SAOデカ   作:リューイ

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第3話

 茅場の犯行声明から4日、管轄内の住人の安否確認はほぼ終わり、10人のナーブギア使用者が見つかった。

 不幸中の幸いと言うにはあまりにもやりきれないが、すでに死者が400人以上出ている中、管内で見つかったナーヴギア使用者10人の内、死者は私と日名さんが見つけた少年一人で終わった。

 反面、茅場自身の検挙や、プレイヤーの安全な救出方法などの目途は全く立っていないという状況らしかった。

 しかしそれは捜査本部の人間の怠慢ではない。それこそ彼らは不休ですべてのリソースをつぎ込んで捜査している。

 だが警察の全能力を使っているかというとそうでもない。通常の業務もある。私もすでに交番の勤務に戻っていた。

 そんな時、思い出したかの様に課長から呼び出しを受けた。

 

 

 

 

 

 「へ」

 

 思わずマヌケな声が漏れた。課長の発した言葉が余に意味不明だった、いや意味は分かったが理解ができなかったからだ。

 

 「あの、すいません。もう一度お願いします」

 

 「ナーヴギアを明日、証拠品として本庁の対策本部まで届けてこい。だな」

 

 「いえ、そうではなく。その後です」

 

 「それと、お前は来週付けで本庁の捜査一課に転属になったぞ。か?」

 

 「それです、何の冗談ですか? 私は専科講習も受けてない全くの素人ですよ」

 

 私がそう訊くと課長は椅子に深く座り直してめんどくさそうに息を吐いた。

 

 「俺にもよく分からん。今起きている茅場の事件の様な新時代の犯罪に対応するために早急に捜査一課内に新しい捜査係を設立する。だから若い人材がほしい。お前をよこせと言われた」

 

 「刑事を希望している人は他に沢山いるでしょう、辞退できないんですか?」

 

 「警官一年目から捜一の赤バッジなんて前代未聞の大抜擢だ。喜んで受けとけ」

 

 課長のその言葉は自分も上からの命令を遂行しているだけだ。お前も警察官なら命令には従っておけ、と暗に言っている様だった。それは長年無難に警察官をやっている課長の処世術なのだろう。

 

 「了解しました。謹んで拝命いたします」

 

 私は課長に敬礼をした。

 

 「ところで私が配属されることになる所はなんていう名前なんですか?」

 

 私がそう訊くと課長は軽く笑い教えてくれた。

 

 SAO係だと。

 

 

 

 

 

 

 今日私は所轄署から警視庁へと栄転する。

 だが全然嬉しくない。理由は主に2つ。

 一つ目は、普通では在り得ない超横紙破りな人事異動だから。

 二つ目は、移動先が刑事部捜査一課に急遽新設された部署である事。

 もう厄介事の香りしかしない。

 

 特に二つ目、私が所属することに成ったのは新設された刑事部捜査第一課、第一特殊先進技術犯捜査、特殊先進技術犯(Special Advanced technological Offender)捜査第一係、通称SAO捜査一係。

 建前としては増加が予測される先端技術を用いた凶悪犯罪に対応するための捜査係とされているが、係の名前がいささか不細工なものであるが英語にするとその頭文字がS.A.Oとなることからも、実際は茅場が起こしたSAO事件の専従捜査班の様な物だろうことが予測できる。

 

 すでに捜査本部が立っている所にわざわざ素人を入れた係を新設して、さらに投入しようなんて、そんな事しても捜査員同士で軋轢が生まれて捜査が進展するどころか、停滞しかねない。上層部は何を考えているのか分からない。

 あるいは早々と早期解決は諦めて詰め腹を切らせる人員として集められたのかもしれない。

 

 気が重い。休みたい。ネガティブなことばかり考えてしまう。しかし一公務員として遅刻などはもってのほかだ。私はこれから幾度となく使う事になるだろうメトロの桜田門駅の階段を小走りで上がる。地上に出るとすぐに警視庁の本庁舎だ。

 

 本庁舎に入った私がまず向かったのはSAO捜査一係のオフィスだ。

 今日はそこで他の同僚との顔合わせと転属に際した諸々の雑事を終わらせ、明日捜査本部に合流することに成っている。

 

 オフィスに着く。部屋はあまり広くないが小奇麗で机が8つ置いてあった。

 そこにはすでに7人の同僚らしき者たちが集まっていた。若い人材を集めたと言うだけあって皆若い。

 その中に在って他より少し年上の様に見える鼈甲の眼鏡をかけた人のよさそうな顔の人物が、戸口に立ったままであった私に近づき握手を求めてきた。

 

 「はじめまして、君は北巡査で良かったかな。私は係長の菊岡一誠(きくおかいっせい)警部だ。」

 

 「はじめまして、これからお世話になります。北闇太郎巡査です。」

 

 私がそれに応じ挨拶を返すと菊岡警部はさぁ、入って、と私に入室を促す。

 それに従い部屋の中に入ると彼は柏手をポンと叩き、皆の注目を集める。

 

 「それじゃぁ、全員そろったことだし改めて自己紹介していこうか。僕は菊岡一誠。階級は警部。以前は公共の平和を守ってる部署に居ました。よろしくね。」

 

 要するに公安出身と言う事か、そう訊くとあの人のよさそうな顔も腹黒さを隠す仮面に見えてきてしまうのは私がまだ警察官一年目だからだろうか。どうしても一般的な公安の秘密主義でしたたかなイメージを持ってしまう。

 

 「僕の次はそうだな、うちの紅一点、お願いしようかな」

 

 そう言って菊岡警部は次の人物を指名した。その姿は刑事というより教師の様だ。

 菊岡警部に指名された女性は茶色の髪を頭の高い位置で結んだポニーテールの目鼻立ちの通ったスタイルの良い美人で、ノータイの黒のスーツをモデルの様に着こなしている。

 

 「東海林帝王(しょうじてぃお)巡査部長、前は白バイに乗っていた」

 

 「てぃお」

 

 「帝王と書いてティオと読む。何か文句ある?」

 

 「いいえありません」

 

 珍しい名前なので反芻していただけなのだが、彼女の不興を買ってしまった様だ。

 俗に言うキラキラネームの様であるし、恐らく揶揄われる様な事もあったのだろう。

 気の強そうな彼女の事だ。揶揄われるままと言う事は無かったと思うが、あまり名前には触れない様にしよう。

 

 その後、残りの5人からも自己紹介があった。

 朴訥なイケメンと言う感じがある伏見警部補

 背の高いインテリ風は駒場巡査部長。

 ずんぐりとして力が強そうな肉体派、船橋巡査部長。

 あまり特徴という特徴が無い事が特徴の日吉巡査長。

 マジでヤクザじゃなく警官なの?と聞きたくなる、眼光鋭い強面な西宮巡査長

 何というか本当に比較的若い世代と言うだけで共通点が少ない。まるで適当な書類から目についた名前を抜粋していったんじゃないかとさえ思えてくる。

 

 「君で最後だ、北君。さぁ景気よく締めくくってくれ」

 

 菊岡警部から指名ついでに変なフリがある。

 正直若者らしく活力にあふれ、元気いっぱいなんて、私の柄じゃないが、此処では私が一番年下で下っ端だ。仕事をする上では、疎まれるより好かれる方がいいに決まっている。

 そう言う役回りが求められるのならば演じてみせる。

 私はうるさくない程度に声を張り自らの官姓名と青臭い抱負を述べて見せるのだった。

 

 

 

 

 

SAO事件の捜査本部に合流する日、私は捜査会議が始まる午前8時半より前、8時頃に会議が行われる本部が設置されている部屋に向かい人も疎らな廊下を歩く。

本部は警視庁内の一室に設置されており、開け放たれた扉の横には墨で書かれた事件名が掲げられていた。

 当然にソードアート・オンライン事件と書かれている。

 それを見た時、感慨深さなどは感じなかったが一つの区切りがついた様な気がした。

 立場が人を変える。立場が人を育てる。そんな言葉がある。刑事という立場はあるいは私の様な人間をも変えるのかもしれない。

 

 一歩踏み出し部屋の中に入ると静かだった廊下とは打って変わり、そこではすでに準備に追われる人達がいた。前面の大きなスクリーンの動作確認をする人や前日の夜の捜査会議をまとめた資料の配布をやっている人など皆忙しそうに動いていた。捜査は刑事だけで行っているのではないと分かる光景だ。

 

 その光景を少し眺めていると声をかけられた。

 

 「緊張しているのかい?」

 

 菊岡係長だ。

 

 「いいえ」

 

 「ならよかった。じゃぁ席に着いて」

 

 菊岡は私の背をおして着席を促し、私が席に着くのを見ると自分も隣の席へ腰をかけた。

 

 そのまま黙って会議の始まりを待っても良かったが隣に居るのに何も話さないと言うのは少々居心地が良くない。私は少し気になったことを菊岡に訊いてみる事にした。

 

 「菊岡係長」

 

 「何かな?」

 

 「席の数、少なくないですか?」

 

 捜査員の席が60席ほどで想像より数が少なかったのだ。今回の事件の規模からもっと大勢の捜査員が動員されていると思っていた。

 

 「初動捜査が芳しくなくてね。本部は再編成されるんだよ」

 

 「本部を縮小するにしても速すぎなのでは?」

 

 「縮小というより分散かな。茅場の居所に全く見当がつかなかったからね、全国規模で捜査をするために各県警に茅場の専従捜査班をつくっての合同捜査の様な形になった。動員される警察官の数としてはむしろ増えているよ」

 

 その話は一見理に適っている様に思えるが私は釈然としなかった。

 捜査の手を全国規模に広げるのは分かる。今回の犯行の性質上茅場は何処に居ても今回の犯行は行えた。だが昨日読み込んだ捜査資料によれば茅場の住居や勤めるゲーム会社アーガス、その他関係先の殆どが東京または東京近郊だとあった。であれば茅場の生活圏は首都圏だと考えられる。一番茅場についての情報が得られる確率の高いであろう場所を担当する警視庁の人員を減らすの悪手なのではないだろうか。

 

 「そうなんですね。よく分かりました。教えていただき、ありがとうございました」

 

 だが私にそのことを指摘する気概は出来なかった。やはりそうそう人は変われないようだ。

 それに私は所詮、捜査の素人。きっと上の人達には深謀遠慮の目論見があるのだ。そう思う事にした。

その後はいらぬことを考えない様に捜査会議の始まる時間まで菊岡と他愛のない話をして時間を無駄にする。

 

 

 捜査会議は挨拶から始まり、捜査一課長の訓示、然る後に新たに本部に加わる我々SAO捜査第一係の紹介と新しい捜査体制の編成についての話と進んでいった。

 紹介されたときは新設された係と言う事で物珍しそうに見られているだけであったが、捜査の割り当てが発表されるとがらりと変わった。私たちの割り当てが茅場自身の捜索と関係者への聴取という最も犯人に近い、もっと有り体に言えば手柄に近い場所だったからだ。

 

声高に批判してくる者はいなかったが、舌打ちや陰口は漏れ聞こえてくる。

だが彼らの意気地が悪いわけではないはずだ。むしろ真面目に努めているからこそ早くホシを、犯人を自ら逮捕したいと思ってしまうのだろう。

彼らには使命感があり、誇りがある。

私にはないモノで尊敬すべきものではあるのだろうが……

 

「めんどうな捜査になりそうだねぇ」

 

隣で菊岡がそう呟く。それはまるで他人事のような響きで私をイラつかせたが、全く同感ではあった。

 




 

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