<ブルームス>所属 マチカネフクキタルへのインタビュー
「お待ちしておりました、マヤノさん。今日は不肖わたくしが、あなたの行く末を占って進ぜましょう……! あれ、そういうのはいらない? えええ、私と言えば占い、占いと言えば私というほどチームでポジションを確立してきたはずですのに! よもやここまで来て、この水晶玉を覗き見ないとそうおっしゃる!? マヤノさんは今後の吉兆を確かめたくないのですか!? ヨヨヨ、そんなご無体な……。
えーでは単なる薄幸で非力な乙女と化してしまった私にどんなご用事で……? へ? 事件について訊きたいことがある? そ、それこそっ! 盟神探湯、こっくりさん、おみくじ、スクラッチの出番ですよっ! あの迷宮入り間違いなしの難事件はもはや神の御力に縋らねば解決不能! チーム唯一の巫女として謹んで託宣をこいねがう……だからそういうのは求めてない?
ま、マヤノさん~今日は私をイジメに来たんですか……? 私の存在意義を全否定して、いったいどうなさるおつもりで~。
じゃあ事件のことはいいから、ちょっとお話がしたい? ……それって私と? 一対一で? マヤノさんが!? なんでそんなに驚いてるのって……。だって私ですよ!? 自慢では全くございませんがこのフクキタル、十八番の占いを取り上げられてしまったら、話題なんて何一つ思いつかないのですが……。この様で今をときめくノンストップガールのマヤノさんを唸らせるネタ提供などとてもとても……。
したいのはレースの話だから、安心して……と。ああ……そっち方面の事でしたら、相槌を打つくらいならなんとかまぁお役目は果たせるかも。して、どういったおもむきなのです?
ライスシャワーさんが前回出走されたレースについて? あの神戸新聞杯の事についてですか……なるほど、分かりました。憶えている範囲でお話ししましょう。
2400m中距離、芝、あの日は快晴でしたから、良バ場の発表だったはずです。……とまぁそういったことは、データベースでも調べれば一瞬ですから、マヤノさんがお聞きになりたいことではありませんよね。
気になるとしたらそう……ライスシャワーさんがまさかの五着という入賞ギリギリになってしまった……その辺のことについてでしょうか。
ライスさんにとって、レースに苦手な要素は見たところ無かったはずなのです。我らが<ブルームス>のトレーナーさんも太鼓判を押されていましたし、本人も『頑張るぞー、おー』といつもながら、さぞ気合の入っているご様子でした。さしずめ絶好調といったテンションで臨んだかのレース、見事に一番人気に名乗りを上げたのも彼女でしたね。
それもそのはず、今期のライスシャワーさんはまさしく連戦連勝。G1ではあの日本ダービーで一着、その後も勢いは衰えることなく、続くレースでも勝つわ勝つわ。こう言っては何ですが、G2の神戸新聞杯など今更遅るに足りん! とさえ言ってのけるほどの気迫がライスシャワーさんにはノっておりました。……まぁ惜しくも、あのリトルココンさんが出走したレースでは二着に敗れることも多かったですけど。
では肝心のレース内容はどうだったか……。それをお話する前に、レース前の一幕について言及した方が、マヤノさんにとっては良いかもしれませんね。あの日、あなたはブッキングで応援には来られませんでしたから。あまり広めて良いことでもないかと手前勝手に判断してお腹に収めていたのですが……ついに明かす時が来たようです。
バドックでのパフォーマンスが終了した後、選手達がいったん集合する控室にてそれはあったそうです。……あ、そうです、こっからは伝え聞いただけの話なのでご了承を。なにせ選手しか入れない場所ですので。
迫る出走に備えて、瞑想とも言うべき集中状態にあったライスシャワーさんに話しかけてくる者がありました。それがなんと今話題の<ファースト>のメンバー。彼女は『ちょっと良い?』と、さも緊張を和らげるための世間話を装って、隣の席へ図々しくも座ってくる。むむーっ、いかに同い年の女の子とはいえ、立場的にはレースで競うライバル。それに相手が所属する曰く付きのチームを考えれば、ここは『ダメです』と突っぱねるべきだったと私なんかは思ったりしちゃったり……まぁこの後の展開を知るからこそですけど。
そうなんです、マヤノさん。その図々しい女の子、あろうことかライスシャワーさんに挑戦状を叩きつけてきたんです。『このレース、私絶対に勝つから』と、ここまではまだ良かった。付け加えたのが『あんたのとこのトレーナーみたいな、いい加減なダメ男が指導してるチームに負けるはずが無い』と――。
どうどうどう! 落ち着いてください、マヤノさん。ここにその子はいませんって! わぁ椅子を持ち上げないでください、どうなさるおつもりですか!
はぁっはぁっ……そ、そうです。びぃくーるびぃくーる……。ふぅ、ライスシャワーさんもマヤノさんも、やっぱりそういうとこは似てますよね。
……ええ、お察しの通りです。つまりライスシャワーさんも今と全く同じように、その挑発に怒り心頭になってしまったようでして……『お兄様を侮辱するな!』とそれはもう大変なことに。……ああそうです、トレーナーさんがその場に居合わせなかったのも一因でしょう。でなければ、ライスシャワーさんが語気を荒くするなどあり得ないことです。
あわや大喧嘩一歩手前となったところで、周囲が介入。最悪の事態は避けられたそうです。出走前に暴力沙汰など起こしてしまえば、退場処分は間違いなしなので、実に危ないところだったと言えますね。
しかし一度マックス以上に振り切ってしまったボルテージは早々下げられるものでもなく――いざ開始されたレースの運びはさんたんたるもの。ライスシャワーさんの走りにいつものキレとノビは無く、先行作戦の中団に呑み込まれるようにして失速。そこで無駄に体力を消耗してしまったせいで、最終コーナーからのスパート開始は遅れに遅れ、あえなく五着という結果と相成ったのでした。失態の全てが集中力を欠いたためと断定することは、他人である私にはできかねますが、出走前のゴタゴタがマイナスに働いたのは明らかでしょう。ウマ娘のレースは一瞬一秒、閃光のごとき間に天地の差が生じる過酷なもの。いかにライスシャワーさんに地力があったとはいえ、そのような状態では勝てるものも勝てません。
神戸新聞杯はかくかくしかじかという次第です。思えばあの時から、ライスシャワーさんのご様子は、どこかおかしかったような気もしますね。何かちょっとしたミスをするたびに、怖いくらいに『ごめんなさいごめんなさい』としきりに口にしていましたから……。私やタイキシャトルさんも必死に慰めたのですが……功を奏すことはありませんでした。
そんな時に限って、あのような事件が発生してしまうとは……天の思し召しとはいえ、あまりにもあまりにもあんまりというやつです。八百万の神々にすがるしかない自分の矮小さをあれほど呪ったことはありません。ああせめてシラオキ様のお導きがあれば……!
へ、ライスシャワーさんと言い争った子の名前? ああ、私そんな大事な事を言い忘れていましたか。えーっと……あら? いえ、待ってくださいそんな目で見ないでください、ちゃんと憶えています。ただ、ぱっと口から出てこないだけでして。なにぶん名前も何も後からさらーっと聞いただけのことですし、ライスシャワーさんのお気に障ってもよろしくないかと、これまで口外してこなかったゆえに……。
確か……確か。……すみません、もうちょっと待っていただけます? そもそも本当に名前を聞いていたのかって? そりゃもちろん……いや、違ったかも? こんなセンシティブな話題は匿名で噂されるもの? あー言われてみればそうかもしれません――」
その後、三十分ほど続行したが、マチカネフクキタルが有力な情報を口にすることはなかったので、インタビューを終了。