「ライスシャワーさん、何があなたをそこまで……」
第三グラウンドのトリックが開かされてもなお、真実を認めようとしないライスシャワー。異変を察して立ち上がりかけたフクキタルを、私は右手で制した。
「フクキタルさんは下がってて。これは私とライスちゃんの真剣勝負なの」
「ええ!? いったい私には何が何やら……」
「フクキタル、これはつまりそういうことなのデース」
「ぜったいタイキシャトルさんも分かってない~」
がやがや言いつつも、後ろへと引いてくれる<ブルームス>の皆。私はライスシャワーと向かい合うようにして、教室の真ん中に立った。
「さっきからマヤノちゃんの言葉は、推測ばっかり。良く聞いてれば全部ただの状況証拠だけだもん。そんなのはたまたまそうだった――だけで片付けられる。トリックだってなんだって……だいたい、デスソースにしたってクレセントエースさんが実際にそれを持っていた証明はできるの?」
「できます」
「言い切るんだね」
私はスマートフォンを取り出すと、最大音量で音声ファイルの一つを再生した。クレセントエースに聞き取りを行った際に記録したものだ。
「彼女は私のインタビュー中に確かにこう発言しました。『甘いもの好きなマックイーンさんなどは、さぞ嘆かれたことでしょうね』と。これはいったいどういうことですか?」
「どうって……そのままの意味じゃないの?」
「犯行に使われたのはにんじんデスソースです。事件当日、食堂ではそのソースがそっくり全部無くなっていたという別の事件が発生していたのですが、これは間違いなく水筒事件と同一犯の手によるもの。にんじんデスソースは非常に高価で貴重とのことでしたから、入手経路は他に考えづらいからです。
ではなぜメジロマックイーンさんの名前が彼女の口から出てくるのですか? 彼女は辛いソースが好きと言う話は聞いたことがありません」
「っ……」
目に見えて怯むライスシャワー。自分の弁護をしている者の劣勢を悟ったか、クレセントエースがとっさに口を開く。
「それはその……いたずらがあったからよ。何者かが、デスソースとはみちつソースの二つのラベルを入れ替えていた――」
「喋ったらダメ!」
途中で慌てて制止しようとしたライスシャワーだったが、残念ながら一足遅かった。
「今のは事実上の自白と言えますね……クレセントエースさん。なぜあなたが、ラベル張り替えのいたずらを知っているんですか?」
「……ダメ、クレセントエースさん。答えちゃいけない」
「ライスちゃんは黙ってて! 私はこの子に訊いてるの。それとも、喋ったら不利になる理由に心当たりがあるとでも?」
唇を噛んで押し黙るライスシャワー。一方、ほとんど涙目になりながらクレセントエースがおずおずと続ける。
「ラベル張り替えは……あのいたずら好きのスイープトウショウがやったことでしょ? あの子のやんちゃっぷりは皆知ってるもの。私が知ってたっておかしくないじゃない」
「私が言いたいのは、よしんばいたずらの有無を知っていたとしても、それが直ちにはちみつソースとデスソースの二種に限定されるのが不思議だ――ということです。デスソースが空になっている情報は、事件当日の午前中に食堂へ行けば問題無く得る事ができたでしょうが、はちみつソースとのラベル張り替えに関しては違う。なにせこの事実は、生徒会すら把握していなかったのですから。それを知っていたのはいたずらの張本人たるスイープトウショウさんと、彼女の監督役のフジキセキさん。そして調査をしていた私の三人だけ。そこに例外がいるとすれば、すなわちそれは犯人であるあなたをおいて他にいない。……違いますか」
クレセントエースは、弱々しく首を横に振るだけだ。
「納得できないというのであれば、もう少し説明を加えましょうか。他の皆さんからしても、これだけでは何が何やらといった感じでしょうし。
――あなたは事件前日の深夜、ひそかに寮を抜け出して食堂へ行った。犯行に用いるデスソースを大量に入手するための行動でしたが、それを試みたところすぐさま異常に気が付いた。はちみつソースとデスソースのラベルが入れ替わっている……。いかに容器の形状が同じで、色合いも似ているとはいえ味や匂いも全く別。多量に採取しようとすれば、いたずらを看破するのは容易だったはずですからね。
さて、はちみつソースの容器から目的の物を取ろうとして、あなたはふと思いついた。このいたずらを上手く悪用すれば、ソースを取った罪をスイープトウショウになすりつけることが出来るのではないか、と。真相を知っているのは自分しかいない……ラベルさえ元に戻してしまえば、元からあまり信用されていないスイープトウショウさんが、そのままお縄につくだろう。
デスソースはその希少さゆえに、残り分量を多くのウマ娘が気に掛けていた。全部使い切るわけではないにせよ、一食分以上は確保しようとしていたあなたにとって、この策はまさに天啓だったはずです。上手くやれば少しも疑われることなく目的物を入手し、犯行に及べるわけですから。
そしてもしも、水筒への混入に成功してリトルココンさんがデスソース入りのドリンクを口に含んで倒れたとすると、真っ先に疑われるのはスイープトウショウさんです。まさしく一石二鳥ですね。
明くる朝、生徒会に一通の匿名文書が投函されます。その内容は今しがた申し上げたことをそのまま踏襲したもの。一報を受けて駆け付けた生徒会一同が目にしたのは、きちんと元々のラベルが備わった二つのソース。そして案の定、デスソースの中身は空っぽとなっていました。匿名の人物が誰だったのかは、もう推察する必要もありませんね」
「いや……そうとも言い切れないよ。マヤノちゃん。ラベルの張り替えにしたって、犯人でなければ分からないってほどじゃない。例えばスイープちゃんに直接聞いていれば、知ることができたはず。一週間もあったんだから、それくらい可能だよね?」
「残念ながらそれは不可能です。なぜならば、私はスイープトウショウさんとある取引を結んでいたから。それは『冤罪を晴らす引き換えに、水筒事件の真犯人が捕まるまで、一切いたずらについて口外しない』というものです。またさらに、スイープトウショウさんは『マヤノちゃん以外は誰も信じてくれなかった』とも言っていました。したがって、やはりラベルの張り替えを知る者は三人以外いなかったという前提は覆りません」
「なら……そう! スイープちゃんがいたずらしてから、誰かがデスソースを盗み取るまでの間! この期間に食堂で確認をしていれば、知っていたっておかしくない」
「スイープトウショウさんがいたずらを行ったのは消灯時間を過ぎた深夜。加えて、ソースの消失が発覚するのは明朝すぐです。でなければ、はちみつソース入りのコーヒーを毎朝愛用していたらしいトウカイテイオーさんが、ラベルの張り替えに引っかかっているはず。しかし現実にはそうならなかったということは、窃取も張り替えと同じく誰も居ない深夜か、早朝の間に行われたと見るのが正しい。
それともわざわざ夜中に寮から忍び出て、食堂へ行って、二つのソースのラベルを確認した後、何もせず寮へ帰ってぐっすり眠る……なんて奇行をしたとでも?」
「っ……。私には深夜のアリバイがあったと言ったわよね? 何ならこの場で同室の子に訊いてくれてもいい」
かすれ声のクレセントエースがまくし立ててくるが、それも今更のことだ。
「深夜、ずっと起きてお互いを見張っていたわけでもないでしょうし、それは確固たるアリバイとまでは言えません。実際、私も窓からこっそり抜け出すのに成功しましたから。というよりむしろ、消灯の時間までの目撃証言がある方がこの事件では不都合なんですよ。
なぜなら先ほど申し上げたように、事件はスイープトウショウのいたずらの後に、犯人が食堂へ行くという流れだった。食堂が閉店するのは消灯時間の二十二時よりは前ですから、一人で自由に行動できる時間が多くある場合、それより先にソースを取りに行くことができたことになる。つまり、ラベルの張り替えを隠蔽する者がいなくなってしまう可能性があるわけです。……例えば犯人候補の一人であったクラヴァットさんなどは、この理由からも推理から除外されています」
「っ……!」
とうとう反論の糸口を失ったのか、ライスシャワーは一歩後ろへ下がった。クレセントエースはいつの間にか、頬から大粒の涙をぽろぽろと流し始めている。
長かった推理合戦もようやく決着の時が来たようだ。私が一息つこうと椅子に座ろうとしたところで「ちょっといいですか?」とフクキタルが恐る恐るといった様子で手を挙げた。
「議論も一段落したようですし、ずっと気になっていたことを。さっきタイキシャトルさんもおっしゃっていましたが、そもそもなぜライスシャワーさんはクレセントエースさんをこんなにも庇っているのです? マヤノさんに噛みつくようなことをしてまで……」
「……それは……その」
これまですらすらと出てきていた言葉が、途端に喉でつっかえた。おそらくフクキタルだけでなく、皆その点が一番気になっていることだろう。それは私も良く分かっているが……。
「水筒を零すなんて手を選んだのがまず不思議デース。毒物か何かが入っているのを知ったなら、フツウはまずそれを皆に伝えるのでは? クレセントエースさんを庇うにしても、自分だけが悪者になるような方法を選ばなくても良かったはずデス」
「その通りです! せめて同じチームの私達には真相を伝えるとかくらい……。そんなに、信用してもらえていなかったのでしょうか……私」
「違うよっ!」
落ち着き払っていたそれまでとは一変して、ライスシャワーは感情的な声を出した。
「<ブルームス>の皆は大好きだよ……。ライスがどんなにダメな子でも、皆全然気にしなかった。たくさんたくさん一緒に遊んでくれたし、走ってくれた。本当に感謝してるの……でも」
屈みこんで泣いているクレセントエースを見下ろして、彼女はまた低い声に戻って続けた。
「でも、皆やっぱり分かってない。この推理を本当にしたら、この子がどうなってしまうか、誰も理解していない。マヤノちゃん……マヤノちゃんは、違う?」
「……分かってる。……にんじんデスソースに実際のところ殺傷力があったかはさておき、誰かの飲み物に走れなくさせる意図で異物を混入させた――その事実が、レースに出るウマ娘にとってどれだけ致命的か。……ちょっと考えたらすぐに分かるよ。
少なくとも今シーズンの出走は絶望的になる。場合によっては来期もまともにレースには出させてはもらえない。トレーニングの参加にも間違いなく影響が出る。利用施設には大きく制限が掛かるだろうし、チームでの合同練習なんてもってのほか。たぶん、一人きりで延々と土手を走るくらいが関の山になるだろうね。……ううんそれより多分もっと酷いかな。最悪、トレセン学園にいられなくなる。停学じゃなくて、退学処分が飛んできてもおかしくない。
でもきっと何より一番つらいのは、他の皆から今後はずっと『そういった』目で見られるっていうこと。あの子は勝つために手段を選ばない、そのためにどんな汚い手でも使う――そんな過去を持っている子と、笑顔で一緒にレースに望める子がどれくらいいる? 想像するだけで、恐ろしい末路だよ」
クレセントエースの泣き声がいっそう大きくなる。もうほとんど犯行は明らかになったようなものだが、まだ彼女は自身からそれを認めてはいない。……認められるはずが無いだろう。
「なら分かるでしょう!? こんな推理をしたって誰も幸せになんてならない! 隠したままの方が良いの! ライスはね……知ってるんだよ? この子がとってもとっても練習してきて、いっぱいいっぱい頑張ってきたって。そうじゃなかったら、あんなに速く走れない。あんな長い距離を走り続けられない!
……マヤノちゃんも聞いたかな? ライスね、この子に神戸新聞杯で一緒に走った時に言われたんだ。『いい加減なダメ男がトレーナーのチームに負けるはずが無い』って。最初はお兄様を悪く言われたと思ってかーっとなっちゃったけど、でも続きを聞いてすぐに違うって分かった。『私は誰よりも努力してるから。才能なんかなくったって、練習量も食事量も睡眠時間も、何もかも自分で計算して緻密に築き上げてきた。だからダメ男に頼り切りのあんたなんかに負けられない』……。
凄いなって思った。そんな難しい練習をしてきたこともそうだけど、なによりその自信が。なのに私は全然ダメな子で、練習メニューもお兄様に頼ってばっかり。これからもずっとそれで良いって思ってた。お兄様が教えてくれることを、そのままやり続けていさえすれば良いんだって信じ切ってた。……でも気付かされたの! ライス、一人じゃ何もできないんだって! クレセントエースちゃんが教えてくれたの!」
「だからって、それとこれとは話が違うデショウ! 友情とは罪を被ることではありまセン!」
「知らないよそんなのっ! ライスは正しいとか悪いとか、そんなことのためにやってるんじゃない! 走っていて欲しいの……! クレセントエースちゃんに、ずっとずっとこれまでと同じように走っていて欲しい! 私を颯爽と追い抜いたあの時のように! そのためなら、ライスなんだってやるよ……!」
「こんなものを書いたのも、そのため?」
私は持ってきていた例のカードをポケットから出した。その途端、ライスシャワーの元から青かった顔色が、いよいよ土気色に近くなる。
「……ライスね、明日で退学するつもり。お兄様にももう相談した」
「ちょちょちょっと! いきなり意味不明ですよ!」
「だってもうそれしかない! 頭の中がぐちゃぐちゃで、何も考えたくないの……。皆には迷惑ばかりかけて、不幸はどんどん重なるばかり。でもどうしても真実は口にできない! そうしたら終わりなの……!」
「おかしいよそんなの! ライスちゃん、二度と走れなくなるんだよ! トレーナーちゃんと約束したんじゃないの!? 青いバラになるって……!」
「あはは……マヤノちゃん。ライスはね」
急に乾いた笑いを少しだけ漏らして、ライスシャワーは小さく口にした。
「お兄様みたいになりたい。……なるの。自分が綺麗に美しく咲くんじゃなくて、こんどはライスが咲かせる側に。青いバラは別に誰がそうなっても良い。ライスじゃなくったって良い。レースで何度も勝って、ライスは十分幸せを貰えた。だから、今度はライスの番。……そうありたいの」
私はもうなんと声をかければ良いか分からなくなって、後ろの椅子にへたり込んだ。推理や論証ならいくらでもまだ口にできたが、今のライスシャワーに対して言うべきセリフは一句たりとも思い浮かばなかった。呆然としていると、涙が勝手に溢れてきて頬を伝った。
「これでお終い? マヤノちゃん」
「……マヤノさん、マヤノさんしっかり!? ……ええい、ですがライスシャワーさん、そんな意地っ張りはもう通用しません。マヤノさんの推理は完璧でした。真犯人はクレセントエースでしかありえません!」
フクキタルが燃え尽きた私の後を引き継いでくれる。しかし、ライスシャワーの微笑みは崩れない。
「ううん、あんなのじゃ全然ダメ。結局出てきたのは言葉だけの証拠。ラベルがどうとかだって、あんなのはちょっとした言い間違い、憶え間違いで済む話。それはそうだよね、一週間も経っているんだから、物的証拠なんて出る訳が無い」
「ぐぐぐ……ああ言えばこう言う!」
「ワタシ、勉強したことがありマース! 確か法律では証明責任の転換というものがあって、この場合マヤノさんは合理的な疑いを差し挟む余地のない立証を、例え状況証拠のみとはいえ積み上げていると言えマス。それに疑義を呈するというのなら、そちらからもクレセントエースさんが犯行に関わっていなかったという証拠を提出すべきデス!」
「タイキシャトルさんが何を言ってるのかは良く分からないけど、それはたぶん裁判所だけでの話だよね? ここはトレセン学園の中で、しかも未成年者だけが集まった空間。そんな形だけのルールには何の意味も無いよ」
「今のはあくまで引用デス! ともかくワタシが言いたのは状況的に確実に検察側が有利ということデス! 大人しく投降してくだサ―イ!」
「しない! だいたい、そういう路線で攻めるならせめて生徒会長くらいは裁判長役として呼んできてからにしてね? ……マヤノちゃん、ライス言ったよね? 本気でやってくれるのかって。蓋を開けてみればこれは何なのかな……。集まったのは両チームの、それも事件関係者だけ。会長どころかたづなさんも理事長代理も……お兄様だっていない! ……結局、ライスと同じなの。ぜーんぶ隠して、秘密裏に決着しようとしてる。誰も傷つかないように。
それなら最初から推理なんてしなきゃいい! どうしてそんな簡単なことが分からないの!?」
何か言い返そうと思いはしたが、嗚咽のせいで上手く言葉になってくれない。涙に濡れた視界の中では、ライスシャワーの顔すらぼやけて見える。こんな時に限って自分の肉体の幼さが憎い。トレーナーちゃんが良く言ってくる言葉が蘇る――『マヤノはまだまだこれからなんだから、無理しちゃダメだ』。それってつまりこういうこと? 私ではやはり務まらなかったか?
いいや違う……心の底で思っているからだ。このままライスシャワーが学園を去ってくれたら、トレーナーちゃんを独り占めにできる。そんな世迷言が、この期に及んで残っている。そうじゃなかったら、こんなにも舌が重くなるはずが無い。こんなに悲しい気持ちになるはずがない。
「いいよ。じゃあ水筒を零したのがわざとだったってことは認める。とっさについた嘘だったけど、今から思えば無理があったね。それなら……ライスはリトルココンさんが憎くて、嫌いだから意地悪しようと思って水筒を零したってことになるのかな。ははは……おかしいね。マヤノちゃんが、あの日最初に言った通りになったよ。……そんなに泣かないで、これでいいんだから。不幸になるのはライスだけでいい。悪い子のライスだけで」
歌うようにくるくる回って、彼女は笑った。
「ありがとう皆。こんなライスを全力で引き留めてくれて本当に嬉しかった。……けど、さよならを――」
「ライスちゃんのバカ!」
「きゃっ!」
突然、それまでずっと沈黙を保っていたハルウララが唐突に椅子から跳ねた。ライスシャワーに突進をかまし、そのまま教室の床に押し倒してウマ乗りになる。
「バカバカバカ! バカーっ! ライスちゃんは悪い子なんかじゃないもん! わたし知ってるもん! 誰よりも優しくて、一番暖かくって……とにかく悪くなんかないもん! ライスちゃんを悪く言う子は、わたし絶対に許さない!」
ハルウララはがむしゃらに腕を振り回して、ライスシャワーの身体をぽこぽこと叩く。ただ全く力は入っていないらしく、あたかもそれは子供が親に縋りつくような……そんな切なさに満ちた打撃だった。
「バカっ……ライスちゃんのバカ。いなくなるなんてダメだもん。ライスちゃんはここにいなきゃいけないの……。ライスちゃんに、いなくなれーなんていう人はわたしが皆やっつけたげる。わたしが皆、ぼこぼこにする……してあげるんだから」
「あうっ……あっ」
号泣しながらなおも腕を振り回すハルウララ。そこでついに張りつめていたものが決壊したのか、ライスシャワーは顔を両手で覆ってすすり泣きを始めた。
午前の柔らかな日差しが突き抜ける教室に、響き渡る幾人分かの泣き声。状況は何一つ好転していないのに、なぜだかその景色はとても和らいで映って。永遠にも思える間が空いた後、ぽつりとその子の声が聞こえた。
「わたしが……やった」
「だっだめ――」
「わたしが……リトルココンの水筒に、ソースを入れた。間違い……ないです。だから本当に悪いのは、わたしなんです」
クレセントエースはもう泣き止んでいた。