ウマ娘全てに愛を振り撒くデジたんと、そんなデジたんに自分だけを見て欲しいと考えるウマ娘概念 作:こー
後半キャラ崩壊があるので注意を。
「ゲホゲホゲホッ!!」
あー……苦しい。まさか昨日のレースから調子が戻らずに朝がくるなんて……。
「う゛ー……」
気管支辺りが痛み、呼吸が弱々しくゼーゼー言ってしまっているのが自分でもわかる。安静にしていたつもりだったけどかなり引きずってしまってたみたい。
「……大丈夫?」
「……ちょっと大丈夫じゃないかも」
ルームメイトの子もめちゃくちゃ心配そうに声をかけてきてくれる。だけどこれはある意味わたしの自業自得だから心配されると罪悪感を覚えちゃう。
とりあえずその子を授業へ送り出して、一人になったわたしは電話で今日休むことを伝える。意外とすぐに了解を貰えた。ありがたい。
デジちゃんには敢えて連絡はしないでいた。余計な心配はしてほしくないからね。いつもみたいに元気いっぱいに学校生活を楽しむデジちゃんでいてほしいから。わたしなんかがいなくてもきっといつも通りのはずだから。
枕を高くして横になる。痰が絡んでるからいつもよりも多めに水分補給を忘れずに行う。気管支を広げるために飲むのは暖かい緑茶で。
こんな風に動かないで安静にしていたら、夕方には少し落ち着いてきた。完全に治ったわけじゃないけど、よくなってはきたほうだと思う。
そういえば、薬がどこかにあったはず。最近飲んでなかったから場所は曖昧だけど、市販で買った喘息の薬が確かこの辺りに……。
……あった。だけど期限切れてる……。仕方ない。買いに行くしかないか……。
本調子じゃない身体を無理矢理動かして服を着替えて荷物を持って部屋を出る。
なんか歩くの辛いなぁとは感じつつ、外を目指す。時計を見ればもう放課後みたいで、そんなになるまで寝ていた自分に驚いた。
なんか変な気持ちになりつつも、まぁでもなっちゃったものは仕方ないかと思い正門へ到達した──その時だった。
「やぁ、『ナナシノゴンベエ』くん?」
「……え?」
声のしたほうへ振り向くと、そこにはアグネスタキオンさんがいた。
え、何でアグネスタキオンさんがわたしに声を……? なんかしたっけ……?
「そんなに警戒しないでおくれよ。……あ、そういえばこうして話すのは始めてだったねぇ」
「あー……そういえば、そうですね」
アグネスタキオンさんは有名すぎて初対面って感じはあんまりしないけどね。主に悪い意味の話がよく出回ってきているから。あとはデジちゃんの話によく出てくることも関係してそう。ルームメイトで仲良くやってるみたいで、いいなぁと思いつつデジちゃんと一緒にいられて普通に過ごせてるのすごいなぁとも思ってる。わたしだったら緊張でヤバイだろうから。
でも、そんなアグネスタキオンさんが何の用だろう? わたしみたいなどこにでもいるただのウマ娘なんかに。怒ってるとかそういうのじゃなくて、むしろなんだか面白そうにしてることから怖いことじゃないっぽいことは予想できるけど……。
「ところで、今は大丈夫かい?」
「え? えぇっと……」
思わず時計を確認。調べるまでもなくドラッグストア閉店までにはまだまだ時間はある。
「あの……すみません、長くなりそうですか?」
「いいや、本当にすぐ済むことさ。ちょっと渡すものがあってね。これからどこかへ行くつもりだったのかい?」
「ちょっと朝から喘息気味で。大分収まったのですが、念のためこれから薬を買いに行こうかなと」
「おぉ、それならちょうどいい。これを渡したかったんだよ」
するとアグネスタキオンさんはどこからか袋を取り出す。なんだか、薬局でもらう感じの小さい袋だ。
「これは……?」
「喘息の薬さ。偶然現在製作している薬の副産物で出来たものでねぇ。昨日のレースのときに発症していたから必要になると思ったのさ。よかったらもらってくれたまえよ。私には必要ない薬だからねぇ」
「え……?」
最初に抱いた感情は二つ。貰っていいのかという驚きと、本当に安全なのかという疑問。だが圧倒的に後者が強かった。その道に詳しくないとはいえ、薬局の人が作ったんじゃなくて学生が作った薬だ。あんまり人を疑うようなことはしたくはないけど、どうしても大丈夫なのだろうかという疑問が先走ってしまう。
「効果の保証は完全にはできないが、安全面の保証はするよ。実験済みだからね」
「……そう、なんですか?」
「そうさ。まぁ試しに服用してみて、効果があれば教えてくれたまえよ。そしたら定期的にこの薬を提供しようじゃないか」
「……」
嘘を言ってるようには見えない。嘘を言ってる人を見抜ける自信からくるものだけど、アグネスタキオンさんは本当のことを言ってるみたいだ。
懸念の一つが晴れた。だけど同時に新たに疑問が湧き上がってくる。
「……なんで」
「ん?」
「なんで、わたしなんですか? なんでわたしみたいな、一般ウマ娘に……?」
そう、そこだ。わたしはアグネスタキオンさんに対して特に大きなことをした覚えはないし、むしろアグネスタキオンさんにとってわたしはルームメイトの友人という殆ど他人のような関係のはず。それなのに急にこうして話しかけてきてくれて、さらに薬をくれている。
「……驚いた。デジタルくんにそっくりなんだな君は」
「へ?」
「自分を無意識下に下に見てしまうようだね。いや、それが悪いこととは言わない。ただ似ているなと思っただけさ」
「……に、似てますか? わたしとデジちゃん」
「デジちゃん……? あぁそういうことか。似ているとも。容姿こそ全く違うが、内面的な部分では似ているね」
「そ、そうですか……えへへ」
なんだかうれしくなってしまった。似ているからどうだというわけでもないのに。
「確か……理由だったかい? それは単純さ。私が君に興味を持ったからだよ、『ナナ』君」
「!」
さっきまで本名だったのに略称になってる。興味を持ってくれたっていうのも本当っぽい。でもどこに……?
「どこに、と聞かれて答えることはできるが、納得はしてくれないだろうね。何故なら君はそういう性格だからさ」
「は、はぁ……」
「とまぁそんなことはどうでもいいんだ。貰ってくれるかい? この薬」
「……えぇ、ありがたくいただきます」
好意を無下にすることはできないからね。効くなら効くで嬉しいことだし、効かなかったとしてもまぁ合わなかったってことだろうし。安全なのは本当っぽいし。
「ところでだ、君はデジタル君と非常に仲がいいと聞く。少し話を聞かせてもらえないかい?」
「え、デジちゃんのですか?」
「あぁ、普段から近くで過ごしてる君の話が聞きたい。どうだい?」
「じゃ、じゃあ少しなら……」
目的の薬は手に入って時間が出来てしまったところにさらなるお願い。なんでこんな話が聞きたいんだろうとは思いつつもついつい口が動いちゃってデジちゃんのことについて語ってしまう。引かれるのは間違いないと思っていたのにそんな様子を見せることもないのでさらにヒートアップしていく。
今までこうして語ったことがなかった反動もあるのかもだけど、次々に言葉が出てきてしまう。そして楽しい。デジちゃんの気持ちがなんだかすごく分かった。
「──で、次は一緒にライブに行ったときなんですけど──」
「ほうほう?」
止めないと、と感じるけども止まらない。止めれない。止めたくない。
タキオンさんも割と面白そうに聞いてくれることも相まって楽しすぎる。
そして歯止めが利かないまま、辺りが暗くなっていくまでこれは続いていくのだった。
──────────
『ナナシノゴンベエさんですか? 今日はお休みみたいですよ』
ナナさんのクラスを尋ねて他のウマ娘ちゃん方からこれを言われたとき、あたしはすごく心配になりました。昨日が昨日でしたから、重症化しちゃってしまったんじゃないかと、ひどく不安になりました。それからのその日はなんだか物事に集中ができませんでした。
本当なら、あの話を聞いてすぐにお見舞いに行きたいと思ったんですが、あたしなんかが行ってもいいのか、お見舞いで無理させてまた重症化したらどうしよう、などが頭を過り行動に移せませんでした。ですが放課後になってようやく一目だけでもと思い至り、少し緊張しながらナナさんの部屋の戸を叩きました。
ですが出てきたのはナナさんの同室のウマ娘ちゃん。薬を買いに行くという書き置きがあったみたいで、帰ってきてからはまだ見かけてないそうです。
それでますます心配になって探しに行くことにしました。喘息はいつ酷くなるのか分からないと聞きます。もし外出した先に重症化してしまっていたら……? 最悪の可能性もあるかもしれないと思ってしまいつつ、校門を目指しました。
たどり着くと、ナナさんがいました。タキオンさんもいます。何やら二人で話しているようです。手元に薬の袋みたいなのがあったことからちゃんと帰ってこれてたんだと安心したのですが────ナナさんの顔を見ると、全てが吹き飛んでしまいました。
苦しそうにしていたわけではありません。むしろその逆、すごく楽しそうにしていたのです。
あんなに楽しそうなナナさん、見たことありませんでした。いつも一緒にいてくださっていますが、その時はどこかぎこちなさを感じる笑顔が多々あったのです。その笑顔が悪いものであったというわけではないのですが、いつか自然な笑顔が見れたらいいなとも思っていたのです。
そして今、眼に映るナナさんの自然な笑顔。それを引き出しているのは、ルームメイトで推しの一人なタキオンさん。
……あたしじゃない。
──チクッ。
そう思った瞬間、なんだか胸が刺されたような痛みを訴えます。さらにモヤモヤとした変な感情があたしを包みます。見たいと思っていたナナさんの笑顔が見れたのに、どうしてこんな感覚がやってきているんでしょう……?
嬉しいはずなのに、なんだかそう感じれない。それどころか、今すぐここから離れたい。
わけのわからない初めてなその感情を前に、逆らうことができずそのまま脚が勝手に動きその場から離れてしまいます。
あたし……どうしてしまったんでしょうか……?
おや!? デジたんのようすが……!