チーム<ファースト>所属 ビターグラッセへのインタビュー
「調査って意気込んでるから何をするかと思えば、君がやるのって一人一人に話を聞いていくだけのことかよ……。他のメンバーにもしてるって本当か? クレセントエースやミニベロニカが、やたらめったら問い詰められて大変だったって愚痴ってたぞ。私達は今、次のレースに向けて一丸となって頑張ってるんだから、あんまり横やりを入れるようなことはしないで欲しいなぁ……。あぁ悪い、別に協力しないって言ってるわけじゃないんだ。一週間は待つって言ったのも嘘じゃないしな。どの道、地道に人に訊いていく他やりようが無いってのも理解できるし、今日のところは大人しく質問に答えるよ。でも、あまり期待はしないでくれよ? もう大方知ってることは喋ったつもりだから。何? 探偵ってのは一度訊いたことを何度でも根掘り葉掘り繰り返すもの? それってどっちかというと、刑事の仕事じゃないか? 君、可愛い見た目してやることがえげつないなぁ……。もちろん冗談だよ。
……ふむ。事件当日、チーム内に変わったことは無かったかだって? 妙なことを訊くね。まるでこっちを疑っているみたいじゃないか。他意は無い? やましいところが無いなら、喋れるはず? それもそうだね、私達はそれこそ神に誓って清廉潔白の身なのだし、もったいぶらずに一から話してあげよう。
変な様子は誰一人にも無かったけど、その逆はあった。皆、あの日はラップタイムで良い記録を出そうと躍起になっていたんだ。……君もウマ娘なら知っているだろう? 来月以降に行われるG1レース、JBCクラシックやスプリント。あとは……有マ記念なんかも、もしかしたら含むのかな? 『今日のラップタイムを、その出走バを決める一指標にしましょう』と私達のトレーナーが事前に言っていたんだ。チーム<ファースト>は徹底管理主をモットーに掲げているけれどもう一つ、完全実力主義もその隣に座している。どんなウマ娘にもチャンスがある――実力さえ備わっていれば、年功も経歴も関係なく、出たいレースに出られるってのが素晴らしいところなんだ。だから、あの日は皆いつも以上に気合が入っていたのをよく覚えているよ。なにせ一つのチームに一つしか基本与えられない出走枠、その中身を決めるかもしれないトレーニングだからね。
二人一組で、1600mのコースを一周して、400m区間ごとのタイムを計測する。全体の距離そのものはマイルレースだが、これによりゴールまで残り400m地点のスパート速度を見ることもできるわけだ。実際、マイルや短距離をあまり得意としない子も、そこで良いタイムを出そうとシャカリキになっていた。一周を終えると、いったんスタート地点まで戻って五分間のクールダウンを挟み、次に備える。1600mを一度の練習で何週もこなすのは結構キツイんじゃないかって? そりゃ闇雲にただ走るからだよ。何も全部の周回で、全力を出さなきゃいけないわけじゃない……。スタートダッシュや中盤のコーナーで納得いかないところがあったなら、後は流す程度に走っても良い。練習終了までに、自分がベストだと思うタイムを一度でも出せればそれで成功だ。あの日、私達がやっていたのはそういうトレーニングだった。
水筒を置いていた給水スタンドに、立ち寄れる可能性があった子はいなかったか……。なるほど、ついに疑いを隠さなくなってきたね。つまり君が言いたいのは、ライスシャワーでなくて、他のウマ娘が水筒をひっくり返したんじゃないか、ということか。しかしその推理だと、本人たるライスシャワーが完全に罪を認めてしまっているのがネックになると思うんだが……何? 質問しているのはこっちだって? 君、ほんと顔に言動が似合ってないね……。それともこの現状に結構頭にキてるってこと? はは、だから冗談だって。
じゃあ質問の答えだけど、その可能性はゼロだ。事件発生直前――つまり十五時二十分になるまでの間、私達は個人のタイム計測に集中していた。知っての通り、時間はもう間もなく三十分、<ブルームス>への交代時間が迫っている。コースについたグループが走り終えれば、すぐに次のグループにバトンタッチと、間断なく私達は周回トレーニングをこなしていた。その待機中についても、コースの内側……つまり運動場内にいたからね。給水スタンドに行くタイミングは無かったとも。
え? じゃあいつ給水をしていたのかだって? あのね、何も全然しなかったとは言っていないじゃないか。それとも私達のモットーをもう忘れちゃったのか? 完全管理、給水のタイミングも、トレーナーはトレーニングの内容として、きっちり時間配分に組み込んでいる。あの日のトレーニングで、それは十分おき……つまり十五時十分の時点で私達はいっせいに給水を行っていたんだ。もちろん皆揃って仲良く、ね。
誰だって急に飲みに行きたくなることはあるって? まぁそれはそうかもしれないけど……。急を要する場合でも、私達の中ではトレーナーか、もしくは練習監督役に一声かけることがルールになってる。あの日はトレーナーが留守だったから、私かリトルココンに声をかけなくちゃいけなかった。でも、それをしてきた子はいなかった……ここまで言えば分かるだろう?
質問はこれで終わりか? まだある? なぜ運動場の使用禁止なんて条件を持ち出したのか……だって?
おかしなことを訊くね。なぜって、親友が嫌がらせを受けたんだ。それに対して、私は相応のことをしようとしたまでだ。いったい何が悪いって言うんだ?
もう君なら重々承知していることだろうけど、あのタイプの水筒が、転んだ程度で全部零れるなんてことはまずあり得ない。縦にひっくり返して、それこそ十数秒くらいはその位置を保持するなんてことでもしなければ……ね。異議があるなら、実物をこの場に持ってきて試してもらったって良い。それを九十度以内の傾きで、三秒以内に空にできたなら信じてあげるよ。それもロックを掛けた状態で、ね。
改めて言おう。ライスシャワーがリトルココンに対してやったことは、間違いなく故意の悪戯だ。悪質な……とまでは言わないが、悪ふざけの範疇にはちょっと収まらないな。それに、言っちゃ悪いが二人は友達でもなんでもない。知り合いではあったろうが、少なくともちょっかいを出し合える仲では無かった……その点は君もよく知っていることだろう。
リトルココンはね、ああみえて結構傷つきやすい子なんだよ。……ああごめん、こっからはちょっと他言を控えてもらえるかな。割とプライベートな内容だから。ただまぁ、これを言わないと君は納得しそうにないから、打ち明けるけどね。
その昔……彼女がトレセンに来る前の頃のことだ。彼女はとある地方のトレーニングセンターに所属していたんだけど、そこで色々と問題があったらしくて。彼女、その頃から他とは一線を画す実力で目立っていたそうでね……。それでいて歯に衣着せぬあの物言いと、刃のようにキツい美貌。周囲からのやっかみやら嫉妬が、それはもう酷かったんだって。ロッカーや机への落書きなんかは日常茶飯事、時には体操着が無くなったことだってあったらしい。……才能あふれるウマ娘の多いこのトレセンじゃ信じられないことだが、地方じゃ当たり前にあるいじめだ。
それを当人は何食わぬ顔で、しょせんは過去の話と流してはいるが……。私にはとてもそうとは思えない。聞いて確認したわけじゃないが、心の内ではきっとまだ根に持ってる……というか、悩んでいるに違いない。実際、同じ部屋に泊まるとたまに寝言でぼやいてるから。
だからこそ、私はライスシャワーの言動が許せなかった。あれに至る彼女の心境は定かじゃないが、謝るくらいなら初めからしなきゃいいんだ。あれがどれだけリトルココンを……おっとごめん、ちょっと私らしくなかったな。まぁとにかくそんなわけで、私は君達をおいそれと許すわけにはいかない。正直な話、グラウンド使用禁止なんて公に課せられる訳がないと思っちゃいるが、それでもこのくらいは吹っ掛けなきゃ気が収まらないんだ。
分かってくれた? マヤノトップガン」