「───…っは」
目が覚めると蛍光灯の真白い光が私を照らしていた。
鼻につくようなアルコールと、薬品の匂いがする。
…ここは病院なのだろうか。
起き上がってみると、すぐそこに薬品の入った棚と事務机。
病院と言うよりはどちらかと言うとここは学校の保健室のような場所だ。
顔を触ってみると頬にガーゼの感触が、そして鼻には絆創膏が貼られていた。
どうやら誰かが治療をしてくれたらしい。
しかし驚いたことに足の方は何ともなかった。相当な深さのマンホールから落ちたというのに骨折一つなく普通に(脳の後遺症のせいでぎこちないが)動く。
…しかし、あっくんが助けてくれたという可能性を鑑みても、何故私が保健室のような場所にいるのかが分からない。
あの場所からなら黄泉川邸の方が近いし、わざわざ学校に連れ込む理由も不明だ。あっくんがそんな訳の分からない行動をとるわけが無い。
だとしたら、私は一体誰に助けられたのだろうか…?
「起きたか」
「っ誰…?!」
扉を開けて入ってきたのは、イカつい顔の男性。
明らかに教師というような風貌をしておらず、どちらかと言うとヤクザか極道のような見た目をしている。
「貴方は、一体…」
「私はここで教師をしている夜蛾という者だ」
「は、はぁ」マジで教師だった。
「君の名前を教えてくれるか」
「……落界レイト、です」
「そうか、では落界。つかぬ事を聞くが君は何者だ?どこからここにやってきた」
「私は…マンホールから落ちて、それで」
「マンホール?」
ピクり、と。夜蛾さんの眉が動いた。
「君は空中から突然現れたように見えたが…マンホールから落ちた、とはどういうことだ」
「え……?」
空中から。ともすれば私を助けたのは空間移動系の能力者なんだろうか。だがあの時は私とあっくん以外の歩行者は居なかった。そもそも私に空間移動系の能力者に知り合いは…いるには居るが、あのオセロ少女は手に触れた物しか運べないはずである。
「あの、私の他に落ちてきた人は居ますか?」
「いや。落ちてきたのは君一人だけだが」
「そうですか…なら空間移動系能力者が私を助けたという線は薄いかな…」
「空間移動系…?能力者…?それらは一体なんだ」
「え?」
「うん?」
「本当に知らないんですか…?空間移動…。てかここ、どこの学校なんですか?学園都市所属の学校じゃないんですか?」
「空間移動なんて言うものは初めて聞いたし、ここは学園都市なんて言うところでもない。ここは『都立呪術高等専門学校』という宗教系の学校だ」
「………都立?」
基本的に学園都市に設立されている学校には都道府県立の名称は付かないはず。
それに『呪術専門学校』という名前も怪しさ満点だ。そんなオカルトチックな学校を、『神秘やオカルトはナンセンス』だと言い切る学園都市が設立するとは到底思えない。
マンホールから落ちただけだって言うのに…。まさか学園都市外にまで来てしまうとは。
とんだ災難だ。
「君、まだ動いては」
「いえ。早く学園都市に帰らないと同居人が」
「君はさっきから何を言ってるんだ…?そもそも学園都市なんてものは存在しないぞ」
「心配する───は?」
学園都市が、存在しない。
存在、しない…?
「そんな、嘘ですよね」
自然と声が震えた。
「あの学園都市ですよ?総人口230万人。内8割が学生の、学生の街、科学都市……日本人なら知らないはずない、のに」
「本当だよ」
呼吸が止まる。
「本当に、『学園都市』なんてものは存在しないんだ、落界」
世界が静止した。
頭が殴られたように痛い。口から嗚咽しか出ない。
耳鳴りがして、そして。
そのまま、目の前が真っ暗になった。