このページでは事件の基本的な概要について書こうと思う。
人によっては『そんな所は飛ばしてくれよ』と思う内容かもしれないが、真相を掴むにはこういった細々とした部分を把握しておく必要があるものだ。数々の名著に現れる探偵達の例にならい、私はひとまず事件当時の状況を一から洗い直した。……といっても、それらをいちいち記述していたのではキリが無いし、私の指も疲れる。そのため、ここでは事実だと確実に事実だと判断できるものだけを、一纏まりにした形で記していく。
事件が発生した場所はトレセン学園の第三グラウンド。外周が3200mであるコースが備わっていて、学園のウマ娘はここを主にラップタイムの計測に用いる。スタートラインが設置されているのは校舎がある側で、その近くには休憩用のベンチが。トレーナーや記者は、その位置からコースのウマ娘達を観察するのが通例で、雨と陽射しを避けるための屋根なども設置されている。他方、見学者がいない際は給水スタンドとして利用されることが多く、事件当時も同様にウマ娘達のほとんどはここに水筒などの私物を置いていた。……被害者であるリトルココンも含めて。
事件の発生時刻は十五時二十分頃と目されている。リトルココンが給水をしようとベンチに向かったところ、空になった彼女の水筒を抱えて呆然と立ち尽くしているライスシャワーを発見したという次第だ。
ここで「違うチームの子がこうも運悪くバッティングするものか?」と思った子も多いだろう。かくいう私も、事件のあらましを聞いた時、真っ先に疑問に感じたのがそこだった。
ラップタイムを計るという用途から、グラウンドに入場できるウマ娘の人数は『二十人まで』という制限がある。ここを越えない範囲で、各ウマ娘は入れ替わり立ち代わりでコースを走っていくというわけだ。ただし今年度はアオハル杯が開催されているため、そこに特例としてさらに『同じチームに所属する者が』という新たな条件が加わっている。私個人の見解としては、何ら意味の無い意地悪な規則としか思えないが、理事長代理曰く「他チームに意図せず能力が伝わってしまうのは不公平だから」とのこと。よって、各チームは協議の上コースの使用時間帯を決めて、第三グラウンドを分散して使っている。
つまり、別チームのライスシャワーとリトルココンがばったりベンチで鉢合わせるのは実におかしなことである。この疑問を解消する鍵は、事件の起きた時刻にあった。
十五時三十分、事件発生の十分後に<ファースト>は<ブルームス>への第三グラウンドの明け渡しを予定していたからだ。ライスシャワーは次のトレーニングに遅れないよう、第三グラウンドへ独りで一足先に到着。準備を始めるべくベンチに物を置きにいったところ――と事件の発生に繋がるわけである。
時と場所の説明が済んだところで、肝心の事件内容の方へと進もう。ただし、ここに書くのは調査初期段階の私の所見だ。真実とは程遠いものとなるだろうし、しかしその全て誤りであるとも限らない。その辺りの判断は読者諸兄の判断に任せる。
<ブルームス>に所属するライスシャワーがベンチに立ち寄ったところ、そこでぽつんと一つ日向に放置されている水筒を発見した。水筒には名札などの所有者を示すものはついておらず、誰のものかは分からない。秋も深まってきていると昼下がりとは言えど、日差しは未だ強くここで放置していては容器の中身がぬるくなってしまう。そう考えたライスシャワーは親切心から屋根のある給水スタンド付近へ戻してあげようと思い立つ。水筒を持ち上げて歩くこと数秒、しかし彼女は運悪く転倒。水筒の中身を全て零してしまった……。
そこに水筒の持ち主、リトルココンが戻って来る。いったい何事かと驚き呆れる彼女に、ライスシャワーは前述したような言い訳を提示。当然、それを信用するはずもなくリトルココンは激怒。そこから私も経験した大喧嘩へと発展した――。
……色々と突っ込みどころはあるだろうが、私がこれらの説明を聞いて不審に思った点は大きく分けて二つ。
まず水筒のキャップと位置だ。リトルココンの水筒は、ロックのかかるスイッチ式のキャップが付いた直呑み型。理事長代理の方針もあって、<ファースト>は高価な用具を買いそろえていて水筒もその例に漏れていない。そのロックは非常に頑丈で、きちんと填め込みさえすれば転倒程度では外れない。この点については、私も実証実験に何度か付き合わせてもらったから疑いようが無い。
また、ライスシャワーの「水筒は日向にあった」という言葉も実に疑わしい。はたして水筒を置く際に、わざわざ給水スタンドから離れた日向を選ぶことがあるだろうか。それも、他の人と離れた場所にぽつんと一つだけ。そうするだけの理由はどう頭を捻っても出てこない。もちろん、リトルココン本人は「水筒はちゃんと日陰のスタンドに置いていた」と話している。……両者の意見の食い違いは多岐に渡るが、この二つの矛盾は事件の核心部といって良いだろう。
さて、事件の基本的概要についてはこのくらいで終わりにしよう。次ページからは事件に居合わせた関係者達へのアリバイ確認ならぬインタビューを記していこうと思う……。