東方茜日誌   作:ミユメ

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あとがきに重大な事が書かれております。
目を通して頂けるとありがたいです。


【第32話】人里と美咲

『ミユメのたぶん深い言葉』

 

 

 人間と、人間の姿をした妖怪。

 この二つの種族は、人生同じで生き方も同じだと心の中で思っていた。

 

 そう、思っていた。

 

 だが現実は違う。

 人間は妖怪を恐れ、妖怪は人間を襲う。

 人間は約八十歳で死に、妖怪は種別によるが五千年は生きれる。

 大きく異なるのだ。

 ほぼ全てが。

 しかし例外はある。

 人間と妖怪の間であるハーフだ。

 妖怪と人間はお互いを嫌い、敵対している。

 では人間と妖怪のハーフはどうなる?

 答えは簡単だ。

 

 人間とも、妖怪でもない。生き物のゴミ。

 

 人間としても認められず、ましてや妖怪とも認められない存在。

 人間に会えば嫌われる。

 妖怪に会っても嫌われる。

 誰としても認められない存在。

 それがハーフだ。

 ハーフはそんな悲しき人生を、定めを背負いながらも…この世を生きているんだ。

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

紅魔館 自室

 

 

 

「茜お姉ちゃん! フラン人里に行きたい!!」

「……え?」

 

 どうも皆様方、おはようございます。

 朝っぱらからテンション上げ上げのフランが急に人里へ行きたいと申し出してきた。

 一体全体、どうして行きたいと思ったのであろうか。

 

「フランはとても元気が良いのぉ」

 

 フランのその隣に居る美咲がはしゃいでいるフランの姿を見ながら着物の袖で口元を隠しながらクスクスと笑う。

 

「美咲、アンタの仕業ね?」

「はて、妾はフランに人里について聞かれたから答えただけじゃぞ?」

「はぁ……」

 

 絶対それが原因だ。

 人里は面倒って言うか、フランは翼を仕舞えない為、妖怪と見なされる。一方、私は翼を仕舞う事が出来、美咲は尻尾を全て仕舞う事が可能だ。

 だから妖怪1人間2となって変な面子となる。

 

『人里か、何だ楽しそうだな』

 

 そこに一匹の鷹が私の肩の上に乗る。

 訂正、妖怪2人間2だ。

 

 

 

人里

 

 

 

「わぁー、あそこなにー?」

「あの店は菓子屋じゃな」

「じゃああそこはー?」

「あれは居酒屋じゃ。フランにはまだ速いぞよ」

 

 レミリアから許可を貰い、現在は人里の中を、翼を出している私とイズナ、フラン、尻尾を一本だけ出している美咲とで歩き回っている。まあ結局あれだ「全員妖怪として入ろうか」てきなね。

 そうしてフランのテンションがやばい事となった。次々にあそこやあれはと言いながらそれに指を差し、その店や物を楽し気に答えていく美咲。

 正直、私には何が楽しいのかが分からないが。

 はしゃいでいるフラン激カワ過ぎて惚れ惚れしちゃう。

 

『楽しそうだな、あの二人』

 

 私の肩に乗っているイズナはその二人の様子を見ながら言う。

 

「そうね」

 

 ただ一言、短く答えてそれ以上は言わない。

 何て言うか、あの二人の様子を静かに見守ってても良い気がした。

 ……それにしても。

 

「…………」

 

 私はチラッと、隣に居た人間の顔を見る。

 するとその人間はすぐに見て見ぬ振りをし、先程まで私を見ていた視線を他の所に向ける。

 まあ妖怪が人里を歩いているのだから当たり前だとは思うが、あまりこう言うのは好きじゃない。

 回りからは常に、っと言っても過言でもない程に視線を感じ取られる。

 

 遂に、私は人間じゃなくなったんだな……

 

 心の何処かで、そう呟く声が聞こえた。

 私は元とは言え人間。人間じゃない風に見られるのは少々心に傷が入る。

 

「どうした茜、表情が暗いぞよ」

「うん……?」

 

 考え事をしていると、前でフランと歩いていた美咲が顔を横にして目だけで私を見ながら歩いていた。

 

「や、別に。ちょっと考え事してただけ」

「……そうか」

「ねえねえあれなにー?」

「ん、あれは花屋じゃな」

 

 美咲は顔を前に戻してフランが指を差した店を答える。

 何だろう。こう言うのを見ると、私が親でイズナはペットで、フランは妹で美咲が姉のようだ。

 そんな事を考えると、私は少し笑った。

 人間じゃなくとも、楽しい事はあるんだと。そう思う。

 

「――でさ、あそこの店が本当に美味しくてさー」

「えぇ、今度俺もそこに連れてってくれよ」

 

 前方の方で二人の男の人間が前を見ずに語り合っていた。

 そして――

 ドンッと、フランと美咲にぶつかる。

 

「あ、悪い」

 

 一人の人間が咄嗟に謝る。

 謝ると言う事は、彼等は悪い奴等ではないのだが。

 

「お主等、ちっとは前を向くと言う事を知らぬのか……?」

「いや、それが悪かったって――」

 

 美咲の言葉に、もう一人の人間が答えようとした時、微かに……本当に微かに美咲の右袖が動いた所を私は見逃さなかった。

 

『のわっ!?』

 

 私はそれを見てすぐに動き出すと、肩に乗っていたイズナが宙に浮く。

 だがそんな事はどうでも良い。今は美咲を"止めなければ"不味い事となる。

 瞬時に美咲の右側へと寄り、今まさに右手を素早く上へと上げようとした所で美咲の右手を左手で掴み、その手に持っていた鋭い銀色の針二本が私の掌に突き刺さって貫通する。

 それを前に居る二人の人間が見えないように後ろにさせ、余っている右手で美咲の手と私の左手を覆い隠す様に後ろにも見えなくさせる。

 

「すみませんねお二人さん。大丈夫そうなのでもう良いですよ」

 

 左手からの痛みを少し我慢しながらにこやかに表情を変えさせて話す。

 

「そ、そうですか……じゃああの、本当にすみませんでした」

「すみません」

 

 二人の人間は頭を少し下げて謝り、早々にこの場から離れる様に隣へ避けて私達の後ろへと少し早足で逃げるように去って行った。

 

「フラン、ちょっとあそこの店で何か食べてきなよ」

「えー、茜お姉ちゃんは来ないの?」

「私は後ですぐ行くから、先行ってて。イズナ、フランの事ちゃんと見ときなさいよ」

『鷹使い荒いなぁ、おい』

 

 ずっと地面で倒れていたイズナは体を起こし、飛んでフランの帽子の上へと乗った。

 そうして二人は私が言われた通りの甘味屋へ入って行った。

 ――さて、こっちはこっちでなんとかしないとねぇ……。

 私は少し周りを見て、人一人分入る家と家の隙間を見付けて翼を仕舞い、そこに美咲と入る。

 念の為に音切断の結界を全体に張ってから奥に向かう。

 うむ、まあ此処ならば暗くて見えまい。

 そう思い、さっきからずっと掴んでいた美咲の手を離し、針を抜こうとすると逆に抜かされ、美咲はその針を元の右袖の方へと仕舞い込む。

 その流れを見てから、私は美咲の目を見る。

 表情は笑っておらず、真剣な顔とかそんなのではない。怒っているかの様な顔で、蒼い瞳が少し光っている。

 此処まで怒っているのは中々になかったが……。

 

「……何で殺そうと――」

「何故妾を止めた?」

 

 質問しようとすると、それを言わせないかのように先に言ってくる。

 声はいつもの声ではなく、重々しい。

 

「何故って、人里で人を殺しちゃたら不味い事になるって」

 

 私は美咲の問いに答えつつ、左手から出ている血を見て物質能力で傷を塞いで再度美咲を見る。

 

「そんな事妾には関係無い」

「あるって……」

「無い!」

 

 美咲が此処までして大きな声で否定するのも滅多にない。

 故に何かあるのであろう。

 ……いや、まあ何でかは知ってはいるのだが。

 

「お主は憎くは無いのか!? 人間が! お主の里を潰したのも人間じゃぞ!!」

 

 ……確かに、そうだ。

 私の里は月の者とは言え、人間によって潰された。だからって今更そんな昔の事を怨んでどうしろと言うのだ。

 殺したって意味がない。

 だからもう、そんな過去はどうでも良いのだ。

 

「そうね…でも逆恨みしたって、意味無いわよ」

「……はっ」

 

 呆れた様な笑いを小さくし、口を開く。

 

「お主はもう恨みが無くとも、妾にはある。それは無くしても、無くしても……無くしきれない程に」

 

 表情を怒りから少し哀しみの顔へと変えた。

 美咲が人間嫌いなのは知っていた。しかし恨みを持っていたのは初めて知った。それもとても強い恨みを。

 

「妾の友人と両親はな、人間に殺されたんじゃ。知っているじゃろ。2900年は生きている天狐は人間の手によって殺されているのを。

 それで妾の、妾の大事な友と父母はもう居なくなった。誰でもない、人間の手によってこの世から消えた」

 

 美咲はそこで右目から一筋の涙が頬を伝って下へ行く。それほどにまで、辛かったのであろう。

 私はただ、無言で真剣に聞いていた。

 

「……妾が、二匹の妖怪犬で死に、魂としてさ迷っておった時、とある山の中で娘を見付けた。その娘は生まれてまだ30年も経っておらぬ白髪の野狐であった。複数の人間が彼女を囲み、武器を持って殺そうとした。

妾は娘を助ける為に体の中に入り、妖力を持ってして迎撃した。

じゃがな、その後その娘の魂は死んだ。莫大な妖力が突然として入って来たんじゃ、それに耐えられなかったのだ。そりゃ妾が悪い事くらい分かっておる。じゃがな」

 

 涙を着物の袖部分で拭い、表情を怒りに満ちた顔にさせて私をギロリと鋭く睨んでくる。

 

「妾の友、両親、娘が死んだ原因は何だと思ってる……! あれもこれも、全部人間ではないか!! だから怨む、死んでも無くなりはしない程の怨みを持っている!! 人間は死んでも良い分類だ!!!」

 

 独特な喋りを無く、美咲の強い声が私の張った結界を小さく震わせた。

 ふぅ……ふぅ……っと、まるで獣が息をしているかの様に美咲は呼吸をしていた。

 

 ――つまりは孤独、か。

 

 私は一度両目を瞑り、短く考えてから小さく溜め息を吐いてから眼を開き、未だに怒りを持っている美咲の眼を見て一呼吸入れて口を開ける。

 

「……美咲」

「…………」

 

 名前を呼ぶが、美咲はビクともしずに無言であった。別に返答は求めては居ないからそれで良い。

 

「私だって、人間の手によって多くの同志である天狗を失った。目の前で、大切な者までも殺された……」

 

 ――真夏

 

「……でも、もうそれは昔よ。それに此処は幻想郷…狐を殺そうとする人はもう居ない。無闇に人を殺すのは辞めときなさい」

「じゃったら……!!」

「この恨みは誰に向ければ良い。でしょ?」

「!?」

 

 美咲が言うよりも速く、私は答えると美咲は驚く顔をする中、言葉を続ける。

 

「だったら、その恨みは全部私に向けなさい」

「……お主、正気なのか」

「えぇ、正気よ」

 

 私が、何を言っているかくらい十分に分かっている。美咲の恨みと言うのは、即ち殺すと言う事。それを私にしろと言っているのだ。

 

「妾の恨みは、お主なんか軽く消える程に大きいぞ」

「……構わないわよ」

「…………」

 

 私は最初から本気だ。嘘など言ってもいない。

 ギリリっと美咲が歯を強く噛み付ける音が小さく聞こえた。

 

「そんなの……」

 

 消えてしまいそうな少し震えた声が聞こえた。

 そして――

 

「そんなの、出来るわけ無かろうが! どうして妾の恨みの為だけに、妾の……妾の一番大事な友を失わなければいけない!! 何故お主はそうまでしてでも妾を止めたいんじゃ!!」

 

 今度はハッキリと大きな声で叫ぶかの様に私に言葉をぶつけてくる。

 怒っている様な表情だが眼には涙が混じっており、怒っているのかも泣いているのかも分からなかった。

 そんな顔を見ながら、私は答える事にする。

 

「恨みを晴らしてあげるのが、友人の役割だからよ」

 

 美咲は、私の友人だ。

 だから恨みは晴らしてあげたい。悲しみを抱かせたくない。相談事があるのなら聞いてやる。

 それが私のやり方だ。

 

「…………」

 

 目を少し見開かせ、私の言葉に驚いたかの様に表情を変えさせ

 

「………はっ」

 

 短く息を吐き捨てた。

 

「お主には、到底叶わんの」

「そりゃどうも」

 

 美咲は少し呆れて笑う。その顔を見て、私は安心して笑顔になる。

 

「恨みなんてね、晴らすんじゃなくて、消していけば良いのよ」

「ほう、どうやってじゃ」

 

 気付くと、美咲はいつも通りな顔で興味深く私を見る。

 

「そうね。まあ例えば、私や他の人と居て楽しんで、恨みの心を楽しみで埋めていっちゃえば行けるよ」

「なるほど。じゃあそれを試してみるかの」

「それが良いわ」

 

 本当に、そっちの方が良いわ……。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 人間なんて居なくなれ。

 

 それが私の願いであった。

 人間は私の全てを奪っていく。

 たった一人の父とたった一人の母の両親も、仲間である狐の友も、人生も、何もかもを奪う憎き人間。

 私は人間を許さない。

 何があっても絶対に許さない。

 例え、謝ろうが土下座しようが下僕とさせても変わりはしない。

 

 息の根を止めて殺す。

 

 ただそれだけだ。

 それが私のやり方であり、怨みを晴らす方法であった。

 しかし怨みはそう消えはしない。

 一人殺そうが、十人殺そうが、百人、千人と殺しても晴れはしない。

 生きている全ての人間を殺すまで、一生晴れはしない。

 ……だが、たった一人だけだが、友は生きていた。

 ソイツは、自分が築き上げた里を人間に攻められて壊され、同士である者は皆死んだが、ソイツは生きていた。

とても驚いた。

 私の友は全て人間に殺され、生きていた者など居なかった。

 だから驚いた。

 それと同時に、私は心の底から嬉しかった。

 私とは種族は違えど同じく妖怪、それも一番の友。

 生きている事を知った時、一瞬……ほんの一瞬だったが、人間への怨みが晴れた。

 だが怨みを消えはしない。

 代わりに、殺すと言う思考が薄れていた。

 私は妖怪が好きだ。

 そんな妖怪の前で、人間を殺すと言う無様な事はしたくはなかった。

 だから我慢した。

 しかし里で友と吸血鬼の少女と歩いていると、前方から前を見ずに歩いていた人間の二人にぶつかった。

 気付いては居たが、避けなかった。

 私は妖怪。人間が妖怪を避けるのが当たり前だ。

 だから避けなかった。

 そしてその人間は咄嗟に謝るが、許さなかった。

 その人間を見ると怨みが溢れてくる。

 殺したいと言う気持ちが蘇ってくる。

 右袖の内側に仕込んでいる銀色の針を気付かれない様に二本持ち、人間二人の額に狙いを定めて投げようとする。

 が、針を離す瞬間、私の友が間一髪で止めてきた。

 何故止める。

 ただその気持ちで一杯となっていた。

 友は人間二人を生かし、私を家の隙間へと連れ込ませる。

 

「何故止めた」

 

 聞きたい事だけを口にした。

 すると友は言った。

 

 人里で人間を殺したら不味い、と。

 

 だから何だと言うのだ。

 そんな事、私には関係ない。

 人間が居るのだから殺す。それに間違いなどない。

 私は間違ってなどない。間違っているのは友の方だ。

 自分の里を潰されて尚、人間を許すその心が分からない。

 私が人間嫌いなのは友は知っている。

 しかし私が何故人間が嫌いなのかは言った事がない。

 

 ――良い機会だ。この時にもう、明かしておこう。

 

 私は友に人間嫌いな理由を言った。

 今の体の元主の事も教えた。

 あの時、幼かった私は殺された両親の前で人間に対して何も出来なかった。

 友の死体を何度も見た。

 その記憶が、光景が、昨日の事かのように鮮明に思い描かれる。

 気付けば私は大きな声で友に怒鳴っていた。

 その事に気付き、切りの良い所で口を閉じた。

 だがちゃんとは閉ざせず、歯を強く噛み付けながら少し口が開いたまま獣の様に息を乱していた。

 友はそんな私を見て、一度目を深く閉じた。

 そして何か意を決したのか、目を開けて私の名を呼ぶ。

 私はそれには答えずにただ友が言おうとしている言葉を待つ。

 

 無闇に人を殺すな。

 

 その言葉が一番私の心に来た。

 お前に私の何が分かる、知った口を言うんじゃない。

 それに、殺さなかったら私のこの無くならない怨みは誰に向けて晴らせば良い。

 友は言う。

 

 全部私に向けろ、と。

 

 一瞬、何を言っているのかが分からなくて頭の中が混乱した。

 そしてすぐに理解する。殺せと言っているのだと。

 

 ――私が、友を殺せと言うのか……?

 ――どうして、命を捨ててでも私を止めたい。

 ――何でそうまでしてでも私に人を殺すのを止めさせたい。

 

 友は正気だと言う。

 私からしたらそんなもの正気ではない。馬鹿とか、間抜けとか、はたまた天然とかそんなのでもない。

 命知らず。

 その言葉が一番合っていた。

 友を殺しても、次の怨みを晴らす対象は人間となると言うのに、何故命を無駄にする。

 

 恨みを晴らしてあげるのが友の役割。

 

 悩んでいると、そう友が言った。

 消えはしない怨みだと言うのに、晴らしてあげると言う。

 おかしな話過ぎて笑ってしまいそうだ。

 ……だが、おかしな話ではあったが、嬉しかった。

 初めて私の為に何かする友が居た。

 今まで何十何百何千と生きてきたが、こうまでも私の事を思っていた者など居なかった。

 嬉しかった。

 嬉しかった……。

 初めて嬉しいかったと感じる。

 初めて嬉しかったと思う。

 やはり、私の一番の友は最高に良い。

 初めてを私に一杯、たくさんくれる。

 

 お主には、到底叶わんの

 

 のぉ……?

 妾はお主と居る時がどんな事よりも一番楽しいんじゃ。

 だから、居なくならないで欲しい。

 もう人間を殺そうなどとは考えぬから、こんな妾の為にで死なないでおくれや。

 私のたった一人の友であり、一番の友。

 

 紅夜 茜。

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 ふむ。ようやく事態が収まった。

 まさか此処まで美咲がお怒りになるとは思いもしなかった。

 こんな状況をよく止めれたなと、私は私を誉めてやりたいね!

 

「じゃ、フランを待たせちゃいけないからそろそろ行くわよ?」

「うむ、そうじゃな」

 

 私は振り返り、歩きながら右手で指を鳴らして張っていた結界を外し、少し眩しい外に出る。

 

「そこの二人」

 

 唐突として背後から明らかに私達に向けて言ったであろう女性の声が聞こえた。

 その声を聞いて私は足を止め、体ごと後ろに向ける。

 目に見えた人物は、ある妖怪と人間のワーハフタクの者であった。

 美咲は一度私を見て、同じ様に体をその者に向けた。

 

「何でしょう?」

 

 取り敢えず何で引き留めたのか理由を聞くべく、その人物に問い掛ける。

 

「いや、何か此処ら辺で異様な妖力を感じたのだが……見覚えはないか?」

「あぁ、それでしたらこの子です。もう解決しましたから大丈夫ですのでご安心を。御迷惑をお掛けしましたね」

 

 私は敬語で喋り、美咲の頭をぽんぽんと二回軽く叩く。

 何か自分でもキモいって言える程の敬語だぜ。

 敬語とか結構久々だな。

 何で敬語なんだ、っと聞かれれば、まあ何て言うの…?

 この人物の職業があれだからとしか言えないんだわな。

 別にあれ思考のあれじゃないよ? あれがあれであれでこうなのである。

 まあそれは置いておき、敬語があまりにも似合わないと思うからもう普通に喋ろうかな。

 

「そう、なのか。その子が……」

「それで、貴女は?」

「ん、あぁすまない。私は寺子屋の教師である上白沢 慧音だ」

 

 上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)

 人間の里で寺子屋を開いている。 教師であり、ワーハクタクと呼ばれる半獣人。

 容姿は、腰まで届こうかというまで長い青のメッシュが入った銀髪。頭には頂に赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せている。

 衣服は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服。袖は短く白。

 襟は半円をいくつか組み合わせ、それを白が縁取っている。胸元に赤いリボンをつけている。

 下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついているて長い。

 

「私は紅夜茜。こっちは天日美咲よ」

「ふむ、茜と美咲と言うのか。問題が起こらなくて良かったよ」

「えぇ、そうね」

 

 もし止めていなかったら人間二人死んでて問題以上に深刻な事となる所であったがな。

 っつーか、こんな所で油売っている場合じゃないんだが……。

 

「えぇっと、慧音さん…?」

「さん付けはよして欲しい。呼び捨てで構わない」

「そりゃどうも。じゃあ慧音、私達はちょっと急いでいるから、これで」

 

 たぶん十分はフラン達を待たせている。

 これ以上待たせてフランが激オコなんかされたら堪ったもんじゃ無いため、少々急がねばならない。

 

「そうだったのか。分かった、またな」

「うん、また」

 

 私は右手で小さく手を降り、後ろに振り返る。

 それからフランとイズナが入って行った甘味屋へと後ろから付いてくる美咲と入っていく。

 

「お、いらっしゃいー」

 

 中に入ると何かを眺めて居た一人の男の人間が私達を見て陽気に言う。

 私はその人間が見ていた光景が気になり、そちらに目を向けると。

 

『おいフラン、お前ちょっと食い過ぎじゃねぇか?』

「えー、美味しいよー?」

『いや知らねぇよ』

「イズナも食べる?」

『は!? いやそんなモチモチしてるもん食ったらってちょ、止めろ! 要らねぇつうのっ!!』

 

 フランがそりゃもうめちゃくちゃ美味しそうに団子を食べており、その団子をイズナに無理矢理食わせようとしていた。

 

 ははっ、何してんだあの二人組は……。

 

 そう思いながら私はその二人組の方へ歩いていく。そして気付く。

 50枚はあるであろう皿がテーブルの上に積み上げられていた事に。

 いや食い過ぎだろ!?

 

「あ、茜お姉ちゃんおそーい!」

「いや、悪かったわね。ちょっと色々あって」

 

 まあ色々って言うか、美咲の逆鱗を沈めさせていたんですけどもね。

 

『し、死ぬ……』

 

 そこに、無理矢理口を開けさせられて白くて丸い1つの団子を加えさせられたイズナがテーブルの上で倒れていた。

 なんやこの席。カオスやん。

 一人の妖怪少女は50皿分の団子を食ってるし、妖怪鷹は倒れてるし……。

 

「お主等、中々に楽しんでおるのぉ」

 

 いつの間にか美咲が私のすぐ隣の右手側、フランと向き合って畳の上で適当に座って何処からか出した盃に酒をなみなみと入れて一気飲みする。

 待ておい、此処は甘味屋だ。酒を飲む所じゃねぇよ。

 あぁもうやだコイツ等…めっちゃフリーダムじゃん。まじでカオスを通り越して混沌としてる。

 私は左手で額を押さえて溜め息をする。

 

「お兄さんおかわりー!」

「はいよー」

 

 まだ注文する気かフランよ。

 まあさ、別に金なら問題無い。前にちゃんと「円」のお金作ったからね。

 

「えーと、アンタがこの子の親で良いのかな?」

「うん? えぇそうよ」

 

 人間……もとい店員がみたらし団子が三つ乗った皿をフランの前に置いて私を見て親なのかと聞いてくる。

 うんまあ、親ではないがそれに近い感じかな……?

 だからそうだと言うと、店員は少し驚いた。

 

「妖怪の親だなんて、アンタなかなか凄いなぁ」

「?」

 

 店員は腕を組み、私をまじまじと見る。

 何か珍しいのであろうか?

 

「何が凄いの……?」

 

 私は気になり、聞いてみると店員は笑う。

 

「何言ってるんだ、人間が妖怪を育てる親なんて凄いに決まっているだろ」

「……あぁ」

 

 その言葉に、私はようやく理解出来た。

 何故なら今の私は翼を仕舞っている。だから普通の人間だと勘違いされたのであろう。

 

「や、別に私は――」

「ふっふっふ、凄いじゃろう? こやつは妾とフランの親。人間なのじゃ」

 

 人間じゃない。そう言おうとすると、座っている美咲が盃と酒をテーブルの上に置いて少し笑いながら私の体に抱き付き、店員を見る。

 おいこら、嘘を教えてあげるな。

 

「いやぁ、本当に凄いね。アンタ、まあ気を付けて育てなよ」

 

 もう完全に私の事を人間だと勘違いされた店員はそれだけを言ってカウンターの方へと戻って行った。

 やべぇ……今すぐにでも人間ではないと言いたい。

 って言うか言わせて下さい。いや真面目に言わせて!?

 だがもう遅し。そんな事は出来ない。

 

「はぁ……何で美咲は嘘を付いたのかしらねぇ?」

「良いではないか、楽しいのじゃから」

「あっそ……」

 

 あまり納得はしては居ないが、これ以上言ってもケラケラと笑いながら「楽しいから」だけしか言わないと思い、それ以上何も言わない事にする。

 って言うか、私突っ立ったままなんだけど、美咲もうちょっと奥に行ってくれないかな。

 そう思いながら、私は未だに抱き付いている美咲の後ろ頭を無意識に撫でていた。

 ――あれ、何か髪がすげぇサラサラしてて気持ち良いんだけど何これ、少なくとも普通の女の子の髪ではない。

 めっちゃサラサラしてて癖になりそうだ。

 まあそれは置いておき、まずは褒めるべきであろうか。

 

「よく頑張ったわね。美咲」

「……ふん」

 

 何に頑張ったかと言うと、まあ人間の接し方である。

 普通ならば殺すとか言っていたが、先程は普通に喋っていた。

 

 まあ、嘘言ってたけども。

 

 けども! それでも称賛するべき所であろう。

 美咲は鼻で息を吐くだけで終わった。

 案外、ツンデレてきな何かであろうか?

 フフフ、私は別に構わんぞ。

 寧ろ「ツンデレまじ最高ヒャッハー」だわ。

 まあ適度なツンデレじゃないと、心挫けますがね。

 んでだな。

 

「そろそろ奥に行ってくれないかな、私座れないんだけども」

「そうか」

 

 撫でるのを辞めて言うと、美咲はすんなりと奥へ行って普通な顔でフランを見る。

 私はそれを横目で見ながら畳の上に座る。

 すると視線に気付いたのか、美咲は私に顔を向けて少し笑う。

 

「なんじゃ、そんなに妾の顔が見たいかや」

「や、別に」

「まあそう遠慮せんでも良いじゃろ。妾が可愛いんじゃろう?」

「えー、そうねー」

 

 最後棒読みで言うと、笑ってテーブルの上に置いていた盃と酒を持っていつも通り盃に酒を入れて飲む。

 私はそれを見て少し顔が笑う。

 まあ取り敢えず、楽しい事が良い事だね。

 心の中で呟き、私は未だに食べ続けているフランを見る。

 はて、あと二日後にはフランとの生活は終わりか……。

 

「……まあ、惜しみ無く行けば良っか」

 

 小さな声で私は言う。

 

 

 その後、「もう食べきれない」っとフランは言い、請求された金額は12600円であった事は余談である。




 東方茜日誌での、今後についてです。
 唐突ですが、此処で東方茜日誌は無期限連載中止になっています。
 気に入ってくださって居た方々には申し訳御座いません。
 何も理由が無いわけではありません。
 PIXIVの方で、色々とゴダゴダがあり、急遽(きゅうきょ)新しい方で始める事となりました。
 主人公が天魔様で、脳内でのハッチャケ様。きゃっきゃうふふな展開を残し、また一話からスタートとなっています。
 正直、もう此方では投稿しずにやろうかな……そう思いましたが、投稿する事となりました。
 PIXIVでは表紙絵ありで投稿しております。
 新しい小説は「東方天魔録」となっており、この東方茜日誌の一話よりもめちゃくちゃ読みやすいと思われます。

 以上で、この東方茜日誌。最後を終わりたいと思います。
 中途半端な後始末で申し訳ありません。
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