私は橘みずき。一応野球が好きな中学生で、今は卒業間近。
中学に初めて入る時は、すごくドキドキしてて。これから楽しい学校生活が待ってるのね!
....なーんて、その時は甘い夢を見てたんだけど。
「おい...また寝てるのか?」
先生に肩を叩かれて私は目を覚ました。
私は急いで手を挙げて、起きてることをアピールする。
「あっ。は、はーいっ!」
「全く、だらしないヤツだな。いつもテストの成績だけは良いのに」
「だってー...学校なんて大して楽しくないですしっ。」
今の私は、子供の頃から続けていた野球も1年ほど前にやめてしまっていて。
すっかりやりたいこともなくなり、自堕落な毎日を過ごしていた。
「卒業が近いのにそんな態度じゃなぁ」
そっか...もうすぐ卒業なんだ。でも別にあまり何も思わないな。
思い出なんて大してないから、別に心残りも感じないや。
「で...橘、進路の方は決まってるのか?」
「あ...いえ」
確か、ここに来たのは進路相談のためだったっけ。
本当は重大な事のはずなんだけど、私は今まで無関心だった。
どれだけ学校生活を無為に過ごしてきたかが分かり、少し自分が情けなくなる。
そんな私を見て、先生は呆れているようだった。
そのまま少しの沈黙が流れると、先生はぽつりと言った。
「お前は野球が好きなんだったな...」
「強豪校だと帝王実業があるが」
帝王実業....名前は聞く。よくは知らない学校だけれど、
帝王というぐらいだしきっとスパルタなのかも...とは漠然と思っていた。
「うーん、あんまり厳しい所はちょっと」
...別にそこまで熱心にやってるわけじゃないし。
もしもっと前に言われていたなら、ちゃんとした学校を選ぼうとしていただろうけど...
「じゃあ...ここはないか」
先生の出したパンフレットの1つに、ふと目が止まる。
やけに分厚くて、ちょっとした本のようだった。
「聖...パワフル学園高校?...なんですか、ここ?」
私は一瞬読み間違いでもしたのかと思って、パンフレットを二度見した。
だけど、何度見返してもその名前は間違っていない感じだった。
すごく変な名前の学校。聖とパワフル...全然名前の雰囲気が合ってないじゃん。
もう少し何とか出来なかったのかな。なんでこんな学校名なんだろ?
「さっきほどじゃないが、野球の強い学校だ。ただまあ、ちょっとな」
その変な名前が少し気になって、パンフレットを開いた。
へぇ...こんな所があるんだ。別に行くつもりはないけど...
なんとなく興味を惹かれ、私はパラパラとページをめくっていく。
「...!?」
...ページの片隅にある1枚の写真。
そこには、見覚えのある人が写っていた。
「こ、これって...」
「どうした?」
写真自体は小さく写っていて、はっきりとは分からない。
でも、私は確信していた。この髪型、そしてこの顔は...
「あの、先生...ここに入る事ってできますか?」
「ん?まあ、お前のレベルなら...」
「よし、決めたっ。私、この学校に入ります!」
「おいおい...本当にここを志望するのか?」
「お願いしますっ。どうしてもここに行きたいんです!」
「まあ...分かった。そこまで言うなら」
私は下校して家に帰るやいなや、真っ先に自分の部屋に入って行く。
しばらく時間が経った後、ドアからドンドンと物音がした。
「おお...勉強をやっとったのか」
...私のおじいちゃんだった。昔からこの家に一緒に住んでいる。
何か仕事をやってるらしくて、家に帰ってくるのは遅いことが多い。
ずいぶん年をとってるけどいまだに元気そうだった。
「うん、ちゃんとやってるよ」
疲れを見せない朗らかな表情で、おじいちゃんはにっこりと笑う。
「ハッハッハ、そうか...珍しいな。」
「最近だらしなかったが、みずきがようやく真面目になってくれて嬉しいよ」
「まあ...入りたい高校も見つけたし、頑張らなきゃって思ってね。」
私がそう呟くと、不意におじいちゃんは遠くを眺めるような目つきになる。
「そうか。...今思い返せば親がいないままで、お前たちにはずっと苦労をかけてきたな。」
「...別に大丈夫。気にしてないよ。」
実際、それは本心からの言葉だった。
ちょっと寂しくも感じるけれど、当たり前のことだし。
「せめて、たくましい子に育って欲しい。そう思って野球をやらせてきたつもりだ」
「...結構あの特訓、厳しかったけどね。」
あの考えるだけで嫌になってくるような光景。
それを思い出し、ため息をつく。
「はっはっ。まあ...それもお前のためを思ってだよ。」
...まったく、調子が良いんだから。私は苦笑いした。
「...そういえば、
「うん。一緒に試合を見に行った時もあったなぁ」
「家を出て行ってから、ろくに姿も見せんが」
「今頃...どうしているのか。元気でやってると良いのだがな」
「...」
いなくなったあの時から何年が経ったんだろう。
「...ところで、おじいちゃん」
「ん?」
「ちょっと、勉強の邪魔なんだけど...」
「おお、そうかそうか。すまなかった」
納得のいった顔をして、おじいちゃんは足早に部屋を出て行く。
聞こえない距離まで来たと思ったところで、私はぽつりと一言呟いた。
「...もしかしたら、もうすぐ会えるかもだよ。おじいちゃん。」