心地よい風が吹き抜けるとある部屋。
ベットとサイドボードだけの簡素な部屋に、見舞いに来たであろう男女が3人。
そしてベットには上半身だけ起こしている猫耳を持つ男性がいた。
「単刀直入に申し上げます。暫く眠りについた方がよろしいかと・・・」
「それ程体の状態はボロボロ・・・ということか・・・?」
「・・・はい」
カルテを眺めながら白衣の女性はそう頷いた。
「リーダーはこれまでの戦いで最前線に立って作戦指揮を執ってきた。そのおかげでセイレーンの一大攻勢を退けこの大陸の海域は安全になってきた。が・・・」
一息おいて、白髪の男性は続けて話す。
「その分体を酷使しすぎたのだ。それも、私が冷や汗をかくほどだ。このままではいずれ体を壊す。セイレーンの活動が沈静化した今だからこそ、眠りに着き安静にした方がいいと私は思う。」
「私も彼と同意見でございます。」
彼の近くにいた軍服を着た女性も彼の意見に賛同する。
そうか、と呟いた後白衣を着た女性に視線を移す。
「お前の意見も聞きたい。」
「はい、まずリーダーはこれまでいくつ大規模作戦に携わったのか覚えていますか?」
「・・・7か8、いやそれ以上だな。」
「・・・13です。ですがこれは私の視点で見た場合ですので実際はもう少し多いとは思いますが・・・。その中で一番大きなもの・・・」
「ああ、『END作戦』だろ」
END作戦
Eは"English Channel"(現実世界のイギリス海峡)、Nは"North Sea"(現実世界の北海)、Dは"Strait of Dover"(現実世界のドーバー海峡)のそれぞれの頭文字から取って名付けられた作戦。文字通りこの三海域で起きたセイレーンとの大規模海戦。この戦いでは量産型に加え未確認の上位個体までもが出現しアズールレーン側は苦戦を強いられた。しかし、彼率いる艦隊が参戦したことで形成は逆転。未確認の上位個体はリーダーである彼の手によって撃破され終結した。
「リーダーはあの戦いでかなり無理をされました。結論から申し上げますと眠りに着き再び目覚めてあの作戦と同等またはそれ以上の規模の戦いに身を投じたと仮定した場合次は車椅子・・・最悪寝たきりの生活になろうと思います。」
彼女のその言葉に彼は右手を顎に持ってきて考え込む素振りをする。
そして、彼の中で結論が出たのであろう
「・・・わかった。全員集めてくれ。これからの方針を話す。」
「了解しました。」
五分後・・・
部屋にはこれまで苦楽を共にした多くのメンバーが集結した。
全員集まったことを確認した彼は静かに起き上がり、話し始める。
「皆に集まってもらったのは他でもない。これからの方針について話す。」
一度メンバー全員の顔を眺めたのち、続けて話す。
「我々はこれまでアズールレーンを支える影の存在としてセイレーンとの戦いに身を投じてきた。時に船団を助け、時に上位個体の撃破にもかかわった。皆の力のおかげでセイレーンの攻勢を退けこの美しい海を取り戻した。」
ここまで話したとき、突如立ち眩みのような感覚が彼を襲った。
異変に気付いたメイド服を着た女性がサッと支える。
「大丈夫ですか?」
「ああ・・・。だが見ての通り私は体を酷使してこのあり様だ。先に見舞いに来た三人と話し合った結果、私は暫く眠りに着くとこにした。あの広い大洋で眠りたい。それが俺の我儘だ。」
「重桜とユニオンとの間に広がる大洋、ですか・・・。確か先週の作戦の折チラッとですがいくつか島があったと思います。そこなら目立ちにくいかと。」
「そうですなぁ!あても賛成です!みんなはどうよ?」
他のメンバーも口々に賛成の意見を述べた。
「ありがとう・・・奇妙な縁ではあったがここまでついてきてくれて感謝する。ではリーダーとして眠りに着く前の最後の命令を出す。」
姿勢を正し言葉を待つメンバーたち。
「活動は私が目覚めるまで休止だ。いずれ我々の力が必要とされる日が来る。それまで皆は英気を養って欲しい。」
ーーーーーーーーーー
集まっていたメンバーは各々持ち場へと戻っていった。
しかしただ一人、黒いマントを羽織った金髪の女性が彼の傍に残っていた。
「その様子だと、何か言いたいことがあるようだな。エーリヒ」
エーリヒ・レーヴェンハルト。それが彼女の名である。
「主・・・あの時はすまなかった。もう少し正確に把握できたら、あの作戦は多くの死者を出さずに済んだ。」
そう言いながら彼女は深く頭を下げた。
「頭を上げてくれエーリヒ。お前の情報がなければ展開していたセイレーンの規模を把握しないままあの海域に突撃していたのかもしれない。作戦を円滑に進めれたのもお前がもたらした情報あってのおかげだ。」
「・・・死んだ者はもう戻らない。そいつらの願いも背負って生きていく。それが戦いに身を投じるKAN-SEN達の使命だと俺は思う。」
「ああ・・・そうだな・・・。」
窓から見える美しい海岸と青空を二人は静かに眺めていた。
「主・・・私はあの戦いを教訓に今ある組織に変わる新たな組織を立ち上げようと思う。海を取り戻した人類が次に何をするのかわからない。主が眠りに着いている間にそれまで手を取り合った陣営が分裂して新たな対立を生む可能性もあるからだ。この世界の情勢を正確に把握することも大事ではないか、と。」
「この世界も俺が前いた世界とは何ら変わりはない。・・・この話はレイテにも話しておくといい。ユニオンや重桜の情報もまだまだ不十分だからな。」
「・・・わかった。」
それから一週間後・・・
すべての準備を整えた俺たちはその夜、食料庫に残されていた数本の酒を開け、これから東のルートを辿っていくメンバーと数年後の再会を願って飲み交わした。
出発の朝、古参の一人であるヒルに師匠宛ての手紙を渡す。
姉に当たる彼女は涙を流していたが、目が覚めたら会いに行くからと一言告げると「約束だからね」と軽く俺の手を握った。
その二日後、俺含むメンバーは西のルートを辿る。
しかし、人数が多く一度に移動するとアズールレーンに悟られる恐れがあるため、護衛二人を俺の手元に残し、他のメンバーは更にルートを三つに分けて時間をずらして移動することになった。
その日の夜・・・・
アズールレーンに悟られないよう俺とその護衛を担当する仲間が秘密基地を出発した。
この基地に戻ってくることはもうないだろう・・・。
深夜、ロイヤル本土北端の海岸に上陸、宿を取って数時間すごした後、早朝チェックアウトして鉄道駅に向かい首都に向かう便の切符を購入した。
朝、俺たちが乗った列車は定刻通り出発した。オースティンは買ってきた栄養バーを齧りながら車窓を眺めている。一方もう一人の護衛であるジュトランドは俺とチェスをしている。やはり彼は強い。
首都に着いたのは夕方である。流石に長時間の乗車で疲れたため近くの宿を取り軽い夕食を済ませた後、船の予約を終わらせ早めに就寝した。
翌日昼、多少首都を観光した後港に向かいNY行の船に乗船。航路が再開したとはいえセイレーンは存在する。そのため今日乗る船にも護衛するであろうロイヤルのKAN-SENとおぼしき少女たちがいる。
定刻通り船は出港した。ここまでは順調だ。
道中何も起こらないことを祈ろう。