ガラガラッ。私はいつものようにドアを開け、教室に入る。
そして、聖の後ろの席に座った。
「ねぇ聖、昨日パワプロくんに聞いたんだけどさ。甲子園出場が出来ない理由は...」
....あれ。なぜか反応がない。
とんとんと肩を叩いてみると、
聖はくるっと振り返り、私を見つめた。
「...」
だけど、一言も喋らないのは変わらない。
「ど、どうしたの?なんかあった?」
私が何度も話しかけると、聖はようやく口を開いた。
「...みずき。周りを見てみろ」
「周り?...周りがどうしたのよ?」
「いいから、見てみろ」
首をかしげながら、周りを見渡してみる。
ん?...なに、この空気?
妙に場が静まり返ってる事に、そこで始めて気がついた。
「な...なんか、変に静かだね。」
「みずき。...まだ分からないのか?」
「え。わ、分からないって...何が」
「昨日、何をしたんだ?」
聖が私を厳しく問い詰めてくる。
....なんなの、これ。
まるで私が犯罪者になったみたいな....
「...何をしたって。パワプロくんと会って、それで甲子園のことの話を聞いて...」
「本当にそれだけなのか?」
「うん。...聖、なんでそんな顔するの?なんかさ、怖いんだけど...」
聖はしばらく私を見つめると...
どうやら本当に何も知らないようだなと、うなづいて言った。
「実は...教室に、写真がばら撒かれていたのだ。」
「...写真?なんの?」
「それが...まあ、見てみれば分かる。」
聖が、私の机に一枚の写真を置く。
その中にはっきりと写り込んでいたのは...
「えっ。なにこれ!」
店の外で、私とパワプロくんが手を繋いでいる2ショット写真だった。
「こんなの、いつの間に...っていうか、誰が?」
「...そんな事より、だ。なぜパワプロ会長と手を繋いでいる?」
「えっ。いや、なんか反応が面白かったから。つい....」
パワプロくんがすぐ顔を真っ赤にするのが面白くて、
手を繋いでしまっただけで...特に深い意味はなかった。
「からかうにしたって...手を繋いだりする必要はないのではないか?」
「か。...カップルなんかじゃ、あるまいし」
「...で、でもっ!別にこれぐらいはいいでしょ。何が悪いの」
分かっていないな、と聖が言う。
「みずき。この学校に入る時に、パワプロ会長がどんな存在かをしっかり説明したはずだ。」
「なんか、凄い権力を持ってる...とかだっけ。」
「そうだ。その彼が、こんな事をしてると知られたらどうなる?」
「信用はガタ落ちだ。立場もかなり危うくなるかもしれない」
「えっ...まさか。それだけで?」
「普通なら、そうならないがな。だが、今のみずきの立場は...正直言ってこの学校では、かなり悪い方だ。」
「わ、悪い?」
「ああ。....すまないが、あまり良い印象を持たれていないと思う。」
「さっき...周りから、こんな話まで聞こえてきた。」
「みずきがパワプロ会長を騙して学校を乗っ取ろうとしている、とかなんとか...」
の、乗っ取る?
「...だ、誰よっ!誰がそんなことを言ってたわけっ。」
そりゃ、少しは利用しようとしたこともあるけど。
いくらなんでも学校を乗っ取るなんて...
「みずき、落ち着け。しかし...これはまずい状況だぞ。」
「もし仮にパワプロ会長の立場が危うくなれば、真っ先に消されるのはみずきだ。」
「私が....消される?」
「ああ。会長が自分の安全のために、みずきを退学...いや、それ以上に追い込む可能性がある。....もちろん、これはもしかしたらの話だが。」
「....そうじゃなくても、印象が悪いのは同じなのだ。何か対策をしなければ、どんどん学校に居づらくなっていくだろう」
「そ...そっか。」
まさかそこまで、私が周りから嫌われてたなんて...
思ったより深刻な状況になっていることに気づいた。
聖はひとしきり話し終わると、また背中を向けた。
その後すぐに授業が始まったけど...
当然そんな話をされて落ち着いていられるわけもなく。
もはや何も手がつかなかった。
休み時間に、聖と私はまた話し合い。
とりあえずみんなに相談しようということで話が落ち着いた。
授業が終わり、部室に入る。
急いで来たからか、まだ全員は集まっていない。
パワプロくんと猪狩くんが何かを話し合っていた。
たぶん、写真のことについてだろう。
「...これは、どういうことなんだい?」
ぱさっ。
私を見るなり、猪狩くんが顔に写真を突きつけてくる。
「えっと、それは...パワプロくんと。」
「そうじゃなくてだね。この写真を撮ったのは誰か、とボクは聞いてるんだよ」
「し、知らないわよ。そんな遠くの方なんか、あんまり見てなかったし...」
「...じゃあ、キミも犯人については何も知らないということか。」
猪狩守は後ろの方を振り向く。
「パワプロ。キミはまだ何か言うことがあるか?」
「...信じてもらえないかもしれないけど、これは誤解だっていうか。ただ橘と話し合いをしてただけなんだよ」
「...じゃあ、この写真はなんだ?とても話し合ってただけには思えないが」
もう1枚写真を見せてくる。
...私が、パワプロくんの口にプリンを運ぶ写真だった。
「あ!それは...オ...オレが、橘のプリンを食べたくて。それでちょっと...」
「だ、だから。全然違うんだよ。色々と借りがあったからってだけでさ。オレと橘は、そういう関係とかじゃないんだよ」
「もういい、分かった。」
猪狩守は、また私の方に向かってくる。
今度は何かの紙を渡してきた。
「キミはこれでも読んでおくといい。」
「な、なにこれ?」
「意見箱に入ってたものだよ。参考になる意見が書かれているからね...よく読むことだ。」
「...なになに。」
1年3組の男です。写真、見ました。
生徒会長がこんな事、やってていいのですか?
僕はこの学校の腐敗を嘆かざるをえません。
2年の女です。驚きました...横の女の子は誰ですか?
なんだか派手そうな見た目ですが、
あんなのと生徒会長が付き合ってるんですか?
別に可愛いとは思えないし、理解できないです。
1年2組、男です。あの女の子、うちのクラスにいます。
声もうるさいし、噂だと男遊びもしてるとかって話です。
実際ぶりっ子みたいだなと思います。
なんか、色々と大丈夫なんでしょうか?
あと、あの子のせいで聖ちゃんと話せないから単純に俺は嫌いです。
ズラズラと、不満の声が紙に書かれている。
パワプロくんもだけど、後は特に私に対する文句....
「な、なんなのよこれ...っていうか、最後のは別に私のせいじゃないし。」
「そもそも、男遊びって。そんなことしてないから。誰が書いたの、こんなの!」
「....とにかく。どちらにせよキミたちの写真は今、学校中で騒ぎになっているわけだ。」
「それじゃあ。私はもう、消される....ってこと?」
「消す?どういうことだ?」
猪狩守が何の話だ、と聞いてくる。
「だって、この状況を作ったのは私だから。退学とか、何かされるとかって聖が....」
「...バカな話をしないでくれ。そんなわけないだろう。」
「うん。退学させるなんて....オレはそんなことしないよ。橘は大切な存在だし。」
「た。...大切な存在?」
「ああ。この部活にとってね。それに、仲間だろ。」
なんだ...そういう意味か。何の話をしてるかと思ったら...
全くもう、変な勘違いさせないでよ。
「ボクが話したいのは、今後キミたちの関係性をどうしていくかだよ」
「このままだと色々疑われそうだし、ちゃんとしておきたいけど...困ったな。」
「...ねぇ、どうしよう?」
ちょっと不安になって、聖に助けを求める。
「...そうだな。ここはハッキリと、そういう関係じゃないことを強調しておいた方がいいのではないか?」
「え?でも...」
「何を迷う必要があるのだ。みずきだって、こんな状況が続けば困るだろう?」
いや...でも。パワプロくんにはまだ利用価値があるし。
仲良くしないのも、それはそれで...
「べ...別にいいわよ、文句言われたって。勝手に騒がせておけばいいじゃない」
「...みずきは、自分がここに居づらくなってもいいと言うのか?」
「そういう話じゃなくて。...ああもう、分かった。私がその、遊んでるみたいな印象だから問題なんでしょ?」
うーん、ちょっと不本意な流れだけど...
こうなった以上は仕方がないか。
「じゃあ...もう、パワプロくん。私たち、ちゃんと付き合ってるってことにしちゃわない?」
「な...何言ってるんだよ、みずきちゃん?」
「いや...だって、もうそれしかないじゃん。どうせ違うって言っても、こんな写真があるんだからさ」
「あ、でも。あくまでフリであって、本気で付き合うってわけじゃないからね。そこは間違えないでよ。」
写真がある以上、何を言い訳したって説得力はない。
それならいっそ...という考えだった。
あと...これはある意味、この関係性を
上手く維持させられるチャンスかもしれないし。
「えっと、つまり?騒ぎが大きくならないように、カップルっぽく振る舞う...ってことか?」
「そういうこと。今みたいに色々言われるよりかはマシでしょ。」
「確かに、変に違うってごまかすよりかは良い気もするけど。...みずきちゃんはそれでいいの?」
「...いいよ。パワプロくんのことは、別に嫌いなわけじゃないから。」
パワプロくんが、難しい顔をして考えこむ。
まぁ...あんまり良い気分にならないのも当たり前か。
そもそも、言い出しっぺの私も少し不安だし。
「ああ...ボクも考えてみたが、その方法が一番良いかもしれないな。」
「おい、猪狩...本気で言ってるのかよ?」
「なに、別に大したことじゃない。聞かれたらただ付き合ってるとだけ言えばいいんだ。」
「ボクはバレンタインデーの時、チョコを結構もらっているだろう。だが、特にそれで何を思ったりする事もない。それが当然だからね。」
猪狩守は得意げに、私の意見に賛成した理由を話し始める。
でも、それとこれとは違う気も...私が突っ込むことじゃないけど。
「だから、そんなに重く考えるなってことか?」
「ああ。後は、キミたちの勝手にすればいいさ。まぁボクはどうでもいいけどね。」
「...まあ、みずきちゃんも良いって言ってるし、仕方ないか。なんか納得はできないけど」
「....私は反対だ。そんな事をしたら、余計に反感を買うに決まっている。」
後ろで話を聞いていた聖が、不満を示した。
「それはこの2人の態度次第だろう。おかしな事をしなければ、印象も良くなっていくよ。」
「それなら良いのだが。....みずき、あまり変なことをするんじゃないぞ。」
「うん。分かった、大丈夫。」
「...っていうことは、つまり。私たちがラブラブな関係だってことを、どれだけ周りに見せられるかにかかってるわけね」
「なんか...ちょっと面白くなってきたかも。ねっ、パワプロくん。」
「...みずきちゃん、これは遊びとかじゃないんだよ。オレの立場が危うくなったら、キミだって」
「分かってる、分かってるって。」
「その態度が、余計な誤解を招いているんじゃないかとボクは思うが...」
「...やはり。私はこの案にあまり賛成できないな。」
2人が私のことを睨んでくる。
「オレも思うよ。みずきちゃんのそういう悪い所は、直しておいたほうが...」
パワプロくんも少し冷たい目で私を見つめてきた。
「ま、まあまあ。皆、そんなに怒んないでってば」
「....その問題は、まだ置いておくとして。次に重要なのは、犯人が一体誰なのかということだね。」
「そうなんだよな。オレも、ちゃんとハッキリ見てればな....」
写真をばら撒いた犯人...かぁ。こんなことをするってことは。
たぶんパワプロくんと私に、なんらかの恨みがあるんだろうけど...
話し合いの最中にそんな事を私が考えていると...
部室の外から誰かの声がした。
「あ、皆さん。何を話しているんですか?」
ん?誰、この声?
私たちが振り返るとそこには...メガネをかけた緑髪の男の子が立っていた。
ぱっと見は優しそうな雰囲気がある。もちろん、あおいさんでも矢部くんでもない。
この人は...いったい?