パワフルC   作:Arica

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新しい旅立ち

 

 

「えっと....確か、軽井沢くんだったっけ?」

 

 

 

「あ。あぁ....」

 

 

 

私は試合が終わった後、うなだれた様子の軽井沢大輝にそう語りかけた。

 

 

 

「....確かに走るセンスはあったけど。結局それだけだったみたいね」

 

 

「野球とサッカー、両方やってるんだっけ?....今度からはどっちかに絞った方がいいんじゃない?」

 

「そんな中途半端な実力じゃ....野球を本気でやってる私たちには勝てないと思うよ。」

 

 

 

私は諭すような言い方をして、にっこりと微笑んであげた。

 

 

「くっ、確かにその通りだ。ボクはキミたちをあなどっていたよ....あまりにも甘かった。....いや、甘過ぎた。」

 

 

「ええ。甘かったわね。ま、これからは野球部をやめて。あんたの得意なサッカーを中心に....」

 

 

 

「....みずきちゃん、分かったよ。ならボクは」

 

「もっともっと。野球も、サッカーも両方極めてやろうじゃないか。キミたちより更に上手くなれるようにね!」

 

 

そう意気込む軽井沢大輝は、最初の頃のチャラチャラした雰囲気とは違っていて。

この試合で確かな成長をしている。私はそんな気がした。

 

 

「....ふーん?なるほど、面白いじゃない。出来るかは分かんないけど。もう1度戦えると良いわね」

 

 

 

次会った時に、彼は一体どれだけ強くなっているのか....

私はちょっとワクワクした気分になる。

 

 

 

「フフフ、期待していてくれ。....ああ、みずきちゃん。約束してくれないか?」

 

「もし次にボクが勝ったら。ボクはキミにデートを申し込む。いいね!」

 

 

「....いや、負けてもあんたとデートする気なんかないし。諦めの悪い人だなぁー。」

 

 

 

「よし。決まりだね!みずきちゃん、待っててくれよ!じゃあさようなら!」

 

 

(うーん。やっぱり、私の気のせいだったかしら....?)

 

 

 

「....しかも勝手に決めちゃってるぞ。橘の考えは関係なしかよ?」

 

 

 

パワプロ君....雄介は、軽井沢が去っていく様子を

呆れた顔で見守りながらそう私にこぼしていた。

 

 

「はぁ....ま、それはどうでもいいのよ。どうせああいうタイプは、すぐに飽きて別の人に行くだろうしね。」

 

 

「....でもさ。橘、実はああいうヤツが好きだったりするんじゃないのか?」

 

 

 

「はぁ?....なによ、それ?別にそんな事ないけど....」

 

 

 

(また変なこと言い出して。急に何言ってんだろ、雄介....)

 

 

 

「いいや。まぁ、それならいいんだけどな。橘の本当に好きなヤツは誰なのかなって思ってさ」

 

 

 

「....わかんない。別に誰が好きかってのは、特に決めてないかなぁ。」

 

 

 

「そっか。ところでさ、別に無理してオレに好きだってアピールをしなくても良いからな?」

 

 

 

「....そんなアピール、1回もしてないけどー?」

 

 

 

「いやいや....ウソつくなよ。」

 

 

 

「....あれっ?もしかしてパワプロくん。あの軽井沢ってヤツに嫉妬してんの〜?」

 

 

 

「....えっ?ば....バカ言うなよな!ははっ!」

 

 

 

「もし私がさぁ。あの軽井沢くんと付き合ったりしてさ、目の前でキスとかしたら....どう思う?♪」

 

 

 

私がゆっくり近寄って彼にそう囁いてやると、

雄介は動揺した様子を見せて私からサッと離れた。

 

 

「き、気にならねーよ!」

 

 

 

「....ふふふっ、安心してよね。私はあんな中途半端なヤツより、野球一筋でいつも頑張ってるパワプロくんの方が好きだから♪」

 

 

 

(それに、パワプロ君の方があいつよりもイケメンだしね〜♪)

 

 

 

「ホントか?....あ、ありがとな!」

 

「....橘、今まで悪かったよ。キスしたいとか、変な事ばかり言ったりしてさ....」

 

 

「ああ。....まぁ、悪気があって言ってたことじゃないんでしょ?私のためだってことはなんとなく分かってたし。別に考えなくたっていいよ」

 

 

「....いや、違うんだ。オレはそんなに良い奴じゃないんだよ。」

 

 

「....?」

 

 

「キミに隠してることがある。....橘のためにやったことじゃないんだ。だから、オレは....謝らなきゃいけないんだよ。」

 

 

「え?そんなに気にしてないけどなぁ?....全くもう。パワプロくんは、一応私と付き合ってる関係なわけでしょ?」

 

 

「まぁ。そうだけど....仮の関係だからさ。」

 

 

 

「別にそれでもいいじゃん。.....確かに少しスケベだなぁーとは思ってた所はあるけどさ。」

 

「まぁ一応カップルになったんだから、浮かれちゃうのも全然分かるし。あんまり落ち込まないでよね」

 

 

 

ちょっと何かを隠してようが、別にそこは謝らなくてもいいと私は思った。

 

 

(だって雄介はいつも本音を言ってるし、悪い人じゃないってことは私にはちゃんと伝わってるんだから....)

 

(....というか、何考えてるか結構分かりやすい人だからある意味安心ってのもあるけどね)

 

 

 

「....結構優しいんだな、みずきちゃんって。なんかちょっと感動したよ。」

 

 

「....それ、どういう意味よっ?」

 

 

「ああ。悪い悪い!そんなつもりで言ったわけじゃ....!」

 

 

 

「....あっ、そーだ。そういえば今日の試合、最後はパワプロくんが点取って勝ったわよね?」

 

 

「ああ!だいぶ調子が出てきたみたいでさ。オレのバッティング、結構良かったろ?」

 

 

「ええ、ちゃんと見てたわよ。....さすがキャプテンってところかなー。」

 

 

「おうっ。褒めてくれてありがとな!」

 

 

「....別に誉めてなんかないよ。あんなのたまたまなんだし、あれで勝ったと思わないでよねっ!」

 

 

「え?急になんだよ。」

 

 

「....いい?今日の試合はね、私が活躍して勝ったの!とにかく、雄介のおかげじゃないってこと。」

 

 

「雄介って....何言ってんだよ。オレのおかげに決まってんだろ!?オレがいなかったら、きっと今頃ボロ負けしてたぜ!」

 

 

「はぁ!?....何よ!?ちょっと打てたからって、調子乗っちゃってさ!!」

 

 

「ぐっ....。そんなこと言ったら橘だってすぐマウンド降りたし、大して活躍はできてないじゃないか!」

 

 

「....む〜!言ったわね!?気にしてたとこなのに!」

 

 

「言って悪いかよ!?大体橘はムチャし過ぎなんだよ!もっと慎重に....!!」

 

 

 

その時、突然誰かが大声を上げた。

 

 

「....おい。やめろ!キミたちには恥ってものがないのか?ガキみたいなケンカをするな!」

 

 

 

声の方を向いてみると、猪狩守だった。

 

 

「....」

 

 

 

 

私たちはその剣幕に圧倒されて、思わず立ちすくんでしまう。

と同時に、その怒り方をみて私たちがどれだけ大声を出していたかを気づかされた。

 

 

「ご、ごめん、雄介。つい....言い過ぎちゃったわ。」

 

 

「い、いや。....オレも失礼だったよ、ごめんな」

 

 

 

お互いになんとなく気まずい気分になりながらも謝る。

そんな私たちの様子を見て、猪狩守はため息をついていた。

 

 

「まったく....子供かキミたちは」

 

 

 

「....でも、そういう猪狩も投球の調子は悪かったよな?早川さんみたいに特に理由はないのに。」

 

 

 

雄介....パワプロ君がふと、猪狩守にツッコミを入れた。

それを聞いて、私はハッとさせられる。

 

 

「あ、確かにそうね。」

 

 

(言われてみて気づいたけど、あんまり活躍してない気がするっていうか....)

 

 

 

「....凄い選手らしいけど、意外に大したことないんじゃないのー?」

 

 

 

私は猪狩守を疑いの目で見つめる。

 

 

「....な、なんだと!?言わせておけばっ!ボクはキミたちとは比べ物にならないエリートなんだぞ!」

 

 

 

猪狩守はそう語っているけど、イマイチ信用ならなかった。

 

 

「でもさー、試合中だとそうは見えなかったけど。」

 

 

「まあ....私は別に、一瞬ピンチになりはしたけど、なんとか持ちこたえたわけだし。」

 

 

 

「私が部活に入った時も、こんな女入れるなとかあれだけえらそーな口聞いといてさ。それはないんじゃないの?」

 

 

 

「フン....このボクにだってね。色々ストレスが溜まる事があるんだよ。それで調子を崩してしまったんだ。」

 

 

 

「へえー?悩みなんてなさそうなタイプだと思ってたわ。」

 

 

 

「まあ....キミたち新世代のメンバーもボクに負けずに頑張っていたね。それに関しては素直に褒めておくとしよう」

 

 

 

「あははっ、偉そうなこと言っちゃってー。そっちの方がよっぽど子供っぽいじゃない。ねっ、パワプロくん!」

 

 

 

私が笑いながらそう言ってやると、パワプロ君もそれに同調した。

 

 

「だな。相変わらずひねくれてるよなー、お前。昔から変わんないよ....」

 

 

 

「うっ....うるさい!黙れ!」

 

 

 

「まっ、今回はこんぐらいにしておこーか。....猪狩君も、充分反省したみたいだし」

 

 

 

「橘、それ誰目線だよ....?」

 

 

そうパワプロ君が呆れながらツッコミを入れてきたけど、スルーした。

 

 

 

 

 

 

「あ。そういえばさ。....その、新世代ってのがよく分かんないのよね。」

 

「そもそも猪狩守って、私たちと同じ1年生のハズじゃ....ねぇ、パワプロくん?」

 

 

 

帰りのバスの中で、私は疑問を投げかけた。

けど、すぐ隣の席にいるパワプロ君は全く返事を返して来ない。

 

 

「....あれ?なーに黙っちゃってんの?」

 

 

 

私がもう一度問いかけると、パワプロ君はようやく口を開いた。

 

 

「そっか。.....もういいんだよな、猪狩?その事を話しちゃっても」

 

 

「....もちろん。その覚悟はあるよ」

 

 

 

向こう側の席に座る猪狩守も、なんだか変に落ち着いた様子だった。

 

 

「ん?なーんか怪しいと思ったら。....何か隠しごとがあったわけぇ?」

 

 

「橘....落ち着いて聞いてくれるか?」

 

 

「何よ雄介。もったいぶらずに早く言いなさいよ!....なんなの、隠してることってさ?」

 

 

 

「だから、雄介って呼ぶなって....まぁ、いいか」

 

「....実は猪狩、本当は2年生なんだよ。....オレと橘の年上でさ、早川さんの同期なんだ。今まで言ってなかったけどさ」

 

 

 

「へ?....いやだってさ、でもこないだ猪狩守が1年のクラスにいるのを一緒に確認したじゃない。」

 

 

 

「....留年だよ。猪狩は成績が足りなくて留年したんだ。だから同じ1年生ってこと。」

 

 

 

「りゅ、留年!?....冗談でしょ!だって、成績優秀者に名前が張り出されてるじゃない!なのに留年って....!」

 

 

 

「....それがメンタルの問題でね。弟の事故で、何も手につかなくなってしまったのさ。」

 

 

 

猪狩はそう言って、少し落ち込んだ様子を見せた。

 

 

「あ....そういう事情ね。さすがに、家族が大変ってなると仕方ないのかなぁー....」

 

 

 

「まぁ....というわけでさ。橘、これからは猪狩さんか、猪狩先輩って呼ぶようにしてくれよな」

 

 

 

「....まぁ別にいいけど。なんだか慣れないなー。これなら最初から先輩だったって言ってくれりゃ良かったのにぃ。」

 

 

 

「猪狩がそれを隠したがってたから、なかなか言い出せなくてさ....たぶんプライドが許さないんだろ」

 

 

 

「なるほどねー。それで色々ストレスが溜まってたと。」

 

 

 

(あれ。それなら、今まで猪狩くんなんてタメ口で呼んでたのがなんだかバカみたいじゃん....)

 

 

 

よく考えるとちょっと恥ずかしくなって、

これなら最後まで隠し通してくれた方がいいかな....

と少しだけ思った私だった。

 

 

 

 

 

 

学校に戻ってからしばらく経って、皆が次の試合までの練習をしていた時。

 

 

「あ。....そうだ橘!競争でもしないか?」

 

 

 

雄介が私にいきなり声をかけてきた。

 

 

「ん、競争?まあいいけど....パワプロくん側から勝負を仕掛けるなんて、珍しいわね」

 

 

(競争するときは、いつも私から声をかけて嫌々参加してた時ばっかりで、向こうから声をかけるなんてこと1度もなかったのに....)

 

 

(....これはもしかして、私たちが仲良くなってきたっていう証かしら?)

 

 

 

そんな事を考えて、ちょっとだけワクワクした気分になる。

 

 

「どうしても橘に勝ちたくてさ。....それにちょうど、軽く走りたいと思ってた所だし」

 

 

「うんうん、なるほどね。パワプロくんも、前の試合での決着を改めてつけたいってわけか。」

 

 

 

「よーし、分かったわ。それじゃパワプロくん....競争するわよっ!」

 

 

「おうっ!いつでも始めていいぜ!」

 

 

「あ。ちなみに、私が勝ったらプリン奢るの決定ね!じゃ、スタート!」

 

 

「なんだって!?おいっ、勝手に決めんなよ!....くっ、負けられない勝負になってきたぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ....ケンカしたと思ったらすぐ仲直りしたり。騒がしいヤツらだな、あの2人は。」

 

 

二人の様子を側から見ていた猪狩守は、

そうボソっと独り言を口にした。

 

 

「はっきり言って両方ともとんでもないバカだ....色んな意味でお似合いだが、最悪のコンビでもあるな....」

 

 

「....あの2人を組ませてしまったのは間違いだったか?」

 

 

 

「....間違いじゃないと思うよ、猪狩くん」

 

 

猪狩がその声に気づいて振り向くと、

そこには早川あおいが立っていた。

 

 

「ああ、キミかい....」

 

 

「....フッ、お互いに今回の試合では災難だったね」

 

 

 

猪狩は自嘲気味にそんな言葉を吐く。

 

 

「そうだね。ボクも、みずきたちは頑張ってたのに....全然試合で活躍出来なかった」

 

「....頑張って、あのキャプテンの事を考えるのはもうやめようって思ったのに、やっぱり....」

 

 

早川あおいは暗い顔をしてうつむく。

 

 

「やはり恋愛絡みか。....普通なら何をやっているんだ、と責める所だと思うが。ボクも活躍を出来たとは言い難いからね、構わないよ」

 

 

 

「猪狩くん。恋恋高校にさ....高木幸子って子がいたでしょ」

 

 

「ボク....いや。....私はね、あの子にこう言われたんだ。そんな下らない恋愛のことを考えるぐらいなら、野球に目を向けろって」

 

 

「これってその通りだと思うか....ずっと私はまだ迷ってるの。猪狩くん....どう思うかしら....?」

 

 

猪狩守はしばらく考えたあと、口を開いた。

 

 

「....ボクは、ちゃんとした恋愛をした事がないからその辺りに関してはよく分からない。ただ....」

 

 

 

「....どんなことを言われようが、キミはあの試合から逃げなかった。....そしてあのキャプテンからも。」

 

「それは、野球からも恋愛からも逃げたくない....そんなキミ自身の考えを表しているんじゃないのかい」

 

 

 

「....ありがとう、猪狩くん」

 

 

早川あおいはにっこりと微笑んだ。

 

 

「早川。....ボクたちの世代は、もう終わったのかもしれない。ただ、今はあまり気にしてはいないよ。」

 

 

「悩みや苦しみ。それをしっかりと乗り越えていける....そんな、新しい世代が出てきてくれたわけだからね」

 

 

 

猪狩守と早川あおいはみずきたち部活のメンバーを見守りながら、

新たな世代に向かって期待をかけていた。

 

 

 







すぐ投稿する予定だったのに、思ったより時間が....(毎回やってること)
ひとまずこれで恋恋高校編は終わりですね。いや、長かった....

去年の夏から構想を練っていたので、丸1年ぐらいかかりましたね....
その割にはそんなに出来良くない....というのは非常に申し訳ございませんでした。
色々と見切り発車で進めてる作品なので....

次回は、まぁ、恋恋編の途中から語っていた話ですが、みずきの過去編からです。
友沢編あんまり人気ないのですが、一応これも重要だと思う(?)ので、出来ればこの機会にでも見ておいて下さい。

次の投稿予定は相変わらず未定ですし、事情でしばらく間が開く可能性もないとは言い切れませんが....
ともかく投稿された時にはなんか始まってるなーぐらいの感覚で見てもらえるとありがたいです。
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