~茜視点~
地底
「…やっと、明かりが見えてきたわね」
どうも皆様方おはようこんにちはこんばんわ。
時刻なんて糞喰らえみたいな感じで何時間歩いたかわからないほど歩いてましたよ、本当に。
ねぇ、フランってば?
「…フラン、大丈夫?」
見ると、フランは何か疲れきったようなそんな顔をしていた。
…まあ、そうだよね、うん。
「茜お姉ちゃん、フラン疲れた…」
「うーん…」
どうしようか、旧地獄に入ったら何処か休める場所を探すか、それとも地霊殿まで行ってそこで休ませてもらうか…
って言うかもう目の前橋じゃないないですか、考えられねぇ!!
いやいやいやいや、待て、考えろ。
…よし、地霊殿に着いたらそこに休ませてもらおう、そうしよう。
「…人間と妖怪、一緒に居れるだなんて、妬ましいわね」
「ん?」
っと、フランをどうするか頭の中で緊急会議をして終えた所に、赤い橋の手摺に持たれてこちらを見る茶色のような金色のショートヘアーで緑目の橋姫こと、水橋パルスィが居た。
そして早々に嫉妬されました。
泣きそうです。
「旧地獄に何の用なの」
「地霊殿に行くだけよ」
「…周りの妖怪が嫌っている人物に自分から行くその勇気、妬ましいわ」
全部嫉妬する。
なにこれ怖い、え?
「…通っても良い?」
「駄目よ」
「えー、何でー?」
「貴女達が行っても、どうせは死ぬだけ、自分から自殺希望だなんて、妬ましいわ」
お、おぅ…
別に死なないんだけどなぁ…
「…まあそれでも、地霊殿に行かないと駄目なのよ。私は」
「……………」
最後に、私は真剣な表情で言うと。
パルスィはその真剣差に気付いたのか、黙って私を緑の目で見る。
「…精々、早死にするような真似はしない事ね」
そうして、パルスィは私から視線を離した。
もうどうにでもなっちまいな、見たいな感じですか、なるほど。
取り敢えず、此処で油を売っている場合ではない。私はまた足を進ませると、フランも付いてくる。
そして途中、パルスィの前で止まる。
自己紹介はしておこう。
「私は紅夜 茜、こっちはフランよ」
「…自己紹介だなんて、余裕有りすぎよ。妬ましい……水橋パルスィよ」
「そう、じゃあパルスィ、またねー」
「…妬ましいわ……」
最後に小さくパルスィは嫉妬した。
…さて、それは置いておき旧地獄だ。
なんと言うだろう、周りはある意味活気が強く、居酒屋くらいしかない。歩く者は人間ではなく、妖怪。その多くは 鬼の妖怪であった。
体の大きな鬼、または小さい鬼や腕が大きい鬼など様々だ。
本当に、怖いなー…鬼
昔、鬼とは戦った事はある。
たぶん皆ご存じの力の四天王、星熊勇儀だ。
もう勇儀さんとは戦いたくないです。
絶対嫌です。
死んでも嫌です。
って言うか、周りから凄い視線を感じる。
中にはこっちを見ながらコソコソ話まで…
「見ろよ、人間と変な妖怪が歩いてるぜ」
「何だ? 新米かぁ?」
コソコソ、コソコソ…
…いや、もうコソコソ話とか聞こえますし。
あぁ、何か無償に嫌な予感しかしない。
頼む! どうか地霊殿まで誰とも会わずに済んでくれ!!
「おいおい、そこの二人ちょっと待てよ」
くっそ! もうやだ鬼!!
っていうか旧地獄が嫌になりそう!
私とフランの前に、三人の鬼が絡んで来た。顔はニヤニヤしており、とてもキモい顔。
「何かしら?」
「今ぁ、俺らは腹減ってるんだわぁ、お前ら俺らに喰われろよ」
はぁ?
何言ってんのこの糞鬼
「ヒッヒッヒ、新鮮な女の肉だなんざ、久々だなぁ」
はぁ?
何言ってんのこの餓鬼
「もう俺ぁ我慢できねぇぜ」
はぁ?
何言ってんのこのデブ鬼
って言うか私は同じネタしか言ってねぇ!
い、いや、逆に考えよう。
何回同じネタを使っても良いんだと。
…んなわけあるかっ!!
「きゃ!」
突如、後ろに居たデブ鬼がフランの翼を掴み、フランが怖がる。
……うん、あの。切れても良いですか?
いやまあ、もうそんなの聞かずとも切れました。
私は切断能力で、フランの翼を掴んでいたデブ鬼の腕を切った。
ズルズル、バタン…
腕はゆっくりと落ちて、デブ鬼の切れた腕は肉が見え、骨が見える。
そこからは血がだらだらと落ちていき…
「ひ、っひぇぇえええぇぇええええ!!? 腕が、腕がぁぁああああ!!!?」
悲鳴を上げて、混乱に陥った。
周りに居た鬼達はそれを見て、唖然とし、徐々にその顔は恐怖へと変わっていった。雰囲気はまるで魔王が居るかのように一変する。
私は他の二人の鬼を睨む。
「フランに指一本でも触れてみなさいよ、次はこいつのような腕だけじゃ済ませないわよ?」
バサッっと翼を出し、妖力を限界まで出して威圧と脅しを掛ける。
鬼の二人は驚いて腰を抜かし、後ろに倒れる。周りのギャラリーは、少人は逃げ、残りは息を飲んで一歩下がった。
…しかし、そのギャラリーの中に一人は下がらずに居た。その人物は、私の知っている、鬼であった。
それを見て、私は顔を少し明るくした。
「…勇儀」
そう、星熊勇儀が、私を見て呆然とはしていたが、名前を呼ぶと首を少し振って正気に戻ったのか、私に近付く。
近付く途中で、あの糞鬼が勇儀の隣に並ぶ。
「勇儀さん、こいつらやっちゃって下さいよ、鬼に逆らったーー」
ズガァアン!!
言葉の途中で、あの糞鬼がギャラリーを巻き込み、家へとぶつかった。
何が起きたかと言うと、勇儀が裏拳で殴り飛ばしただけである。
「うるさいねぇ…アンタ等雑魚共が、私を倒したこの茜に勝てる訳がないだろう! とっととどっかに行きやがれっ!!」
勇儀は大きな声で、強く、そう言う。
すると、周りに居たギャラリーが何処かへと荒々しく散って行く。
勇儀さんまじぱないす。
「すまないねぇ、地底ってのはいつもこんなのでさぁ」
「勇儀が居てくれて助かったわ。お陰でさまで喧嘩をしなくて済んだもの」
「…もう一度私とーー」
「お断りよ、今度は本当に死にそうだわ」
いやまじ死ぬ。
鬼嫌いになりそう…うん。
「あっはっは! 仕方がないね、まあ茜がそう言うんなら、無理に言わないよ。それで、お嬢ちゃん大丈夫かい?」
「…茜、お姉ちゃん」
フランが顔を上げて、勇儀を見ながら私の袖を掴んで隠れようとする。
…鬼が、嫌いになったようで。
「フラン、この鬼は私の友人だから大丈夫よ」
「お、茜も私の事を友人と思ってくれているのかい」
「まあ、私は勇儀が嫌いじゃない方だしね」
「嬉しい事を言ってくれるねぇ! やっぱし茜は最高だよっ!」
「それはどうも」
急に勇儀は腕を私の肩に乗せてそう言う。私は少し呆れ、同時に嬉しい。
何でだろうね。何て言うか…喧嘩したあとのこの友情感?
たぶんそれだと思う。
「くすっ…」
「ほらほら、茜と私を見てお嬢ちゃんが笑ったぞ?」
「勇儀が暑苦しいだけでしょうに」
フランが口元を隠して笑う。
…っと、そう言えばこうしている場合ではない。
「ねえ勇儀、地霊殿は何処にあるかな?」
「ん? 地霊殿なら此処を真っ直ぐだ。あの覚妖怪に用でもあるのかい?」
「えぇ、まあね」
「ふーん…そうだねぇ、暇だから私も着いて行くよ」
「それは助かるわね」
「? どうしてだい?」
「また絡まれそうだからよ」
「あっはっは! なるほどねぇ、なら尚更付いて行かないと駄目だな、ほら行こうか、お嬢ちゃんも」
「う、うん」
勇儀が私の肩から腕を離して、地霊殿のある方へと指を指して言う。
少女移動中…
「…それで最後は茜の右拳で私に打ち勝ったのさ!」
「へぇー! 茜お姉ちゃんってやっぱし強いんだね!」
「あぁ、本当に強いさ、何せ初めて私は負けたんだじゃらねぇ…いやぁ、あの戦いは良かった」
勇儀が昔の私との闘いについて熱く語ると、フランはそれに食い付き、物凄くはしゃいでいる。
良かった、勇儀が居なかったらフランは退屈だったであろう。
「そう言えば、フランを守ってくれた時の茜お姉ちゃんカッコ良かった!」
「あはは…あまり見せたくなかったんだけどなぁ……」
「良いじゃないか、お嬢ちゃんの為に闘うだなんてねぇ」
「…正論で何も言えないわ」
「私も茜お姉ちゃんみたいに強くなりたいなぁ…」
「茜に聞いてみたらどうだい?」
「え?」
急に話を振られてきた。
え、どう強くなるか?
それは拳の闘い? 弾幕?
いや弾幕はないか、じゃあ拳…?
待て、フランに拳の闘いとか教えられるか!
「いやいや、普通だって、何も特別に修行だなんてしてもいないよ」
「そうなんだ…普通にしていれば強くなるの?」
「違う、違うよフラン…私は普通でも良いけど、弱いなら何か修行とかするものよ」
「修行…うーん……」
「会話中悪いのだけれど、地霊殿が見えてきたよ」
勇儀が話に割り込み、前を見てみると、大きな洋館があった。
「わお、これはまた、紅魔館並みに大きいわねー…」
ただしかし、紅魔館と違う部分は壁などが白ってところだ。
「あれ、お客さんかい?」
っと、後ろから声が聞こえた。
私は後ろを見てみると、そこには少女が居た。
赤髪を左右に三編みにしていて、黒い服…猫耳と二本の尻尾が見える。
…火焔猫 燐(かえんびょう りん)であった。
彼女は死体の手や足などが入った火車を運び、その死体を此処、地霊殿の地下にある灼熱地獄の燃料とする。
燃料はちょっと違うか、うーん。
…まあ燃料で良いや。
「客なのはこの二人だよ、私は違う」
「あら、勇儀入らないの?」
「…覚妖怪はあまり好きではないんでねぇ」
「そか」
ふむ、さすが覚妖怪…嫌われるわねぇ……
「お嬢ちゃん、またね」
「あ、わ、私、フランドール・スカーレットって言うの」
「おっと、そう言えば自己紹介がまだだったね、私は星熊 勇儀だ、また会おうフラン」
「うん!」
「茜も、またな」
「ほいほい、また」
そうして、勇儀は来た道へと戻って行った。
「…鬼と仲が良いだなんて、凄いねアンタ」
「まあ、昔に色々あっただけよ」
「ふーん…」
すると、お燐は私を下から上へと舐めるように見る。
「その翼大きいね、そんな大きいの初めて見たよ」
「え、そうなの?」
私は出していた翼を一度広げてみる。
長さは人が一人と一人半くらいで、まあ随分と長い。
「茜お姉ちゃん、長い」
隣で見ていたフランも、思わず言う。
「はー……あ、アタイは火焔猫 燐って言うんだ、お燐で良いよ」
「ん、私は紅夜 茜、こっちはーー」
「フランドール・スカーレットだよ、フランって呼んでね」
「…です」
いつものように私は言おうとすると、フランは自分から言った。
成長してる…だと…!?
勇儀のおかげかな…?
さすが勇儀さんぱない。
「茜にフランだね、それじゃあ中に入りましょ」
そう言ってお燐は、先へと行って地霊殿の大きな扉を開ける。
「…行こっか、フラン」
「うん」
私とフランは、地霊殿の中にへと入っていった。
「……洋風ねぇ」
「紅魔館とは全然違うね」
中は、エントランスホールで、床は黒と赤のタイルであった。
地獄には似合わない…
「上を見てみなよ」
「ん?」
お燐に言われて、私とフランは上を見る。
「わー、何あれ」
「…ステンドグラスの天窓ね。この薄暗い所で天窓の意味あるかな」
「さぁ、飾りじゃない?」
ふむ、飾り…なら良いんだけどね。
上を少し眺めつつも奥へと行き、しばらく廊下を歩くと、客間らしき部屋へと入らされる。
広いテーブルに幾つかのソファ。
洋間である…いや、驚きはしない、何せこう言う部屋はもう紅魔館でも見た。
思えば、昔私が現世に居た頃はこう言う部屋が普通だった。
…何とも、違和感が凄い、何故だろう。
この時代に慣れすぎたから、かも知れない。まあ、どうでもいいと言えばどうでもいい。
そして、お燐は覚妖怪…もといさとりを呼びに行った。
はて、ソファに座って待っておこうかな…
っと、そう考えた時、横腰に体重がのし掛かった。重くもない、とても軽い方。
私は隣の、左下を見る。
「…フラン?」
フランが、私に横で凭れていた。
耳を済ませてみると…
スー、スー…
…どうやら眠ったようだ。
地底の洞窟で歩きまくって、絡まれて、勇儀といっぱい話して疲れたのかな?
「寝る子は育つ、か」
名言だよね。
さて、取り敢えずフランをソファで寝かさなければいけまい。
私はフランを優しくお姫様抱っこをして、近くのソファに寝かせてあげて、離れようとするが…
ギュッ…
っと、私の服を掴んだ。
「あらあら、離してはくれなさそう…」
別に無理に離しても良いが、離してまでも行きたい所はない。
なのでそのままフランの寝ているソファで空いている所に座る事にした。
ガチャッ…
「すみません、お待たせしました…」
「んみゅ」
フランの寝顔を見ていると、扉が開いて中から少女がぺこり、と頭を下げる。
彼女は、古明地 さとり
ピンク髪のショートヘアでカチューシャを付けて、黄色い触手…いや、紐と言うべきであろう、それが少し服に絡まっている感じで、その紐は心臓くらいの所にある丸い赤色のボール、第三の眼に繋がっている。
能力は『心を読む程度の能力』で会話、目的、要らない情報までも読み取るので、とても嫌われている。
まあ、心を読む能力がそこまで読み取れるのかは、私の考えだ。実際にそこまで読み取れるのかは知らない。
もしかすると、今考えている事だけしか読み取れないのかもしれないし、記憶全部を読み取れるのかも知れない…
うーむ、分からない以上、無理がある。
そうしてさとりは、反対側のソファへと座る。
「そちらの子は、寝ておられるのですか?」
「えぇ、まあ来る途中色々あって疲れて寝てしまったのよ」
本当に、色々…
「なるほど…あ、すみません私はこの地霊殿の主、古明地 さとりと申します」
「私は紅夜 茜、只の天狗よ」
「只の天狗、と言うのは?」
「そうだねー…もう天狗じゃないって言うか……他の天狗とは違うって感じよ」
「はー…そうなんですか」
只の天狗、私は人間と天狗のハーフ…普通の天狗ではない。
「…あの、失礼な事を言いますが、茜さんは心がないのでしょうか?」
心がない。
いやいや、違う…たぶんさとりは心が読めないからそう言ったのであろう。
まあ能力で無効にさせているだけだ。
「心が読めないんでしょ?」
「えぇ、はい…」
「能力で無効にさせてるだけよ、ちょっと知られたくない過去が…あるからね」
知られたくない過去…それは、私の魂は男で元は人間。それに、原作の話だってある。
過去は未来を変える。
それはとても危険なのだ。
「なるほど…いちおですが、私が読める心は全てではありません。相手が考えた事だけしか読めませんので」
「あ、そうなんだ」
ふむ、そうなのかーって感じで心が一杯になる所であった。
「心を読まれるかー……」
そうだな…一回経験してみたいと言う気分もあった。
はて、どうするか……
「…よし、経験してみよう」
「え?」
切断能力で相手からの能力無効を一時的に切断させた。
「これで行けるかな」
あー、あー…聞こえる?
「聞こえる、と言われましても…」
おー、まさに今神秘的な体験をしてるんだ私。
「…神秘的かどうかは私には分かりませんけどね」
私喋らなくて良いとか何か楽いね。
「私は喋らないといけませんけどね」
ごもっとも。
「お燐、もう行っても大丈夫です。この方は少し変な所もありますが、悪い方でもありません」
「…そう、ですか、それでは失礼しました」
先程から扉前でじっと見ていたお燐が部屋から出た。
ふむ、話を振り返るけど、私何か変な所あった?
「考えが読めないだけです」
考えが読めない…?
今こうして会話しているのに考えが読めない…だと……!?
「いえ、やっぱし何でもないです」
そ、そう…
うーむ……あ、そうだ、これ八雲 紫から。
私は紫から受け取った手紙をしまっておいた空間の中から出してさとりに手渡す。
「…手紙はさておき、その空間は何ですか?」
ん、これ?
これは私の切断させる程度の能力で作った空間で、中は違う場所なの。
「便利ですね…」
まあ、中々に有効活用している。
「…それで、この手紙の内容は何ですか?」
内容は見てないけど、スペルカードルールについて書かれているらしくて、それを広めて欲しいんだってさ。
「はぁ…私はそこまで偉くはないのですが……」
…地霊殿に住んでいるからじゃないかな?
「それもあるとは思いますが…」
ふーむ、広めるねぇ……
あぁそうだ、勇儀に頼めば結構行けそうかも。
「あの鬼ですか…?」
そそ、鬼…勇儀は顔が広いから行けると思うよ。
「そうかもしれませんが、勇儀さんは私を嫌っています。とてもではありませんが、無理だと思いますよ」
じゃあ私が仲直りさせよう。
「はい?」
いや簡単な話、私が勇儀に会ってこいと言えば来ると思うし。
「…最後は投げ槍ですか?」
イエス!
「いえす…?」
あ、いっけね、この単語は知る人居ないか…
って言うか、もうここらへんの記憶も読まれているから余計な事は考えずに行こう。
うんそうしよう、さて、まあそう言う事だから。
「…よく分からない人ですね」
人はそんな者よ。さて、手紙を渡したのは良いけど、次は勇儀にそれを言わないといけないか……あ、そー言えばさ、此処に白い鷹は居ない?
何かこう、妖怪鷹の。
「……そうでした! 紅夜 茜さん…何で思い出せなかったのでしょうか」
あれ、もしかして居るの?
「500年程前に、そんな話をその白い鷹…イズナから聞きました。まさか、貴女だったとは…」
ほむ…
「お燐!」
たぶん大きな声でお燐と呼ぶ。
すると、荒々しくもバタバタと聞こえ…
バンッ!
っと、大きく開けるお燐。
「な、何でしょうさとり様?」
「すぐにイズナを連れてきて」
「え、え? あの白い鷹ですね? 分かりました」
扉を閉めて、向こうの方へと走って行く足音が聞こえ…やがて聞こえなくなった。
イズナ元気にしてる?
「えぇ、元気では居ますよ」
そっかー、それは良かった。
「今では、よくお燐とお空と遊んでいますよ」
へぇ、友達が出来たんだねぇ…
まあ地底の、だけど……
「…ほら、もう着いたから」
『客間か、誰か居るのか?』
「まあ、居るよ」
『ほほぅ』
…ん?
イズナの声が私の頭にも響いてくる。
イズナは確か一人にしか聞こえない、いや待てよ、あれは声、人間には聞こえない、いや、普通の人には聞こえないと言うべきか…?
ガチャッ
「お待たせしました、さとり様」
『一体俺に何の用、なんだ……』
お燐の肩に居たイズナが、私を見て徐々にボイス音量を低くしていく。
相変わらず変わらない白い毛に、体の大きさであった。
「やほーい、イズナ」
元気良く、笑顔で私は言う。
『…え、あ、茜……?』
「なに? 私の事忘れたの?」
『…んな訳ねぇだろ! 手前みたな美人を忘れられるか!』
美人だなんて、中々嬉しい事言うじゃないイズナったら。
「えぇ、まあ私から見ても茜さんの顔立ちやスタイルは、他の人とは全然違いますよ」
あはは…まあ、真夏が……
一瞬、自分が人間だった頃に見た真夏の顔を思い出し、すぐに切断能力で相手からの能力を切断させた。
「……………」
「……………」
無言が少し続く…
やばい、今の記憶…見られたかも知れない……
「…茜さん、貴女は一体ーー」
「はい! そこまで、これ以上私の事について喋らないで」
さとりが何かを言おうとするが、私はこれ以上はいけないと判断して止める。
『何だよ、照れてるのか?』
「そんなんじゃないわよ」
「…………」
はぁ、私の馬鹿。
何で勝手に昔を思い出すかな。
「…ん……」
っと、そこでフランが目を開ける。
「あらおはようフラン、よく寝れた?」
「…茜お姉ちゃん、おはよう」
うーむ、たぶん少々煩かったから起きたのかも知れないが、仕方がない。
『お姉ちゃん? 茜、妹なんて居たのか?』
「違う違う、フランがそう呼ぶだけで、妹ではないわよ」
「あれ? 何か声が頭の中で響いた…」
「ん? イズナ、もしかして」
『あー、何か知らないうちに俺の声が全員に聞こえるようになったんだわ』
「また響いた、茜お姉ちゃんも聞こえた?」
「あぁ…」
フランが頭を抱えながら私に聞いてくる。
面倒だが、説明する必要がありそうだ。
少女説明中…
「…っと、まあこう言う事でね」
「へぇー、この鷹喋れるんだね茜お姉ちゃん!」
『ちょ、止めろ、抵抗出来ねぇ!』
私が説明を終えると、フランが私の肩に居たイズナの両翼を掴んで目を輝かせていた。
イズナが抵抗出来ない理由、暴れたら翼がもげるかもしれないからだ。
さすがにあの状態は鳥類である私にとってもきつい。
「それじゃ、そろそろ帰る事にするわ。イズナの面倒見てくれてありがとね」
「…お構い無く、ではまたいつか会いましょう」
「えぇ、またね」
そして、私は空間を隣に出してイズナを持ったフランを連れて入る。
空間を消して、いざ着いた所は地霊殿の外、旧地獄…
別に間違えても誤差でもない。まだ用事があるだけだ。
「帰ってきたかい」
隣から、聞き覚えのある声が聞こえた。
力強い感じの声で、一発で誰かが分かる。
「勇儀、居たんだ」
勇儀は片腕を少して「よっ」っと言って私に近付く。
「お、イズナも居るじゃないか」
『よぉ勇儀…相変わらず酒しか飲んでねぇのか』
「あっはっは! 鬼は酒が大好きだからねぇ、毎日飲んでいるさ」
『…さよか』
あれ、何かイズナと勇儀のこの何気無い会話は何だろう。
仲が良いとか?
「イズナと勇儀って仲良かったんだね」
『そらぁ500年程この地底に居たんだ、仲が良い奴は多いぞ』
「へぇ、そうなんだ」
まあつまり、地底ではイズナを知っている人多いのか。
それはまあ色々助かる。
「あ、そうだ勇儀」
「ん? 何だい?」
「いやさ、ちょっと覚妖怪と会って手伝い事してあげてよ」
「手伝い事ぉ?」
「うん、この地底に広めて欲しい事があるからそれの手伝い」
「ふーん…まあ茜がそう言うんなら、手伝ってみるかね」
「ありがと、勇儀」
「良いって事よ!」
やだ、やっぱり勇儀イケメン。
頼りがい有りすぎてヤバイ…
「それじゃあ行ってくるよ、またなー! 茜、フラン、イズナ!」
「頑張ってねー」
「バイバイー!」
『また今度なー』
お互いそれぞれ別れを言い、勇儀は満足した感じで地霊殿の扉を開けて中へと入って行った。
さてはて、用事は済んだ事だし…もう帰ろうかな。
そう思い、隣に空間を出そうとした時だ。
「おーーい!」
「お茶…」
何処からか声がした。その声は幼い少女のような声だ。
私は思わずお茶と言ってしまう。
あ、やべ。懐かしいネタ過ぎてちょっとジンっと来た。
とあるお茶のCMを思い出しながらも、私は回りを見る。
すると奥の道から手を振りながら歩いてくる人物。膝まであるであろう長い白髪を右や左と一歩一歩、歩む度にリズム良く揺れている。
「……………」
私はただその人物を無言で見ていた。
徐々にと近付いてくる――幼女。
その幼女はようやく私の前へと微笑んでやってきた。
「久し振りじゃのう、真夏」
幼女とはとても似ても似つかない言葉使い。そして何だ。この妖力は…
外から漏れている妖力は少ないが、中には超絶的に多く妖力がある。
幼女がそこまで妖力などを持っていたら気を失うどころか、破裂してもおかしくはないほど。
なのにこの幼女は秘めている。
まあこの世界では、見た目で決めつけては行けないんだけどもさ…
「え、茜お姉ちゃん…この子は……?」
そこで隣に居たフランは私に問い掛ける。
まあうん。そうだね。もうこのさいハッキリ言います。
「…知らない子」
いや、まじ知らないっす。こんなめっさ可愛い幼女。
しかも東方のキャラクターでもないので余計分からない。
だが、一つ分かるのは…
この子と戦えば私は生きているか死んでいるかの確率は50、50の五分五分。つまり「死ぬ」か「生きる」の二択となる。
感覚と勘で分かる。
この子は危ない。と…
「酷いのお主、妾を見てわからんのかや」
「………うん…?」
妾…?
独特な一人称だ。自分の事を妾と言う者は極めて少ない。
だから一人、真夏の記憶からある妖怪が思い浮かんだ。
しかしその妖怪は髪は黒で身長もほぼ私と同じだ。一方この子は白髪の幼女。あり得るわけがない。
だが、私はある所を見逃していた。
それを見た瞬間、嫌でも確定してしまう。この子の頭にはピンと立っている白い狐の耳。
私が見たその妖怪にも、黒色の狐の耳だが、ある特徴があった。
それは、方耳の方だけが何かに食いちぎれれたかのように無い部分…右耳だ。
この子はその右耳が記憶と同じように食いちぎられている。
だから確信した。あの妖怪なんだと…
「…美咲?」
「なんじゃ、覚えておるじゃないか」
天日 美咲(あまの みさき)、ご本人であった。
さて、ちょっと此処で天狐と空狐について説明をしようじゃないか。
まずは「天狐」
天狐(てんこ)は、神獣のひとつ。
狐が1000年生きると天狐になれる。千里の先の事を見通す。尾の数は九尾。下に存在する、野狐、気狐のように悪さをすることはない。さらに生きて、3000歳を超えると空狐となる。
江戸時代には狐の最上位とされ、江戸末期の随筆『善庵随筆』や『北窓瑣談』では天狐・空狐・気狐・野狐の順とされた。また、『日本書紀』で舒明天皇9年(637年)の大流星のことを「天狗」と書いて「あまつきつね」と読んでいることから、『善庵随筆』には天狐を天狗と同一のものとする説も述べられている。
なお、伏見稲荷大社の一ノ峯には、名を「小薄」という雄の天狐が、末廣大神として祀られている(ただし、狐はあくまで稲荷神の神使であり、稲荷神ではない)。
長崎県の小値賀島では天狐は憑き物とされ、これに憑かれた者には占いで何でも言い当てるなどの神通力が備わるという。
お次は空狐
空狐(くうこ)とは、妖狐の位において二番目に当たる。天狐・空狐・気狐・野狐の順。
天狐が1000歳、空狐が3000歳とされるように妖力においては空狐が最上位とされる。
『宮川舎漫筆』より、空狐が残したという書き物
曲亭馬琴らによる文政時代の奇談集『兎園小説』によれば、3000年以上生きた狐のことであり、通力自在の大神狐とされている。
安政時代の随筆『宮川舎漫筆』には、空狐が人間に憑いたという話がある。それによれば、犬に噛み殺されて魂のみとなっていた空狐が、久しく住んでいた上方から江戸へ向かう途中に一休みのため、長崎源次郎という者の家に仕える小侍に憑き、しばらく体を借りていた。それから数日間、空狐が源次郎に語ったところによれば、空狐はさまざまな術を使いこなすものの、人間に害を与える野狐と異なり、あくまで正直者や、愚鈍で生活に窮している者を助けるために術を使うのだといい、実際にその空狐は自分の憑いている小侍の疳の病を治療した。さらに源平、壇ノ浦、関ヶ原などの合戦の物語を語り、周囲の人々を楽しませて評判を呼んだ後、5日後に小侍から離れて行った。この空狐は去り際に源次郎への礼として書き物をしたためており、空狐の説明によればこれは「白川唯一神道之極意、唯授一人之伝」というもので、書中の「人一行」は社(やしろ)の形を指し、「天日」が狐の名だという。この話は源次郎の家に同居していた親類の長崎半七郎の実見談として、半七郎の息子の長崎文理が「狐ものがたり」と題して、『宮川舎漫筆』に収めている。
そしてこの空狐なのだが、実はなれた狐は僅か一匹しか居ないのだ。他の狐は2000年か2800年くらいで限界と言われ、そこで死ぬのが多い。
主に死因は、殺害。人間の手によって殺されている。どうしてそうなったかは分からないが、それを避けて空狐となれたのは一匹だけなのだ。
っとまあ空狐についてはこんな所であろうか。
で、何故この事を説明したかと言うと…
「とうとう、空狐ねぇ…」
「うむ。まあなったのは100年ほど前の事だがね」
「ふーん…」
天井に一つの電球が白い光を出しており、部屋を明るくする。
その部屋では畳の上で私と美咲は座って向き合っており、フランとイズナは少し隅の方で遊んでいる。因みに、イズナはフランの玩具とされており、翼を無理矢理広げさせられたり嘴(くちばし)を問答無用で手でつついかれていた。
まあそれはさておき、ついに空狐となった美咲と久方ぶりに出会い、小さく宴会でもしようじゃないかって事で美咲の家へお邪魔させて貰っている。
「最後に会ったの、1000年程前かしら?」
「おぉ、そうそう。丁度そのぐらい」
「何で地底に居るのよ」
「んー?」
前まではのらりくらりと旅をしていた者だが、今では味気の無い地底に居る。
そこが気になったので聞いてみると、美咲は手に持っていた盃に酒をなみなみと入れ、それを一気飲みする。
「ぷはぁ、そうさねぇ…逆に聞くが、確か600年前だったかな? あの日以来、真夏は愚か里が無くなっていたが……何が起きた?」
質問を質問で返される。
表情は先程までは笑っていたのに一瞬で変えさせて真剣な目をする。
「その話、か…」
私はその表情を見て、右手で頬杖ついて目を合わせる。
「まあザックリ言うと、月の住人が攻めてきて潰されたって所かな」
「やはり奴等、攻めてきおったか」
「分かっていたのね」
「ふっふっふ、まあ勘じゃがな」
そうして美咲は盃にまた酒を入れ直し、今度は少し飲んでから私から目を離して考え込んでしまう。
「…のぉ」
「うん?」
何かを考え付いたのか、目線を私に戻す。
「あそこにおる小娘が言っていた茜お姉ちゃんとは、どう言う意味じゃ?まるで名前を変えたような感じではないか」
美咲は今も遊んでいるフランに顎で差して言う。
私は一度フランを見ると、イズナの足を触りまくっていた。地味に痛いとかそんなの聞こえるが、気のせいであろう。
「そうね。さっき言った里が壊された後に名前を変えたのよ」
「ほう…して、何と?」
「紅夜 茜」
「ふむ。では茜と呼ばせてもらおうかな?」
「はいはい、好きにどうぞ」
私は適当に言うと、美咲は笑ってまた酒を一気飲みする。
幼女の体なのに酒なんてものを一気飲みして大丈夫なのであろうか。
って言うか。
「それで、結局何で美咲は地底に居るのよ?」
「ん、おぉそうじゃったそうじゃった。すまんな、忘れておった」
カラカラと笑い、また酒を盃に入れる。
幼女がこうも酒なんてものを好きで飲んでいるだなんて、現世ではシュール過ぎる。しかもかなり可愛い幼女ときた。
これは男性軍から見たらどれだけ興奮するか、計り知れたものではない。
っと、そこで美咲は口を開く。
「600年前、真夏…いや、茜は私から姿を消した。まるで霧のように。
それ以来妾は寂しくて寂しくて酒を何杯も飲み、遠い遠い所へと旅へ出た。だが、その旅の途中で犬の妖怪に出くわした。
それほど強くもなかったのだが…油断をした。呆気に二匹居る事に気付いておらんかった。
妾は背後から噛まれ、その後噛み殺された。しかし魂は何とか生き残り、そこから何か代わりになる体を探しておった。
そして見付けた。少女の体を……」
そこで美咲は口を閉ざしてしまった。
何か遠い昔を思い出すかのような目をして、私を見つめる。
そしてその何かを忘れさせるかのように持っていた盃の酒を半分飲み、また口を開く。
「そこからその少女の体に憑き、550年くらいさ迷っておった。
そして時代は変わって行く。人と人がお互い武器を持って戦う醜い戦争の日々…妾はそれが堪えられなかった。
だから場所を移そうとまた歩いていると、胡散臭いおばさんが出てきての」
「ぶぅっ!?」
美咲の言葉に私は吹いてしまい、口を手で抑える。
おばさんって言っちゃったよこの子…大丈夫なのかこれ。明日殺されるとかそんなフラグ立たないよね?
もしこの話が聞かれてたら殺されてるぞ、確実。
「どうした茜、その胡散臭いおばさんに何かされたかや?」
「や、そう言う訳じゃあないんだけど…」
美咲がお構いなしで紫をおばさん呼ばわりしながら私の反応を見て笑う。
こえぇ…この話を紫が聞いてないかが超こえぇ……
美咲は自信家なのか、それとも分からずにおばさんと呼ぶのか。
「まあそれなら良いが、話を続けるぞよ」
「う、うん」
まあ紫は出てきてないし、聞かれてはいないかな。
そして、美咲はまだ飲み干してもない盃にまた酒を入れて少し飲んで続ける。
「まあ其奴(そやつ)から色々と説明を受け、妖怪と人間が共に暮らす世界だなんてあまり興味が無かったが、未知なる世界の妾は惚れた。
だから行くと言うと、そのおばさんに不気味なスキマと言う空間に入ってな、それから興味本意で色々と各地を回ったが、何か物足りなかった…茜、お主は分かるかの?」
「そこで私に話を振る?」
「ふっふっふ、まあ良いではないか。妾ばかり喋っていると、無性に茜にも何か話を振りたいと思ったほんの出来心じゃ」
「はぁ…」
一つ溜め息を吐き、考えずに取り敢えず一瞬思った事を口にする事にする。
めんどくさい。ただそれだけの理由で適当にだ。
「何か寂しいとかそんなの?」
答えると、美咲は盃に口を付けたままで固まる。そして私の目を見て、盃を下げた。
あれ、何か怖いんですが…え?
これは、まさか…怒らせたとかそんなんじゃないだろうな。
もしそうなら私は思いっきり此処から逃げたい。まじで逃げるわ。
「……ふふ…」
そこで、美咲は微かに顔を笑わせ、次第にその笑いは大きくなる。
「あっはははははは!!いやぁ、流石茜じゃ!妾の気持ちが分かっておるわ!!」
「…え?」
思わず声を出して唖然としてしまう。
まさかまさかの適当に言った言葉が当たってたパターンだったそうだ。
はは、ワロチ。勘って凄いね。今ならマジで思える。
「そうなんじゃよ。妾は寂しかった。お主が居なくなり、妾はずっと孤独であった。だから閉じ籠った。この地底で…そしていつか、きっといつか。お主が来る事だけを待ち望んで居た。
そうしてその時は来た。今日の朝か昼くらいに、何か強い妖力を感じ取れた。それはとてもとても妾にとっては懐かしい莫大な妖力…久方振りに外を出て探しておったのじゃよ。で、今に当たると言うわけじゃ」
その言葉を最後に、グビッっと盃に入ってい酒をまたもや一気飲みし、盃を隣に置いて立ち上がる。
「さて、話は此処までにしてそろそろ行こうか?茜」
「ん、そうね…って待ちなさいよ」
「なんじゃ、どうした?」
私も立ち上がって、行こうかと言われたので出ようとするが待ってほしい。
一体何処に行くと言うのだ。
美咲は意味も分からない表情をする。言っとくが意味が分からないのはこっちのほうである。
「行くって何処に行くのよ」
「決まっているじゃろう。お主に付いて行くのじゃ」
「……は?」
は?
付いて、くる…?
え、ちょ。また私のパーティーメンバー増やす気ですか貴女は。もうフランが居る時点でカオスだと言うのに、美咲が加わると更にカオスが増して混沌としそうなんですが。
ダークマターが出来そうなパーティーメンバーになりそうなんですがっ!
「なんじゃ、ただでついて行っては駄目なのかの?なんなら毎日朝にキスをしてやっても良いんじゃぞ?」
やめろ。それはくそ鼻血出そうだわ。
って言うか生きるのが辛くなりそうだ。あかん、あかんって。これは駄目だ。絶対駄目だ。
何とかして断らなければいけまい。
「や、良いよ要らない」
「ふむ、それでは物足りぬか。ならば妾とあんなことや――」
「それ以上はいけない!」
私は危機感と言うなの何かを感じ取ってすぐに美咲の口を手で抑え込む。
危ない、超危ない所であった。アニメで言う放送禁止になりかねないような発言を美咲は平然と言おうとしていた。
何だこの子はマジで怖い…放っておけばバンバンと下ネタ的なの言いそうだ。
っと、そこで私の手を捕まれた。
目を向けると美咲は抑え込んでいる私の手を握っていた。
そしてペロッと、私の掌を舐めてくる。
生暖かくてやらわかい舌の感触が私の掌をなぞってくる。
「あ、ちょ!」
抑え込んでいた手を離そうとするが、美咲は強く私の手を握っており、とてもでないが抜けない。
その間にも美咲は私の掌を舐め回す。
これは…まじで、堪えられん……
「ふふふ、興奮しておるのぉ?」
美咲は私の顔を見て笑う。
その笑いは宛ら、イタズラしている子供のようであった。
「してないわよ。って言うかそろそろ離しなさいっての」
「それは失礼」
私の手の中でふごふごと喋り、素直に手を離してくれた。
掌はまあ想像出来る通りに唾液でベットリとしており、光が少し反射する。
私は仕方なしでその掌を羽織で拭く。
「では行こうではないか」
「……本当さ、美咲ってそこまで積極的で強引な狐だったっけ?」
少なくとも真夏の記憶では、そこまで積極的でもなければ強引な者でのなかった。なのになんだ、この変態の変わり様は…
まあ変態って言うか、変質者って言うか…何だろうね?
いやともかくだ。昔はこんな奴ではなかった。
「なーにを言っとるんじゃ、妾が昔と同じだと思うてか?」
「思うてた」
「ふむ、さようか」
まじで昔に戻って下さいお願いします。
私は心の中でそう願った。
「ま、それは良か良か」
良くねぇよ。
「速く出んと、そこの小娘が寂しがるぞよ?」
「ん?」
美咲は私から目を離して後ろを見る。
それに釣られて後ろに振り向くと、フランと目が合う。
って言うかずっとこっち見てた。
やたら最後らへんで後ろから視線感じるなぁ…っと思っていたが、まさかフランがこっちを見ていただなんて……
「妾はついて行くからの」
「…もう勝手にして……」
「うむ、人間誰しも諦めは重要じゃ」
「私人間じゃないんだけど」
「そうじゃったな」
ツッコミを入れると、美咲はまた笑う。
その笑みがフラン同様で可愛すぎてヤバイ。
くそ、中身は3000年以上生きている狐なのに体は幼女とか何なんだよこれ。
あの体が反則にも程がある。
「はぁ…じゃあもうちゃちゃっと帰ろうかしら」
私は此所と紅魔館の門前の境界線を切って隣に空間を作る。
すると美咲は驚いた。
いや、まあ初めて見るだろうからそうなるけれども…
「なんじゃ茜、それは」
「空間、言わば移動手段よ」
「ほほぅ、なかなかに便利じゃな」
「まあそうね。フラン、帰るわよー」
「うん!」
『………もう、死ぬ』
フランは元気良く立ち上がって私の方へ来るが、イズナはぶっ倒れている。
何したらあぁなるんだか。
「フラン、イズナを連れて行ってあげなよ」
「え、うん。分かったー」
フランにそう言うと、承知してイズナのほうへと戻って倒れている白い鷹を両手で持ち上げてこちらに戻ってくる。
「よし、じゃあ帰ろうか」
私はまず初めに入り、次にフランが入って美咲が入ってくる。
そうして私は空間を消して、晴れて紅魔館へと戻ってきたのである。
はて、これからがカオスになりそうで怖い…