とある端末の不幸某日 -Terminal_of_BadDay-
散々な日だった。
それはもう、どっかの不幸な普通の高校生を差し置いて「不幸だー!!」と叫んでしまいたいくらいには、不幸な一日だった。
その日はあっくん(
家主の黄泉川さんは
しかも普段なら断られるであろう私からのデートの誘いに、あのガードが固いあっくんが乗ってくれたという…っ!!
その時の状況だけで言えば、私にとってはこれ以上ないほどの最高のハッピーデイだった。
嬉しすぎてそれ故に動揺しすぎて、あっくんにはドン引きされたけれど。
それすら気にならなくなるくらいには、私はとても幸せだった。
だが。
その後が地獄だった。
幸せな気分から一転、絶望へと一気に叩き落とすかのような、正に地獄と言わざるを得ないほどの最悪な一日だった。
まず、序盤からコケた。
マンションから出た瞬間、頭に白っぽい粘着質な液体が私の頭に降ってきた。烏の糞である。この一回で済めば「災難だったねー」で済むのだが、これが計5回。
しかし私の不幸はこれだけで終わらなかった。
歩いている時に道端に落ちていたバナナを踏んで転ぶのが計6回。
動作不良を起こした警備ロボに追いかけられるのが計3回。
三毛猫を愛でようと持ち上げた際に顔を引っかかれ、そのまま飼い主と思われる銀髪シスターに顔面を踏まれるのが1回。
やっとの思いで映画館に辿り着き、目当ての映画を見ようとしたらチケットが全て売り切れていたのが計2回。
カフェで昼食を摂っている最中に強盗の襲撃に遭うのが1回。
身も心もボロボロだった。
あっくんにすら心配をかけてしまった。
その心配すら喜べないほど、私の心に余裕はなく。
「あっくんとのデート」ということで気分が高揚していたのも相まって、その反動で夕方になる頃には私は惨めったらしく子供のように咽び泣いていた。
◈
「ひぐ、ぇ…ぅぇぇえええんっ!なんっ、ぅ、なんっで、ぐずっ、こぉなるんだよぉっ!」
「ハァー…そンな気にすることねェだろ。また次行けばいいだけの話だろォが」
「だって…だって、わたし…ひっ…っ、あっくんと…デートがっ、できるって…おもったらっ…うれしくて…でも…チケットはうりきれてるしっ、ねこにはかおひっかかれるしっ、ふんはおちるしっ、バナナでころぶし…ぅ、うう…うぅぅううぅ…っもぉ、やだよぉ…!」
拭いても拭いても涙が止まらない。
叫びすぎて、でも呼吸が上手く出来なくて、苦しい。
世界がぼやけて、足元がふらつく。
どうして私ばかりこんな目に遭うんだろう。
私はただ、大好きな人と楽しい日々を過ごしたかっただけなのに。
私は、ただ───…。
「…ったく、オマエもオマエで仕方のねェヤツだな」
気が付くと、あっくんが私に手を差し伸べていた。
彼らしからぬ優しげな表情で、ふっと柔らかに笑いながら。
「ぁ…」
「オマエにそんな顔されるとこっちの調子が狂うンだよ。手ェ繋いでやるから、早く帰るぞ」
ぼやけていた世界が、一気に煌めきを取り戻したような、そんな感覚がした。
私の奥底から何かがこみ上げてくる。
それをぐっと呑み込んで、私は「…うん、っ」と頷き、あっくんの手を掴むために一歩、前へと踏み出して、
体が一瞬、宙に浮くような感覚がした。
「───ぇへっ…?」
見下げるとそこには一寸先も見えないような深淵が。
見上げるとそこには呆気に取られた顔をしたあっくんが。
そして辺りには、
「ふ───不幸だァァあああああああああああああ!!!!」
不幸を嘆く絶叫がただ、響き渡るだけだった。