仮題【魔術なし 身体能力マシマシ慎二くん】 作:いかのシオカラ
幼いころからそうだった。
自分には本当に必要なものは何もなく、がらんどうだった。
愛されぬ命。祝福されぬこの身。
書庫にある魔術に関しての書物を読み漁り、ベッドに寝転んでは虚無を感じる。
ただ最近になってはもうその気も失せ始めている。
どうしてここまで魔術に執着するのかも忘れてしまった。
唯一持ち合わせたのは異常なまでの『身体能力』
50メートルを2~3秒。
砲丸投げはフェンスを直撃。
握力は計測器を破壊。
などなど、異常の限りを尽くしている。
当然こんな化け物に近づいてくれるような阿呆は数少なく、
友達と言える人間もごく少数である。
「あー、クソ」
悪態をつき、惰眠を貪る。
また、どうでもいい明日を迎えるために。
...
.....
.......
「兄さん、朝ですよ」
妹の声とともに目が覚める。
間桐桜、幼いころに間桐の家に引き取られる。
僕がほんとに欲しいものを総なめしたかのような女。
正直むかつくし、一回殴ってやろうかとも思ったが、
殴ったらとんでもないことになる。
それに、魔術の才能がないことを知った僕に泣きながら謝罪してきた。
そんなことをされたもんだからこっちとしては殴っても虚無感しか残らないだろう。
「...はぁ。起きたよ。お前も毎回毎回飽きないね?こんな兄貴起こしに来て」
「...ごめんなさい」
「謝るなよ。余計惨めになる。...ほら、着替えるからどっかいけ」
シッシと軽く手で追い払う動作をする。
それを見た桜はそそくさと部屋から出て行った。
布団から出て、いつもの制服に着替え、部屋をあとにする。
いつものルーティンだ。
階段を降り、リビングに着くといつものように朝食が食卓に並んでいた。
毎朝毎朝飽きないなほんと。
「まったく、さっきも言ったけどお前はほんと...」
先に朝食を食べていた桜が、少しうつむく。
クソ、本当に嫌になる。
「悪い、言い過ぎた。いつも助かってるよ」
それだけ伝え、朝食をいただく。
味は悪くないが空気と居心地が悪いので、とっとと腹に入れ、
「ごちそうさまでした」
と言い、玄関に向かう。
あらかじめ玄関に置いておいたスクールバッグを手に持ち、靴を履き替え家を出ようとすると...
「あの...!」
突然桜に話しかけられた。
「なに?」
「...ごめ、えっと...どうしてこんなに早く出るのかなって...」
「理由もなく早く出ちゃ悪い?」
「いえ、そんなことは」
「そういうこと。それじゃ」
理由なんか、あるに決まってんだろ。ばーか。
...
.....
.......
いつもより全然早く、学校に到着したはいいが、いかんせんやることがない。
ということで、道場にいくことにした。
まあ、今日は朝練がないことは桜から聞いているし、人がいないことを見込んでだ。
ほんの数週間ほど前は副部長という地位についていたのだが、やっていくうちに的中するのが当たり前になり、
退屈になったので退部した。
なので現在は部外者ということになる。
っと適当に考え事をしていたら、道場に到着した。
荷物を置き、適当にうろつく。
とはいっても大体行き着く場所は、弓道部の練習場になるのだが。
練習場に着くや否やありえないものを発見した。
「おいおい、たるみすぎだろ」
矢が落ちていた。
たぶん誰かしらがあとで反省文を書かされるだろう。
まあ僕にとってはどうでもいい。
...と思ったが気分が変わった。
今強烈に何かを投げたくなった。
矢をつかみ、思いっきり振りかぶる。狙いは真ん中。
ドスンっと突き刺さる。
「案外綺麗に行くもんだね」
思ったよりも綺麗な軌跡を描いた矢が的の真ん中にあたったのを見てそう呟く。
さて、刺さったのを取りにいかないと...
っと靴に履き替えようとしたとき、パチパチという音とともに、
「さすがは間桐。いやー綺麗に行ったね」
「...美綴」
僕の嫌いな奴ランキング2位のが現れた。
「部外者がこんな朝早くに、ここに何用ですか?」
わざとらしくそう聞くこの女。
こいつに投げればよかったな。
「...はいはいとっととでていきますよ。っていうかお前、部員のしつけはちゃんとしとけよ。
置きっぱなしだったんですけど?何、弓道部は犯罪者でも出したいの?」
「...その置きっぱなしだった矢をぶん投げたやつはどこのどいつだ?」
「ックソ、いい性格してるよ、お前」
矢を引き抜き、美綴のもとに向かう。
周りを見渡してみるが、幸いこいつ一人のようだ。
早く矢を渡して教室に行こう。
「ほらよ、片づけといて。僕部外者だし場所わかんないから」
「っは、いい性格してるのはどっちだか」
お互いさまということだろう。
矢を押し付け、スクールバッグ片手に教室に向かおうとすると
「なあ、弓道部に戻る気は?」
唐突にそんなことを聞かれた。
答えなんて決まってる。
「ない。僕、一度飽きたスポーツはやらない趣味でね」
「...部員の陰口のことか、それとも部内の空気のことか?」
胸を針で刺されるような感覚がする。
「なんのことだか?」
「...そうかい。戻りたくなったら戻って来いよ」
その言葉を無視して、教室に向かう。
戻っても居場所なんかない、その言葉を飲み込んで。
...
.....
.......
教室に戻ってからもいつも通りだった。
何も変わらない毎日、避けられる僕。
こんな体に生まれてこなければ。
何度そう思ったことか。
唯一変わるとすれば、衛宮に貸したノートを回収しに行くことだろう。
期限は昨日のはずなのだが、帰ってくる気配がないので、アポ無しで行くことにした。
ぶらぶらと歩くこと数分。
衛宮邸に着くが、家の明かりがついていない。
不在なのだろうか。不在ならこのまま帰るだけ...
パリン
ガラスが割れる音が響く。
まさか強盗かなにかだろうか。
急いで音がした場所へと向かう。
そこにいたのは強盗ではなく、
知らない朱色の槍を持った青タイツと、その青タイツに逃げ惑う衛宮だった。
「そらよ!」
衛宮が吹っ飛ばされ、倉の中に入っていってしまう。
青タイツがそのまま追い打ちをかけようとするので、急いでそこらへんにあった手頃な石を投げる。
投げた石は槍ではじかれ、砕けてしまった。
青タイツの双眸が僕をとらえる。
ただ獣のようにまっすぐと。
「ほう、てめえ新手の魔術師か。それともだれかのマスターか?いずれにせよサーヴァントじゃなさそうだな」
「は?魔術師?悪いけど僕には魔術の才能なんかないよ。今のは普通に投げただけ」
「...おいおい、マジかよ。現代の人間とは思えねえ膂力だな。師匠なら迷わず弟子にしただろうよ」
「まあ...なんにせよ見ちまったもんは仕方ねえ。悪いがここで死んでもらう」
氷のような殺意が向けられる。
青タイツはまっすぐに僕に向かって、持っている槍をふるってくる。
それを避け、相手を観察する。
どうやら相当な手練れらしい。なかなか攻撃をさせてもらえない。
ここは少し危険ではあるが距離を詰めよう。
槍という長物を扱っている以上、相手も超接近戦での選択肢は限られてくるはずだ。
「甘い!」
その言葉とともにまっすぐな蹴りがくる。
しかし僕はそれを待っていた。おそらく子供だということ、非魔術師であるということで油断ができたんだろう。その攻撃を体の軸を使って回避し、右足で脇腹と顎に蹴りを叩き込む。
っが
「てめえ、なかなかやるじゃねえか」
そこまでダメージはないようだ。これでもかなり力を込めたのだが、化け物だろうか?
「殺すには本当に惜しいぜお前。だが、終わり...!?」
突如として突風が吹き抜け、青タイツが吹き飛ばされる。
「誰だ!」
金髪の少女がそこに立っていた。
「サーヴァント、セイバー。マスターの友人の方、助太刀します」
「は?サーヴァント?」
おいおいサーヴァントって聖杯戦争の...?
ってことはこの槍を握っているこいつは...
「ランサー...?」
「ほう、聖杯戦争に関しての知識はあるのか。いかにも俺はサーヴァント、ランサー」
「っというわけでだ。悪いが俺は帰るぜ。どうにもうちのマスターは臆病でな。
どうやら少しでも不利になることがあったら帰らにゃなんねえんだ」
「つーわけで、またなセイバー。それと、坊主」
それだけ告げると、ランサーはどこかに去っていった。
「終わった...のか...?」
ゆっくりと腰を下げ、地面に座る。この際だ、服が汚れるとかどうでもいい。
「お疲れ様です、マスターのご友人。お名前は...」
「いいよ、そんなもん。それよりもマスターの心配してやったら?」
「俺は大丈夫だよ」
そういいながら、衛宮がゆっくりと蔵から出てきた。
大きなけがは特になさそうだ。
「はっ、あんまりにも声が聞こえないもんだから死んだと思ったよ」
「おいおい、随分と辛辣だな」
ゆっくりと立ち上がり、服に着いた汚れを払う。
「...ていうかなんで慎二は俺の家に?」
「え?あー、ノート。お前に貸したまんまだっただろ?それを取りに来たんだよ。
ほら、っとっとと返せ。今すぐ!」
「悪かったって、ちょっと待っててくれ。とりあえず...」
「二人とも」
僕たちの会話をセイバーが遮る。
表情を見るに...
「新手か?」
「ええ、外に二人。しかしこの程度ならばたやすいでしょう」
ひょいと塀を越え、二人とやらのほうに向かう。
まあここはセイバーにでも任せてもらって、僕は衛宮に聖杯戦争の知識でも...
そう思い、衛宮邸の縁側に腰を掛けようとすると、
衛宮がそのあとを追いかけた。
ああ、そうだった。お前ってそういうやつだったね。
ゆっくりと立ち上がり塀まで走っていき、飛び越える。
どうやら、白髪の男とツインテのクソゴリラが対峙していた。
やっぱりお前、参加してたのか。
状況を見るに、どうやら遠坂があと一歩で死にそうなところらしい。
しかたがないので仲裁に入ろう。
「まて、セイ」
「やめろセイバーーーーーーー!!!」
ご近所迷惑極まりないな。
おそらくこのままいっても事態は悪化しかねんので、僕が説明に入ったほうがよさそうだ。
これは骨が折れるぞ。
...
.....
.......
あれから数分。
衛宮と一緒にセイバーの説得に成功。
したかと思いきや、遠坂がずかずかと衛宮の家に侵入。
もしかしてこいつここでヤったほうがいいのでは?
とも思ったが、衛宮に止められたのでやめた。
「うわ、寒。なによ、窓ガラス全壊してるじゃない」
「仕方ないだろ。ランサーってやつに襲われたんだ。なりふり構ってられなかったんだよ」
「ってことはセイバーを呼び出すまで、ランサーと一人でやりあったの?」
「やりあってない。一方的にやられてた。やりあってたのはどっちかっていうと慎二だ」
ノートを回収して言うことだけ言って帰ろうと思っていたのだが、急に話を振られてしまった。
遠坂がジロジロとこちらをみてくる。
「そうなの?」
「さあ?」
適当に返す。
面倒だ。これでいいだろ。
「ふーん、まあいいわ。さて、」
遠坂が魔術で割れたガラスを直す。
...なんかむかついたので一発殴ってやろうか?
...
.....
.......
遠坂と二人で聖杯戦争における基礎知識を衛宮に叩き込み、協会に向かい、神父から説明を受ける。
そして衛宮が下した決断は...
「俺は戦う!」
呆れるな。ここはガツンと言ったほうがよさそうだ。
「おいおいおいおい、正気かよお前?」
「いいか?お前はこれから人を殺すことになんの躊躇もないやつらを相手にするんだぞ?それも12人も。言っておくが相手を殺さないようになんて生温い思想じゃすぐに死ぬのが関の山だ。
ここならセイバーはいない、とっとと2つ使って自害させるか、3つ使って野放しか。どっちか選べ!」
「慎二...でも俺は...!」
「正義の味方でありたいって?はっ、ここに正義の味方の居場所なんかあるわけないだろ。いるのは自分の願望と他人の命を天秤にかける愚か者どもさ。英霊だってそうだ。未来は生者のものだ、あいつら死者はおとなしく墓で眠ってりゃいいんだ。それにさっきのセイバーを見ただろ?もしあの時止めなかったら遠坂が死んでた可能性だってある。騎士の鎧なんか着てぶっちゃいるが、結局はあいつも人殺しだ。それも数多くの命を奪ったであろうな」
怒りを目の前のバカにぶつける。
「1つでも命を奪った瞬間、お前はもう戻れなくなるんだよ。わかったら、あの金髪女と契約を切れ!」
「...できない!」
それでもNoを突き付ける衛宮。最初からわかりきってた結果かもしれない。
「わかった。わかったよ、お前頑固だもんな。ハハッ、...付き合ってらんないね!これ以上は助けてやんねーから!!」
カッとなり、協会を飛び出し自宅へと走る。
途中、外でアーチャーに視線を向けられたが、気にしない。
家の玄関までついたころには、ノートのことなんてどうでもよくなっていた。