ウマ娘全てに愛を振り撒くデジたんと、そんなデジたんに自分だけを見て欲しいと考えるウマ娘概念   作:こー

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ほぼ会話文です


事情を聞くデジたんたちと、諦めて全てを話す幼馴染みオリウマ娘概念

「お母さん、ですよね?」

 

 一瞬、時が止まった。発言者であるデジタルに顔が向けられてそのまま、二人が目を見開いている。もうそれがそうであると分かり切っての発言。そこに迷いなど一切ない。デジタルの目線はナナにのみに注がれている。

 少しの静寂の後、ナナは息を吐きながら作っているように笑ってデジタルのほうを改めて見る。

 

「な、なに言ってるのデジちゃん? そんなわけないじゃん。それに、なんで急に母さんの話になるの?」

 

 声だけを聞けばそんなわけないじゃんという意味で笑っているという風にも読み取れる。しかし、ナナの正面から対峙しているデジタルだからこそ分かる。目が、震えていることに。

 

「……見たこと、あるんですよ。覚えてますよね? 初めて、アタシの前で無茶をしたとき……喘息を発症してしまったとき」

「──っ」

 

 主張を否定さえたのにも関わらず押し通すデジタル。今度はナナの表情が一瞬歪み、呼吸が少し荒くなる。

 ナナを押さえていたタキオンは、その場から少しだけ離れて壁に背中を預けて聞きの体勢に入った。

 

「あの時と似てますよね。ナナさんがすごく頑張ってて、ちょっと頑張りすぎちゃって体調が悪くなったという今みたいに」

「……そう、だね」

 

 立ち上がり、話しながらナナのほうへ距離を詰めていくデジタル。

 

「『なんでそんなにがんばっているんですか』って、アタシは聞きましたよね?」

「……うん。でも、言ったよね。それはわたしがやりたいからだって」

「はい。確かにそう聞きました」

 

 ゆっくりと頷き同意。しかし直後正面からナナを見つめる。

 

「でも、それって嘘ですよね?」

「──え」

「嘘、なんですよね?」

 

 また、静寂。そして再び息を吐きながら笑いを作るナナ。

 

「そんな、そんなわけないよ! デジちゃんには嘘はつきたくないし、何より本心だし!」

「それですよ」

 

 目線を移動させるデジタル。その先は、右のほうにもってきた尻尾を弄る手があった。

 

「アタシ、知ってるんです。ナナさんは何か隠してる時、悲しい気持ちになってる時とかは尻尾を弄る癖があること」

「……」

「これだけじゃないですよ。あの時、いくつかアタシは候補を挙げましたよね。無茶する原因がなんなんのかを。友達なのか、はたまた近々レースがあるからなのかって」

「……」

「その時、最後に『お母さん』なのかと尋ねた際──一瞬顔を歪めて、尻尾を弄る速度が速くなってました。あの時はよくわかってなかったですが……今なら分かります。あの時も今回も、お母さんが関わっているんですよね?」

 

 逃がさないようにずっと目を見るデジタル。ナナが逸らそうとしても、できない。

 もう無理なのかと悟ったのか、今度は渇いた笑顔を作り、深く息を吐く。同時にがくりと力が抜け崩れ落ちた。

 

「……デジちゃんには、かなわない、なぁ……」

 

 力なく笑うナナ。先ほどの笑いとは違う。そこにあったはずの壁が完全に取り払われたような感覚を二人は感じる。

 

「……教えて、いただけますか。ナナさん」

「……うん、話すよ。全部。最初からだから、おかしいところとかあるかもしれないけど……」

 

 一度深呼吸をして、ナナは続ける。

 

「──わたしの母さんはね、すごい人なんだ。日本だけじゃなくて今じゃ海外も飛び回ってて、色んな所に仕事をしに行っているエリート。詳しい仕事は分からないけど、基本的にご飯や欲しいものとか不自由はなかったから、すごく稼いでるすごい人だっていうのはわかってる」

「……そうなんですね」

「うん。わたしがトレセン学園に入るまでは国内だけだったみたいで、ばらばらだったんだけど、大体平均で二週間に一回くらいのペースで帰ってきた。けど、ここ最近はずっと海外にいるみたい」

 

 デジタルは思い出す。そういえば、授業参観みたいな行事ではナナの母親らしき人はいなかったと。

 

「そんな成功してるって言ってもいい母さんがね、わたしにいつも言うんだ。『何か結果を残さないといけない』って。『あなたはウマ娘なんだから学力よりも走りで成績を残さないといけないんだ』って」

「……ふぅン」

 

 珍しくない話だ、とタキオンは考える。全ウマ娘の目指す舞台トゥインクル・シリーズ。そこで好成績を残せば、スターウマ娘として名前を世間に刻み込める。誰もが認めるこの素晴らしい結果を我が子に残させようとする親は少なくない。しかし同時に、思考がかなり極端であるとも思う。

 

「でも……二人とも知ってるように、わたしは喘息持ちだし、そもそも運動が得意じゃないんだ。この前の選抜レースがわたしの全力。それは小さいころからわかってた。だから代わりに、学校のテストとかで結果を残そうとしたんだ。そうすれば、きっと母さんは褒めてくれるって。走るのは苦手かもしれないけど、勉強はできてえらいねって」

「……それは、どうだったんですか?」

「…………当たり前だって、言われちゃった」

 

 上を向いて力なく笑うナナ。勉強して複数の教科で満点を取ったテストのことを報告したとき、こっちを見ないでそのように告げ、それよりちゃんと走りのトレーニングをしてるのかについて聞かれたあの時を思い出してしまい、少し目の前の景色が滲む。

 

「だからその日から、勉強とトレーニングを一気にやるようにしたんだ。もしあの質問をされて、やってないって言うものなら……」

「……もしかして、あの時無茶してたのは」

「お母さんが帰ってくる日が近いときだったからだね。ある程度目に見える成果を出さないと、ダメだったから」

「……」

「……そうやって頑張ってる頃だね。デジちゃんに会ったのって」

 

 今度は楽しそうな、嬉しそうな表情に移り変わる。

 

「あのころ、わたしは勉強やトレーニングばっかりで、余裕なんてなかったんだ。だからめちゃくちゃ避けられてたの。半分仕方ないってあきらめてたところで、デジちゃんと出会えた」

「……ナナさん」

「最初の出会いがあんなのだったのは、多分すぐ他の人みたいに離れていくんだって思ってたからなんだ。でも……デジちゃんは毎日わたしに会いに来てくれた。いつも頑張ってるのすごいって褒めてくれた。カッコいいって言ってくれた」

「……」

「……嬉しかったんだ。初めて、だったから」

 

 あの時から数年経った今でもナナははっきり思い出せる。満面の笑みで自分なんかに接してくれるデジタルの事を。その時、心がすごくどきどきしていたことも。

 

「デジちゃんと出会って、なんだか余裕が出来てきてね。少しずつデジちゃんにも手伝ってもらって色んな人と仲良くしていったじゃない?」

「……えぇ、覚えてます」

「それで、卒業が近づきだした頃に……母さんから言われたんだ。『トレセン学園に行きなさい』って」

「……」

 

 話はだんだんと今に近づいていく。

 

「最初は個人的にあんまり積極的じゃなかったんだけど……」

「……ナナさん?」

「……ほう」

「……ううん、なんでもない。母さんのことを裏切れなかったのもあったし、頑張ってトレーニングを重ねて、補欠だけどなんとか合格したんだ」

「それで、今に至る……というわけか」

 

 そこで一区切りがつく。

 

「『ナナシノゴンベエ(名無しの権兵衛)』か……」

 

 タキオンは寄りかかってた壁から動き出す。

 

「……君の事情は理解したよ。だが、今の状態の君に至った理由がまだ出ていない気がするね」

「はい。ここからが本題です」

「聞こうじゃないか」

 

 一つ間を置き、ナナは続ける。

 

「トレセン学園に入る際、母さんと約束したんです。『最低一つのG1レースを勝ち取る』って」

「それは……」

 

 信じられないといったような表情をつくるデジタルやタキオン。二人は……いや、ウマ娘は全員知っているからだ。G1レースというのがどれだけ過酷なのかを。この世界は重賞を一つでも取れればもうスターであるとされるということを。ましてやG1なんて一握りしか取れないのだということも。

 

「でも、さっきも言ったように母さんは今じゃほぼ海外にいるんだ。わたしがトレセン学園に入ると同時に、そうなっちゃった。だから油断してたんだ。海外での仕事で母さんは忙しくなる。わたしなんか見る余裕なんてない。それにここは全寮制だから、母さんが帰ってくることを考えなくていいって。約束なんて母さんも忘れてるだろうって」

「……まさか」

「……この前、電話が来たんです。母さんからでした」

「!」

 

 無意識か、左腕が震えだしてきているナナ。思わず反対の手をそれを抑え込み始める。

 

「ちゃんとトレーニングはしてるのか、約束は覚えているのか、トレーナーはついたのか……忘れかけていたことを、つきつけられてしまった」

「……」

「加えて……今月末、来るんです。ここに、母さんが」

「「!」」

 

 段々と呼吸が荒くなっていくナナ。そこにデジタルがナナの手を取る。すると少しだけ落ち着いたようだ。

 

「ごめん、ありがとう。続けるね。……わたしの成果を見に来ると同時に、理事長さんに許可を貰いにくるそうで」

「許可?」

「……わたしが、放課後に学園外のトレーニング施設に通うことです。そこで時間ぎりぎりまで指導を受けて、トゥインクル・シリーズに備えれるようにするために」

「!」

「……そういう、ことだったのか」

「……はい。話せることは、全部話しました」

「話してくれてありがとうございます。……辛いことを思い出させてしまってすみません」

「ううん、大丈夫」

 

 タキオンは歩きながら、考え告げる。

 

「確かに、もし本気でトゥインクル・シリーズを制するつもりならば、レースにその身をささげるつもりなら、トレーナーがつく前にそのような施設に行くことは選択肢に挙げられる。学力でいうところの学習塾のようなものだからね。トレーナーによる専門指導を受けるまでならば、間違いではない選択なんだろうさ」

「……」

「ですけど……ナナさんは、どうなんでしょうか?」

「……え?」

 

 身体をナナの正面に向け、続ける。

 

「もし、本当に行きたいというのでしたらアタシは止めません。ですが……そうは見えないんです」

「!」

「教えてください、ナナさん。あなたの本当の気持ちを」

「──わたしの、きもち」

 

 胸に手をあてて、小さく呟くナナ。不安、疑問、恐怖など様々な表情にころころと移り変わっている。そんなナナにデジタルは、笑って答える。

 

「今じゃなくても大丈夫です。ですが、今月末までには自分の中で答えを出していてくださると助かります」

「……デジちゃん?」

「──デジタル君、何を考えているんだい?」

「いいえ、特に何も。ですけど──」

 

 立ち上がって、デジタルは普段見せない勇ましい表情で、こう告げるのだった。

 

「──ナナさんが苦しんでいるのは、見過ごせませんから」




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