ちょっぴりえっちな美少女アヴュールとまじめなモンジャラのレポート   作:木村直輝

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3日目_午前中_しぜんこうえん

――きょうは どようび

  むしとりたいかいが ひらかれます!――

 

「ストライク、全然いないねぇ‥‥‥」

「もじゃぁ‥‥‥」

 出発予定時刻ギリギリでチェックアウトを済ませたアヴュールたちは今、“しぜんこうえん”で“むしとりたいかい”に参加していた。

 ルールは簡単。手持ちのポケモン一匹で、大会専用のボールだけを使い、誰が一番強そうな虫ポケモンを捕まえられるか競うというものである。

 火曜日、木曜日、土曜日の週三回しか行われないこの大会に参加するために、アヴュールは今回の旅行の日程を調整していた。虫ポケモンはあまり得意ではないアヴュールだったが、せっかくなので旅の記念に、何かモンジャラと挑戦してみたかったのである。

 ――絶対優勝しようね!――。

 元気よくそう意気込んでいたアヴュールだったが、今は心なしか弱気な表情で、“かまきりポケモン”ストライクを探している。

「もじゃー!」

 突然モンジャラが鳴き声を上げ、背の高い草むらから飛び出してきた緑色のポケモンをツタで示した。

「! モンジャラ。それは、トランセルだよ‥‥‥」

「もじゃー‥‥‥」

 目の前でかたくなるトランセルを見逃し、モンジャラと一緒に草むらを歩き回るアヴュール。

 そんな彼女の今日のコーデは、くすんだパステルパープルのニットカーディガンに、襟元がかわいい真っ白なシャツを合わせ、少しだぼっとしたジーパンで脚を包んだオリジナリティーのあるものだった。

「やっぱり、ストライクにはそう会えないのかなぁ‥‥‥」

「もじゃー」

「この公園にいる虫ポケモンで、一番強そうなのはストライクだと思うんだけど‥‥‥」

 そう言いながら、アヴュールは首から下げた電子端末で時間を確認する。

 残り時間はもうそんなにない。

「うーん‥‥‥。そろそろ、とりあえず何か一匹捕まえておこっか。何も捕まえられないまま終わっちゃったら最悪だし‥‥‥」

「もじゃー」

「うーん‥‥‥、えい!」

 アヴュールはそう言うと、勢いよく手を振るって草をかき分けた。

「すーーぴぁぁ!」

「きゃっ!」

 アヴュールがかき分けた草むらから、突然“どくばちポケモン”のスピアーが飛び出してきた。

「すーーぴぁぁっ!!」

 気合を溜めるように鳴き構えるスピアーに、アヴュールはあわててボールを投げる。ニ十個しか貰えない、この大会専用のボールだ。

 ボールは見事にスピアーに命中し、地面に落下するとぐらっと揺れて、

「‥‥‥」

 ――勢いよくスピアーを吐き出した。

「すーーぴぁぁ!!」

「ああー! 捕まえたと思ったのに!」

「す~~ぴぁぁ!!」

 再び自由になったスピアーは、素早く空中を駆け、あっという間にアヴュールに迫る。

「きゃっ!」

「もじゃー!」

 間一髪。スピアーの両腕についたハリの一撃をモンジャラが受け止め、アヴュールは事なきを得る。

「すーーぴぁぁ! すーーぴぁぁっ!」

 スピアーのハリの乱舞を、モンジャラは必死で受け止める。

「モンジャラ!」

「もじゃー!」

 目の前のスピアーをしっかり視界に収めながら、力強く返事をするモンジャラに、アヴュールはうなずく。

「ありがとう! 今度こそ‥‥‥!」

 アヴュールがもう一度ボールを投げ、目の前のモンジャラに夢中なスピアーを容易く射止めた。

「お願い‥‥‥、捕まって‥‥‥!」

 祈るように両手を合わせるアヴュールの前で、ボールがぐらり、ぐらりと揺れ、

「‥‥‥」

 ――またもスピアーを吐き出した。

「すーーぴぁぁ!!」

 再びスピアーの“みだれづき”がモンジャラを襲う。

「モンジャラ!」

「もじゃぁ! もじゃぁー!」

 大丈夫だと言うように、力強く鳴くモンジャラに元気づけられ、アヴュールはもう一度ボールを投げる。

「今度こそ! お願い!」

 ボールはスピアーを吸い込むようにその中に収め、地面に落ち、三度目の正直、

「‥‥‥」

 ――とはならなかった。

「すーーぴぁぁ!」

「だめだ。全然捕まらない‥‥‥」

 一度も揺れないボールから飛び出したスピアーを見つめ、アヴュールは早くも取り出したボールを力強く握りしめる。

「すーーぴぁあ!」

 スピアーが、そんなアヴュールと無抵抗で攻撃を受け続けるモンジャラをあざ笑うように“きあいだめ”をして見せる。

 ――この大会では、捕まえたポケモンが弱ってない方が、貰えるポイントも高いんだって。ネットの噂だからほんとかどうかはわかんないけど、できれば戦わずに捕まえたいね!――。

 モンジャラは、先ほどアヴュールがそう言ったのを覚えていて、あえて一度も反撃せずに攻撃を受け続けていた。

「‥‥‥ありがとう、モンジャラ!」

 アヴュールはそう呟くと、力を込めてボールを投げた。

 力んだ投球は少しカーブをえがき、油断していたスピアーの重心を捉えた。

「お願い‥‥‥!」

「もじゃっ‥‥‥!」

 二人の祈りが重なる前で、ぐらり、ぐらりとボールが揺れて、

「‥‥‥!」

 ――カチリと小さな音を響かせると、ピタリと動かなくなった。

「‥‥‥やったー!」

「もじゃー!」

「捕まったよ! ねえ、捕まえたよ! モンジャラ!」

「もじゃー!」

「やったね? やったね! モンジャラ!」

「もじゃ~! もじゃ~!」

「ふふ、ふふふ‥‥‥。うれしいね?」

「もじゃー!」

 ひとしきり喜んだあと、アヴュールはボールに向かって駆けていく。

 とてとてとその後ろをついてくるモンジャラを振り返り、「やったね」とにっこり微笑んだアヴュールの目が、突然それて硬直する。

「もじゃー?」

 アヴュールの視線の先を追って振り返ったモンジャラも、驚いて目を丸くする。

「‥‥‥すぅぅとらいく!」

「ストライク!」

「もじゃー!」

 慌ててスピアーの入ったボールをカーディガンの飾りみたいなポケットに押し込み、アヴュールは新しいボールを取り出す。

 そんな彼女のウエスト辺りから、小さなポケットに上手く入らなかったスピアー入りのボールがぽろっと落ち、それに奪われたアヴュールの意識ごと拾い上げるようにモンジャラのツタがボールをキャッチする。

「ありがとう、モンジャラ!」

 そう言ってすぐにストライクに意識を戻し、アヴュールがボールを投げたのと、大会終了のアナウンスが流れたのはほぼ同時だった。

「ピンポーン! 時間がきました!」

 自分に向かって投げられたボールを堂々と受け止めたストライクは、一度の揺れも許さずボールを飛び出すと、何事もなかったかのように澄んだ翅をはためかせて飛び去っていった。

 

     *

 

「結果発表ー!! じゃじゃじゃーん!!」

 “しぜんこうえん”のゲートで、職員が声を張り上げる。

「モンジャラ‥‥‥」

「もじゃー‥‥‥」

 職員を真っ直ぐに見つめてつぶやいたアヴュールを見上げ、モンジャラが優しく勇気づけるように鳴く。

 いよいよ大会の結果発表だ。

「三番はストライクを捕まえたエリートトレーナーのケンさん。得点は三三三点でした!」

「三位でもうストライク‥‥‥」

 不安そうにアヴュールが呟く。

 しかし、その表情からは負けず嫌いの希望がまだ消えていない。

「二番はキャタピーを捕まえた、ピクニックガールのカオリさん。得点は三三五点でした!」

「‥‥‥キャタピーで?!」

「もじゃぁ‥‥‥」

 アヴュールたちと共にざわつく会場内で、職員がひときわ大きく声を張り上げる。

「そして! 今回の大会、一番の優勝者は‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

 アヴュールとモンジャラが固唾をのんで次の言葉を待つ中、職員がその結果を発表する。

「スピアーを捕まえたアヴュールさん! 得点は三三六点でした!」

「‥‥‥うそ」

 アヴュールの瞳が大きく開いてゆらっとゆれた。

「もじゃー!」

 うれしそうに鳴いてアヴュールを見上げるモンジャラに、かたまっていたアヴュールが微笑みかける。

「やったね! モンジャラ、やったよ!」

 喜ぶ二人は笑顔の職員に呼ばれ、他の入賞者たちと共に前に出て商品を受け取る。

「―― 一番のアヴュールさんには“たいようのいし”をさしあげます」

「ありがとうございます! ――やったね、モンジャラ!」

「もじゃ~!」

 うれしそうに“たいようのいし”を握りしめるアヴュールと、それをやっぱりうれしそうに見上げるモンジャラ。

「次の大会も頑張ってくださいね」

 公園の職員はそう言って大会を締めくくった。

 

     *

 

 大会が終わって――。

「やったね、モンジャラ」

「もじゃー」

 二人は“しぜんこうえん”のベンチに座って一休みしていた。

「だいじょうぶ? スピアーの攻撃、たくさん受けちゃって。痛かったよね‥‥‥?」

「もじゃー!」

 元気に返事をするモンジャラに、アヴュールはリュックサックから取り出した“キズぐすり”を使って優しく手当てをする。

「私ね、モンジャラと絶っ対に優勝したかったんだ」

「もじゃぁ」

「モンジャラと参加したら、きっとそれだけですっごく楽しいだろうなって思ったけど‥‥‥。本当に、それだけですっごくすっごく楽しかったけど‥‥‥。でもね。だからこそ、絶対に優勝したかったの」

「もじゃー‥‥‥」

「ふふふ。なーんてね。はい、おしまい」

 アヴュールは幸せそうに笑うと、モンジャラの手当てを終えて道具を片付けた。

 そして、リュックサックにしまってあった“たいようのいし”を大事そうに取り出して、モンジャラと一緒に眺める。

「すごいね‥‥‥」

「もじゃぁ‥‥‥」

「帰ったら、どこかで加工して貰って、アクセサリーにして貰おう?」

「もじゃー!」

「髪飾りみたいにして、モンジャラのツタに付けよっか? このへん。どーお?」

「もじゃー‥‥‥。もじゃっ!」

 モンジャラはそう鳴くと、ツタで“たいようのいし”の真ん中をつーっとなぞった。

「えっ。半分こにするの?」

「もじゃっ!」

「えー、もったいないよぉ‥‥‥」

「もじゃー‥‥‥」

 残念そうに鳴くモンジャラを見て、“たいようのいし”を見て、アヴュールはしみじみと言った。

「‥‥‥でも、そうだね。二人で大会に参加して、優勝して、貰った石だもんね。半分こにして、おそろいでつけよっか?」

「もじゃぁ~!」

「ふふふ‥‥‥」

 アヴュールは微笑むと、大事そうに“たいようのいし”をリュックに戻し、立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ行こっか」

「もじゃー!」

 モンジャラもぴょんとベンチから地面に降りる。

 あたたかなお昼の日差しの下を、二人はゆっくりと歩き出す。

 それぞれの一歩、それぞれの時間を重ねて。おそろいの思い入れ、おそろいの思い出が、また一つ。

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