友沢亮のエピソードです。予定ではもっと後に投稿するつもりの内容でした。
ですが、本編の更新が追いつかないためひとまず先に出来上がっていたこちらの話を手直しして投稿する事になりました。
そのため不自然な点が多少あると思いますがそこは申し訳ないです....
みずきたちメインの話が進むまでの暇つぶしとして楽しんでいただけたら幸いです。
「……だ、誰か!誰か助けてくださいまし!」
「……なんだ?騒がしいな」
帝王実業高校に通う1年生の友沢亮。
彼は学校の花壇の近くで、何かを必死に探している少女を見つけた。
「あぁ、よかったですわ……!そこのお方、わたくしのハンカチを探していただきたいのですけれど……」
まだ時間は朝の6時頃で、周りには誰もいない。
友沢は彼女の言葉を聞いて花壇の近くを探してみる。
すると、可愛らしい柄のハンカチが花に挟まっているのを見つけた。
「ん……?このハンカチか?」
「そ、それですわ!ありがとうございます!」
ハンカチを差し出すと彼女はにっこりと笑う。
そして、友沢に頭を下げながら感謝の気持ちを伝えた。
「……たまたま落ちていたから拾っただけだよ。礼には及ばない」
「うふっ、優しいんですのね。お名前を聞いてもよろしいかしら?」
「……友沢亮。キミの名前は?」
「わたくしは木村美香と申しますわ。以後お見知りおきを」
「キミは何故こんな所にいるんだ?」
「えっ?」
「時間だよ。今はまだ朝の6時だ、学校は空いてない。……オレは練習のために朝早くから来てるけどな」
「6時!?そんなに早い時間だったのですか……!あの、わたくし、急いで家を飛び出してきましたので……」
「……時間を全く見てなかったのか?」
友沢は確認のためにとりあえず問いかけてみる。
すると木村美香と名乗るその少女はええ、とゆっくり頷いた。
(なんてそそっかしいヤツなんだ……)
友沢亮は思わず呆れる。……しかし、少しだけ彼女の心情は理解できると思った。
何故なら、彼自身も実は入学式の時に道に迷った事があるからだった。
友沢は微笑みながら、今度は気をつけろよと言ってその場を後にする。
◆
「……ということがあったんだ」
友沢は教室の席で今日の朝にあったことを友人に話した。
「ほえー、そりゃまたラブコメな展開だなぁ」
隣の席の男子生徒は彼の言葉に感心して、うんうんと相槌を打ちながら話を聞く。
「でもまぁ、お前は顔だけはいいもんな。モテる理由もわかるよ」
彼の名字は夏川。友沢が所属する野球部の仲間で、入学式の頃にも友沢亮に話しかけていた。
基本的には人の会話を苦手とする友沢だが、夏川に対しては少し違った。
いつしか休み時間には一緒に他愛もない事を話す程度の間柄になっていたのである。
「……そうか?オレとしては野球に集中できないから迷惑なんだがな」
「お前、そういう所がなぁ。だから最初だけ女の子が寄ってきてもすぐ冷めるんだよ」
「……」
「もっとこう、愛想よくしないと。」
「フン。知るか……オレは女には興味ない」
「…………」
夏川は彼の顔を訝しげにじーっと見つめる。
「……なんだその目は」
「お前。もしかして男が好きなのか?」
「なっ!?ち、違う!!」
「じゃあなんでそんなに否定するんだよ?」
「うるさい!!お前が急におかしな事を言い出すからだ!……とにかくオレは、男なんか好きじゃない!!」
「はいはい。わかったわかったよ」
「……でもまぁ友沢、よく聞けよ。お前はせっかくイケメンに生まれたんだぜ。少しくらい女の子と遊んでもいいんじゃねぇの?」
「……興味がないと言ってるだろ。それにオレは……女より野球の方が好きだ」
「……へぇ、そうかい。まぁ、女にかまけてた所で野球の成績は上がらねぇからなぁー」
◆
「転校生を紹介する。さぁ、入ってくれ」
しばらくして教室の扉が開かれ、金髪の少女が入ってくる。
(……あの子は、まさか?)
「ごきげんよう皆さま。わたくしは木村美香と申しますわ」
彼女の声が聞こえた瞬間、教室中がザワザワと騒がしくなっていく。
その美しい見た目や、おしとやかで気品のある声が生徒たちの注目を一気に集める。
「うおっ!やべー……おい友沢、あの子すげぇ美人じゃん!」
「……あいつは」
「もしかして、知ってんのか?」
木村は友沢たちとは少し離れた座席にゆっくりと座る。
礼儀正しく落ち着いた立ち振る舞いで、それだけでも彼女の育ちの良さを感じさせた。
「ああ。彼女がさっき話した子だよ……」
「……あ。それがあの子だったのかよ!……くぅ〜!お前、羨ましいぜ。あんな可愛いらしい子猫ちゃんをよぉ〜……!」
「…………」
友沢は夏川の野球のやり方に対し時折文句は言うものの、
あまり彼に嫌な感情を覚えることは全くなかった。
しかし今この瞬間、彼の言動を最も不愉快だと感じる。
それ自体が友沢にとっては不思議な感覚だった。
「ん?……おい友沢っ、どうしたよ。生きてるかー?」
「……いや、なんでもない。それより今は授業が始まる時間だ。静かにしろ」
「はいはい。すいませんでしたっと!」
◆
放課後、友沢亮は夏川と部活に向かおうとする。
すると後ろから誰かに声をかけられた。
「友沢様!一緒に帰りましょう!」
木村美香だった。彼女は先ほどまでの静かな雰囲気とは
打って変わったように、元気で明るく快活な声を友沢にかける。
「あ。……ほら、やっぱ来たぜ?友沢〜」
「……断る」
「ちょ……お前、即答かよっ!」
「....ど、どうしてですかっ?」
木村の困惑した表情や、慌てた声に少しだけ友沢は罪悪感を覚える。
彼はそのモヤモヤした感情を振り払うように言った。
「あんたとはほぼ初対面だし、オレは野球部の練習があるからな」
「あぁ!なるほど、そうでございましたか....!では、練習が終わったあとで構いませんわ!待っていますね!」
「……フン、勝手にしろよ。待つ気はないけどな」
「友沢、お前っ!?木村さん、めっちゃニコニコした顔してるのに……」
「知らないね。さぁ、行くぞ」
「ちょっ、お前!?置いていくなよぉー!!」
◆
「さて……練習も終わったし帰るか」
友沢は、校門の前に誰かが立っているのを見つけた。
「……」
木村美香だった。彼女は浮かない顔をして俯いている。
(あいつ……まだ待っていたのか?仕方のない奴だ……)
「……あっ、友沢様!」
木村は近づいてきた友沢の姿を見つけると、目を輝かせた。
そして手を振りながら近づいてくる。
「や、やぁ……木村さん」
友沢はぎこちない顔をして彼女に話しかける。
「友沢様が遅いせいで、待ちくたびれてしまっていましたわ♪」
「そ、それはすまなかったな。じゃあ……帰ろうか」
「ええ。参りましょう♪」
友沢は最初から木村の誘いを断るつもりでいた。しかし、
彼女の嬉しそうな笑顔を見ているとなかなか断るにも断りきれずにいた。
何も話さないまま道を歩き続ける2人。友沢亮は内心かなり困惑していた。
(どうしてオレに木村が話しかけてくるんだ……?)
確かにハンカチを拾った恩というのはあるものの、実際の所はそれ以外に接点なんてない。
なのに、彼女は2人で一緒に帰ろうとまでしてくる。それが彼には不思議だった。
(一体、この女は何が目的なんだ。ハンカチの件はあれで終わった。これ以上オレに構う理由なんてないはずだ……)
「……友沢様はどうして野球をやっていられるんですの?」
そう彼が考え込んでいると、ふと木村が質問をしてくる。
「……ん、どういう意味だ?」
「だって、とても野球がお強い方と聞きましたもの。何か野球を続けておられる理由があったのかと思いまして」
「……そうだな。オレが野球をやってる理由は……とても単純だよ」
「教えてくださいまし」
「……うちの家が貧乏だからだよ。だからせめてオレの得意な野球を頑張らないと、家族を養ってやることができないと思ったんだ」
「まぁ……それでしたら、友沢様はプロ野球選手を目指していらっしゃると?」
「……そういうことになるな」
「まぁまぁ!……その夢、とても素敵ですわ!わたくしも応援いたします!」
「そうか。……どうも」
「……あのっ、それでしたら。良かったらわたくし、友沢様に資金の援助をしたいと思っているのですけれど」
「えっ……?そ、それって……」
「ええ。お金のことなら心配はいりませんわ。お父様に頼んでみますから」
友沢は一瞬その申し出を受けそうになった。
しかし、すぐに考えを改めて思い直す。
「いや……あ、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」
「……そう、ですか。どうしてなのです?」
「べ。別にいいだろ……とにかく、嫌だってことだよ。」
「……」
「分かった……ハッキリ言ってやろうか?オレはアンタらみたいな金持ちが嫌いなんだ。金の力でなんか助けられたくない。」
(目ざわりなのさ……アンタもどうせ、同情してるフリなんだろ?)
しばらく時間をおいて、木村は言った。
「……残念ですわ。けど、友沢様がそこまで言うのでしたら諦めることにいたします。」
「その代わり。もし……もし、友沢様が本当に困った時は。必ず言ってくださいね?わたくし、必ず力になりますから」
「……あ、ああ」
◆
翌日、教室にて。クラスは木村の話題で持ちきりになっていた。
「ねぇ、聞いた?あの子って友沢君の彼女らしいよ」
「まじか!?あんな美人が……ありえねえ、あんなヤツにかよ」
「ウワサになってんなー」
騒ぐクラスを横目で見ながら、夏川が語りかける。
「フン……勝手にさせとけ。それより次の授業の準備をするぞ」
「はいよーっと」
キーンコーンカーンコーン……
「あー!やっと昼休みか!腹減ったぜー」
「ああ。弁当でも食べるか」
夏川は彼の言葉に応じて、鞄から弁当を取り出そうとする。
「おう!……あれ?」
しかし、こちらの席に近づいてきた人物を見かけて
思わず彼はその手を止めてしまった。
「……あの、友沢様?よろしかったら一緒に食べませんこと?」
「うおっ!?木村さんじゃん!」
友沢は思わずため息をつく。
「……悪いが木村さん。今日は夏川と二人で食べたい気分なんだ」
「ちょっ、お前、いくらなんでもそりゃないだろ!」
「あら、そうなのですか?……でも、わたくしも混ぜてくださらないかしら?」
「……いや、それは」
「いいだろ友沢〜。たまには二人っきりじゃなくて三人で食えば」
「……仕方ないな、お前がそう言うなら。」
そう言って友沢は仕方なく木村と一緒に食べる事を了承した。
……すると、その瞬間にもう木村美香の席を夏川が持ってきている事に気づく。
(全く……こういう時の速さは見習えるんだけどな)
友沢は呆れながらも苦笑いした。
「……それにしても。木村さんは友沢のことが好きだったんだなぁ〜」
「え、いえ、その……ちっ、違います。助けてもらった恩がありますから……」
夏川の発言に思わず頬を赤く染め、言葉を言い淀む木村美香。
友沢亮はその様子を横目で見ながら黙々と弁当を食べ進めていく。
「……」
「あの……友沢様の弁当」
木村はそんな涼しげな顔をしている彼に向かって語りかけた。
友沢は食べる手を一旦止めて、少し嫌がる様子を見せながらも話をする。
「……ああ、これか?母さんに作ってもらったんだ」
「素朴ですけど……とっても美味しそうなお弁当ですね」
「うん。オレも食べたことあるけど、本当にうまいぜ!」
「なぁ友沢。お前の母ちゃん料理上手だよなー」
「……当たり前だ」
「……あの、友沢様のお母様はどんな方なんですの?」
「優しい人だよ。オレが野球部に入ることにも反対しなかったしな」
「まぁ……それは素敵ですわね」
「……あ!よ。よかったら、わたくしのお弁当を少し分けてさしあげましょうか?」
「このお弁当はですね、とても豪華な食材を使っているのです。特にこの、ハンバーグだとか……」
(フン、お得意の自慢か……これだから金持ちは嫌いなんだ……)
「……いや、いいよ。自分の分だけで十分だ」
友沢はそう冷たく言い放った。彼女は浮かない顔をする。
「そう……ですか」
「……おいおい、そんな言い方はないんじゃねーの?友沢」
「う……夏川。いや、そんなつもりは……」
「友沢様……わたくしの事がキライなのですか?」
木村美香は今にも泣きそうな顔をした。
その表情を見て、友沢はまた罪悪感が込み上げてくる。
「ち、違う!そういうわけじゃないんだが……!とにかく、いいんだ....」
◆
放課後、すでに授業が終わった席で夏川が語りかける。
「……友沢。あんまりわがまま言ってやるなよ」
「……わかっているさ」
友沢は俯いた顔をしてそう呟いた。
「なぁ。いっそ告白しちゃえよ、木村さんに」
「……悪いが、それは断る」
「お前!もう少し悩めよー!」
夏川の手を払いのけて、友沢は冷静に語りかける。
「……まず。そもそもの話、木村はオレが好きだといつ言った?」
「そりゃ別に、言ってねーけどさぁ。でもよぉ……!」
駄々をこねる彼の様子を見て、思わず友沢は頭をかいた。
「……仮にもしそうだとしても、木村の気持ちには応えられない。オレは金持ちが嫌いだからな」
「なんでだよ?金持ちだからって、悪いヤツばかりって訳でもないんだぜ?」
「……金持ちだからだ!ああいう連中は、最悪な性格に決まっているからな。」
「……おい。それは偏見じゃないのか?」
「いや。……偏見なんかじゃないっ!金を持っているヤツは必ず調子に乗る!」
「今は表面上オレに優しくしてくる。だがな、それは最初だけだ!……いつか本性を現してくるに決まってる。全く信用できないな!」
「……良い人だって、いると思うけどなぁ。」
「それに。オレは……何かと言えば、騒ぎ立てる女も嫌いでね。」
「騒いでる女の子が…嫌い?」
ピンとこない顔をしている夏川をよそに、友沢は続きを語り始める。
「ああ。具体的には誰々の顔がカッコいいだの、イケメンだのという話をするヤツらのことさ。……全くもって、下らないよ。」
「でも。それって、女の子ならよくあることなんじゃないのか...」
「……大体な、そういう女はロクな連中じゃないんだ。結局そんなバカはな、顔だけでオレの中身を見ようとすらしていない!」
「と……友沢。ちょっと声が大きいぜ……」
「悪い。……まぁ、とにかく。オレとしては、そういう女は断じて気に入らないってことだ。」
「ずいぶんとひねくれたヤツだなぁ……」
「いや、違うな。オレ以外がひねくれ過ぎなんだよ……」
「……」
「ああ。……その点アイドルは、オレを裏切らないのが良い。人を見かけだけで判断しようとしないからな。」
「あ、アイドル?....お前そんなのが好きなのかょ?」
「……夏川、そんなのとはなんだ。お前はアイドルの魅力について何も知らないのか?」
「知らねーよ。……そういうのだって舞台裏じゃあ、誰がイケメンだったとかキモいとか、言ってるんじゃねーの?」
「フン、浅いな夏川。……仮にそんな事を言っていようが、もはやオレにはどうでもいい。」
「アイドルは舞台上に立ち、真面目に頑張っている姿を見せてくる。それだけでオレにとっては十分なのさ。」
「……なんか、言ってることが矛盾してないか?」
「……どこがだ?全く矛盾していないと思うけどな。何か文句があるなら、ハッキリ言ってみればいい。」
友沢が思いもよらず話に食いかかってきて、夏川は思わずたじろいだ。
「もういいって、その話は……」
◆
「いらっしゃいませー……」
友沢はいつものようにコンビニでバイトをする。
「あ、友沢様。こんにちは」
「……木村か」
「偶然ですわね!ここでバイトをしてらっしゃるなんて」
「別に……たまたまさ」
そう平静を装いつつ、驚いたのは友沢もだった。
(まさか、オレのバイトしているコンビニまで押しかけてくるとは……)
「あの……お疲れではありませんこと?」
「平気だ。慣れているからな」
「……友沢様はいつも野球をやりつつ、こうやってバイトもして。本当にすごいと思いますわ」
「べ、別に……普通さ」
木村美香は少しずつ彼に向かって近づいてくる。
彼女を特に意識しているわけではなかったが、妙な緊張感を彼は感じた。
「……ねぇ、友沢様。わたくし……貴方のことをもっと知りたいですわ」
「……え?」
彼女が呟いた言葉の意味が一瞬分からず、友沢は思わず聞き返した。
「友沢様のことなら、何でも知っておきたいのです。好きな食べ物とか、趣味だとか……いろいろ」
「……」
「ねぇ……教えてくださいな」
(オレは……木村のことをずっと避けている。けど、それは間違いなのか……?)
(彼女は特に何も悪いことはしていない。……むしろオレが勝手に、木村に酷いことを言っただけだ……)
ほんの少しぐらいなら、自分自身の事を話しても……
オレをわざわざ気にかけてくる彼女に冷たくする必要なんてない。
そう彼は思い直した。そして、とうとう友沢は彼女の問いに答えようとする。
「あ、ああ……えっと」
その時。コンビニのドアが開き、2人の男女が騒がしく中に入ってくる。
「だから、ついてくるなよ橘。オレは別にプリン買う予定なんかないんだから……」
「いいじゃない〜、別にぃ!たまには私に奢りなさいよぉ!」
「……ったく、しょうがないなー。」
赤と白のユニフォームを着た黒髪の少年。
そしてそんなうんざりした様子の彼の肩にもたれかかる少女。
その二人の姿に、友沢は見覚えがあった。
「……!」
「友沢様。どうしたんですの?」
「あ……いや」
(聖パワフル学園の小波雄介。それに橘みずきか……全く嫌な連中だな)
後ろの二人に気付いて、木村は友沢のいるレジを離れる。
「あ、すいませーん。肉まんと……あと、これもお願いしますっ。」
黒髪の少年がレジにプリンを持ってくる。
友沢はまた少し動揺を見せながらも冷静に対応した。
「は、はい。こちらの商品ですね」
「……!」
「……ねぇ、パワプロ君。早く買い物済ませちゃいましょ!」
後ろにいる少女が、ソワソワとした様子で少年に話しかける。
「え?……あ、ああ。そうだな。後ろの待ってる人にも迷惑だしな」
「……付き合ってるんですか?彼女と」
友沢はパワプロと呼ばれる少年にそう問いかけた。
「あ……いや。まあ、色々あってな。友達みたいな感じだよ」
黒髪の少年は苦笑いしながら質問に答える。
……すると突然、少女が彼の腕を引っ張った。
「パワプロ!……そんなヤツほっといて、さっさと帰りましょ!」
「ちょっ、待てよ橘。引っ張るなってば!」
「……」
◆
「……お知り合いの方ですか?」
騒がしい客がいなくなり、また元の静けさを取り戻したコンビニ。
その静寂の中で木村美香は疑問をぶつけた。
「……何が」
「あの……橘という方です。何か動揺してる様子でしたが」
「……」
「え、えっと。彼女……ですか?」
ぎこちない様子で、木村美香は友沢に問いかける。
……すると彼は物凄い形相で木村を睨んだ。
「今……なんて言った?」
「ひゃっ!?」
そんな彼の豹変を見て、思わず木村は後ずさりをする。
友沢は彼女の様子にも一切動じずに、我を忘れた様子で距離を詰め寄った。
「……オレが、いつ、誰と付き合ったって言うんだ?」
「い、いえ。なんでもありませんわ。ごめんなさい」
「……そうかい。じゃあ、もう帰ってもらってもいいか?」
「何かあのお方と……あったのですか?」
「フン。何もないさ。……ただオレはな、ああいう何も考えてなさそうな甘っちょろいヤツがこの世で一番嫌いなんだ!!!!」
「……友沢様は。あの方が好きだったのですか?」
「……そういうわけじゃない!」
「では……どうして!」
「中学の頃……野球部で知り合った。ただそれだけだよ」
「……その説明では納得いただけませんわ。ハッキリとした説明をお願いします」
そう言い放って、木村美香は沈んだ表情をした彼を静かに睨む。
……友沢亮はその問いに何も答えずに、無言で彼女の顔を見続けていた。