ウマ娘全てに愛を振り撒くデジたんと、そんなデジたんに自分だけを見て欲しいと考えるウマ娘概念 作:こー
「ナナさんっ!!」
そう叫んで一人保健室に駆け込んだのはアグネスデジタル。普段中々しないような焦りや不安や心配などが入り交じった表情をしており、パニックになっていることが伝わってくる。
「……デジタル君?」
「タキオンさん……?」
そんな彼女を迎えたのはタキオン。顔はデジタルのほうを向いているが身体はベッドで横になっているナナの方に向けられている。
「どうしてここに?」
「そ、それよりナナさんは大丈夫なんですかっ?! 倒れたって聞いたんですがっ!」
まくし立てるようにタキオンに迫って言うデジタル。タキオンは普段と様子が全く違うデジタルに少し驚きながらも
「落ち着きたまえよデジタル君。起こしてしまってはかわいそうだ」
「あっ……そう、ですね。で、ですが……っ!」
「今は大分安定してきたほうだね。ほら、呼吸が安定しているだろう?」
「え、あっ……」
視線を誘導して寝ているナナのほうへ。今は普通に呼吸しており、パッと見ではただ寝ているように見える。
「──よかった……ほんとうに……!」
がくりと崩れ落ちて深い息を吐くデジタル。ナナが無事であるということに安心して力が抜けてしまったようだ。
「ただ、危なかったのは事実だ。偶然ナナ君が持っていた薬を飲ませて安静にさせたものの、もし薬が無かったら……。その点では、不幸中の幸いといったところだね」
「……そんなに、危なかったんですか?」
「そうだね……酷い喘息と体を動かせないほどの疲労が共にやって来ていたという感じであった。喘息のほうはこうして抑えられたが、身体は休めなくては意味がない。だからこうして眠って身体を休めているところだね」
「そんなことが……!」
改めて視線をナナのほうへ。よくよく見ると呼吸が深い。深い眠りについている証拠である。
とりあえず、なんとかナナは無事であることは分かった。そこが一段落つくと、デジタルにある疑問が浮かび上がってくる。
「……あの、何故ナナさんは倒れてしまったのかタキオンさんはご存知ですか?」
それは当然の疑問。何が起こってこうなってしまったのかというもの。
加えて今日は選抜レースなんてない普通の日。トレーニングをするにしても無茶をするに至るまでのことはしないと知っているデジタルだからこそ不思議に思っていることであった。
「私も直接その場にいて見たわけではないからはっきりとした真偽は不明だが……運んできた職員や周りのウマ娘たち曰く、休まずぶっ続けで長い時間トレーニングをしていたらしい。途中やりすぎだと注意をしたりしていたようだが、一切聞く耳を持たなかったようだよ」
「ナナさんが……?」
あり得ないという表情で考え込むデジタル。その様子にタキオンも頷く。
「そう、そこなんだ。デジタル君と同じであろう疑問を私も抱いている。しかしそれを話していた彼らが嘘をついていたようには思えなくてね……」
ナナシノゴンベエというウマ娘は、基本的に『良い子』なのである。目上を敬い、話はきちんと聞く、それができる普通の子。そんなナナが周りの話を一切聞かなかったという辺りでその子は本当にナナなのかと思ってしまうほどに信じられないことであるのだ。
現にそのように話した他のウマ娘や職員たちも、まさかあの子がという風にどこか驚きを見せていたとタキオンは思い出す。デジタルの影響か、それなりに顔が知られているナナだったからこそ出てきたものなのだろうとも思う。
「もし、だ。彼らの話を真とするなら、聞く耳を持たない……いや、持てないほどにトレーニングに精を出していたということになる。一体何故……?」
そこまで走りに対して何か思うところは無かったはずだしどうしてこの時期に……、と思考を続けていく。上手く纏められる言葉が見付からないようだ。対してデジタルは、タキオンの言葉にある引っ掛かる。
「……持てないくらいに、余裕がなかった……?」
余裕がない、という言葉にしっくりくると同時にもやもやが加速。覚えのある不思議な感覚を味わう。
「(なんでしょうこの感じ……どこかで……)」
二人が考えはじめてすぐ、ベッドのほうから布団が動く音が聞こえてくる。すぐにベッドのほうへ二人が目をやると、ナナがうっすらと目を開けている。
「……ぁれ、デジちゃん……と、タキオン、さん……?」
「──っ!! ナナさんっっ!!!」
「──へっ……えっ?!」
ちゃんと意識を取り戻してくれた嬉しさから思わず駆け寄るデジタル、そしてなんか起きたら好きな人から迫られるという状況に動揺を隠せないナナ、それをほっとしたようなため息を溢しながら笑みを浮かべつつ見るタキオン。ほんの少ししてナナが再びキャパオーバーで沈みそうになっているところでようやくタキオンが動く。
「デジタル君、ナナ君は起きたばかりだ。まだ安静にさせ続けるべきだと思うがね?」
「はっ……! ……そうでした。というかアタシ、ナナさんになんてことを……!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……あれ、天国はどこに……?」
「ハァ……落ち着きたまえよ君たち」
解放されて少し荒い呼吸になってるナナと、自己嫌悪に陥ってるデジタルを落ち着かせて、タキオンが話を始める。
「それじゃあナナくん。起きたばかりですまないが、話を聞かせてはもらえないかな?」
「? なんでしょう?」
きちんと質問を投げ掛けたタキオンのほうを向いて返すナナ。タキオンはこんなナナが話を聞かないでいたことがいまいち信じられず一種思考するが、尋ねる。
「今日、どうしてあのようなトレーニングをしていたんだい? 君らしくなかったと周囲からの反応もあったのだが……」
「──」
途端、ナナの表情が固まる。一気に無表情に、そして今までなかった壁が現れたような感覚を二人は味わう。
「──すみません」
返答は、拒絶。明確に答えることを拒否している。
表情、声のトーン、話し方からこれまでと違う。ここから先は来るなと言外に言っているようだ。
ここまで拒絶されると思っていなかったタキオンは怯む。これまでの傾向から少しくらいは話してくれるだろうと思っていたようだがこれだ。言葉が出なくなってしまった。
デジタルもここまで壁を作られるのには驚き目を見開いてしまう。
「(……これも、どこかで)」
しかしこれと同時に、またもこの状況に覚えがあると感じる様子だ。さらに二つは独立しているわけではなく、何か一つに結び付いているとも感じる。
「すみません。これは……わたしの問題ですから」
ベッドから立ち上がろうとする。しかし本人の想定以上にまだ疲労が蓄積しているのか、すぐに崩れ落ちてしまう。
「! まだ安静にしておくべきだよ。身体もそうだが、喘息のほうも薬でなんとか抑え込めている状況だ。少なくとももう暫くはここで寝ているといい」
「いいえ、ダメなんです。すぐにでもトレーニングを再開しなければ、遅れを取り戻せない……!」
「遅れ……?」
壁やベッドを用いて無理矢理立ち上がり歩こうとする。何歩か進む度にがくりと倒れこんでしまうが、また立ち上がり歩き出す。タキオンはナナらしくないこの行動に動けない。
「──ゲホッ、ゲホッゲホッ!!」
何度か倒れたり立ち上がったりを繰り返している内に、少しではあるが咳が出始めた。息も荒くなり始めている。だがそれでも足を止めない。
やっと戻ってきたタキオンは、流石に不味いと思いナナのほうに駆け寄り無理矢理ベッドへ戻そうとする。しかしナナは止まらない。タキオンのほうが力が強いため徐々にベッドのほうに引かれているものの、決して抵抗を止めることをしていなかった。
「ナナ、くんっ! 今の状態が良くないことは分かっているはずだろう!? 何故休もうとしないんだ?!」
「離してくださいタキオンさんっ! わたしは……ゲホッ、トレーニングをしに、行かないと、いけないんですっ!」
「デジタル君が君を嫌ったりしているわけでないということは理解したはずだ! ここに来ているのが何よりの証拠! 自棄になるのはもういいだろう?!」
「違いますっ! デジちゃんは関係ないです! お願いですから離してください! そうしないと、わたしは──!!」
「!」
ここでどこから沸いてきたのか、ナナの力が強まっていき、少しずつ反対方向へ歩みを進めていく。
「っ、デジタル君! 手伝ってくれ!」
このままでは力負けすると悟ったタキオンは、未だに思考を続けているデジタルに声をかける。
それで意識が戻ったのか、驚きの様子で二人を見るデジタル。
「えっ! あの、一体何がっ!」
「まだ完治してないのにトレーニングに行こうとしている! とにかく、ナナ君をベッドに戻すんだ! 手を貸してくれ!」
「は、はいっ!!」
二人がかりになるが、力は拮抗している。
「な、ナナさん! どうして……っ!」
「離してデジちゃん! 行かないといけないから!」
「っ……やむを得ないか……!」
タキオンは懐から小型のスプレー状の容器を取り出し、噴射口をナナの顔に向ける。
「すまない、ナナ君」
「なに……を……」
シュッという音と共に散布されたそれを受けたナナは、そのまま身体ががくりと崩れ落ちる。直ぐ様抱えたデジタルはそのままナナをベッドへと戻す。
「ありがとう、デジタル君」
「……タキオンさん、先ほどのは」
「……研究の副産物で出来た睡眠導入剤さ。すぐに目が覚めてしまう程度のものだけどね。その者の体調に合わせてやってくる眠気の大きさが変化するものなのだが、ここまですぐに眠ってしまうということは……」
「…………」
今の薬で、ナナの抱えるものがかなり深刻なものであることを理解した二人。一層ここから動かすわけにはいないと決意を新たにする。
「……そういえばだが、デジタル君。先ほど何か考えていたようだが……?」
「え、あ、その……見たことがあるなって思ったんです」
「見たことがある……?」
デジタルは話す。先ほどのナナの拒絶反応、そして無茶をしようとする様子。二つともどこかで見たことがあると。そこにナナの様子を解き明かせる何があると確信していたため、思い出を振り返っていたことも。
「……確かに、今のナナ君の行動にデジタル君は関わってないと本人から聞いた。となると確かにそこに何かあるかもしれない……」
考えるタキオン。同時にデジタルも思い出すために過去を遡っていく。ついさっきまで思い出していた過去から、少しずつ今に向かって……。
「うっ……あれ、わたしは……」
「あ、ナナさん……」
「目覚めたかい?」
「──そうだ、行かないと──」
「おっと、流石に行かせるわけにはいかないよ」
寝ているナナのおでこを少し力を入れて押さえる。頑張って起き上がろうとするが、起き上がれない。
「くっ……タキオンさん……!」
「大人しく休みたまえよ。何をそんなに君を駆り立てるんだい?」
「…………」
「……言わない、か」
ため息をつくタキオンに、目で訴えかけるナナ。
「……どうしても、教えてくれないんですか?」
「……ごめん、デジちゃん」
苦しそうな表情で、口を閉ざす。そして目線を再びタキオンへやる。
「……どうしても、行かせて貰えないんですか」
「……ナナ君、本当に君はトレーニングをしたいのかい? とてもそのようには感じられないのだがね……」
「……やりたいやりたくないじゃないんです。やらないといけないんです」
「なら、事情を話して私たちを納得させてくれるかい?」
「っ…………」
「内容にもよるが、ある程度は協力は出来ると思うんだけどねぇ。私以外にもデジタル君がいる。三人寄れば文殊の知恵とも言うだろう?」
「……ですが、これはわたしの問題なんです。わたし一人でやらなくてはダメなんです……!」
「……強情だねぇ」
抵抗を続けるナナであったが、再び咳が。身体の向きを横にさせて楽にさせる。
「っ、ナナさん!」
「身体も限界を訴えているように見えるけどね。回復してからならトレーニングなんていくらでもできる。今は休むことが大事じゃないかい?」
「ゲホッ! ……ダ、ダメです……。月末までに、追い込まないと……」
「ふぅン、月末ねぇ」
「あっ……」
いい情報を得たとして目線をカレンダーのほうに向ける。しかし、それらしい情報を見つけることは出来なかった。
「選抜レースはないはず……」
「確か、他の学園主催のレースもなかったはずです……あれ、これにもどこか覚えが……?」
三度目となるこの感覚。ある日に向かって備えている様子のナナを、デジタルは知っている。
「──なんでもないです。二人には、関係ないですから」
──刹那、デジタルの脳内でその言葉が強く響く。
拒絶の意を示すこの言葉を受けたことを、この話し方をされたことを、この状況を、一度経験したことがあるからだ。
『──デジタルちゃんには、かんけいないよ』
呼び起こされる過去のその発言。同時に繋がっていく覚えのあった各要素。そこから、デジタルは一つの結論にたどり着く。
「…………」
一度至ってしまえば、そうとしか思えない。無茶をしようとするところ。走りのトレーニングに関してだけに対して頑張ること。自分の身体を省みないところ……。
意を決して、デジタルは告げる。そうであるという確信を持って。
「──お母さん、ですよね?」
残り最大で三話ほどかと思われます。