んっ、ダメみたいね」

 

 母が反論しようとした矢先、アンがその口を封じる。どうやってだって?そんな野暮なこと聞くもんじゃない。

 子供の目の前で繰り広げられる濃厚な粘膜接触。母とアンの艶めかしい声が溢れる。

 そういう知識がないだろうからって、良くないだろ。いやまあ、俺にとっては美人の2人が仲睦まじいようで本当に有難い。今日もご馳走様です!と手を合わせ、感謝の気持ちを込めて2人を拝む。

 そんな俺を差し置いて、2人の行為は続く。

 

「レグが、見てる……」

「じゃあやめる?」

「アンのいじわる……」

「続きはまた、今夜」

「……ん」

 

 最後に啄むようなキスをして、行為が終わる。流石に俺の前でナニまではしないらしい。

 身体がほてってしまったのか、もじもじと母が身体をよじる。尻尾も耳もぴこぴこと動いて忙しない。今夜は耳栓でもしようかしらん、と思案していると、アンが「レグもおいで」としゃがんで両手を広げる。

 俺は躊躇することなく、その両手に飛び込む。最初は恥ずかしかったが、もう慣れっこだ。アンは俺を受け止め、優しくおでこに口づけをした。

 

「レグも愛してる」

 

 そういうと、次は母の番だと言わんばかりにアンは俺の身体を持ち上げて、車椅子に座る母の膝の上に乗せる。

 

「ふふ、ママもレグが大好きよ」

 

 そして母は俺の頬にキスをする。俺はというと、2人に愛されていることを改めて感じて、幸福感に満たされていた。この2人のためにも、俺はこの世界を精一杯生きようと思える。

 そういえば不思議なことに、2人に対してやましい気持ちは一切わかなかった。これが家族の絆というものだろうか。

 そんなこんなで、俺は2人の母に溺愛されながら健やかに成長し、小学校に入学することになった。

 家から程近い、公立の小学校。人間とウマ娘が共に通う学び舎。

 そしてそこで、事件が起きたのだ。

 

「あなた小さいくせにナマイキなのよ!」

 

 少女が叫ぶ。

 そう、俺を指差しながら。




ルクスレグルス
光り輝く小さな王
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