ウマ娘全てに愛を振り撒くデジたんと、そんなデジたんに自分だけを見て欲しいと考えるウマ娘概念 作:こー
端的に言うと、二人が結ばれた世界でメンヘラナナちゃんが相思相愛なのに誤解して空回りしまくる話です。
わたしとデジちゃんがそういう関係になってから早くも半年。少しずつではあるけど、距離は縮まってきていた……はず。未だに近くにいてくれると心臓がバクバクして緊張するし、ドキドキしすぎて上手く話せてないとも思う。早く慣れたいけど慣れる気がしない。正直側にいれるだけで幸せだから行動をそんなにしないのが原因なのかもしれない。
でも何もしてないってわけじゃなくて……こ、こいびとつなぎ……とか、……ハ、ハグ、なんかもやった。うんやった。だから、それらしいことはやってきた。添い寝とかは……したいけどわたしが死んじゃうからやりたくない。やったらわたししんじゃうから。
全部わたしからお願いしてやってもらったことだけど、嫌がってる素振りは見せなかったはず。だからデジちゃんもこの関係を受け入れてくれてるんだって、わたしでいいんだって思っていた。
そう、『思っていた』んだ。少し前まで。
芽生えだしたきっかけはデジちゃんのデビュー。選抜レースにてあるトレーナーさんの目に止まってスカウトされて、晴れてデジちゃんはデビューした。
その時のわたしはもうデビュー出来ないし、したところで勝てないって分かってたから、そのトレーナーさんとデジちゃんにお願いして、デジちゃんのサポートをさせてもらえるようになった。それは今でも続いてる。
トレーナーさんはすごい人だった。デジちゃんに対して理解を示しつつ肯定し、さらにデジちゃんの強みを引き出すために様々なことをその身をかけて取り組む。そんなトレーナーさんのおかげでデジちゃんはすごく強くなった。そして、何より楽しそう。
最初からほとんどそうだったけど、時間が経つにつれて二人は互いのことを完全に信頼していた。最早相棒と言ってもいいくらいに。
……わたしなんかよりも、トレーナーさんのほうがずっとデジちゃんとお似合いだ。
近くで二人を見てきたわたしだからこそそう思えた。トレーニングという時間が出来てしまったことで、デジちゃんとの時間は少なくなっていった。
さらに毎日デジちゃんとトレーナーさんが仲良さそうに話をしているのを見てしまっていた。そういったこともこのように思えた原因なのかもしれない。
これだけじゃない。デビューしてから、デジちゃんの周りには常に凄いウマ娘ちゃんたちがいた。
アグネスタキオンさんを始め、キングヘイローさん、テイエムオペラオーさん、メイショウドトウさん、ダイワスカーレットさん、ウオッカさん、スマートファルコンさん、タイキシャトルさんにエアシャカールさん……挙げさせていただくことも烏滸がましいような、凄まじい方々ばかり。
一人ひとりの素晴らしさは言うまでもないと思う。そうなるとどうしても、何にもないわたしなんかよりこういう方々といたほうがデジちゃんのためになるんじゃないのかって今まで以上に思い始めてきたんだ。
……心のどこかで、わたしは相応しくないって分かってた。もっと素晴らしい人がデジちゃんにはいるんだって分かってた。
ふと、今トレーニングをしているデジちゃんの方を見てみる。色んなウマ娘ちゃんに囲まれてのトレーニング、さらに近々レースが控えていることもあって楽しそう。
──わたしといるときよりいい表情してる。
不思議と、前みたいな悔しさはなかった。
悲しくない、わけじゃない。でもそれと同じくらい納得というか、それが正しいって示してる。
──うん、これが正しい。これが正解なんだ。デジちゃんが幸せなら、それは最高の幸せ。
付き合ってくれたおかげで、視野が広がった。前のわたしはデジちゃんに対する想いを制御出来なくて独り善がりだった。
多分だけどデジちゃんは一度受け入れてしまったことで、断りを入れにくい状況になってるんじゃないかと思う。
期間はわたしからしたら決して長くない。でもこの期間分のデジちゃんの貴重な時間を無駄にしてしまったことは償いをしないといけない。
そしてこれ以上無駄な時間を使わせるわけにはいかない。わたしという枷を外して、自分の欲望のまま先へ進むことがデジちゃんにとって一番だから。
わたしから、切り出さなきゃ。それがデジちゃんの幸せで、間違いないんだから。
トレーニング終了後、疲れと嬉しさが入り交じったような表情でこちらに近づいてくるデジちゃんに、わたしは思い切って声をかける。
「……ねぇデジちゃん」
「ん、どうしたんですか? ナナさん」
「あー……っと、その」
……言え、言え。言わなきゃダメだ。
「わたしたち、さ」
わたしはもう十分幸せにしてもらった。次はわたしが幸せにしてあげなきゃいけないんだ。
それがわたしに出来る償いの一つだから。
「……そろそろ、終わりにしない?」
─────
ナナさんとは、上手くいっていたつもりでした。
最初こそあたしの気持ちが中途半端で迷惑をかけてしまったりしてしまうのではないかとも思いましたが、以前よりも自分をさらけ出してくださるようになったナナさんの強い想い、そしてその美しさ、可愛さ、儚さがはっきりと感じ取られるようになり、少しずつではありましたが、あたしの中のナナさんが物凄く大きくなったんです。
今までのようなあたしのオタク趣味のお出かけに加えて……その、で、デート……というものもさせて頂いたり、より深いスキンシップなどもしたりしていくと、すっごく満たされるんです。お出かけなんかはナナさんと一緒にいさせてもらっているだけなのに。それだけで、一人の時よりもドキドキワクワクするんです。
そして、トレーナーさんからスカウトされ、トレーニングをするようにされたあの日。元々あたしの推し活のためにトレセン学園に入学させていただいた身。
勿論トゥインクル・シリーズもその目的で目指していました。いつしかあたしの要望に応えてくださる同志を見つけたいなとは思っていたのですが──あの時期にスカウトをされ、それを受けるには少し抵抗がありました。
何しろ、当時はナナさんとお付き合いをさせて頂いてからそこまで時間が経っていない頃。スカウトを受け、担当契約するということは則ち、トレーニングを行う時間がより多くなってしまい、ナナさんとの時間が取れなくなってしまいます。あたしも寂しくなることもそうですが、長いこと想いを秘められていたナナさんをまた我慢させてしまうことになってしまいます。
トレーナーさんはあたしに凄く理解を示してくださいました。このままお別れしてしまえばまた会うことは難しいのではないかと思うほどに。トレーナーさんを取るかナナさんを取るか、この時はどうすればいいのか分からず、思い悩んだあたしでしたが──どこからかこの話を聞きつけたナナさんがいつの間にかトレーナーさんの補佐としてあたしをサポートしてくださることになったのです。
あの時の言葉を──あたしは今でも覚えてます。
『デジちゃん。わたしね、デジちゃんの輝いてる顔、大好きなんだ。だからさ──近くで見守らせてよ。わたし、全力でサポートするから!』
だから遠慮しないで突っ走って! と、笑顔で背中を押してくださったのです。
なのであたしは、進むことに決めたんです。トゥインクル・シリーズへ。
トレーニングで忙しい日々が始まりはしましたが、出来る限りナナさんとの時間も確保しました。ナナさんは自分の時間を優先してほしいと、休んでほしいと言ってくださることもありますが、今のあたしのプライベートの優先順位第一位はナナさんなんです。それはナナさんもきっと同じだと信じていますが……なのでもっとぐいぐい来てほしいです。なんでしょう、もっとナナさんの素を見せてほしい……。
──コホンッ。と、それは置いておきましょう。今はそれどころじゃないですから。
「──あ、の……。今、なんと?」
今あたしの脳内を超高速で駆け巡り、しかしまだ意味解析が全然上手くできてない言葉があります。それは、先ほどナナさんから告げられてしまったこのお言葉。
「うん……そろそろ終わりにした方がいいんじゃないかなって。わたしたち」
──いや、いやいやいやいやッ!!!
なんでですか?! え、どうして急に?! 昨日までは──いえ、最近どこか元気なさげだなぁとは思ってはいましたけど、まさかこんなことを言われるだなんて思ってもみませんでしたよ!?
え、いやあたしたち、結構上手くいってましたよね?!
しかも何ですかその表情! すごく優しい笑み!!
いつもなら笑顔を向けてくださったことの嬉しさで感激するところではありますが、今回は違います。そこから感じる、何かを諦めたみたいなもの。何か取返しのつかない決意を固めているようで、申し訳ないですが逆に怖いです……。
……いえ、落ち着くのですアグネスデジタル。もしかしたらあたしの早とちりの可能性もあります。まずはもう少しだけお話を聞くことにしましょう。
「そのぉ……ナナさん、何をでしょう……?」
「……わたしたちの、この関係──を、だよ」
……なんで、そんな苦しそうなんですか。なんで、そんなに悲しそうなんですか。なんで、そんな表情でこんなこと言うんですか。
しかも確定です。早とちりなんかじゃありませんでした。
……ナナさん、一体どうして……。最近元気がなかったということはもしかして、かなり深い事情があったりするのでは……。もしそのような事情があるならばあたしに出来ることなら何でもしたいんですけど……。
「デジちゃんも、分かってるでしょ? ……わたしはデジちゃんにふさわしくないって」
……ん?
「デジちゃんにはもっと相応しい人がいるってやっと理解できたんだ」
……んん゛?!
「それに……わたしのせいでデジちゃんが縛られてるって考えると、すっごく申し訳なくて……」
……………………。
「今まで無理させてごめんなさい。でも、これからは──」
「──ナナさん。こっちへ来てください」
「──ふぇ? ちょ、デジちゃん?! 引っ張らなくても歩けるからぁ!?」
─────────
放課後で、もう誰もいなくなった校舎。そこにある誰も使っていない空き教室。デジちゃんに引き摺られながらそこに入った。
入った瞬間、デジちゃんが無言で教室の鍵をロック。誰も入ってこれない、二人きりの状態。
「デジちゃん……?」
「……」
何故デジちゃんがこんなことをするのか分からなくて混乱していたら、突然デジちゃんのほうから抱き締められた。
「──」
数秒、意識が飛んだ。くっついちゃダメって分かってるけど、それでも大好きな人から抱き締められるのが嬉しすぎて。
別れ話を切り出したとはいえ、わたしはデジちゃんが大好きだ。本音を言うと別れたくない。ずっと一緒にいたい。でもそれはデジちゃんの幸せにならないから──。
「……なんで、ですか」
「!」
デジちゃんの言葉で意識が戻った。
そこで気が付く。痛いくらいに抱き締められてること。そして、デジちゃんの声が震えてることに。
「なんで……伝わってないんですか……!」
な、泣いてる……? なんで、デジちゃんが泣くの?
いや、とにかくまずはデジちゃんを泣き止ませないと。伝わってない? 何が誰に? もしかして、デジちゃんがわたしを想ってくれてたこと?
「も、勿論伝わってるよ! だってデジちゃん、いつも気にかけてくれてたし。だから──」
「だったらどうしてッ!!」
別れを切り出さないでくれてたんだよね、という言葉はデジちゃんの叫びにかき消される。
がばっと顔を上げてこっちを睨むように見るデジちゃん。やっぱり、泣いていた。
「どうして、別れようなんて言うんですか……ッ!」
どうして、泣いてるんだろう。これでデジちゃんは幸せになれるはずなのに。薄々感じてくれてたことのはずなのに。
改めて、これをデジちゃんに伝える。
「……デジちゃんが、レースで走ってるときとか、トレーナーさんや他の子と話してる時のほうが楽しそうだったから」
一度付き合ったから、情みたいなのが芽生えてるんだと思う。だから切り出さなかった。でもそれはきっと、本心じゃない。
「わたしは、もう大丈夫。デジちゃんが本当に幸せになることが、わたしの幸せだから。だから」
「~ッ! あたしの幸せを、勝手に決めないでくださいッ!!」
デジちゃんが、ヒートアップしていく。
「どうしてそう思っちゃうんですか?! もう、ナナさんの分からず屋!!」
「……だってそうでしょ!? 付き合って分かったもん! わたしじゃデジちゃんに釣り合ってないって!!」
デジちゃんのほうが分からず屋だ。これからのことを考えたら、絶対このほうがいいのに。
するとデジちゃん、動きを止めてまた震えだした。これは、さらに怒ってる。
「『釣り合い』……? まだ、そんな下らないこと考えてたんですか……?」
「く、下らないって何?! だって、わたしなんかといたらデジちゃんの品が下がっちゃうと思って」
「今、周りからの目なんて関係ありますか?!」
……でも、それでも、わたしがいることでデジちゃんの経歴に傷がついてしまう。
これからもっともっと活躍していくデジちゃんの側に、わたしはいちゃいけないはずなんだ。
途端、デジちゃんが肩を掴んでわたしを固定する。目をそらすことは出来ない。それほどの圧を感じる。
「もう! はっきり言いますよ! あたしはナナさんが大好きだから付き合ってるんですッ! 『特別』なんですよッ!」
「──ぇ」
「トゥインクル・シリーズだってそうです! ナナさん、あなたが背中を押してくれたから、デビュー後も一緒に居続けられると分かったから、デビュー出来たんです!」
「ぇ、ぁ、その」
「それで、ナナさんはどうなんですか?! 本心で答えてください!!」
直球の告白。ここまで直接的だったのは初めてで、脳がフリーズしてしまう。
その回らない頭のまま、言葉の通り本心を告げた。
「だいすき、だよ」
「だったら、それでいいじゃないですかッ!! 確かにこうして人を好きになるのは初めてなので、あたしも誤解させてしまったところもあったと思いますけど、それでもナナさんは飛躍し過ぎです!!」
建前の本音たちが、壊されていく。デジちゃんの温かい心によって。
残るは、この結論に至った根本だけ。一番深い、奥底の部分。
「──こわい」
「……え?」
「デジちゃんは凄く魅力的。その周りにいる方々も凄い方ばかり。だから、いつか捨てられちゃうと思っちゃう」
これが、本心。
デジちゃんの幸せを願って身を引こうとしたことは本当。でも、根底にあったのは卑しい自分勝手なこの思い。
本当はこんなところ見せたくなかった。なのに──。
「……だったら、繋ぎ止めてみせます。形で教えてあげますよ、あたしの想い」
「デジちゃん……」
「だから、もうどこにも行かないでください。ずっと一緒にいてください。それだけで、あたしは頑張れるんです」
「……うん、ごめんなさい」
受け入れてくれた。醜いわたしを。
好きが溢れて止まない。全てがデジちゃんに塗り潰されていく。
「──じゃ、じゃあいきますからね……?!」
「……うん、きて?」
デジちゃんの顔が近付いてくる。
あぁ、進んじゃうんだ。これを越えたら、もう離れられなくなる。でも、嬉しい。わたしは、デジちゃんのものにされちゃうんだ。
目を瞑って、その時を待つ。
──初めては、レモンの味がした。
青春ってイイヨネッ!!