仮題【魔術なし 身体能力マシマシ慎二くん】 作:いかのシオカラ
きらした息を整え、玄関の取っ手に手をかけようとする。
...ふと思考する。
ほんとうににこれでよかったのだろうか?
しかし、自分は忠告した。
でも...
自分でも呆れるほど、未練があるらしい。
少し夜風にでもあたってこよう。
「いや、別に会うためとかじゃないから」
だれにいうでもなく言い訳を溢す。
クソったれが。
玄関先に落ちてた小石を握りつぶす。
パラパラと砂が服にかかるが、気にすることはなかった。
...
.....
.......
ぶらぶらと適当に散歩中。
夜の冬木。
このまま何か出るのではないかという気配がある。
心霊的な何かが。
適当に歩いていたら河川敷に来てしまった。
...しっかし寒いな。
時期は二月。
まだ冬の寒さも残っているのので、えらく寒い。
飲み物でも買おう。
ちょうど近くに自動販売機があったので、
ポケットにあった小銭を入れ、ボタンを押す。
ガタンという音とともに青い背景に山が描かれた
コーヒーが落ちてくる。
それを無造作に手に取り、プルタブを開ける。
「あちっ」
そういえば猫舌なんだった。
少し冷ましてから飲むとしよう。
ベンチに軽く腰を掛け、今日のことを振り返る。
桜に起こされ、美綴に絡まれ、青タイツと戦って。
ランサーとは自分でも不思議なぐらい落ち着いた
戦いができたといえる。
不良なんかと喧嘩をしたことは何度もあるが、
それはあくまで喧嘩。
殺し合いと言えるようなものは今日が初めてだ。
それに...なんだろうか。
うまく言葉にはできないが、ランサーと戦うことで
なにかが成長した気がする。
なにかはわからないし、うまく言葉にすることもできない。
ただ、成長したという不思議な実感があった。
冷めたであろう缶のなかのコーヒーを流し込む。
思ったよりも容量は少なく、軽く振ってみたが中身は
ほとんど残っていなかった。
軽く握り、缶を潰しゴミ箱にシュート。
缶は放物線を描き、カランと音を立て、中に納まった。
「行くか」
気持ちを落ち着けることもできたので、そろそろ帰ろう。
家の方角に体を向けた瞬間
「◼︎◼︎◼︎ーーッ!!!」
なにかの咆哮が聞こえた。
聖杯戦争で誰かと誰かがぶつかったか、
あるいは変態が叫んでいるのか。
正直、確認するのは危険極まりない。
しかし、ここで何かしらの情報を得ることによって、
今後何かしらの危機を回避できるかもしれない。
おそらくデメリットよりもメリットのほうが大きい。
速足で咆哮が聞こえた場所に向かう。
そこでは大きな筋肉だるまとセイバー、
遠坂と衛宮が対峙していた。
すぐ近くにいる小さな少女があの筋肉のマスターだろうか。
少し観察してみる。
始まった。
セイバーと筋肉がぶつかり合う。
遠くから見ていても、戦いの激しさがよくわかる。
武器と大剣がぶつかり合い、火花を散らしている。
技量ならトントンかセイバーが上だろうが、
単純なパワー勝負なら筋肉に分があるようだ。
しかもマスターが魔術に関してずぶの素人ときた。
だんだんとセイバーが押されていく。
セイバーが吹き飛ばされた。
細い体で武器を握り、よろよろと立ち上がる。
「クソっ」
徐々に苛立ちが募る。
「遠坂こっちだ!」
小さくだが声が聞こえた。
おそらくあいつをおびき寄せ、
セイバーから引きはがすのが狙いだろう。
だが、そいつは悪手だ。筋肉が衛宮に迫る。
「馬鹿が!」
思わず声が漏れてしまった。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
近くにあった標識を引き抜き、筋肉に向かって投げつける。
重かった分威力は少し低くなったが、威嚇牽制には申し分ない。
標識が河川敷にドスンと突き刺さる。
全員の視線がこちらに向いた。
これから先に逃げるという選択肢はないだろう。
だがそれでいい。
今行動しなかったら確実に後悔していた。
河川敷から歩いて衛宮たちのもとに向かう。
「ははっ、こんな夜中に随分と元気なことだね。人の忠告を無視して、今はすっかりピンチときた。ほんと、どんな気持ち?」
苛立ちをぶつけ、そう告げる。
ちらりとセイバーのほうに視線を向け、
「最優っていっても、所詮はこれぐらいか」
虚勢をはる。
嘘だ。おそらく並みのサーヴァントなら、
すぐに蹂躙されていただろう。
それでもまだ立ち、戦うことができる彼女は
そうとう高名な騎士ということになる。
「こいよ、筋肉ダルマ。僕が相手をしてあげよう」
「誰、あなた?」
少女が僕に話しかけてくる。
随分と冷たい瞳だ。おそらく中身は少女ではないんだろう。
「名前を聞きたいときはまず自分からって親から習わなかったのか?って魔術師にろくな親がいるわけないか。こりゃ失敬したよ、悪く思わないでくれ、わざとじゃないんだ」
少女の冷やかさが数段増す。
これで意識はこちらに向けることができただろう。
「へぇ、言うじゃない。良いわ、教えてあげる。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。バーサーカーのマスターよ。あなたの名前は聞かなくていいわ。だってすぐに殺すから」
「ああ、ありがとう。お前に『誰が教えるかバカ』っていう手間が省けたよ。んで、僕を殺すって?面白いジョークだね。こんどパーティで言ってみたら?大ウケ間違いなしだよ」
「...バーサーカー!」
「◼︎◼︎◼︎◼︎ーーッ!!!」
巨体が迫ってくる。
「慎二、逃げろ!」
衛宮の声が聞こえてくる。
遠坂やセイバーも何か言ったみたいだが、聞こえない。
聞こえたって意味はないだろう。
バーサーカーの大剣が振り下ろされるが、
それをすんでで避ける。
少し距離をとるが、すぐに詰められる。
正直何をとっても僕がバーサーカーを上回るものはない。
しかし、不思議と死神がくる気配もない。
地面に手を当て、叫ぶ
「アンサズ!!」
警戒したのか、バーサーカーが攻めるのをやめ距離を取る。
「...あいにくと魔術はできなくてね」
それだけ告げると、バーサーカーがもう一度襲い掛かってくる。
だが、今の行為で動きを見ることと、
仕切りなおすことの両方がきた。
これはデカい。
ある程度、戦闘における選択肢を増やすことができた。
それに、今僕が発したのは初歩のルーン魔術。
いくら狂化しているとはいえ、それを理解できない
なんてことはないはずだ。
そうなると、向こうには魔術を防ぎきるすべは、
ないのではないだろうか。
実力が未知数の僕の攻撃を恐れたということ線もあるが。
これは今後の判断材料としても役にたつだろう。
ゆっくりと大剣が迫ってくる。
バーサーカーの動きが遅く感じる。
それは僕の挙動も同じく遅い。
ゾーンに入ったのだろうか?
いずれにせよ、ラッキーだ。
大剣が振り下ろされ、地面が揺れる。
大ぶりな一撃なため、顔面ががら空きだ。
ハイキックを一発叩き込む。
っが、ダメージはないらしい。
おかえしとばかりに、今度は向こうが回し蹴りを放ってきた。
回避が遅れ、ガードしたがそれでも大きく吹っ飛ばされた。
「慎二っ!」
声が聞こえた。声の低さから察するに衛宮だろう。
なんつー情けない声出してんだか。
倒れた体を起き上がらせ、少し動かしてみる。
幸いにもガードが間に合ったのと受け身がうまく取れたため
ダメージはそこまででもなかった。
「...まだまだいけるな」
バーサーカーも今の一撃で倒せたとは考えていなかったらしく、
まだまだ元気あふれるようだ。
「魔術も使えない。なのにバーサーカーに吹っ飛ばされてもピンピンしてる。ほんとに人間?」
「さあ?正直それは僕が知りたい」
「...」
黙るなよ。
カチャカチャと鎧が動く音がする。
振り返ると、そこにはセイバーが立っていた。
「ありがとうございます、助かりました」
「別に助けたつもりはない」
「いえ、結果として私は助かったので、礼を」
「はっ、そうかよ。あー、あと言っておくけど別に一緒に戦ってもらわなくていいよ。っていうか邪魔になるからいらない」
「!しかし!」
「息ぴったりの連携攻撃ができるなんてこともなければ、二人が強くなることもない。なら正直行動が阻害されて邪魔になるだけだ。わかったらとっとと下がってもらえる?」
「...あなたにバーサーカーを打倒できるような武器は?」
「それは秘密。なくてもあっても言わないでしょ」
ないに決まってんだろ、人間舐めんな。
「...なんかもう飽きちゃった」
「帰るよ、バーサーカー」
少女はそう告げると、小さな体をバーサーカーにひょいと肩の上に乗せられ
「じゃあね、お兄さんとリンとセイバー、あと...ワカメ。次あった時は殺してあげるから」
「は?」
「バイバイ」
ズンズンと巨体が移動していく。
どうやら戦闘終了のようだ。
レベルアップもなければ、装備ももらえないが、
今の戦闘は貴重な経験値になっただろう。
体が喜んでいる感じがする。
さて、相手が帰った以上、ここにとどまっても仕方ない。
家に戻ろう。
踵を返し、戻ろうとすると
「慎二!」
衛宮に声をかけられる。
「...なに?」
「ありがとう助かった。正直あのまま死んでたかもしれない...」
「...そう。で、それだけ?自分は無能ですアピール?そういうのはネットでやったほうがいいよ」
「いや、礼だよ。助けてもらったからさ」
「別に助けてない。バーサーカーとの実践データが欲しかっただけだ。自意識過剰なんじゃない?」
「...そっか」
「...それじゃ。僕は帰る。お前もそこの金髪剣士みたいに墓に入りたくなきゃとっとと素敵なおうちに帰ったら?」
手短に言葉を告げ、その場を去る。
遠坂やセイバーが特に何も言ってこなかったのが気になったが、考えても仕方ない。
すたすたと足早に帰宅する。
...
.....
.......
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。ってええ!、どうしたんですかその汚れと傷...!」
「お前には関係ないよ。それよりも風呂ってできてる?」
「ええっと、できてますけど...」
「そっ。ありがと」
「あの傷の手当とかって...」
「いいよ別に。ほっとけば治るし」
「...でも、」
「くどい。兄貴なんて放っておいて、お前は予習でもしてろ」
「わかりました。...えっと、救急箱だけテーブルに置いておきますね」
こんな対応をしているというのによく愛想つかさないものだ。
とっとと放れればいいのに。
さっさと風呂に入って寝るとしよう。
寝巻とタオルを持ち、風呂場に向かう。
風呂場につくと電気がついていた。
消し忘れだろうか。
全く、ドジな奴だ
風呂場の電気を消すために扉を開く。
「あ」
「え?」
紫髪の女性がそこで長い髪を洗っていた。
美しい肢体、髪、瞳。正直少し見とれてしまっていたが、
慌てて思考を戻す。
「すみません、間違えました」
扉を閉め、一度仕切りなおす。
ジジイが新しく雇った使用人だろうか?
しかし新人が来るという話はない。
さらに言うならもう夜も夜だ。
使用人なら帰っていてもいい時間だ。
確認のためもう一度扉を開ける。
不思議と足がしびれて少し動かしづらかったが緊張だろう。
「失礼します」
開けると、そこには誰もいなかった。
???
ええ、霊的なあれに出会ってしまったんだろうか?
中に入ってみても、そこには人が出て行ったような跡すらない。
甘いミステリアスな香りだけがその空間に広がっていた。