麗奈との出会い
「....えーと。それで、私はいったい何を語ればいいのよ」
私は部室のソファーに座りながら、反対側で同じく座っている小波雄介に問いかけた。
(....そういえばこの学校の野球部、けっこう設備が整ってるのよね。最初見た時はビックリしちゃったな)
テーブルやソファーは当然のように備え付けられていて、
クーラーや扇風機で暑さ対策も万全だった。
冷蔵庫にはキンキンに冷えた飲み物が入っている。
彼はそこから取り出してきたらしいペットボトルのジュースを飲みながら言った。
「いや、その。なんていうかさ....オレ、よく考えたら、あんまり橘のことについてよく知らないなと思ったんだ」
「....なによ、急に?」
「この前の試合でさ、言ってただろ?....時が来たら必ず説明するって」
「ん〜....言ってたっけ?そんなこと」
「ほら、友沢ってヤツのことだよ。何か因縁があって、スライダーを封印してたんだろ?」
「あ....そのことね。....分かったわ。さすがに、そろそろ話すべき頃合いかしら」
「ただ....それを話すには、もうちょっと前の話からする必要があるのよね。....細かく言えば、中学に入学した頃から」
私はそう言いながら、中学に入学したばかりのあの頃のことを思い浮かべていた。
◆
「ふんふふんふーん♪」
私は上機嫌でステップを踏みながら廊下を歩いていた。
(ふふふ。ついに、私もようやく....中学生になったのね!)
中学校に入った私はワクワクしてばかりだった。
なんでこんなに気持ちが弾むのか分からないけど、とにかく何でも楽しい。
もしかしたら、制服を着ると前より大人びている感じがするからかもしれない。
(いつも子供だねってお姉ちゃんに言われてたけど....やっと大人になった所を見せられるわ!)
上機嫌になった私は、更にステップを弾ませる。
するとその時。どん、と誰かにぶつかった。
「ちょっと!どこ見てますの!」
「あっ、ごめん。ちゃんと前見てなくて....」
「まぁ、いいですわ。....わたくしの名前は三条院麗奈。本来ならば許してはおけませんが、多少のことは水に流してさし上げましょう」
「....って、もういない!?....許せませんわ!話も聞かずに立ち去っていくなんてっ!」
何か向こうで騒ぐ声が聞こえたけど、
とりあえずは大丈夫そうだったので気にしないことにした。
(それにしても。これからの学校生活、楽しみだなぁ〜!)
◆
「全く、なんてひどい....謝りもしないなんて。きちんとした教育をしてないのでは?」
「....あの子、確か同じクラスでしたわね。ならば....良いこと思いつきましたわ....くっくっく」
◆
「ふー、スッキリしたわ。さてと、席にでも座るかなぁ....」
「あれ?」
「どうしたのです?」
「いや....どうしたのって、そこ私の席じゃん」
私の席に、さっきの麗奈とかいう人が座っていた。
「あら?そうでしたか?....でも、少しぐらい使ったって別に構わないでしょう?」
「えぇっ?ダメよ!」
私が抗議すると、麗奈はしばらく考える仕草をしてこう言った。
「....まぁ、そうですわね。どうしてもこの席に座りたいなら、この私に向かって頼みをすることでしょうか」
「頼み?...とにかく、そこ私の席だから返しなさいよ!」
「違いますわねぇー。....もっとふさわしい頼み方があるはずでしょ?橘みずきさん」
必死でどかそうとするけど、向こうも力を込めているのかなかなか動かない。
「あ、あんた....一体何を企んでるわけ!?」
「何って、決まってるでしょう?私はあなたの無様な姿が見たいのです。他に何もありませんわ」
「な、なんですって.....!」
「ほら、早く頼みなさいませ。『麗奈様、席を私にお譲り下さい』とね」
「うぅ....!」
「ほら、ほらぁ。私はお嬢様ですのよ?どっちが偉いかはバカなあなたにも分かりますわよね?」
「や....やだよ!従うわけないじゃん!」
「そうですか。....わたくしの命令が聞けないと?分かりました。なら、力ずくで土下座させてみせますわ!」
(このままじゃ。私、また前と同じ失敗を....)
私は以前、小学生の時....まだ低学年の頃にも、
似たようなことでいじめられたことがあった。
その時の私は弱くて、帰ったらすぐおじいちゃんに泣きついたんだけど....
心を強く持てとかなんとか、色々説教されたりして散々だった記憶がある。
(....いいや。今度こそ同じ失敗はしないわ。私は、小学校の時とは違うのよ!)
「ま、待って!....わ、分かったわ!」
「くっくっく....そうですか。ようやく土下座する気に....」
「いや?....そんなつもり全然ないけど?」
「なんですって?....なら、別にいいのですよ。一生この椅子に座れなくてもね」
「そう。....じゃ、逆にあんたの席に座ってやるわ!」
「なっ!?」
「あれ?どーしたの?この返し方は予想できなかったかしら?」
どすんっ!と勢いよく音を立てながら、私は麗奈の席に座った。
「よいしょっと!....結構良いじゃない、あんたの席!黒板も見やすいし♪」
「か、勝手に座らないでくれます!?....というか、なんで私の席を!」
「あれー?....勝手に私の椅子に座ってんのは誰だったっけ?」
「くっ....か、返しますから!私の椅子も返して....!」
「なるほどねー。....じゃあさ、なんか言うことあるんじゃない?ふさわしい頼み方はなんだっけ?」
「う、うぅ.....ぐ〜っ!!!!!」
「み....みずき様....!どうかわたくしの椅子を....返してくださいませ....」
「いいよー。その代わり、私の椅子も返してよね。」
「は、はい....仰せの通りにぃ....!」
◆
「ま、ぶつかった事は悪かったわよ。私も謝るからさ。これで水に流すって事にしない?」
「ふざっけんな!!!これで終わりなわけがないでしょう!!!」
「えぇー!?まだ根に持ってんの!?思ったよりもしつこいなぁー。」
「き、緊張感の欠片もないですわね....わたくしとあなたは敵同士なのですわよ?」
「....敵ー?なんで?私は少なくとも、あんたのこと敵だなんて思ってないけど....」
「な、ななっ!?」
「...でも、あんまりしつこくするのはやめてよね。そしたら私、あんたのこと嫌いになっちゃうから!」
「....ふー。分かりましたわ。とりあえずわたくしの負けにしておきましょう。」
「....ところで。どうして私の席を知っていたのです?」
「ああ、それはね。....フツーに、あんたの席の場所を覚えといただけよ。何かの役に立つかなと思ってね」
....というのは建前で、実際は麗奈が何かしてきた時に
向こうの席にイタズラを仕掛けるためだったりする。
まさか、先にイタズラをされるとは予想外だったけど。
「....なるほど。やられましたわね。」
「....ま、これからもよろしくねー。」
「....嫌ですわ。」
「えっ?」
「確かにわたくしはあなたに負けました。....しかし、必ずいつか勝ってみせますわ!」
「そして、そう!そのために、あなたにつきまとわせていただきますわ!」
「....な、なによそれー!?ついてこないでよっ!」
「うるさーい!いつか必ずあなたの弱点を暴いて、コテンパンに打ち負かしてみせますわ!橘みずき!」
◆
「....と。ここまでが、私と麗奈の初めての出会いって感じだったかな?」
「へぇー。そんな事があったのか....どうりで、麗奈さんはいつも橘に付きまとうわけだ。」
「私を勝手にライバルだと思うなんて、全く。困っちゃうわよねぇ....」
「そういや、橘もオレを勝手にライバル視してるよな。同じようなもんか。」
「むっ。....同じにしないでよねー!私とあんたはあんなのと違って、対等なライバル関係なんだから!」
「....どこが対等だよ?橘が勝手にオレに突っかかってるだけじゃないか。」
「はぁっ!?バカでスケベなくせに、また調子乗ってっ!そういうところ嫌いだわっ!」
「橘の方がバカだろっ!...っていうか、オレはそこまでスケベじゃないしバカじゃないよ!真面目だ!」
「あー、そう。....だったら、最初に私にキスしたいとか言ったのはなんだったんだっけ?」
「ぐっ!?そ、それは....!橘を部活から引き離さないためで....!」
「ほんとかしら?....ちょっと言い訳が苦しいなぁ〜。」
「....み、みずきちゃん、次の話行こうぜ次!そっからどうなったんだよ!」
「もう、また話逸らして!....分かったわよ、じゃ次の話に行くからね!」
そんな言い合いをしながら、私はまた過去の記憶を思い返していた。