仮題【魔術なし 身体能力マシマシ慎二くん】   作:いかのシオカラ

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3話

翌朝。

朝食のトーストとコーヒーをいただきながら、思考する。

結局あの紫髪の女性はいったい何だったのだろうか。

幽霊だったのか、なんだったのか。

もしかして...英霊?

…ふと時計を確認してみると、

登校するにはちょうどいい時間だった。

桜は朝練でもう出かけているので、

ジジイ以外誰もいない屋敷に、一言。

 

「いってきます」

 

返答はなかった。

 

...

.....

.......

 

あれから十数時間

途中で柳桐と遠坂の愚痴を話したりしたが特に変哲もなく、

いつもの学校生活と言えるだろう。

現在は古文の課題を終わらせ、柳桐から借りた参考書を

返すために柳桐寺に来ている。

とはいっても、柳桐にすぐに渡すことができたのでとっとと帰るところである。

 

「じゃあ、帰るわ。悪いね、こんな遅くに」

 

「まったくだ。アポがあったといえ、夜分に来るとは。なにかあったらどうするんだ」

 

「なに?心配してくれてんの?...まあ僕なら大丈夫でしょ」

 

「確かにそうだな」

 

「...それじゃ」

 

「応。あまり道草を食わないようにな」

 

「親かよ、お前は」

 

寺の門まで足を進め、屋敷まで帰ろうとしたとき、

ゾワっとするような悪寒と嫌な匂いを感じる。

場所は...

 

「ここか」

 

場所に近づくに際して、匂いの正体に予想がついた。

血だ。

警戒を強め、ゆっくりと足を進める。

匂いをたどると、一つの小さな小屋らしき場所に着いた。

ここの中でいったい何が起こっているのだろうか。

木材などの隙間から中の様子をうかがう。

 

「...!?」

 

血まみれの男性。

それを前にしてたじろぐ魔術師のような見た目の女。

前方にいる黒いボロ衣を羽織った何か。

何かは血まみれの男性を足蹴にし、契約の解除を訴える。

契約をしているということはなにかはサーヴァント。

向こうの女性は魔術師ということになる。

 

っと女性が短剣のようなものを取り出し、胸に突き刺した。

女性の手にあった令呪が消える。

令呪を消すなんて...どういう魔術礼装だ?

もともと令呪のシステムは間桐の人間が開発、導入したものだ。

御三家の人間ですらどうにかする方法をしらないと前にジジイが語っていた

それを消すということはよほど高名な...

まて、女性がサーヴァントじゃないと誰が決めた?

サーヴァントがサーヴァントを使役してはならないというルールはない。

したがって一応ありではある。

さきほど、女性の口からアサシンという言葉が聞こえた。

ということはボロ衣がアサシン。女性がキャスター。

そして倒れている男性がキャスターのマスター、

ということになる。

 

...要は聖杯戦争での殺し合いの場に出くわした

ということだ。

殺し合いに参加した以上は殺されても仕方がない

悪いがここは帰らせてもらおう。

 

そろりと門の方向に足を向けたとき、

視界の隅に襲われそうになるキャスターがうつった。

その瞬間、僕の体は動いてしまっていた。

どうして?

僕自身の思考に追いつかない。

ただ、行動は速い。

木造の壁を拳でぶち破り、アサシンの腹部に一発。

 

「グギっ!」

 

アサシンが大きく吹き飛ばされる。

もろにくらったんだ。ダメージとしてはそれなりにあるだろう。

少し後退したすきをつき、血まみれの男性の体を持ち上げキャスターに押し付ける。

 

「頼んだ」

 

それだけ告げるとキャスターは、納得したのか

 

「誰かは知らないけれど、恩に着るわ。やつはアサシン。わたしが召喚したアサシンを媒介に誰かが召喚したんでしょう。いずれにせよ、この夜闇だと厄介よ」

 

「紹介ありがとう。ただ早くしないとそいつ死ぬよ?」

 

「...そうね。失礼するわ」

 

キャスターが姿を消し、アサシンと一対一になる。

呼吸を整え、目の前の敵に一点集中。

鼓動と風の音がやけに大きく感じる。

お互いが緊張の中、見つめあっている。

先に動いたのは...

 

「ゲシャ!」

 

アサシンだ。

寺の壁を破り、森へ向かって消えていく。

...明らかに罠だ。

しかし、ここを見逃せば次奴と対峙するのはいつかわからない。

今ここでたたいたほうがいい。

心の中で言い訳を溢す。

我ながらひどい矛盾と詭弁だ。

 

っと無駄なこと考えている場合じゃない。

さっさとアサシンを追おう。

森の中に入ると、そこはまさしくアサシンの独壇場だった。

うっそうと茂る木々。風で揺れる葉っぱと独特な空気。

すべてが己の敵とすら思える。

 

「シャアっ!!」

 

木と木の間から影が跳躍し、何かがこちらに投げつけられる。

反応が遅れ、回避が間に合わない。

飛んできたのは3つ。うち1つに被弾してしまった。

右足の太腿に何かが刺さる。

 

「痛っ!」

 

暗い中、刺さったものを確認する。

 

「ダーク...」

 

中世で暗殺などに用いられていた武器。

アサシンにはぴったりではある。

幸いにも毒が塗られている可能性はなさそうだ。

緩んだ気を引き締め、呼吸を整え闇を見つめる。

 

アサシンとはいえ、相手はサーヴァント。

強大な力を持っているならとっくに僕は死んでいるはずだ。

それができていないなら、なにか理由がある。

例えば...強力な武器を持ち合わせておらず、

切り札が宝具しかない。

現状ではこれが一番有力だろう。

聖杯戦争という殺し合い。

手の内を見せずに殺せるならさっさとそうしている。

 

「シャアっ!!」

 

また暗闇からダークが迫ってくる。

今度は回避行動をとることができた。

しかし、何本かかすってしまう。

ダークがかすった部分の衣服が破れ、血が流れる。

 

このままではジリ貧だ。

キャスターを待つにしても帰ってくるかもわからない。

こちらも出血がひどいのでさっさとケリをつけなければ。

考えろ、相手にはなにが有効か。

感じろ、相手にある隙を。

生きるか死ぬか。

終わるか終わらないかの瀬戸際なんだ。

ここでやらなきゃ、死ぬだけだ。

神経が研ぎ澄まされる。

 

「ギシャシャ!!」

 

小さな風を避けるような音とともに、ダークと大きな影が迫る。

回避、だが肩を切り裂かれる。

 

「あっ!!」

 

クソ痛い。だが収穫はあった。

とどめとばかりにもう一度ダークが投げ込まれ、影が迫る。

が、それを1本キャッチし数本は弾き影にカウンターの右フックを一発。

 

「なるほど」

 

こいつが攻撃を仕掛ける際に、必ず風を避けるような

小さな異音が聞こえる。

投げるダークも変化が加わっていないような直線のようなもの。

避け方と反応の仕方がわかれば、こうも容易いものだったのか。

それに目がだんだんと暗闇に慣れてきている。

正直

 

「いける」

 

やれる。勝てる。

脳が反撃の狼煙を上げる。

血液が沸騰し、筋肉が雄たけびを上げる。

体の細胞という細胞が

『勝利』を求める。

ただ喜びを得るだけのものではなく、

間桐慎二として生きるためのものを。

 

アサシンが少し距離を取る。

空気が重くなり、肌がひりついていく。

おそらく英霊の極致である宝具を使用するのだろう。

たった一瞬、隙が生まれた。

宝具という誰かの一生を体現するには、

世界はどうしても一瞬を生み出さねばならないらしい。

難儀なものだ。

 

足に間桐慎二の人生を込め、駆ける。

わき目もふらず、ただ一心に。

一歩。ダークが刺さった右太腿に強烈な痛みが走る。

一歩。体の傷という傷から血が噴き出る。

一歩。体の悲鳴が脳に伝わり、意識が飛びそうになる。

だが、知ったことか。

 

どうやらアサシンも、僕のこの速さは想定外だったらしい。

宝具の構えが一瞬解かれた。

そこに渾身の顔面への右ストレート。

吹き飛ばされるアサシンの体を左手でつかみ、

右太腿に刺さったダークを右手で引き抜き、

そのままアサシンに突き刺す。

最後のダメ押し。

これでダメならすべてが終わり。

自分のすべてを乗せた左ストレートを、

アサシンに刺さったダークに叩き込む。

 

吹っ飛ばされたアサシンはそのまま起き上がらず、

ゆっくりと召されるように消えていった。

 

「勝った?」

 

思考が鈍り、自分でもなにがなんだかわからない。

ただ言えることは、アサシンは消えた。

僕が倒した。

『勝利』した。

それだけは理解することができた。

 

「っっっっしゃあ!!!」

 

ガッツポーズをとる。

それと同時に体が蓄積されたダメージに耐え切れず、倒れこむ。

 

「あれっ?」

 

体に力が入らない。

このまま...

っと思った瞬間、誰かに体を支えられる。

ふと顔をみると

 

「...葛木先生?」

 

「ああ、そうだ。ありがとう、君には感謝しかない」

 

「え?ああ、」

 

思いもよらない人物に支えられたため、

素っ頓狂な声が出てしまう。

 

「...ってことは先生がキャスターの?」

 

「そうだ。...とりあえず、まずはそのケガの治療からだ。キャスター」

 

「了解しました。坊や、話は治療しながら聞かせてもらうけどいいかしら?」

 

「...別にいいけど」

 

...

.....

.......

 

「驚いた。魔術回路もないような人間がサーヴァントを倒すだなんて」

 

葛木先生に抱えられ、柳桐寺の一室に運び込まれ、

治療を受ける。

どうやらキャスターは神代の魔術師らしく、治療魔術はそうとうなものだった。

 

「昔っからバカみたいな身体能力が取り柄でね。そのせいか、魔術主義の我が家では除け者扱いされてきたよ」

 

「そう。あなたも大変だったのね」

 

「...言っとくけど同情はするなよ?死者に同情されるほど落ちぶれちゃ、痛っ」

 

「ほら、動かないの。傷は完全にふさがったわけじゃないのよ?

まあ少し休んでいけばすぐにふさがるでしょうけど」

 

「...クソ」

 

「...それでだ間桐君」

 

先生が唐突に口を開き始める。

 

「私たちは聖杯戦争を辞退しようと思う」

 

「...理由を聞いても?」

 

「...キャスターと愛を育みたいからといえば笑うかね?」

 

「...」

 

先生の目は本気だった。

いつもは死んだ目をしているが心なしか燃えている気がする。

確かにバカみたいなことだと思うよ。

しかしだ。これを笑えるほど僕はえらい人間じゃないもんでね。

 

「好きにすればいいですよ。参加者が一人減るって言うことですよね?だったらここも少しは安全になる。でも、なんだって僕にそんな話を?」

 

「君が恩人だからだ。私たちは君がいなければあの場で死んでいた。確実にな。だからこそ君にだけは絶対に伝えなければならない」

 

「...そうですか」

 

「ああ。もし君に困ったことがあれば、私やキャスターを頼ってくれ。できる限りなら力になろう」

 

「...」

 

...

.....

.......

 

柳桐寺での一件が幕を閉じ、現在は帰宅中。

相も変わらず冬木の夜は冷たい。

キャスターに直してもらったパーカーを深くかぶり、

足を早める。

 

「ねえ、そこの君?」

 

「え?」

 

突然だれかに話しかけられた。

振り向くと、そこには冬に見合わない露出をした女性が

こちらに向かって歩み寄ってきていた。

僕はその場で待つ。

 

「あなた名前は?」

 

「間桐慎二」

 

「年齢は?」

 

「17だけど」

 

「ふーん、そっかそっか」

 

...誰だろうかこの女性は。

でも不思議と嫌な感じはしない、むしろ...

そう思った瞬間、僕は自分の腹を思いっきり殴った

 

馬鹿が!

こんな真冬にこんな露出した女がいろんな質問してくるなんて

怪しさ満点だろ!!

女性を壁に押し付け、そのままストレート。

 

「ちょちょ、ストップストップ!」

 

っがすんでのところで止まる。

 

「あー、えっと、どこから説明しようかしら...」

 

「あたしはアサシン。サーヴァント、アサシンよ」

 

アサシン?

アサシンはさっき倒したはずだけど?

この女嘘をついているのではないだろうか。

 

「アサシンはさっき僕が倒したけど?」

 

「二騎目よ。本来あり得ないんだけどね?」

 

嘘は...言ってないな。

ということはほんとうに二騎目なんだろう。

まあ、アサシンからアサシンが生まれてる時点で

イレギュラーもイレギュラーか。

 

「んで?その二騎目がなんだって僕のところに?」

 

「...わたしのマスターになってもらえる?」

 

「元のマスターは?」

 

「ランサーに殺されちゃった。それで、ふらふらしてたらアサシンを倒す君を見つけて。それで...」

 

「マスターになってもらおうと?」

 

「そういうこと」

 

「そう。じゃ他をあたってもらえる?悪いけど僕は聖杯戦争なんてみじんも興味がないんでね。死にたくないんだ。それにそもそも魔術師じゃないんでね」

 

「...そっか」

 

見るとアサシンから光の粒子のようなものが出始めている。

アサシンの時にも出ていたな。退去するということなんだろう。

 

「ダメだったかー。今度はできるといいなって思ったんだけどなー、ハハ」

 

乾いた笑みをこぼす目の前の女性の頬には涙が伝っていた。

なんだなんだ。

 

「なんで泣くんだよ。なんでそんなに悲しそうなんだよ!」

 

お前らはとっくに死んでて...

あさましい願いのために他人を犠牲にしてて...

でも、これじゃあ

 

「見捨てられないじゃないか」

 

「クソっ!」

 

何か方法は...

...1つ思いついた。しかしそれは最悪の方法。

僕史上最も醜いといってもいい。

だが今はこれしかない。

アサシンの手を無理やりつかみ、背中に抱える。

 

「あとどれぐらいだ」

 

「え?」

 

「あとどれぐらいもつかって聞いてんだ、馬鹿!」

 

「5分ぐらいなら」

 

「わかった」

 

アサシンとの戦闘で悲鳴を上げる体に鞭をうち、全力で走る。

屋根を越え、森を越え、たどり着いたのは柳桐寺。

そこである女性の名前を呼ぶ。

ほんとうに最悪な気分だよ。

 

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