パワフルC   作:Arica

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VS恋恋高校⑤ バッターみずき

 

 

終盤の8回裏。聖パワフル学園の味方チームが攻撃中、私たちは雑談をしていた。

 

結果的に、7回表でちゃんと早川あおいさんは登板してくれた。

投球の調子も良い感じで、マリンボールで次々と選手を抑えている。

 

そのおかげもあって、得点は3-2とこっちがリードしていた。

 

 

(ピッチャーの恋恋キャプテンも少し調子を落としてきたし....ようやくこっちに流れが向いてきたわね)

 

(と言っても、今のところ点が入ったのは6回裏が最後だけど....まぁ、気にしない気にしないっ。)

 

 

「....ふふ。もうここまで差がついたら勝ちみたいなもんね。あとは9回表であおいさんが抑えるだけだわ!」

 

 

そう喜んで話す私。だけど、隣の席にいた

パワプロ君はずっと浮かない表情で考え込んでいた。

 

 

「うーん....どうなんだろうなぁ。」

 

 

「ちょ、ちょっと。もうすぐで勝てるって言うのに....何をそんなに不安がってるのよ。縁起悪いじゃない」

 

 

私が苦笑いしながら肩を叩いても、彼の様子は変わらない。

 

 

「早川さん....なんかさっきから、投球の調子が良くない感じだったんだよ。」

 

 

「調子が良くない?...どういうことよ?」

 

 

カキーン!球場の方で金属音が鳴った。

 

 

「おっ!ヒットかしら!?....なーんだ、ファールかぁ。」

 

 

気を取り直して、パワプロ君がまた話を始める。

 

 

「....なんだろうな。バス停前の時と違うんだ。中学の時から一緒だったから、オレにはすぐ分かるよ」

 

 

「へえ。原因が何か分かってるような口ぶりね。....それで、なんだと思ってるわけ?」

 

 

「恋....かなぁ?」

 

 

「....はぁ?今なんて言ったのよ。私の聞き間違いとかじゃないわよね?」

 

 

「だから...たぶん恋だと思うんだよな。早川さんはきっと、向こうのチームの誰かに恋をしてるんだ。」

 

 

「ええっ....!?」

 

 

真剣な顔をしてそう話すパワプロ君。

思わず私は息を呑んでその言葉の続きを待つ。

 

その私の表情に応えるようにして、彼は言った。

 

 

「そう....恋恋だけにね!」

 

 

(....ずこっ!)

 

 

あまりに下らなさ過ぎて、思わず私はずっこけそうになった。

 

 

(な、なーんだ。ただのダジャレかぁ....)

 

「あー、はいはい。....で、それホントの話ぃ?そんなことをあおいさんが言ってたわけー?」

 

 

「いや。でも、そんな気がするんだよな....具体的には言ってないけどさ....」

 

 

真剣な顔をしているけど、私はそんな彼の様子を疑いの目で見ていた。

 

 

(....パワプロ君は試合でもどっか緊張感に欠けてるのよね。まったく....)

 

 

はぁー、と深くため息をつきながらそう思う。

 

 

(見た目だけなら、それなりにイケてなくもないんだけど....)

 

 

パワプロ君は普段帽子を被っていて、その時の姿はちょっと地味。

けど外した姿は黒髪がよく似合っていて、結構カッコいい。

 

見た目だけなら爽やかな雰囲気があるし、女子の人気は陰ながらも高いらしいと聖から聞いた。

....イマイチそんな感じがしないのは、その変な性格からかなと思うけど。

 

 

「....あのさ。そもそも、なんでパワプロって皆に呼ばせてるの?全然違う名前なのに。」

 

 

「....はは。別にいいだろ?なんとなく、本名じゃ呼ばれたくないんだよ。」

 

 

ここが更に、私が彼を変わってるなと感じていた所だった。

彼は小波雄介という本名があって、別に“パワプロ”なんていう不思議な名前じゃない。

だけど何故か学校中の皆にそんなニックネームを呼ばせていた。

 

 

(うーん。やっぱり、過去に何かあってそんな呼ばせ方をしてるのかしら....)

 

 

 

 

「あー。もう攻撃終わっちゃったじゃん。点入りそうな感じだったのになぁ。」

 

 

 

この回は聖が1塁打のヒットを出したり活躍したけど、

結局あっさりと残塁してしまって何も試合は動かなかった。

 

 

(試合は9回表に入って、3-2のまま。一応リードしてるとはいえ、ちょっと不安が残る感じだけど....)

 

 

 

「守備か....行ってくるよ。大変な事にならなきゃいいけどな。」

 

 

 

(....ま、このまま何事もなく終わるはずよね。たぶん)

 

 

 

 

私はしばらくの間、試合の様子を見守り続けていた。

 

すると....確かに言っていた通り、あおいさんの調子が徐々に崩れ始めた。

パワプロ君が少し元気のない様子で席の方に帰ってくる。

 

 

「....2点入っちゃったわね。まだそんなに大変な状況じゃないけど」

 

 

「な、何言ってんだ。3ー4だろ....?9回裏でこっちが逆転しなかったら、このまま負けなんだぜ?」

 

 

「い....いや....まだ分かんないしさ」

 

 

(まさか。あおいさんが調子を崩すなんて....あり得ないと思ってたのに)

 

 

「なんか....信じられないけどホントっぽいし、さっきのあおいさんの話、聞いてあげるわ。どんな感じの事を言ってたの?」

 

 

「まぁ....それらしい事を聞いてはいたよ。実は中学の頃から憧れの人がいて。でもはるかとかって人と付き合ってたから諦めただの」

 

 

「ちゃんとした根拠があるんなら、早く言いなさいよ!冗談かと思ったじゃない!」

 

 

「だ、だってなぁ....別に関係ないかもしれないから」

 

 

「全くもう。うちの学校に来たのも....それが理由?パワプロ君たちと仲良いからって聞いてたけど」

 

 

「....多分そんな理由じゃないよ。まあ、それも理由の1つに入ってるだろうけど」

 

 

「そこまでして避けたかった人なんだ....ねえ。それ、やばいんじゃない?だってその好きな人が向こうのチームにいるわけでしょ。」

 

 

「うん。とても冷静じゃいられないだろうな。特に早川さんは落ち着ける人じゃないし」

 

 

「ど....どうすんのよ!?まさか、このまま負けるってことはないわよね?」

 

 

 

私はつい焦ってパワプロ君の腕を掴んでしまう。

けど、別に離されることはなかった。

 

 

「ああ。だからまずいんだよな。くそっ、どうすりゃいいんだ....」

 

 

 

「....よく分かんないけど、さっきあおいさんと話し合いしてたわけじゃんっ。その時はなんて言ってたの?」

 

 

 

「大丈夫だよとは言ってたんだけどなぁ....さすがにその話は聞けなかったよ。デリケートだしな」

 

 

 

(全然大丈夫な感じじゃないでしょ....!ああもう、あと少しで勝てそうだって言うのにっ。なんでこんな所で....!)

 

「全くもう!ちゃんと聞きなさいよ、キャプテンのくせに!このバカ!」

 

 

 

「バ....バカってなんだよ!?オレだって結構考えてるんだぜ!じゃあ橘が聞けよ!」

 

 

 

「今この状況なんだから。もうそれで決まりだろうし、聞く意味ないでしょ!?....その足りない頭でもさ、もう少し考えてみたら!」

 

 

 

「足りない頭!?....なんだよその言い方!酷すぎるだろ、謝れよ!」

 

 

 

「やだよー。謝らないもん!....フンッ、全く。キャプテンのくせにスケベでバカで、全然頼りないしさ。肝心な時に役立たないわねっ!!」

 

 

 

「役立たない....!?うるさいな。だったら橘が代わりにキャプテンをやってみりゃいいじゃないか!」

 

 

 

「ええ!やってやろうじゃないの!次から代わりにキャプテンやって、パワプロをギャフンと言わせて....!」

 

 

 

「うぐぐぐ.....!!!!」

 

 

「む〜.....!!!!」

 

 

 

パワプロ君の両腕を掴みながら、怒った顔を思いっきり睨みつけてやる。

....すると、突然頭の中で良い案が浮かんできた。

 

 

「....ちょっと待って。代わりに?」

 

 

「ああ、そう自分で言ったんだろ!まぁ、橘にはできないと思うけどさ。騒ぐだけ騒いで、どうせ.....!」

 

 

「いや....うーん。でも、やらないよりはマシよね....」

 

 

「どうしたんだ?....まさか、何か考えついたのか?」

 

 

 

「うん。....ねえパワプロくん。次の打席、あおいさんが出るんでしょう?」

 

 

 

「そうだけど....一体なんなんだ?勿体ぶらないで早く言ってくれ」

 

 

 

「私が代わりに、あおいさんの代打をやってみるってのはどう?」

 

 

「....ピンチヒッターだって?....あっ!そうか、あの時の練習!」

 

 

私が以前、聖と一緒にこっそり打撃の練習をしていた時。

パワプロ君にも鉢合わせした事があった。

 

 

「そうそう。あの時のこと、ちゃーんと覚えててくれたのね」

 

 

 

「ピッチャーの橘が何故そんな熱心に、と最初は疑問に思ってたけど。あれはこういう時のためでもあったんだな」

 

 

「だったら、意外と悪くない作戦かもな....」

 

 

 

「....分かった。よし、こうなったら善は急げよね。早速話し合ってくるわ!」

 

 

 

「あ、おい!....試合で打った経験はないだろ。いきなりバッターなんてやって大丈夫かよ!?」

 

 

 

「ないわ。....でも、きっと大丈夫よ!この日のためにこっそり特訓してきたんだから」

 

 

「だ、だからってなぁ....調子の良いヤツ」

 

 

「....それよりパワプロ君はもっとバッティングの方を頑張っといてよねっ。全然ヒットないじゃん!」

 

 

「うっ....!そうだけどさ。」

 

 

「でなきゃ到底、私のライバルにはなれないんだから!!」

 

 

 

「あぁ....ん?ライバル?」

 

 

 

「橘、オレをライバルだと思ってるのか?....まあいいか。そういう事にしておいてもさ」

 

 

 

パワプロ君の妙に自信満々な態度に、少しイラっとした。

 

 

「うるさいなぁー、まったく。じゃ、行ってくるからね。....それじゃっ!」

 

 

 

 

「全く....橘のヤツ。あんな姿を見てたら、つい期待しちゃうじゃないかよ」

 

 

やり方はどうあれ、橘があんなに必死で試合に勝つために

一生懸命に頑張ってくれているのを見て、オレは密かに感動していた。

 

中学の頃に起きたある事件のせいで、オレはずっと死んだようなものだった。

もう、あの時のトラウマから何年も経っているのに。

 

 

(猪狩からあれだけ励まされたにも関わらず、まだあいつの好意すら素直に受け取れないままだ。)

 

(無理に明るく振る舞おうとしても、結局どっかで引きずってボロが出てるんだよな....)

 

 

「はは、そうだよ。オレだって、いつまで経っても中学の頃みたいにクヨクヨしてる場合じゃないんだよな....」

 

 

皆に“パワプロ”なんていう偽名を呼ばせてまで本心をごまかす。

そんな今までのオレには、もういい加減ウンザリしていたのかもしれない。

今のオレは、いつもと違ってとても晴れやかな気分だった。

 

 

「....橘、お前の熱い想いは充分受け取ったよ。後はオレが、この借りを返す番だぜ!」

 

 

オレの身体中には、数年ぶりに熱い闘志がみなぎっていた。

 

 






ごめんなさい。早くなるかもと言ってましたが、普通に投稿が遅れました。
6月初めに負った怪我が原因....というのも多少ありますが、まぁ言い訳ですね.....

一応、次回で恋恋の話は終わって新しい話に入る予定です。
これまで謎が多かった本作の橘みずきの過去に焦点を当てていきます。
気合いを入れてる部分なので、楽しみに待っていて下さい。
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