「あンの腐れ陰毛頭め、デバイスがロボットに組み込まれてんならちゃんと初めに気づいとけってんだ」
「愚痴は本人に言うとして、早いとこ片付けないと万単位で人死ぬよ」
街の南西の一角で、ザップが苛立たし気にスマートフォンを切って愚痴り、チェインは溜息を吐く。ザップの口の悪さは今に始まったことではないが、聞いていて気分のいいものではない。
普段から互いのことを『メス犬』『クソ猿』と呼び合うまさに犬猿の仲だが、共通の敵を前にし、世界の命運を懸けた戦いにおいてはある程度の協力を見せる。
その共通の敵こそ、目の前のビルに張り付いている蛙の形をしたロボットだ。
「まーたでっけぇカエルなもんだ」
呑気にビルを見上げるザップだが、その周囲は逃げ惑う人々で溢れている。中にはカメラで撮影している悠長な輩や、この世の終わりだ(ある意味間違ってはいないが)と自棄になって近くの店で略奪する愚か者もいるが、ザップもチェインもそちらへは見向きもしない。
その時、ロボット蛙がビルを蹴って、空中へと跳ぶ。その衝撃でビルのガラスが割れ、地上にもその破片が降り注ぐ。
だが、それをザップは最小限の動きで避けつつ、ポケットからライターを取り出し右手で力強く握る。
―――斗流血法カグツチ
ライターには針が仕込まれており、握れば当然そこから血が出る。しかし、流れ出た血は地面に落ちることなく別の形へと変わっていく。
―――刃身ノ拾弐・
出現したのは、血液で形成された2本の紅蓮の剣。それらを両手で力強く握り、ザップは地面へと飛び込んでくるロボット蛙と対峙する。
だが、肉薄するよりも前に蛙の口(らしき部分)が開き、そこから長い舌が素早く伸びた。本物の蛙同様しなやかな動きを見せるその舌は、接近しようとしていた警察のヘリコプターを両断して墜落させ、近くにあるアパートや雑居ビルを半壊あるいは全壊させる。
しかしザップは、慌てることなく相手との間合いを正確に把握し、向かってくる舌を右手に持った焔丸で切り飛ばす。手応えからして、それはゴム製のようだった。
その切れた舌には目もくれず、迫りくるロボット蛙に対して刀を交差して構え、十分に接近したところで蛙の腹を十字に斬ろうとした。
「お?」
しかしながら、ロボット蛙は空中で起動を変え、ザップから距離を取って着地する。重量もそれなりにあるようで、ロボット蛙が着地した場所の周囲にはちょっとしたクレーターが出来上がっていた。
一方、ザップは焔丸を振ったところで避けられたものだから、多少間抜けのような恰好となっている。
「何外してんのよ下手」
「うっせぇメスドッグ!銃もまともに当てらんねぇ攻撃力ゼロ女が文句つけんな!」
「失敬な。心臓掴んだり目玉くりぬいたりならできるよ」
チェインが早くも馬鹿にするが、ザップも負けじと言い返す。と言っても、彼の悪口はボキャブラリーが乏しい上に大体最後は正論に言い伏せられるので、チェインからすれば何ともない。
それはさておき、再びロボット蛙は高く跳び、かろうじて形を保っていたビルの側面にへばりつく。すると今度は、口を開けて水流を勢い良く吐き出した。
「――――――ッ!!」
金切り声が至る所で聞こえてくる。降ってくるビルの瓦礫だけでなく、蛙の吐く水はかなりの水圧があるようで、さながらレーザーのようにあらゆるものを切断していく。それは生き物も例外ではなく、水流砲に一般人、異界存在が両断されて肉片が宙を舞う。
「チッ」
ザップは舌打ちをして、左手に持っていた刀を右手に持ち変える。
海外から渡航警告都市とされるヘルサレムズ・ロットでは、基本身の安全は自分で守る。ほぼ毎日、大なり小なり事件が起きるので、まさに命の危険と隣り合わせの日々だ。こうした無差別テロが突然起きて、無辜の市民が命を落とすことだってざらにある。そんなことに一々気を揉んでいてはこの街で暮らしていけるはずもない。
しかし、そうした事態に対して何とも思わないと言えば嘘になる。
―――斗流血法
右手で握る2本の焔丸が溶け合うように形を変え、やがて牙のように鋭く枝分かれした刃を持つ巨大な一振りの刀へと姿を変えた。
―――刃身ノ四・
ザップは、ビルの壁から地上を睥睨するロボット蛙を見上げ、睨む。
応えるように再びロボット蛙がザップ目掛けて飛び降りてくるが、同じ轍は踏まない。そもそも、このロボット蛙の動きの速さを鑑みて、自らの得物を変えたのだ。
「同じ手が俺に通じると思うんじゃねぇぞ、クソッタレ」
ロボット蛙の胴体目掛けて、紅蓮骨喰を振るう。
そこに、カグツチ特有の炎の力が宿り、爆炎により威力と速度が増した一閃は、ロボット蛙に回避する暇も与えず胴を両断する。機体の下半分がその場で爆発し、上半身はアスファルトへと墜ちる。そこへ、ザップは唾を吐き捨てた。
「あ、このロボット人が操縦する奴だったのね」
チェインが暢気に呟く。見れば、黒煙を上げるロボット蛙の上半身辺りから、人が転がり出てきた。見た目は20代後半あたりの男で、着ている服は安っぽい地味な服で、雑踏の中にいたら全く気にも留めないような容姿だ。どういう理屈かは知らないがその男の服は耐火仕様らしい。
恐らく、この男は碧落奪回連盟の構成員だろう。そうでなくても、彼らにつながる手がかりだ。
「た、助けて…」
息も絶え絶えに、男はチェインに手を伸ばしてくる。
しかしチェインは、それを無視して男の後ろに回り込み、背中に右手を伸ばす。その手は背中に触れて終わりではなく、男の身体の中まで入っていく。これこそが、『不可視の人狼』の能力の1つで、自分の質量を『希釈』して物体をすり抜けることができるのだ。
「あぎゅ…っ!?」
「症例・心臓発作」
そしてチェインが掴んだのは、男の体内にある心臓。ものの数秒軽く心臓を握るだけで、体内の酸素の循環がうまくいかなくなり、男はぱたりと糸が切れたように横たわった。碧落奪回連盟の情報も後々のために集めなければならないので、殺しはしない。
「まだ全員片が付いたってことはないでしょうし、一応中に人がいるってことだけは伝えておくわ」
「別に死んだって問題ねぇだろうけどな」
チェインがスマートフォンでメールを各員に送りつつ言うが、ザップはあまり興味が無さげに答える。
それからザップは、近くの店で略奪改め火事場泥棒にいそしむ連中を、憂さ晴らしに斬ることにした。
「人が乗ってるって?」
チェインからのメールを見たパトリックは、物陰から通りの様子を窺う。
魔術デバイスが巨大なロボットに組み込まれている、という話はレオナルドから先ほど聞いた。彼からの情報を頼りにここまで来たが、表通りから一本逸れた道では蜘蛛のような8本の脚と膨らんだ半身を持つロボットがいた。あれがおそらく、魔術デバイスだろう。
しかし、その八本の脚の関節からは銃口が伸びており、周囲を無差別に攻撃している。近づくのは難しかった。
加えて、もっと悪いことが起きた。
「あれは何?」
パトリックと同じく様子を窺うニーカが、疑問を呈する。蜘蛛の腹のように膨らんでいる部分の後ろ…本物の蜘蛛が糸を出す部分から、夥しい数の黒い物体が出てきたのだ。目を凝らしてよく見ると、それは小型の蜘蛛のロボットだ。
「やべぇ、戻れ!」
だが、それを見た途端にパトリックはニーカの背中を押して路地へと引っ込む。
ニーカにも見えたが、大量に現れた小型の蜘蛛ロボットは、驚異的な咬合力を持っているようで、近くにいた人だけでなく、ゴミ箱やトレーラーなどあらゆるものを手当たり次第に嚙み砕いている。
「乗るんだ、早く!」
急かすように、パトリックがニーカをジープに乗せる。ジープといっても、独自の改造・武装を施し、トラブルに事欠かないヘルサレムズ・ロットでも通用するようにしたものだ。尤も、あの蜘蛛のロボットにも通用するかは分からないが。
「出せ出せ出せ!」
「シートベルト!」
「んなもん後回しだ!」
ニーカが運転席に、パトリックが助手席に座ると、シートベルトも締めずにジープを後退させる。それとほぼ同時に、子蜘蛛ロボットが角から路地へと殺到した。
パトリックはニーカに運転を任せ、ダッシュボード近くにあるボタンを操作する。すると、ヘッドライトの部分からガトリング砲が姿を現し、前方に向けて乱射し始める。何かの映画のようにこちらに迫ってくる子蜘蛛ロボットにガトリング砲が命中すると、撃たれたロボットはその場で動かなくなった。幸いなことに、通常の弾でも攻撃は効くらしい。
「一応、何とかなるな」
「あの親蜘蛛はどうか知らないけどね」
ニーカはそう言いながらハンドルを切る。路地を抜け、広い道に出ると方向転換をして今度は前進させる。渡ろうとしたスーツの男が中指を立てていたが、数秒後には子蜘蛛ロボットの餌食になっていた。
「碧落奪回連盟って、隠れてひっそり活動してるんじゃなかったっけ?なんでこんな悪目立ちすることなんて」
運転しながらニーカが尋ねる。パトリックはガトリング砲を仕舞い、代わりに別のボタンを押して車体後部の多連装グレネードランチャーを起動させつつ『さあなあ』と答えた。
「ここにきて全部穴の底に落とす腹積もりなら、今更コソコソする必要もなくなったんだろうな」
センタークラスターの画面で後方の様子を確認しつつ、グレネードランチャーのトリガーを引いて追いかけてくる子蜘蛛ロボットの大軍を攻撃する。最初にガトリング砲で子蜘蛛ロボットを破壊したからか、向こうもこちらのジープを危険視しているらしい。先ほどよりも数が多くなっている。
今日まで存在することしか確認できなかった碧落奪回連盟が、こうも大々的にテロを巻き起こしたのは、鼬の最後っ屁のつもりかもしれない。あるいは、こうしてわざと騒ぎを起こすことで、魔術デバイスの所在を崩落の瞬間まで有耶無耶にしたいのだろう。といっても、こちらには優れた目の持ち主がいるのでほとんど意味をなさないのだが。
「あの親蜘蛛ロボットはどうしようか」
「あれを使う」
「了解」
少ない言葉で狙いを理解すると、ニーカはギアを変えて速度を上げる。
グレネードランチャーで追っ手を抑えつつ、角を曲がる。あの親蜘蛛を最初に目撃した通りの交差点は1ブロック先だが、そこまで行けばちょうど親蜘蛛の後ろを取れる。
「使うのは初めてだね」
「あぁ、だからどうなるか分からねぇけどな」
ニーカはハンドルを握りつつ、その裏側にあるスイッチを押すと、フロントグリルのスリットが開き、中からスタンガンのような金属の突起が出現する。パトリックはダッシュボードから遮光グラスを取り出し、ニーカにも渡した。
後ろからはなおも子蜘蛛ロボットが追いかけてくるが、数は減ってきていた。さすがに親蜘蛛ロボットから出てくる数にも限りがあるらしい。だが、妨害の可能性はできる限り摘むべきなので、パトリックはさらにグレネードランチャーで残りの子蜘蛛ロボットを駆逐しておいた。
「起動させるよ」
「おう」
一言ニーカが断りを入れると、センターコンソールにあるボタンを一つ押す。
その直後、そのフロントグリルから突き出たスタンガンのような突起から稲光が走る。
「腕はこっちで動かす」
パトリックは、ダッシュボードからタブレットを取り出し、画面を起動させる。表示されたのは、車体前部の装置を制御する画面だ。パトリックが画面をタップすると、突き出たスタンガンがさらに前へとせり出し、機械のアームが姿を見せる。
ヴィセラル
ジープが親蜘蛛がいる通りと交わる交差点にぶつかる。ニーカはハンドルを切り、ブレーキを踏んでドリフトさせて素早く方向転換をする。車の前部のスタンガン状の装備が、親蜘蛛の背中を捉えた。
そしてパトリックが、タブレット操作でアームを動かし、親蜘蛛を切断しにかかる。これこそ独自の改造だ。
「―――――――――!!」
背後から、プラズマカッターで親蜘蛛ロボットの胴体を両断する。動力部も併せて斬ったことで、バチバチと電気が走り、その刹那親蜘蛛ロボットが爆発四散した。
ニーカがジープを止めると、炎上するロボットから人が這い出てきた。身なりが一般人のそれだった40代ほどの男で、一見単に巻き込まれた一般人かと思った。しかし、位置からして一般人なら死んでるし、服も身体も全然汚れていないので、乗っていた碧落奪回連盟の人間だと判断した。
パトリックは、ポケットから暴徒鎮圧用の電撃銃を取り出し、その男を冷静に撃った。弾(と言うより小さな電撃針)が命中すると、男はわずかに痙攣してから気絶した。
「クラウスか。ああ、こっちも始末した」
パトリックは、クラウスと連絡を取りながら、片方の手でニーカと拳を軽く合わせた。
―――
北西のブロックでドグが告げると、手首の縫い目から
「ブレングリード流血闘術、推して参る」
その隣には、クラウスが立つ。彼の鋭い眼は、通りのど真ん中で咆哮を挙げる虎の形をした巨大なロボットを見据えていた。
虎のロボットは、全身が金属の装甲に覆われており、さらに背中には翼のようなユニットまで接続されている。その咆哮は周囲の空気を震わせ、付近のビルのガラスを粉々に砕いた。連動するように、あちこちで悲鳴が上がる。
『クリスマスのはずがハロウィンみてーだ』
「賑やかだねぇ」
デルドロとドグが気楽そうに言葉を交わすが、クラウスはそれでも虎のロボットから目を逸らさない。あのロボットが一歩踏み出すたびに、アスファルトには皹が入り、鋭利な爪が自動車を踏み潰して粉砕する。多くの人々は近くの建物に逃げ込んで身の安全を確保しようとするが、中には騒ぎに乗じて物を盗む不届き者までいる。火事場泥棒には一言言いたくなるが、まずは目の前のロボットを何とかするのが先だった。
すると、ロボット側もクラウスたちを見て危険と判断したのか、こちらへ向けて突進してきた。
「いくよ、デルドロ」
『まったく、こんな時しかシャバの空気が吸えねぇとはな』
迫ってくる虎のロボットに対し、先んじてブローディ&ハマーが駆けだす。そして、突っ込んでくる虎の頭を抱えるように掴むと、虎のロボットは動きを止めた。
その後方から、クラウスが跳躍して虎の頭上に狙いを定める。
―――ブレングリード流血闘術111式
左手のナックルガードから、ぷつっと血が僅かに飛ぶ。
だが、その血の勢いは徐々に増し、やがて巨大な赤黒い十字架を作り出した。
―――
出現した巨大な十字架を、クラウスは虎のロボットの頭へ打ち込もうとする。
だが、その前に虎のロボットが首を振ってブローディ&ハマーを振りほどき、翼を広げて後方へ飛び退く。十字架は地面に突き刺さるだけで、空振りに終わった。
『でけぇ図体のわりに動きが早ぇな』
「うむ。技の速度を上げなければならなそうだ。チェインの話では、中に操縦する者もいるらしい」
アパートの壁に張り付くようにしている虎のロボットを見上げて、クラウスとデルドロは嘆息する。
『で、どうする』
「今度は私の方でロボットを止める。止めは2人だ」
デルドロとクラウスが話すが、虎のロボットはアパートを蹴って2人へと突進してきた。その拍子に、アパートの一部が崩れ、付近にいた人たちが逃げ出す。
―――ブレングリード流血闘術117式
それを見て、クラウスは左腕のナックルガードを構える。
―――
その拳で地面を砕くかのように叩きつけると、地中から巨大な赤黒い十字架の盾が瞬時に出現する。虎のロボットはその十字架を避けられずに正面からぶつかり、顎の部分がひしゃげる。だが、それだけで行動不能にさせることはできず、わずかに動きを鈍らせ後退させるに留まった。
―――ただパンチ
しかし、その虎のロボットの背中へと、中空へ跳んだブローディ&ハマーが、言葉通りのパンチを打ち込む。虎のロボットは、先ほどのように素早い動きができず、翼を模したユニットで背中を覆うようにガードした。これも、耐えられてしまう。
「もっと強く、早く力を加えなければならないか」
翼に弾かれたブローディ&ハマーは、クラウスの横に着地する。虎のロボットは、ブローディ&ハマーの攻撃が多少は通じたのか、翼の挙動も滑らかではなくなっていた。飛ぼうとしてもバランスを崩し、地面に落ちてしまう。
「クラウス兄ちゃん、あんまり放っておくとみんな危ないよ」
「これ以上時間をかけるのは、得策ではないな」
ドグからも言われて、クラウスはナックルガードを握る拳に力を籠める。
機能は幾分か落ちているが、それでも虎のロボットは質量だけで十分な武器にもなる。一歩踏み出すたびに地面が揺れ、無造作に広げた翼が建物を傷つけ、その瓦礫が落ちる。付近にいる民間人への被害も、このままでは広がる一方だ。魔術デバイスも、他の3か所で無効化したとはいえ、残ったデバイスがどんなことをしでかすかは分かったものではない。
「往こう」
それだけ告げると、ブローディ&ハマーと共にクラウスは前へと歩みだす。
その時、虎のロボットが翼を広げると、機体は宙へ浮いた。この短時間で翼の部分を修復したらしい。
それを見たブローディ&ハマーも跳び上がり、虎の頭部に拳を振り下ろす。空高くへ舞い上がろうとしていた虎は、地面に叩きつけられた。
―――ブレングリード流血闘術39式
それを見て、クラウスは再び地面に自らの拳を打ち込む。
―――
地面に伏す虎のロボットを取り囲むように、赤黒い十字架が出現して身動きを封じる。十字架の形を利用し、跳びだてないようにして虎の機体を押さえつけた。
そのロボットめがけて、跳び上がったブローディ&ハマーが拳を構える。それも右腕以外の血殖装甲を解除し、右腕に集中させて数倍の大きさの拳を形成していた。
―――ただパンチ・改
ドグが拳をロボットに叩きこむ。先ほどの『ただパンチ』よりもこちらのほうが威力ははるかに上だ。
ブローディ&ハマーの拳を背中に受けた虎のロボットは、機体が地面にめり込み、大きく凹み、火花が散り音を立てて動きを止める。それを確認すると、ドグはデルドロの血液を再び全身に纏わせて離脱する。
そして、虎のロボットは爆散した。
『ツェッドっち!他の4チームはもうデバイスを止めたらしいわよ』
「了解しました」
K・Kからの連絡を受けて、ツェッドは通りの先にいる巨人を模したロボットを見る。拳と足の部分が特に大きく、高さは見る限り10階建てのビルに相当していた。
それほどの大きさと重量のロボットが暴れるだけでも十分厄介だが、掌には大口径の銃を仕込んでいるようで、周囲に無差別な砲撃をしている。人々は逃げまどい、道路の真ん中に立つツェッドなど気にも留めない。遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえたが、恐らく彼らは住民の避難に注力するだろう。
―――斗流血法シナトベ
ツェッドは右手を強く握り、鋭い爪で掌にわざと傷を作る。そこから出てきた血を操作して、鋭い三叉槍を作り出した。
―――刃身ノ五・
このスマートな三叉槍こそ、ツェッドの得物だ。
その時、ロボット側もツェッドの存在に気付いたのか掌の銃口を向けてくる。
ツェッドは前へと駆け出す。
『
ツェッドの無線に、K・Kの声が響く。
瞬間、どこからかの狙撃がロボットの腕に命中した。しかも、それはただの弾丸ではないらしく、着弾した箇所から電撃が全身に渡り迸る。メキメキと、ロボットが軋むような音を発した。
『援護するわよ。ツェッドっちは遠慮なくやっちゃいなさい』
「ありがたいです」
電撃弾は、K・Kによるものだった。血液を弾丸に織り交ぜ、オールレンジから電撃弾を放つ援護は非常に心強い。
ツェッドはK・Kに礼を告げ、ロボットが怯んだ隙に間合いへと入り込む。図体が大きいためか、ロボットの巨大な腕では胴体下部に入り込んだツェッドを捉えるのは難しいらしい。
と思いきや、腹部付近の装甲が外れ、そこからさらに大口径の銃が出現した。
「ッ!」
それを見ると、ツェッドは脚に力を込めて速度を上げる。ロボットは、機体の欠損などお構いなしに発砲するが、ツェッドは転がるようにして巨人ロボットの股下を潜り抜ける。砲弾が地面に直撃すると、爆炎とアスファルトの破片が襲い掛かってきたが、ツェッドは一旦三叉槍を解除し、血液で自分の身体を庇う程度の盾を形成してどうにかやり過ごした。
そこへ、さらにK・Kが電撃弾を撃ち込み、ロボットの動きを止めさせる。
衝撃が収まり、電撃がロボットを鈍らせたところで再度三叉槍を作り出し、背中に向けて投擲する。
―――
三叉槍が背中から銅へと貫通すると、機体に空いた穴を中心に烈風が発生し、ロボットの体を大きく抉り取った。
さらにツェッドが右手を広げると、貫通した三叉槍がパラパラと糸のように解け、残ったロボットの残骸を一つ残らず絡め取る。
―――刃身ノ弐・
―――
血液の糸が一気に力を強め、残ったロボットの残骸を一網打尽にし、粉砕する。
『ヒューッ!やったわねツェッドっち!』
無線でK・Kが喜びを露わにする。
だが、ツェッドは粉々にしたロボットの残骸から何かが飛び出すのを見た。
「?」
目で追うと、その飛び出したものはツェッドからおよそ20フィートほど離れた場所に降り立つ。
『碧落奪回連盟かしら?』
K・Kも確認できたようで、ツェッドに訊ねてくる。
そこにいるのは、スーツに身を包んだ灰色の髪の男だ。年齢は30代ほどだが、決して屈強な身体つきではなく、どちらかと言えば痩せ気味だ。その一見どこにでもいるような何の変哲もない恰好こそ、碧落奪回連盟が今まで影も形も掴めなかった理由だろう。
だが、如何に日常に溶け込む能力に長けているとはいえ、木端微塵したロボットから人の形を保ったまま無傷で脱出できるほどに頑丈とは思えない。
ツェッドは、何か嫌な予感がして、ポケットから『鏡』を取り出し、その人物に向ける。
「…K・Kさん。レオ君をここへ呼んでください」
鏡に『何も映らない』のを見て、K・Kにそう告げると、ツェッドは再び三叉槍を手にした。
「やりました!魔術デバイスの反応が全部消えました!」
ドローンの上で、レオナルドは喜びを示す。地上班の様子を全て確認できたわけではないが、魔術デバイスのオーラは見えなくなった。残滓なども見えないので、デバイスの起動は阻止できたと思われる。これで、ヘルサレムズ・ロットが崩落することもない。
しかしその時、突然ドローンが方向転換をした。堪らずレオナルドは、フレームに身体をぶつけてしまう。
普段こういったことがめったにないギルベルトにしては珍しいと思い、レオナルドは後ろの操縦席に座るギルベルトを見る。彼は、誰かと通信をしているらしく、ヘッドセットに手を当てていた。
「申し訳ございません、レオナルド様」
何事かを訊ねる前に、ギルベルトが謝り事情を話してくれた。
「ツェッド様とK・K様が、
ギルベルトからの連絡を受けて、スティーブンたちは車で現場へと急行していた。魔術デバイスを無事に止められたと思ったところで血界の眷属が出現するとは、まさに一難去ってまた一難。この街らしいと言えばらしいかもしれないが。
ちなみにニーカとパトリックに対しては、武装ジープ程度で戦える相手とも思えないので、本部で待機するようスティーブンから伝えてある。直にザップとチェインも現場へ到着するだろう。
「全くどうして犯罪者集団なんかに血界の眷属がいるんだ…?」
「分からない。とにかく今は、ツェッドとK・Kが踏ん張ってくれている。一刻も早くそこへ向かい、封印するしかないだろう」
不満たらたらなスティーブンを、クラウスは窘めるように告げる。
『イヴに血界の眷属たぁ粋じゃねぇか』
「クリスマスを楽しみたいのかなぁ?」
ブローディ&ハマーは相変わらず暢気だった。
「合わせろ葛餅!」
「言われるまでもありません!」
一足早くスクーターで現場に到着したザップが焔丸を構え、ツェッドは突龍槍を握り直す。ツェッドは既に血界の眷属と戦闘をしていたので、多少服に煤が付いている。ひどい呼び方は今に始まったことではないので無視した。
彼らと相対するのは、スーツを着た瘦身の男。見た目は人間だが、その実情は人知を超えた存在によって肉体改造を施された吸血鬼。その力は人並み外れている。現にこれまでの戦闘で、周囲の車は原形を保っているものがほとんどないし、建物や地面も大きく抉れている。
そんな血界の眷属は、スーツの袖口から赤黒い触手を伸ばし、大きく振る。ザップとツェッドはそれを跳んで避けたが、その触手は周囲の街灯や横転しているトレーラーをいともたやすく両断する。
「シッ!」
一瞬で、ザップは血界の眷属との距離を詰め、腹部を横一文字に斬り、腰から上を切り離す。
続けてツェッドが突龍槍を後ろから頭に投げ刺し、できる限り上半身と下半身の距離を離した。すると、上半身と下半身から赤黒い触手が伸びて絡み合い始める。胴体を繋ぎなおそうとしているのだ。だが、それを見たザップは焔丸を手放して無数の糸状に変形させ、ポケットから取り出したライターに火を灯す。さらにツェッドもまた、突龍槍を細い糸へと変えて、血界の眷属の周りを囲うようにし、風を発生させる。
―――
そして、血界の眷属を飲み込む豪炎が発生した。ザップの『カグツチ』とツェッドの『シナトベ』、炎と風の合わせ技により、威力は個々人の技単体と比べれば段違いだ。
ところが。
「…
豪炎が収縮し始め、血界の眷属がその炎を赤い触手で握り潰したのを見てツェッドは告げる。
血界の眷属は、技の影響を全く受けていなかったというわけではないらしく、肌がところどころ焼け爛れていた。しかし、それも見る見るうちに元通りになり、30秒と経たずに外見は元に戻る。
さらに、メキメキと何かが軋むような音がしたかと思うと、肩口から新たな腕が2本生えた。さらに、元々生えていた両手と新たに生えた両手には、いつの間にか出現した赤黒い西洋の剣のようなものがある。それらはザップやツェッドの得物と同じような雰囲気し、2人との戦いを経て真似をするつもりのようだ。
「すまん、遅くなった」
「状況は?」
そこへ、スティーブンとクラウスが駆け付けてきた。
すると、血界の眷属は4本の腕と剣を大きく振り回して周囲に無差別な斬撃を仕掛ける。クラウスとスティーブンが咄嗟にそれぞれの技で防御し、ザップとツェッドはその2人の陰に隠れつつ状況を説明した。
「陰毛は」
「ギルベルトさんが今運んでる。着いたらハマーたちがここへ連れてくる」
「…たまには彼のことを名前で呼んであげてください」
対血界の眷属においてはキーパーソンのレオナルドは、到着まで少し時間がかかる。それまでは、ここにいる者だけで踏みとどまらなければならない。そんなレオナルドに対するザップの呼び方はあんまりだし、スティーブンにもそれで通じてしまうのが、ツェッドはどこか気の毒に思った。
その時、剣を4本構えた血界の眷属が突進してきた。すかさず、K・Kの電撃弾が頭に命中して動きを止めた。
「行くぞ!」
スティーブンが声をかけると、4人は血界の眷属の下へと駆け出す。
ギルベルトの操縦するドローンは、戦闘している場所の近くの高層ビルの屋上に降り立った。幸いにも、血界の眷属や彼の乗るロボットが起こしたトラブルのおかげで、一般人は大方避難している。
『おう、来やがったなクソガキ』
「待ってたよ~」
レオナルドがドローンから降りたところで、ブローディ&ハマーが出迎えてくれた。だが、ビルの下方からは今もなお戦闘の影響と思われる衝撃音が響いてくる。
「あそこっすか」
レオナルドが見下ろしながら訊ねるが、ブローディ&ハマーは答えず、代わりにレオナルドの首根っこを掴んだ。『えっ』と困惑を口にするが気にも留めない。
『口閉じてろよ。舌嚙んで死ぬぞ』
デルドロがそれだけ言うと、レオナルドを脇に抱えたまま、屋上からぴょんと飛び降りた。階段を2段飛ばしで降りるように、気楽な調子で。
しかし、レオナルドからすればたまったものではない。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!??」
小脇に抱えられながらレオナルドは叫ぶ。身動きが取れない上、遠い地面が段々と迫ってくるのだ。しかも彼は神々の義眼の所有者である故、人並外れた視力がある。より鮮明に、豆粒程度の大きさだった人や車、そして地面が近づいてきて、ブローディ&ハマーを信用していても『死んでしまうのでは』という予感が頭をよぎる。
しかし、デルドロの宿主であるドグはちゃんと良識を持っている(若干天然だが)ので、しっかりとレオナルドを手放さずに地上へと着地した。
「大丈夫かレオナルド君!」
「ええどうにか…」
真っ先に駆けつけてきたのはクラウスだった。ブローディ&ハマーから解放されたレオナルドは、ぜえぜえと緊張から荒い呼吸を繰り返す。
―――エスメラルダ式血凍道
―――
その時、スティーブンがレオナルドたちを庇うように巨大な氷の壁を出現させる。そこへ血界の眷属が投げ放った剣が刺さるが、かろうじて氷の壁で持ちこたえることができた。
「気を抜くな!早いところ諱名を『視て』密封しないと被害が広がる!」
「は、はい!」
スティーブンから釘を刺され、レオナルドは平静を取り戻す。
通りの先では、今なおザップとツェッドが協力して血界の眷属と戦っている。電撃弾も炸裂しているのを見る限り、K・Kも戦ってくれているようだ。ブローディ&ハマーも、戦闘に参加し始めた。
そんな彼らやスティーブン、クラウスと比べると、レオナルドの戦闘力はあまりにも低い。だからこそ、自分にできることは最大限やらなければならないのだ。
(ひどい有様だ…)
辺りを見回すが、戦闘の余波の影響で、どこもかしこもボロボロだ。その中心にいる血界の眷属は、邪悪そうな赤黒い剣を4本振り回している。命を刈り取らんとする、死神のようにも見えた。
だが、そんな血界の眷属に対して、レオナルド以外の誰も、腰が引けていたりなどしない。それぞれが目に光を宿し、臆することなく戦っている。
―――我々は、疑う余地もなく強い。それを胸に、やり遂げよう
この日の作戦の前に、クラウスが告げていた言葉を思い出す。
たとえ足が竦んで動けなくなりそうなほどの恐怖と立ち向かってでも、決して後ろに引いてはならない。
レオナルドだって、ライブラの一員なのだ。
「ッ!!」
閉じていた眼を開き、美しく輝く神々の義眼を起動させる。
今なお戦闘を続けている血界の眷属。その姿に重なるように、複雑怪奇な文字列がレオナルドの目に映る。古代の文字で記された諱名だ。
レオナルドはそれを見ると、スマートフォンを即座に取り出してアプリを立ち上げる。対血界の眷属用に開発された、諱名入力アプリだ。これを使えば、古代文字をアルファベットに変換して、血界の眷属を『密封』するクラウスへと送信できる。
焦らず、迅速かつ正確に諱名を打ち込み、完成したそれをクラウスのスマートフォンへ送信した。
血液の十字架を出現させて、血界の眷属の剣をいなすクラウス。
その時、ポケットに入れていたスマートフォンから、メッセージの着信を告げる音とバイブレーションが発せられる。すぐにクラウスはスマートフォンを取り出して画面を点けた。
「スティーブン!」
「よし」
名を呼ぶだけで意図が伝わり、スティーブンは今なお猛威を振るい続ける血界の眷属に対し、氷の槍をぶつけて動きを一瞬でも抑える。ザップとツェッドも狙いを察したようで、血界の眷属の動きを最小限に抑えつつ、クラウスが接近しやすくなるよう得物を操る。
血界の眷属の動きが鈍り、そこへクラウスが巨躯からは想像もつかない速さで接近し、その左胸めがけてナックルガードを打ち込んだ。
「イスフェレナ・ギギ・エルウロイ・ム・ウダナシャフカ」
「!?」
「貴公を密封する」
諱名を告げる。
直後、血界の眷属の心臓がひと際跳ねたのを拳で感じ取り、血界の眷属―――ウダナシャフカの表情が驚愕に染まった。今まで余裕の表情だったのが、嘘のようだ。
「憎み給え」
ウダナシャフカの動きが完全に止まり、手足が軽く痙攣する。
「赦し給え」
手足の先に赤黒い瓦のような薄い板が無数に出現し、身体を覆い始める。
「諦め給え」
赤黒い板が胴体や首、頭の周りにも出現して全身をくまなく覆い始める。苦しそうにウダナシャフカが口を大きく開けるが、そこからは叫び声も呻き声も聞こえない。
「人界を護るために行う我が蛮行を」
赤黒い板が全身を覆い、ウダナシャフカの姿は完全に隠される。
腕を広げて足を伸ばし、十字架のような形となった彼はやがてその大きさが徐々に小さくなっていく。
―――ブレングリード流血闘術999式
―――
ついに手のひらサイズにまで小さくなった十字架が地面に落ちると、軽い金属音が周囲に響く。
先ほどの死闘から打って変わって、周囲は静かになった。
◇ ◇ ◇ ◆
こうして、いやにピリピリとして血生臭い雰囲気だったクリスマス・イヴは終わりました。
あれだけの騒ぎと、それなりの死傷者数にもかかわらず、一夜明けるとまたいつも通りの喧騒が戻ってきています。
「お疲れーっす」
「おっせぇぞ陰毛頭!テンメェ3ブロックぽっち先の店に行くのに2時間もかけるたぁ見上げたサボリ根性じゃねぇかアァン?!」
「しょうがないじゃないっすか!この時期ジャック&ロケッツはめっちゃ混むんすから!」
「むしろクリスマスと言う時期にファストフード業界がどれだけ繁盛するのか、全く理解していないあなたの思考回路の方が問題なのでは?」
「ンだと魚類?」
そして、なんやかんやあったイヴから一夜明けた今日は、ライブラの本部で『クリスマスパーティ』と言う名の打ち上げが行われています。相も変わらず、僕はパシリにされてますが。
「って、ニーカさんピザ1枚独り占めはずるいっすよ!」
「いいじゃないの、別に。まだたくさんあるんだから」
「姐さん、物には限度ってのがあってだな…」
ピザは割と多めに買ってきたはずなんですが、ニーカさんが割と多く食べる人なので、皆に行き届くようにするのも大変です。
「ガッハハハハハ!飲め飲めクラウス!」
「すまないパトリック、私は酒はあまり…」
「遠慮するな!お代わりもいいぞ!」
「うわー…パトリックさん完全に出来上がってる…」
こうした打ち上げや懇親会では、パトリックさんは真っ先に出来上がります。そして大体、周りにいる人に絡んできます。
なんてことを思っていたら、こっちに気づいたパトリックさんが近づいてきました。
「おう、お前ら!楽しんでるか!」
「ほら相手をしてあげなさいレオナルド君、ああいう酔っ払いの相手は若手の仕事だろう?」
「面倒なことになると決まって優しくなるアンタのその姿勢嫌い!マジ嫌い!」
そしてザップさんは容赦なく僕のことを人身御供にします。本当にひどい。ツェッドさんはこうなる空気を読むのが非常に上手で、この少し前にトイレに逃げ―――行ってしまいました。
「あれ、K・Kは?」
「お子さん連れてファミレスへ行きました。母親の体現を保つとかなんとかで、例の新しいVRゴーグルもちゃっかりゲットしてます」
「あー…やっぱそこらへん大変なんだろうなぁ」
「ですね」
パトリックさんに絡まれながら、スティーブンさんとチェインさんが喧騒から少し離れた場所で静かにのんでました。なんか距離がいつもと違う気がするのは気のせいでしょうかね。
「流石にハマーたちは戻っちまったか」
「まぁ、仕方ねぇよなぁ。あれでもS級犯罪者だし」
ザップさんの言う通りで、昨日のうちにハマーさんとデルドロさんはパンドラムへ再び収監されてしまいました。せっかくのクリスマス、働いてくれたのにご無体なとは思ったので、ケーキの差し入れをしたので一先ずは安心です。
「それにしても」
そうしてクリスマスを自分たちなりに楽しんでいる中でも、僕の中にはある一つの疑問が残ったままです。
「なんで血界の眷属が、碧落奪回連盟みたいな非合法な組織にいたんでしょうかね?」
「さーてなぁ。あんな化け物たちの考えなんてわかりたくもねぇや」
「その考えには賛成ではありますね。あれほど非常識な力と思想を持つ存在の考えを理解しようものなら、世界の全てが狂って見えてしまいそうです」
その疑問を口にしても、ザップさんは勿論ツェッドさんも一緒に悩んではくれません。お酒をラッパ飲みするパトリックさんも、同意見のようでした。
だけど僕個人、あくまで推測でしかないけれど。あの血界の眷属は元NYの住民で、自分を血界の眷属に変えた異界存在に一矢報いたかったのかもしれません。HLを崩落させて、異界にも混乱を生じさせ、自分達を人智を超えた存在に無理矢理変貌させた奴らにぎゃふんと言わせたかったとか。
だけど、それは僕みたいな凡人の考えで、もしかしたらもっと他のことを考えていたのかもしれません。
「まぁ、わからねぇなぁ!んな難しい事ぁ飲んで忘れるに限る!」
そんなことを考えていたら、出来上がっているパトリックさんに捕まりました。多分向こう1~2時間はこのままになってしまうでしょう。
「なんだよレオ」
「え、なんすか?」
「何ニヤニヤしてんだお前?」
「そりゃ、楽しいからじゃないすかね」
そんな感じで、クリスマスはちょっといつもと違う雰囲気ですが、全体的に見てみれば普段とあまり変わりません。
クリスマスにも世界の命運がかかるいざこざが起きるけど。
今こうしてみんなで普通とは違うクリスマスを過ごすのは、楽しいと思う自分もいるわけで。
ミシェーラ。
兄ちゃんは今、割とこの街の生活を満喫しています。
だから、心配しないで。
これにて、今回の話は完結でございます。
最後に少々、あとがきを書かせていただきます。
血界戦線は1話完結の話が多く、異常が日常の街で起こる戦いを描いているため、今回の話はそれに近い雰囲気となるように努めて書き上げました。
また、血界戦線の二次創作を書くのは初めてのため、ライブラの構成員をできるなら全員書きたいと思い、それを念頭に置いて今回の物語を構成しました(それでもブリゲイトさんやサトウさんは書けませんでした…)。
ブラッドブリードに関しても、ただ大量破壊兵器の起動を止めるだけではいまいち面白みに欠けると思い、登場させました。諱名は独自に考えて決めましたが、これにはかなり時間を要しました。
今回、多くの初めての試みがありましたが、お楽しみいただけたようであれば幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。