韋駄天は投射呪法に似ていると、禪院直哉は思った。   作:恒例行事

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禪院直哉③

 禪院直哉は苛立っていた。

 

 日頃から女性に対して恨みを募らせ苛立ちを隠そうともしない男だが、今日の苛立ちは女性が原因ではない。

 どちらかと言えば男、そして上司。

 具体的に言うならば、上層部に呼び出しを喰らってイライラしていた。

 

 なんもしてへんけど、なんなん? 

 これでどうでもええ用事だったらぶん殴ったるわ。

 人が気分よく女ボコってる時に呼び出したこと後悔させたる。

 

 今日の被害者はボーダーでも屈指のセンスを持つと言われている女の子だった。

 直哉に負けず劣らずの激情家であり、射撃戦もインファイトも高水準で熟せる万能手(オールラウンダー)。現在B級の隊長を率いている彼女は直哉が呼び出された直後安堵の息を吐きつつ、不快感に顔を顰めたまま初心者狩りを始めた。ポイントを毟られたからだ。

 

 そして毟った張本人は楽しく狩り(・・)をしていたのに妨害された事に苛立っている──というのが、ここまでの話。

 

 ズカズカ足音を立てながら歩いて行く姿を見た人達は端に避けていく。

 道の真ん中をなんの配慮も無く歩き散らす姿はチンピラそのものであり、ボーダーのイメージを損なういい代表例になってしまうだろう。

 ボーダーの広報部は彼が絶対に実力者だと悟られないように外部に必死に工作をしている。

 強ければ許されると勘違いした人物たちが増えては困るし、そういった人物が組織の輪を乱す事を良しとしていないから。

 

 直哉は組織の輪を乱そうとしている訳ではない。

 ただ自分の思うままに生きているだけである。

 公害かな? 

 

 本部会議室前に到着した直哉は扉を開く。

 

「……あん? どういう面子やねん」

 

 ボーダー本部司令、城戸(きど)正宗(まさむね)

 ボーダー本部長、忍田(しのだ)真史(まさふみ)

 本部開発室長、鬼怒田(きぬた)本吉(もときち)

 開発室チーフエンジニア、寺島(てらしま)雷蔵(らいぞう)

 そして彼がボーダー内で最も忌み嫌う女性、A級6位加古隊隊長の加古望と弟子の黒江双葉である。

 

「──来たか、禪院」

「ほんまええトコロで呼び出してくれましたわ。葉子(ようこ)ちゃんにお灸を据えてる最中やったのに」

 

 ぶつくさ文句を垂れながら、不遜な態度で空いてる椅子に勝手に座る。

 この場で最も偉い城戸司令の目の前でもそういう態度を取る辺り逆に一貫していていっそ清々しい。

 僅かに眉を顰めて、城戸は閉口する。

 

「あまりそう言うのは良くないわ」

「顔と身体だけはええを体現するお人やないですか、まだ石鹸みたいなトリガー使ってはるん?」

「石鹸トリガーに穴だらけにされた無様な男もいるそうよ」

 

 クソボケがぁ……!! 

 ギリギリ歯をくいしばって直哉は怒りを堪えた。

 さっきのはいきなり呼び出された事に対する不満をちょっと垂れただけで今のは完全にアウトラインを越えている。

 このクソ女、絶対この後殺す。

 双葉ちゃん韋駄天貸せや、このアマ殺したるわ。

 

「禪院、加古くん。そこまでにしておけ」

「チッ…………覚えとけやクソアマ」

「負け犬の遠吠えね」

 

 寺島は二人の罵り合いを見て早くも帰りたいと思った。

 ただでさえ徹夜続きで体調不良なのに、目の前で喧嘩を起こされてはたまったものではない。

 美味いもん食べながら爆睡してぇ……

 それが彼の今の頭の中を占める言葉だった。

 

「……本題に入ろう」

 

 城戸が告げる。

 直哉としてはそれを妨害するつもりはない。

 説教だろうがなんだろうが、さっさと終わらせて次に行きたかった。

 

 今日はまだ女虐めたりんしなぁ……

 前世で家の女の子をボコボコに虐め抜いて遊んでいた性悪男は、どれだけ虐めても怒られない個人ランク戦というシステムを気に入っていた。

 そんなつもりで作った訳じゃないのに……

 

「君が黒江隊員の改造トリガー、“韋駄天”を使用している映像が出回っている事は知っているか」

「ああ~、はいはい。こないだやりましたわ」

 

 反省することなど何もないと言わんばかりの態度。

 

 一応A級ですらない直哉が改造トリガーでぶいぶい言わすのは良くない行動だ。

 なぜなら、『あの人が使えるんなら俺も使っていいじゃん』と言わんばかりに開発室へとB級隊員が殺到するから。

 チーム戦でシビアな現実を味わい続けている者や個人でマスターに到達している者はそんな甘くないと知っているので問題ないが、未熟で成長途中の彼ら彼女らに高速で駆け回る直哉の姿は少々目に毒だった。

 

「あれ以来開発室に申し立てが殺到しておる! 仕事にならんのだ!」

「それ俺のせいなん? 頭悪い連中の所為やろ」

「勝手に改造トリガー使ってる禪院くんが一番頭悪いことになっちゃうわよ?」

「黙ってろやドブ女」

 

 ドブ男の言う事は違う。

 ダブルスタンダードはお手の物、彼にとって自分を棚に上げる事など造作もない事だ。

 

 俺は双葉ちゃんに許可を得て借りとるだけやし、自分のトリガーにセットしとる訳でもない。

 問題なのは実力も無いのにトリガー(術式)にしか目が向かんアホ共や。

 だから雑魚は嫌いやねん。

 強さ(・・)の本質ってモンを理解っとらん。

 

「だが、事実として改造トリガーを使用した際の適性を考慮するべきという意見も出ている。君が韋駄天に触れなければ、あれほど優れた扱い方をする隊員が居る事など想像もしなかった」

「そりゃあ俺のセンスが優れてただけや。有象無象が武器を強請っても無駄なのはわかりきっとるやろ」

 

 文字通り使用者を選ぶ(ブラック)トリガーならまだしも、たかが一隊員の改造トリガーを全隊員に配って適性を測るなど無駄がいい所だ。

 改造トリガーは所詮改造品。

 弧月やスコーピオンなどの汎用性に優れたメイン武器ではなく、あくまで汎用型のトリガーを弄ったモノ。

 汎用型すらまともに扱えない人間に発展型が使えるわけが無い。

 

「仮に配るとしてもマスター維持者だけにしとくのが丸いやろな。で、わざわざそんな話のために呼んだんか? ぶっ飛ばすで」

「話はここからだ。君の言う通り、ノーマルトリガーを扱えない人物たちに対して改造トリガーを渡す得は殆どない」

 

 当たり前やん。

 雑魚はどこまで行っても雑魚や。

 雑魚に気に掛け過ぎなんよ、この世界は。

 

 直哉にとって溜息が出る程に甘ったるい優しさ。

 呪術によって他者を呪い合う凄惨な地獄で生まれ育った彼からすれば、C級程度の雑魚なんかどうでもいいという価値観で生きている。

 無論ボーダーはそうではない。

 組織が人命を優先していることは理解している、その上で気色悪いと考えているだけだ。

 

 性格が悪い。

 

「────では、逆に」

 

 城戸はつまらなそうに姿勢を崩した直哉に対して、問いかけるような口調で言葉を続けた。

 

「君に韋駄天を渡した場合、どれほどのメリットになるのかどうか、という話だ」

 

 …………直哉は少しだけ瞠目した後、目的を測るために口を開く。

 

「……純粋に戦力向上、それに加えて韋駄天のデータ。あと高速戦闘下での俺の思考パターンでも取れるんちゃうの」

「その通りだ。君を特別扱いする事によって発生するメリット・デメリットを比べれば、その差は一目瞭然」

「だから俺に韋駄天寄越すん? 別に構へんけど、何も変わらんし寧ろ悪化すると思うで」

 

 直哉はクズドブ男だが、それはそれとして全体図を見る能力は備わっている。

 自身を贔屓する事で発生するデメリット程度想像するのは容易だった。

 

「裏で何考えとんのか知らんけど、A級(・・)にしか情報渡さんつもりなら一貫しとった方がええ」

 

 視線がぶつかり合う。

 探りを入れる直哉に対して真っ直ぐと視線を返す城戸。

 

 動揺は見られない。

 

 このおっさん面の皮めっちゃ厚いんよなぁ。

 俺の兄さん方くらいわかりやすければええのに、愛想ないおっさんやわ。

 

「……ま、受けとこかな。タダでもらえるんやろ」

「黒江隊員に作ったのをベースに、雷蔵に作ってもらった。細かい調整は後でするとして、此方でも公式に声明を出しても?」

「あー、好きにしてくれや。目的もわかったしな」

 

 椅子から立ち上がって出口へと向かっていく。

 苛立ちはすっかり鳴りを潜めて、呆れたと言った表情で彼は退室する。

 

「…………ああ、そうや。一個だけ言っとくわ」

 

 扉が開き、廊下へと出てから口を開く。

 

「迅のアホタレに、こそこそするのを止めろって伝えといてな」

 

 扉が閉まって、廊下へと姿を消す。

 僅かな静寂が部屋の中を支配して、その重さに耐えかねたものが口火を開く。

 

「……お見通し、か。末恐ろしい男だ」

「フン、当てずっぽうの可能性もある。わしは今でも反対だぞ!」

 

 忍田が一言呟いて、鬼怒田は不満を露わにする。

 

「強ければ素行に問題があっても特別扱いされる──これが後に生む悪影響は想定しきれん!」

「ですが、迅の予知ではこうするのが現状の最適解です。とれる対策は取っておいた方がいい」

 

 実力はあっても素行が悪い。

 ボーダーは慈善団体ではなく、明確に侵略者から都市を防衛している軍隊組織だ。

 どこまで行っても最終的に戦闘を行うのは若者たちであり、未成年であり、子供。

 その事実から目を逸らす事はできない。

 

 ゆえに、メディア対策室は非常に神経をとがらせている。

 性格の歪んだ男が上位を走り続けるデメリットは大きい。

 

 ……しかし。

 

「……風評ならば幾らでも挽回できる」

 

 静かに。

 色んな感情を含めた言葉を城戸は吐き出す。

 

「人命には変えられない。禪院が韋駄天を所持する事で、大規模侵攻での被害を減らせるのならば……」

 

 結局のところ、ボーダー上層部の懸念はそこだった。

 人命と彼一人による風評、どちらを優先するかと問われた際に──彼らは迷いなく人命を取る。人命には替えられない。5年前にたくさんの仲間達を失った大人達の、最後のボーダーラインだった。

 

 城戸の言葉に頷いた忍田は、一度黒江を横目で見てから発言する。

 

「実際、彼の韋駄天は脅威的だ。……黒江隊員の韋駄天と比べても、異次元の動きをしている。あれを戦闘に使用できるのなら、彼単体の戦闘評価を大きく修正しなければならない」

 

 忍田の言葉に黒江は反応しなかった。

 誰よりも近くで見続けてきたのだ、誰よりもその事実を認識している。アレは韋駄天という名前を持っているだけの完全な別物、その認識で問題なかった。

 

 その様子を隣で見る加古は、随分大人しくなったなと思った。

 入隊したての黒江は優秀さも相まってやや鼻につく態度であった。直哉のそれに比べればかわいいものだが、自分の気に入らない人物への態度は褒められたものじゃなかった。

 

 他人に比べられる事に対して黙ってるなんて、随分成長したわね。

 

 ──ある意味、育てられたのかしら。

 

 普通に考えて大切な隊員と一緒にボーダー内部でも散々な言われようの男がいるのは気になるし気に掛けないわけにはいかない。

 年齢を気にして萎縮する子ではないが、シンプルに相手が悪い。

 禪院直哉は人格者揃いのボーダーで唯一と言っていい程悪辣な人格を持つ。

 害悪と表現する事すら生温い男だ。

 

 拳を握り締め感情を堪える黒江を見て、加古は優しく微笑んだ。

 

「双葉、悔しい?」

「…………はい。とっても」

 

 大人達の会話の側で、彼女は激情を溜め込んでいた。

 

 A級隊員としてのプライド。

 A級最年少隊員としての自信。

 そういった小さな自尊心を傷つけられても、それを糧にして強くなる芯の太さ。

 

 ドブカス性悪男との一年間は彼女に不動の精神を宿らせた。

 

「彼を相手にそう思えるなら、まだまだ強くなれるわ」

 

 加古望にとって、禪院直哉は同期の化け物という認識だ。

 もう一人気に入らない男はいるけれど、彼はそこまで突き抜けていない。射手として鎬を削るライバル。

 

 ────望さんって言うんか。男の後ろを歩けん女は価値ないで。

 

 第一声がそれだった。

 持ち前のレスバ能力で逆に返り討ちにしたが、それ以来悪意のある絡み方しかしてこなくなってしまった。しかも普通に強いので通算で言えば負け越している。

 

 まあ。

 だからと言って引くような女ではないので余計直哉は嫌っているわけだが……

 

 予期されている侵攻は既にA級部隊に情報が共有されている。

 玉狛支部で匿われていた近界民が齎した近界の軌道図はボーダーに大いなる利益を与え、さらに予知というチート能力によって少しずつ対策がなされている。

 

 今日禪院直哉にこの話をしたのも、迅の声掛けによるものだった。

 

 いや。

 今日話せばもっともよい展開になる(・・・・・・・)と提言した迅によって、上層部が判断した。

 

 最後の一言から察するに、それも見抜かれたようだが。

 

 食えない男だ。

 

「手強くなるわね」

 

 それでも、加古望は彼に絡むことを止めるつもりはない。

 禪院直哉という男がどれほど強くなっても、禪院直哉という男がどれだけ悪辣に果てても。

 

 ──その程度を楽しめない女じゃないのよ。

 

 ふふ、と。

 小さな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 開発室へと向かった直哉は寺島より引き継ぎを受けたスタッフにトリガーを手渡した。改造トリガーとも名を打っているだけあって、細かい調整は本人と共にするらしい。

 

 術式と同じで自分だけで弄るからええ、と言いたかったが、直哉にトリガーの知識はない。

 自分の使う得物の事くらい最低限学んどけやボケカスと自身に対して一度暴言を吐いて、戦えん雑魚がスタッフに回るんやから俺はやらんでええと自己正当化した。

 

「禪院さん、これで試してみてください」

「んー、まあええんちゃう?」

 

 面倒くさくなった直哉は適当にあしらった。

 トリガーに韋駄天さえ入れてもらえればそれでいいし、加速する上昇値とかそういうのは自分で触りたかった。黒江に聞けばええやろの精神だった。

 黒江からすれば自分が格上だと認めていていつか倒すと思ってる男がトリガーの調整方法を聞いてくる。

 何とも言えない複雑な感情が湧いた。

 

「ありがとな」

「また何かあったら聞いてください」

 

 ひらひら手を振って、開発室を後にする。

 試し斬りをしたいところだ。

 かつてひっそりと持っていた懐刀を探るような手つきで服の内側に手を入れる。

 

 彼のトリオン体は書生スタイルと呼ばれる古めかしい趣きとなっている。私服も和服で固めているので、いいとこの坊ちゃんという認識がどうにも拭えないはずなのに周りからはチンピラだと思われているあたりが彼の人望を窺わせた。

 

「…………そいやあの(あん)ちゃん、韋駄天と区別するために名前変えたとか言ったったな……」

 

 疾風迅雷とかだったらキレるで。

 改造トリガーなんだから一つ一つの名前が違うことには納得するが、これで変な名前だったらブチギレ案件だ。誰になんと止められようと開発室を血で染めることに躊躇いはない。

 

 そもそも殺人に躊躇いが無い。

 前世で呪詛師も呪術師も呪霊も関係なく殺すことがあったんだから、今更躊躇うことはなかった。一般人の生き死にに興味はないのである。

 

 自分から仕掛けることは流石にないが、ボーダー失格の心構えだ。

 

「ま、後で確認すればええやろ」

 

 いつものように個人ランク戦ロビーへと足を運び、まだ葉子ちゃんはおるかいなと見渡す。しかし残念なことに先ほどまで食い物にしていた女の子は既に姿を消しており、パッとしない顔ぶれが揃っていた。

 

「あー……どないしよ」

 

 マスタークラス(武器ポイント8000)にすら届いてない雑魚では試金石にもならない。

 最低限No.5くらいの攻撃手はいないのか、と獲物を探し始めた。

 

 そして、そんな明らかに近づいてはいけない雰囲気の男に。

 背後から忍び寄る一人の姿がある。

 

「──そこの金髪で歌舞いてるお兄さん。何か探し物でも?」

「……せやなぁ、勝手にモノ押し付けてきたキッショいグラサンカス探してんねん。どっかにおらへんやろか」

 

 背後からかけられた声に返事をする。

 ちょうどええ。

 そろそろこいつとも白黒付けなアカンしな。

 未来が視えるからって、全知全能のように振る舞えると思ったら大違いや。

 

「お前はアッチ側(・・・・)やない」

「ん? なんのこと?」

「俺の事情や、察せぇ」

 

 振り向いて視線を送る。

 旧ボーダーと言われる最古参メンバーの一人で、玉狛支部所属の元S級隊員。人が命を賭して作り上げる(ブラック)トリガーの使い手として長く君臨した、未来視の所持者。

 

「今はただのA級だよ。黒トリガーも渡したしね」

「俺はそこらへんのいざこざはどうでもええ。ただ、裏で手を回して満足げにしてるどっかのバカグラサンが気に入らんのや」

 

 そもそも俺は近界民だのなんだの関係ないわ。

 お前が誘って来たから入ったんや。

 退屈だったから、お前の企みに乗っかった。

 それは間違いないし否定する気はない。

 

「この世界に本物(・・)はおらん」

「……本物?」

 

 呪術の総本山をたった一人で叩き潰せる。

 国そのものを一人で破壊できる。

 そんな圧倒的な“個”を携えた、特級の化け物達。

 強さの本質────即ち、究極的な暴力。

 

 結局のところ、禪院直哉が拘る力はそこにあった。

 小手先の技で相手を欺くような小賢しい力ではなく、何もかもを捻り潰し消し飛ばす圧倒的な力。

 

 禪院直哉はトリオンという新たな力を手にしても、未だ手が届かないと確信している。

 

「せやから、お前みたいな奴見てるとムカつくわ」

 

 ──自分は何もしていない、みたいな呆けたツラしおって。

 

「……なんのことやら。おれはただ、そうしたほうが良いって思ったからやっただけだよ」

 

 直哉のイチャモン染みた言葉に、迅は薄い笑みを浮かべて返事をする。

 

「……ケッ、もうええ。やろか、ランク戦」

 

 アッチ側(・・・・)には、手が届かなかった。

 そして小癪にも、この男の指先によって操られるがままに、投射呪法(韋駄天)が戻って来た。

 

「…………まずは、お前ら(・・・)からやらんとな」

「なになに。急にメルヘンチックな事言い出して」

「ぶっ飛ばすのにも順番があんねん。まずはお前、次にクソ餅、最後にカス女や」

 

 宣言をし、互いに部屋の番号を確認してから中に入る。

 

 始める前に最終的なトリガーチェックを行って、不備が無いか確かめる。

 ブースにある簡単な機材と接続し、情報を眺めている最中に、思わず顔を顰めた。

 

 呪術のある世界から転生した直哉は、オカルトを信じていない。

 だが、時たま何かしらの因果のような出会いをするときもあった。

 

 それは一体何なのか。

 禪院直哉として生まれた呪い(・・)か。

 

「……最悪やな」

 

 ──改造トリガー、韋駄天【(へい)】。

 

 呪いが無い世界で、不吉な因縁を感じざるを得ない。

 

 クソが。

 あんなモンどうでもええ。

 身体中焼け爛れて女として終わった偽物(・・)に潰されるようなゴミに用はない。

 

 いつまでも纏わりついてくんなや、鬱陶しいわ。

 

 苛立ちをぶつけるという名目を掲げ、直哉は仮想空間へと身を委ねた。

 

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