ウマ娘全てに愛を振り撒くデジたんと、そんなデジたんに自分だけを見て欲しいと考えるウマ娘概念 作:こー
なので短編投稿します。
タイトルにはデジたんいませんが、勿論出てきますのでご安心を……!
少しだけトレセン学園から遠い場所。電車で長いこと揺られてついた、名前しか聞いたことがない殆ど知らないところ。
そんな場所にあるカフェで、わたしは人を待っていた。
注文したアイスティーの味が冷たい以外あまり分からない。それくらいに緊張してる。
若干身体が震え始めた。あの時から余裕は出てきたから多少落ち着いている方だけど、それでも起きちゃう。
そんな時は一回深呼吸。身体と心両方を落ち着かせなきゃいけない。
こうなってしまうくらいなら、無理して会う約束なんてしなくても良かったかもしれない。このまま一生会わないことにするのも出来た。
「お待たせ」
だけど、わたしはそれをしなかった。だって、これが必要だと思ったから。
「ごめんなさいね、電車が遅れちゃって」
「ううん、わたしも来たばかりだし大丈夫だよ」
何せ、これから会う相手は──。
「久しぶりね──ナナ」
「そうだね──母さん」
──わたしの母さんなんだから。
────
──
─
「──母さんに会ってみようと思うんだ」
放課後の二人きりの時間。今日はトレーニングが休みだからゆっくりとしていたその時間に、デジちゃんに相談事を持ち掛けた。
わたしの家庭事情を知っているのはデジちゃんとタキオンさんだけ。だからこそ、聞いて貰いたかった。
「お母さんにですか?」
「うん。母さんは忙しいんだけど、今度の休みと丁度同じ日に日本に帰ってこられるらしくて。だからその日に待ち合わせをして会ってみようかなって」
事情をデジちゃんに話していく。段々とデジちゃんの顔が不安そうなものになっていっているのが分かる。
自信過剰のつもりはないけど、心配してくれてるんだと思う。少なくともわたしがデジちゃん側だったら、絶対めちゃくちゃ心配するから。
「……大丈夫なんですか? ナナさんとナナさんのお母さんは、その……」
「うん、そこは大丈夫のはず。あの時の母さんと今の母さんは違ったから」
「そうなんですか……?」
そこは本当にそうだった。結果を残さなきゃ意味がないって詰めてきていた今までの母さんじゃなくて、あの日に別れたっきりの母さんのままだった。口調も朗らかになって、どこかよそよそしいというか、向こうもどうしたらいいのか分からなくなってる、そんな感じ。
「ナナさんがそういうなら大丈夫なんでしょうけど……心配です」
「ありがとうデジちゃん。でもね、正直に言うと……まだちょっぴり怖いんだ」
いくら母さんが変わったって言っても、わたしにはあの頃の記憶が残ってる。
もしかしたら、まだ変わっていないんじゃないか? 全部元通りになっちゃってるんじゃないか? あの時の母さんに戻っているんじゃないか? こんなことを考えちゃう。
考えるだけで身体が震えちゃうくらいには、怖い。
「ナナさん……」
手を握ってくれるデジちゃん。心なしか、震えは止まってきた。
「……うん、ありがとう。でも、母さんはたった一人の母さんだから……このまま会わないのはダメだと思うんだ」
意を決して、今度はわたしから手を握る。そして、デジちゃんのほうを向いた。
「だからお願い、デジちゃん。わたしの背中を押して欲しいんだ。大丈夫だよって、ちゃんと待ってるよって、それだけでいいんだ……!」
深く、頭を下げる。
自分から自分を傷つけに行くようなものなのに、こんなお願いをしちゃって申し訳ないと思う。でも、デジちゃんがもしやってくれるなら、『絶対大丈夫だ』って、そう思えるから。
「お願い、デジちゃん……!」
「……頭を上げてください」
デジちゃんに言われて、ゆっくり頭を上げる。
優しい女神のような顔のデジちゃんが、そこにいた。
「そんなの、当たり前です。本当は心配の気持ちでいっぱいですけど、ナナさんが決めたことなら背中を押してあげるのが彼女なんですから!」
「で、デジちゃん……!」
そのまま抱き寄せられるわたし。デジちゃんの温かさがわたしを包み込む。
「帰ったら、こうしてハグをしましょう。もし辛かったとしたらこうして温めてあげます。もし楽しかったとしたら、その楽しさをハグしたまま教えてください。大丈夫です。何があっても、わたしはナナさんの傍にいますから」
「うん……うんっ!」
わたしからも抱きしめかえす。あぁ、わたしは幸せだ。もう怖いものなんかない。
だってわたしには、デジちゃんがいてくれるんだから。
─
──
────
……とは思ったけども、やっぱり緊張はしちゃうもので……。
「本当に久しぶりね。あれからどう? 学校は楽しい?」
「う、うん……楽しく学んでるよ」
「そう。それはよかった。そうだ、お友達とはどう?」
「うん、仲いいよ」
「そうなの」
ぜ、全然話が弾まない! というか、緊張とか怖さとか色々混じってわたしが上手く話せない!
折角来てくれたのに、これじゃ申し訳ないよ。えっと、何かいい感じの話題を……。
「……やっぱり、まだ私が怖い?」
「え……?」
突然母さんから、そう告げられた。笑顔じゃない笑顔を浮かべたままで。
「無理はしなくていいわ。だって、私はそうされても仕方ないことをしてきたんだから。もし私がナナなら、もう会いたくも声も聞きたくないって思うだろうし」
……こんな母さん、初めて見た。
生まれてから十数年経つけど、わたしはあの母さん以外の母さんを見たことがないのかもしれない。
「ごめんなさいね。早いけど、今日はもうここで──」
「──待って、母さん」
そのとき、感じた。わたしは、母さんのことを全然知らない。
知る余裕がなかったのか、存在しないと思っていたのかは分からない。
そして多分、母さんもわたしが分からないんだ。だから距離を取る。だから、ちょっと遠いんだ。
なら、今のわたしたちに必要なのは……。
「……もう少し、話さない? わたし、母さんのことが知りたいな」
まずは『知ること』のはずだ。
「私のこと……?」
「うん、思えばわたし、母さんのこと何にも知らないんだ。そういう話もしてこなかったじゃない?」
「……そう、ね」
「だからさ、今からやり直そうよ」
母さんの手を握る。
「まだまだ時間はあるよ。ちょっと空回りしちゃっただけ。時間をかけていけば、親子になれるよ」
「ナナ……」
静かに、母さんも手を握り返してくれた。
「そう、ね。……ごめんね、母さんまた間違えちゃった」
「大丈夫。だってこれからなんだから。
早速だけど、母さんについて教えて? えっと最初だから……好きな食べ物は何?」
「そうね、私は──」
────
「ただいま」
「あ、おかえりなさい! ナナさん!」
「……え? なんでデジちゃんが?」
母さんとの話が終わり、トレセン学園に帰宅。すると、自分の部屋にデジちゃんがいた。
シチュエーション的にはめちゃくちゃ好きなんだけど、デジちゃんはタキオンさんと同室だったのに……?
「実はですね、少しの間だけお願いしてここに居れるようにしたんです。……ナナさんを一番にお迎えしたくて」
「デジちゃん……」
「それに、ここでしたらすぐに受け止めてあげられるので」
ちょっとだけ恥ずかしそうに、手を広げて待っていてくれるデジちゃん。
……ずるいよ。そんなの、行くしかないじゃん……!
「……ぎゅー」
「はい、ぎゅー」
ただいまのぎゅー。あったかい。きもちいい。叶うなら、このままずっとこうしていたいくらい。
安心したせいか、少しずつ脱力していく感覚がする。
「……お母さんとは、どうでした?」
「……はなせたよ。やっぱり母さん、やさしくなってた」
「それはよかったです。やっぱり、仲良くするのが一番ですから」
今日は、結果としてすごくいい感じに終わったけど、それまでの緊張とか怖さが凄かった。またあの母さんだったらどうしようって何度も思った。
だけど、デジちゃんが背中を押してくれた。応援するのを当たり前って言ってくれた。
……今の母さんになら、ちゃんとデジちゃんを紹介出来るかもしれない。最初はあんな感じで、いい初対面ではなかったかもしれないけど。
それでも、私は改めて母さんに教えたい。わたしにはこんなに最高の恋人がいるんだよって。
「……いつか、かあさんにいっしょにあいさつにいこうね、デジちゃん」
「はい。………ふぇ?!?!」
慌てるデジちゃんの声が聞こえる。でも、どこか段々と遠くなっていっているような……。
「な、ナナさんそれってもしかし──」
がくん、と身体が堕ちていく。同時に意識も。瞼も。
今日で大分疲れてしまっていたみたい。最後に何か言ってるデジちゃんの言葉を聞こうとしたけど上手く聞けず──そのまま眠りに入ってしまった。
──────
「な、ナナさん?!」
突然倒れ込むようにしてだらんとし出したナナ。デジタルが抱きしめていたため床に落ちるなどの怪我こそしなかったものの、唐突の出来事でデジタルは困惑する。
「大丈夫ですかナナさ──」
「すぅ……すぅ……」
「……眠ってる」
すやすやと、物凄く安心しているようにナナは眠っていた。まるで今いる場所が最高に落ち着くところであるかのように。
「……そっか、今日はすごく頑張ってましたもんね」
ナナとは長い付き合いになっているからこそ、母親に恐怖していたあの時のナナを知っているからこそ、今日という日がナナにとってどれだけ大きいことであったのかをデジタルは知っている。
それを、応援という後押しがあったにもかかわらずナナは乗り切った。たとえ前の母親に怒られるみたいなことにはならないと分かっていたとはいえ、身体が覚えている恐怖を押しのけ、会いに行った。これがどんなに勇気のいることか、デジタルは分かってた。
だからこそ、今こうして自分の傍で安心したように眠ってくれているのが、たまらなく嬉しかったのだ。
「でも、最後のはちょっと不意打ちすぎましたよ?」
プロポーズとも受け取れるようなあの言葉。少々眠たげでもあったため、本音ではあろうが、あまり口にして出すつもりはなかったであろう。故にデジタルも予想外すぎて驚いたのだから。
「……その時が来たら、私の両親とも会ってくださいね?」
ベッドにナナを寝かせた後、起こさないようにそっと──口づけ。
「おやすみなさい、ナナさん。また明日も一緒にいましょうね」
あまり長居するのも相部屋の人などに迷惑になると判断したのか、ここで撤退。ナナは一人となった。
二人の日常はこれからも続いていく。
今はまだ子どもではあるが、大人になってからも、きっとずっと────。
毎年恒例になりつつありますね